17 精霊裁判
現在、オレの心を癒す様に、忘れる様に精霊ポットに対する裁判が行われます。
「それでは音と光の精霊ポットの裁判を始めます。裁判官は私ララーシャル。判事はサクラ。弁護人はトルクで進めます。では被告人のポット、前へ」
一般人よりも小さい三十センチくらいの、小人精霊ポットが証言台へ立ち、
「私は清廉潔白であり法は私を救う! 私を救わない法は悪法であり、悪法による裁きは無効である! 私は信じている! 法が私を救うと!」
精霊ポットよ。お前の何処が清廉潔白だ?
それ以前にどうしてオレが弁護人なんだろう? ちゃんとした弁護士呼べよ!
それ以前の以前にどうして裁判なんだ?
王権主義国家に裁判なんてある訳ないだろう!
こんな茶番はとっとと終わらせよ!
「精霊ポットは封印後、サクラを気絶させ、御使いであるトルクとフュージョンして帝都に多大な迷惑をかけました。サクラ判事管、補足を」
「はい、ララーシャル裁判官。精霊ポットは封印された後スグに逃走し、再封印を試みようとした者を気絶させ、御使いトルクを騙してフュージョンし、中二病患者に仕立て上げました。フュージョンでの精神感染は最悪の場合精神崩壊する危険性があります。御使いトルクが無事だったのは運が良かったのと御使いトルクの精神が中二病患者に近い精神性を持っていた事でしょう」
「異議あり!」
オレは手を挙げてサクラ判事管の言葉を否定する。
「私は中二病患者に近い精神性を持っていません! サクラ判事管の言葉は私の性格を貶めています。撤回を要求します!」
オレの言葉にララーシャルは頷き、サクラに言う。
「サクラ判事管。御使いトルクが中二病患者に近いという理由を説明してもらいますか?」
「はい。御使いトルクは初代御使いであるライと同じオタク一歩手前で有る事は、精霊サクラの名において断言します」
「異議あり! 精霊サクラの言葉は証拠が有りません! 科学的証拠の提示をしてください!」
「トルク弁護人。科学的証拠はこの世界にはありません。多数決で決められています。なので傍聴席の皆に聞きます。御使いトルクは中二病的であるかと。中二病であると思う人は挙手を」
傍聴席には関係者が数人いる。人間側にはオーファン、ベルリディア、クリスハルト公爵令息、ルルーファル公爵令嬢、シルヴィアーナ皇女、イーズファング第一皇子、レンブランド第二皇子、サルバトーレ第三皇子、ロックマイヤー公爵、ボルドラン、ウルリオ、現皇帝、先代皇帝ルライティール、先代皇帝妹ラグーナ。オーファン達の母親で先代皇帝妹の護衛中レンリーディア。
そして精霊側には精霊ドラゴンと帝都に住んでいる精霊多数。
手を挙げた人間側はシルヴィアーナ一人。他の人間は中二病という意味を知らない。しかし精霊側の大多数が挙手してオレは中二病の心を持っている人間となった。
「異議あり! 人間と精霊の傍聴人の多数決で人格を決めつけるのは不適切です! 多数決で決めるのなら裁判する理由がないだろう! とっととこんな茶番終わらせろ!」
「トルク弁護人、口調を抑えて下さい。まだ始まったばかりですよ」
「いい加減にしろ! ララーシャル! どうしてオレが弁護人なんだよ! 消滅でいいだろう! 長年封印するよりも死刑にした方が後腐れない!」
「トルク弁護人。落ち着いてください。貴方は弁護人なのですよ」
ララーシャルめ、何が裁判官だ! こんな茶番に付き合っている人間多数が可哀そうだ!
「あの、ララーシャル様。どうして私達も裁判に参加しているのですか?」
人間側代表としてシルヴィアーナが手を挙げてララーシャルに質問する。
「傍聴席のシルヴィアーナさん。許可なく発言しない様に」
「はい、すいません」
シルヴィアーナの質問に答えないララーシャル。
そしてオレを見る人間サイドの人達。呆れたり、ため息ついたり、憐れんだりと様々だ。
「サクラ判事管。続きをお願いします」
「はい。御使いトルクは皇女シルヴィアーナと口論になり、精霊ポットは口論で負けそうになった御使いトルクを唆してフュージョンしました」
「サクラ判事管。質問です。どうして貴方知っているのですか? その時サクラ判事管は精霊ポットが壊した窓から出て行ったはずだ」
「他の精霊から聞いたわよ。ほらそこの傍聴席にいる精霊」
手を振ってアピールする傍聴席の精霊。……あの部屋に精霊が居たなんて知らなかった。
「トルク弁護人。事実ですか?」
「……事実です。シルヴィアーナ様の迫力に負けて逃げ出そうと考えました。美人が怒ると怖いという事を再認識しました」
オレがシルヴィアーナを美人と言ったので、シルヴィアーナは嬉しそうな表情で。ベルリディアやルルーファルは表情が硬くなった。
「原因はトルクとシルヴィアーナの口論になりますが、その口論の原因はなんですか? 答えて下さい、トルク弁護人」
「はい、原因は精霊ポットが壊した窓が原因です。私も急な事だったので対処できませんでした」
なぜ弁護士が検事の質問や被告人の証言と関係ない説明をしているのだろうか?
「精霊サクラはトルクの側に居ましたが、精霊ポットが分からなかったのですか?」
「はい、サクラはポットが封印されていた幸運のツボを見ても気付きませんでした」
幸運のツボという言葉にサルバトーレ第三皇子の表情が引きつった。そうだよね、第三皇子がプレゼントしたツボだもんね。……これで君も当事者だ!
シルヴィアーナが「美人になるお札は大丈夫なの?」とオーファン達に聞いている。オレは確認した方が良いと思うな。
「ララーシャル裁判官! 原因はトルクがツボに触った事で封印が解けた事が原因です」
「ララーシャル裁判官! 原因はサクラがツボの事を忘れていた事が原因です」
オレとサクラは原因を押し付け合う。この場合どっちが悪いのか? その答えはララーシャル裁判官に委ねられた。
「では多数決を取ります。ツボを触ったトルクが悪いのか、ツボを忘れたサクラが悪いのかを傍聴席の皆に判断してもらいます」
……本当にコレは裁判か? 傍聴席の人達の多数決って駄目だろう。
「ララーシャル裁判官、両方悪い、もしくは両方悪くないという場合はどうすれば良いのでしょうか?」
オーファンはララーシャルに挙手して質問する。
「トルクが悪い、サクラが悪い。二人とも悪い。二人とも悪くない。の四択多数決で決めます」
「ララーシャル裁判官、考える時間をください。我々も相談します」
クリスハルトがララーシャルに進言する。……人間サイドは集まって相談する事にした様だ。精霊側も集まって相談している。
「なあサクラ、これは精霊ポットの裁判だよな。どうしてオレやサクラが裁かれているんだ?」
「そうよね。どうして私達が当事者の様になっているの?」
オレとサクラはララーシャルを見る。するとララーシャルは、
「まずは原因を調べておくのが大事でしょう。その結果精霊ポットの罪状が変わるわ」
……ララーシャルの言葉は分かる。しかし、
「精霊ポットの再封印か消滅かの二択だろう。その二択を多数決で決めたら良いじゃないか?」
「裁判には情状酌量の余地というモノがあるわ。裁判官は全てを把握して被告人を裁かないとフェアじゃないでしょう」
「……その被告人はポーズ決めて遊んでいるぞ?」
精霊ポットは証言台に立ってポーズ決めている。……この行為は裁判を侮辱した行為として情状酌量余地無しとして消滅が妥当だと思うのだが。
そんな事をしていると傍聴席の考える時間は終った様だ。
「では傍聴席の皆に聞きます。トルクが悪いと思う人……無しね。サクラが悪いと思う人……無しね」
精霊サイド、人間サイド両方の陣営は手を挙げない。
「二人とも悪いと思う人」
精霊陣営が手を挙げた。人間陣営の挙手は無い。
「二人とも悪くないと思う人」
人間陣営は手を挙げた。精霊陣営の挙手は無い。
「別れたな」
「別れたわね」
「多数決の結果、二人とも悪いと、二人とも悪くない。の二択になりました」
精霊が見えない人間陣営はララーシャルの言葉で精霊が『二人とも悪い』に挙手をした事が分かった様だ。
ララーシャルは傍聴席の精霊達に問う。
「傍聴席の精霊達。どうして二人とも悪いに挙手をしたの?」
「はい、ララーシャル裁判官。そっちの方が面白いと思ったからです。あと終わったら宴会しよう。そして悪いサクラと御使いに一発芸させよう」
……精霊! お前達なんで傍聴人に居るんだよ! 遊んでいるのか!
「傍聴席の人達。どうして二人とも悪くないに挙手をしたの?」
「ララーシャル姉上。そろそろ止めませんか? 今回の件は不運が重なった結果なので誰も悪くないでしょう」
先代皇帝でありララーシャルの弟が答える。オレもその通りだと思うよ。
「では次の審議に移ります。精霊ポットは御使いトルクに憑依して皇都を混乱に陥れた件についてです。帝城の騎士達と乱闘騒ぎを起こした。トルク弁護人、間違いありませんね?」
「ララーシャル裁判官、傍聴席の質問スルーするなよ」
「サクラ判事管。帝城での乱闘騒ぎについて補足をお願いします」
「はい、ララーシャル裁判官。御使いトルクは精霊ポットと協力して騎士達に多大な迷惑を与えました。御使いトルクが精霊ポットの中二病に負けなければこのような状況にはならなかったと判断します」
オレの言葉をスルーしてララーシャルは話を進める。……いったい何時までこの茶番劇を続けるのだろうか?
「弁護人トルク。言い分は?」
「……私がフュージョンしたのは申し訳ないと思っています。しかし私の護衛であるサクラが居たらこのような事態にはならなかったでしょう」
「サクラ判事管。貴方の言い分は?」
「……油断して負けた事は申し開きありません。しかしスグにトルクを助けに行きました。ですがトルクは中二病となり、私は彼を助ける為に尽力しました」
「確かに初代に並ぶ才能を持つトルクを相手にするのは難しいでしょう。私もトルクの弾幕を避け続けるのは至難の業でしたし」
なに二人で納得しているんだ!?
「異議あり! 今回の裁判は精霊ポットの対処のはずだ! 話が脱線しまくっているぞ!」
「分かっています、トルク弁護人。しかしこれは重要な事です。帝国皇帝や上層部に今回の事件を詳しく説明する事で、御使いの重要性を把握させます」
「普通に考えたら御使いなんて制御できない問題児だぞ。皇帝統治では邪魔にしかならない。オレなら処分対象上位人物だ。その辺分かっているのか?」
オレの言葉に人間側サイドの人達が「異議あり」と言いながら手を挙げる。そしてロックマイヤー公爵が代表してオレに、
「トルク弁護人。御使いを貶める振る舞いは止めてください。過去の御使いを貶める行為です」
「……すいません。過去の御使いを非難するつもりはありませんでした」
ちょっと反省。ルルーシャル婆さんやその先祖に対して無礼でした。
そして先代皇帝がオレの方を向いて言った。
「御使いは皇帝の下という事になっているが、本来は皇帝よりも上の立場だ。神がこの世界に遣わした精霊の言葉を代弁し、人々の願いを精霊の御力によって叶える者。言うなれば世界中の人々を導く神の代理人だ。その御使いを無下にする者はいない」
「……すいません、先代皇帝。神の代理人とかはマジで止めて。神殿に喧嘩売りたくない」
「何をいっている? 古い教典にも精霊は神が遣わしたと書かれてある。その精霊の代弁者である御使いを敬うのは当然だ」
あれ? 神殿の教典にそんな記実あったけ?
オレの疑問にボルドランが説明した。
「トルク様。帝国と王国側の教典は神が遣わしたのは聖人・聖者・聖女と記載されています、ですが帝国では古い教典も教えております」
「あ、そうなんだ。でもどうして?」
「今から百年くらい前にオルレイド王国の国王が教典を変更したと言われています」
百年くらい前か。……あれかな? 確か魔導帝国の自称スーパー皇帝が動き始めた時代だな。
「帝国は神殿の教義に不干渉でした。しかし精霊を押す派閥と聖人を押す派閥と別れています。現在は精霊派閥が強いですね」
……どうでも良いな。ボルドランの説明を流していたが、
「現在では帝国と王国では信じる神も教典も違います。まだ宗教戦争は始まっていませんが、トルク様が求めるのなら十日で戦争を起こせますが?」
「起こすな! 戦争に拍車が掛かって和平も停戦も出来なくなる!」
「ボルドラン! 帝国は内乱一歩手間だったのだ! これ以上火種を作るな!」
「神殿側を相手するのも面倒なのだ! これ以上厄介事は御免だ!」
オレが反論する前にクリスハルトとロックマイヤー公爵と現皇帝が止めた。オレも同じ考えだよ。これ以上厄介事は御免だ。
しかし精霊の代弁者ね。……精霊が見える立場から考えると精霊が神の使いとは思えないよ。
ふと精霊サイドを見渡すと大地と大気を司る精霊ドラゴンが短い腕を上げていた。ララーシャル、ドラゴンが挙手しているぞ。
「ララーシャル裁判官、サクラ判事管、トルク弁護人。精霊ポットが逃げ出しました!」
何時の間にか精霊ポットが居ない! 何時の間に逃げ出した!
「二人とも悪い悪くない、の挙手の辺りかな? その時には居なかったよ」
「ドラゴン! どうして捕まえなかったの!」
「踊っていたら挙手出来ないじゃないか。ララーシャル裁判官」
精霊ドラゴンはブレイクダンスをしないと精霊ポットを捕まえる事が出来ない。そして挙手する為には踊りを止めないといけない。
「サクラ! ポットが何処にいるか分かる!」
「……相変わらず逃げ足だけは早いわね」
今回の主犯である精霊ポットが逃げ出した事を知った皆は騒ぎ立てる。
そしてオレは諦めながら言った。
「はい。今回の裁判は終り。そして精霊ポットは多分またオレを近づいてフュージョンしてくるだろう。オレが囮となるから対処よろしく。消滅じゃなくて封印で良いから。解散解散」
精霊ポットはどうでも良くなった。
こんな事なら最初から封印させておけば良かったよ……。
……そして最後に一つ。裁判知っているのかお前等! 裁判なめるな!
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




