8 農園の鍛冶屋さん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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ドイル様もエイルド様を見習って真面目に授業を受けている。
剣や魔法に勉強、礼儀作法やダンス。オレやエイルド様達よりも三つ年下だから体力は無いが元気はある。一生懸命兄と姉に習い勉強をしている。
先日もポアラ様の魔法の勉強で水の玉を作り出した。ポアラ様が言うには私ほどではないが才能が有ると言っている。姉としての面子が有るから言っているのだろうと思うが、ドイル様と同じ歳にはポアラ様は二種類の魔法が使えたらしい。
オレはどうだったかな?確か四種類使ってた気がする。という事はオレには魔法の才能が有るという事を初めて知った。周りの人は何も言ってくれないし、使えるのが当たり前だと思っていた。そういえば村ではオレとマリーと母親しか魔法を使ってなかった気がする。
先日もこんな事があった。
「トルク、どこに行くの?」
「ドイル様、今から農園の鍛冶屋に行く予定です」
「僕もついて行っていい?」
オレはドイル様に仕えている侍女さんを見る。侍女さんと一緒なら大丈夫の様だ。
「では、アンジェ様に許可を取ってから行きましょう」
「もう取っている」
再度、侍女を見るが頷いている。用意の良いお子様な事。では農園の鍛冶屋に行きますか。三人で農園に向かって歩く。途中でイーズ達に会った。イーズを中心にして周りの人が囲んでいる。
「ようイーズ、周りの人達は友達かい?」
「この状況でよく友人と思っているね。他に言う事は無いの?」
え、他に言う事?友人ではない?周りの人間を見ると見覚えがあるな。……あ、思い出した。最初農園に来た時に無茶な注文を突き付けて来た人達だ。
「よう、久しぶりだな」
確か名前が……。
「アホウさん」
「誰がアホウだ。オレの名前がカロウだ。このクソガキめ。何しに来た?」
「鍛冶屋に用事が有ってきたんですが皆さんは何をしているんですか?イジメですか?」
「うるせー。オレ達が何をしようが勝手だろう」
イーズって結構もめ事に遭うようだね。仕方がないから助けてやるか。
「イーズにも用事があるんで鍛冶屋に連れて行っても良いですか?」
「あ~テメエ、誰に口聞いている!」
カロウさんってチンピラだよね。なんか高校生の突っ張ったガキの様だ。ワルがカッコイイと思っている年頃なんだろうか?
「オレ達に歯向かうのか?」
「イジメや差別はダメなんだよ。お母様が言っていたもん」
ドイル様いきなり会話に入らないで下さい。
「何がお母様だ。そんなもんこの場所じゃ関係ねえだろう。黙ってろクソガキ」
「でもこの農園はお父様の物だ。関係なくない」
「何がお父様の物だ。此処の農園は管理をしているオレ達の物だ。邪魔するとぶち殺すぞ」
ドイル様を睨みつけて脅す。ドイル様はオレの後ろに回った。後はオレがこの状況をどうにかするのか?
「農園の管理はゴランさんでしょう。アホウさんじゃありませんよ。それに子供を睨んで大人気無い。イーズをイジメ倒して遊ぶよりも他にする事がないのですか?そんなに暇なら豊作祈願のドジョウすくいでもしたらどうわぁ」
殴られそうだったからギリギリで避けた。手が早いチンピラだ。おまけに顔も真っ赤だ。瞬間湯沸かしの様だ。そのうち頭から湯気が出るぞ。
「どうしました?顔が赤いですよ?興奮しているんですか?急に興奮すると体に悪いですよ。体が資本の仕事だから体調に注意しないと倒れますよ。あれ?手も震えてますね。本当に大丈夫ですか?」
「どうして君はカロウさんにケンカ売るんだ。もう少し言いようがないの?確かにカロウさんの班はチンピラっぽい人が多いし頭悪そうだし、すぐに手を出す辺境の野蛮な人達なんだよ。どうして君はすぐにケンカを売るのさ。それも側にはドイル様も居るじゃないか。なんで男爵様の御子息を危険に遭わせる様な事をするんだよ」
あ、そういえばドイル様が居たんだ。オレの後ろにいるのを忘れてたよ。侍女の人も怯えている。
でもこの人達ってなんか迫力無いんだよね。賊の人達の顔の方が迫力あるし。レオナルド様達や兵隊とする鍛錬の方が迫力ある。
しかしケンカ売ってしまった様だな。ただ注意しただけなのに相手には通じなかったようだ。それにドイル様や侍女さんの事を考えて行動するべきだった。でも先に口を出したのはドイル様だよね。どうしようかな?
「このクソガキがぶち殺すぞ」
アホウさんじゃなかったカロウさんがオレを殴ろうとするが地面に手をついて土魔法で穴を掘りカロウさんを落とす。
オレの魔法も発動が早くなって使えるようになったよね。問題は深さだな。深さが大人の胸辺りくらいしかない。すぐに這い上がれるのが問題だな。
おっと、騒ぎを聞きつけたゴランさんが走って来る。カロウさん達は逃げ出した。しかし兵達に止められた。
「おいトルク、イーズ。何の騒ぎだ?」
えーと何て言えば良いのかな?
①イーズをいじめから助けたけだけ。→ドイル様が居るのに危険な真似をしたオレが怒られる。
②オレがケンカを売った。→ドイル様が居るのに危険な真似をしたオレが怒られる。
③ドイル様がカロウさんに注意した。→そんな事をさせるなとオレが怒られる。
④良く分かりません。→キチンと現場を見ろとオレが怒られる。
駄目だ。怒られる未来しかない。……仕方ないから怒られよう。
「ゴランさんすいません。僕がカロウさん達に絡まれたのをトルクやドイル様が助けてくれたのです」
オレが言う前にイーズが先にゴランさんに謝った。
「トルク、ドイル様を危険な目に遭わせるな」
「すいません」
「ドイル様も無茶な事はしない様に。クレイン様やアンジェ様が悲しみますよ」
ゴランさんはドイル様に優しく注意をする。侍女さんにも農園の者が迷惑をかけたと謝っている。
「僕はイーズがいじめられていたから注意しただけだよ。それにトルクがいるから大丈夫だよ」
ゴランさんはオレとイーズを見てため息をする。気持ちはわかるよ。雇い主の子供が危なかったもんな。何かあったらゴランさんの責任だもんね。
「今から鍛冶屋に行く予定ですが良いですか?」
「分かった、後の事はこっちで処理するからいいぞ。イーズも鍛冶屋に行ってろ」
そしてオレ達は鍛冶屋に向かった。鍛冶屋は農園から少し離れていていつも音がしている。ノックをして中に入るといきなり真っ暗になった。
「あら~、いらっしゃい~。久しぶりね、トルクちゃん。元気してた?」
「男に抱きしめられる趣味は無いから放してくれ」
筋肉隆々のオカマがこの鍛冶屋の主だ。ごつい顔のゴランさんよりも凶悪な顔をしている。小さい子供が見たら泣くんじゃないかと思うが、ドイル様は泣かなかったから大丈夫の様だ。でも少し腰が引けている。
「どうもお久しぶりです。キャサリンさん。頼んだ物は出来上がってますか?」
「あら~、この可愛い子は誰かしら?お名前教えて?」
低い声で笑いながらドイル様の前でしゃがんで視線を合わせる。ヤバい、ドイル様がマジで泣きそうになる。侍女さんも恐怖で腰が抜けたのか座っている。
「キャサリンさん。この子はクレイン様の御子息のドイル様ですよ。ドイル様、この人は農園で鍛冶屋をしているキャサリンさんです。子供が好きで力いっぱい抱きしめるのが癖なので、抱きしめられたら全力で抵抗してください。でないと中身が出ます」
初めて来たときにキャサリンさんに全力で抱きしめられてマジで死ぬかと思った。オカマの腕に抱かれて死ぬなんて墓標に書かれたくない。
「は、はじめまして、ドイル ルウ ウィールです。よ、よろしく」
「きゃー、可愛い!!」
案の定、キャサリンさんに抱きしめられたドイル様。仕方がないからキャサリンさんの後ろに回って脇を突く。脇がキャサリンさんの弱点なのだ。
「きゃ、トルクちゃん。脇腹を触らないでよ。反撃するところだったわよ」
「ドイル様が目を回しているから仕方ないでしょう。全力で可愛がる癖は止めて下さい」
ドイル様を後ろへ逃がす。最初に来たとき全力で抱きしめられたときはゴランさんに助けて貰ったのだ。ゴランさんは脇腹を触り、キャサリンさんの反撃を食らってノックアウト。あの反撃は凄かった。ゴランさんが意識を回復する間にオレとキャサリンさんはお茶を飲みながら世間話に花を咲かせていた。話してみるとなかなか母性あふれる御仁だった。性同一性障害で子供時代は大変だったらしい。
ドイル様はゴホゴホ言っている。大丈夫かな。それから腰を抜かした侍女さんも。
「君はどうして平気なの?」
なんだ?イーズ。お前も腰が引けているぞ。
「平気?良く分からんが命の危険性があるのは全力で抱きしめられる事だけだ。それ以外は無害だぞ」
「そうかもしれないけど、そうじゃない」
「相変わらずおかしな奴だな。お前を攫った賊よりも何倍もいい人だぞ。それよりも出来てますか?」
「出来ているわ。少し待っていてね」
キャサリンさんはドスドスと足音を言わせながら一旦奥に下った。
「凄い人だね」
「否定はしません。ドイル様。私も初めて見た時は驚きました。でも鍛冶の腕は良いですし、皆からも好かれて信頼も厚い人ですよ」
「そっか。とても凄い人なんだね。それでトルクは何を頼んだの?」
「料理の道具ですよ」
「料理の道具?僕にも貰えるの?」
「数が有れば渡しても良いぞ、イーズ。でも料理法がわからないだろう」
ドスドスと足音が近づいて来る。戻ってきたな。
「おまたせー。ご注文の品よ」
手に取ってみる。オレが注文をしたのは卵焼き用のフライパンだ。これで卵料理が出来るぞ。
「ありがとうございます。キャサリンさん」
「お礼はその料理を食べさせてくれたら良いわよ」
ふむ、じゃあ卵焼きでも作ってみるか。キャサリンさんは鍛冶場の隣に家が有るから料理は出来るだろう。後は材料だな。
「卵を使う料理だから卵は準備してあるわよ。家にも調味料は有るから好きなモノを使っていいわよ」
なかなか準備がいいな。よし作るか。五人分、いや六人分だな。オレとドイル様と侍女さんとイーズとキャサリンさん。キャサリンさんは二人分食べるからな。
「イーズ、作るから手伝ってくれ。じゃ、台所借りますよ、キャサリンさん」
「ま、待ってよトルク。僕も行くよ」
「じゃあ、みんなで私の部屋に行きましょう」
皆でキャサリンさんの家に行きテーブルにドイル様とキャサリンさんが座る。侍女さんはドイル様の後ろで待機している。
オレとイーズは台所で卵焼きを作った。お子様のドイル様がいるから味付けは蜂蜜の甘い卵焼きだ。ほれイーズ、味見だ。
「これが卵料理なのか、なんて美味しんだ」
オレも一口、……不味くはないがやはり一味足りない。一体何が足りないんだ?
「トルク、甘くて美味しい」
「綺麗な黄色ですね。とても美味しいです」
「この味は癖になるわね。小さい男の子が私の為に作っていると想うといくらでも食べられるわ」
ドイル様、侍女様、キャサリンさんが感想を言う。最後の感想はちょっとおかしいと思うのはオレだけだろうか?
「あれ?もう料理がないよ?」
おかしいな?余分に作っていたはずなのに。
皿に目を向けたら精霊の其の一、其の二、其の三が皿の上に座りオレに向かってニッコリ笑い親指を立てていた。
……どうしてお前達が居るんだよ。お前達が卵焼きを食べたのか?相変わらず、いきなり登場してきやがってせめて声くらいかけろよ。
「トルクちゃん、どうしたの?皿を見て驚いているけど?」
「いや、皆さんにあっという間に食べてもらって驚いただけです。美味しく食べて貰って料理を作った甲斐があります。な、イーズ」
「ねえ、このフライパンだけど僕にも作ってくれないか?」
「だそうですが、どうでしょうかキャサリンさん?」
「良いわよ。これはトルクちゃんの手に合わせて作ったフライパンだからダメだけど、大人用のフライパンも作ったからイーズちゃんにあげるわ」
イーズにウインクをして奥に行った。
再度、皿の方を見たら精霊はいつの間にか居なくなっていた。……あいつ等を男爵家に招いたのは間違いだった気がしてきた。辺境の村に戻ったら壺を元の場所に埋めていた方が良いかもしれない。
その日の夕食に卵焼きを作ったら好評だった。ドイル様は家族の皆にオレと一緒に農園に行って卵焼きを食べた事やイーズを助けた事。そしてキャサリンさんと話した事や農園の事を話したそうだ。「僕が卵焼きを最初に食べた」とか「イーズがイジメられていたから助けた」と言っては今日の事を話して食卓を賑やかにしたらしい。それを聞いたエイルド様とポアラ様は。
「オレも農園に行きたかった」
貴方は勉強中だったでしょう。それにエイルド様と一緒に農園に行くと厄介事が起こると思う。
「私もトルクの作った料理を最初に食べてみたかった」
約束は出来ませんが後日に期待してください。
そして母親からは農園でカロウの奴にオレがケンカ売った事になっていて、カロウをイジメた悪い子になっていた。
伝言ゲームのように話が変わっていったみたいで、オレは母親を説得する為にイーズの助けを借りて無実を証明した。




