10 逆転勝利!
……意識が戻ったと思ったら白い空間だった。また夢の中のようだ。
どうしてこのような状態なのか思い出す。
確か……、サクラ達が居なくなって、ドラゴンさんとフ○ージョンして、ソバーレル公爵邸で暴れてから……。
……そうだ! ララーシャルが来てから意識を失ったんだっけ?
「やっと繋がったわ! トルク! 大丈夫」
サクラの声が聞こえる。周辺には誰もいない。フュー○ョン中なのかな?
「精神を司る精霊だから特殊な方法でトルクと繋がりがあるのと、精霊の印をつけているから、トルクと遠距離で連絡が取れるの」
遠距離? 遠い場所なのか? ラスカル男爵領とか?
「私達はドラゴンに飛ばされて王都に居るわ。ニューラが望んだ場所にドラゴンが飛ばしたの」
王国の王都? サクラ達は王都に居るのか!
「ニューラはトルクの妹の所に帰りたいと願ってね。ちょうどレイファが王都のウィール男爵邸に居たから、その場所に着いたわ」
……という事は母親とレイファは再会できたのか?
「二人は無事に再会したわ。それにニューラ達も再会できて喜んでいたわ」
そうか、良かった。……エイルド様やクレイン様達は?
「クレインって人は知らないけど、エイルドやドイルやアンジェって人も居るわよ。貴方の婚約者のポアラって子もね」
そういえば婚約していたっけ。でも嫌なら断る事ができるけど、逆にポアラ様の方が断りそうな気がする。
「そんな事よりもオーファンが大変なの! オーファンもニューラ達と一緒にウィール男爵邸に保護されて、自力で帰ろうとしていたけどね、トラブルに巻き込まれてしまって」
でもオレは帝都にいるんだろう? どうやってオーファンを助けるんだ? この繋がった空間から遠距離でサクラに魔力を渡すのか?
「もっと確実な方法があるわ。トルクとオーファンの精神を入れ替えるの」
精神を入れ替える? どういう事?
「オーファンの体にトルクの心を移動させるのよ」
……オレの心をオーファンの体に移動させる? そんなこと出来るのか?
「普通は無理だけどね。でも私はトルクと繋がりがあり、オーファンの近くに私が居るから可能よ。ライの記憶で見たけど、目が覚めたら男女が入れ替わっている映画とか、頭と頭が当たった人達の人格が入れ替わるって漫画があるでしょう。それよ!」
……どの映画や漫画なのか詳しく分からないが、雷音さんの記憶かよ! 本当にそんな事が出来るなんて精霊ヤバくね?
でもオレと心を交換したくらいで大丈夫なのか? サクラに魔力を渡した方が良くない?
「体が変わっても心がトルクならフュ○ジョン出来るわ。オーファンの魔力は密度が少ないけど、私なら何とかなるわ!」
しかしオーファンがトラブルにね。……どんな状況なんだ?
「今の状況は、エイルドが殴られて気絶させられて、オーファンが殺されそうになっているわ」
なんだよそれは! エイルド様が気絶? オーファンが殺される? 二人はどんな状況なんだよ!
「あ、オーファンがヤバそうだから心を交換するわね。行くわよ!」
白い空間から色が戻って来る。そして最初に目にした光景は、偉そうな服を着た青年が、自分めがけて今まさに剣を振り下ろしている姿だった。ヤバいと思って反射的に避けてぶん殴った。
「あ、反射的に殴った。って体がイテー。……どんな状況なんだ、サクラ?」
体の痛みに耐えつつ周辺を見渡す。あ、バルム伯爵だ。エイルド様が気絶している。アンジェ様やポアラ様もいる。アルーネ様がドレス着てる。知らない人達が捕らわれているな。どんな状況なんだ?
「えーとね。トルクが殴った相手はこの国の王太子で、周りの騎士達は全員敵で、オーファン達は女の子達を人質にされて動けない状況なの」
「はぁー! なんでそんな状況なんだよ!」
見た感じでは敵騎士は百人以上。人質の夫人令息令嬢も百人以上。怪我人多数で近くではエイルド様が倒れて気絶中。バルム伯爵や他の人達も捕らわれているし! あ、殴られた形跡のある女性発見!
「貴様、この状況を理解していないのか? それとも理解できないくらい馬鹿なのか!?」
……この人が王国の王太子なのか。かなり怒っているな。……殴ったら怒るのも当然か。
しかしこの状況どうするんだよ! サクラ、どうするんだよ!
「大丈夫よ。トルクが来る前から私は見ていたから。誰が敵なのか知っているわ。とりあえずフュージ○ンして、敵装備を砂に変えて行動不能にするわ」
サクラの声は聞こえるけど、姿は見えない。魔力の密度が少ないせいか?
「それとも人質が死ねば状況を理解できるのか? お前の愚かな行いのせいで人質が死ぬ様を見ろ!」
ドレスを着た美少女が連れてこられた。その美少女に似ている人が「スメラーニャ!」と呼んでいる!
そして騎士が美少女に剣を突き立てようとする。オレが手を向けて魔法を発動させようとする前に、見えない壁に阻まれ、騎士の剣が弾かれた。
「私がそんな事をさせる訳がないでしょう。あ、殺されそうになった彼女は王国の姫様で、子供の時に第一王子に虐められていたそうよ。あとオーファンが助けようとしていた子ね」
サクラの説明を聞きながら、オレは土魔法の石礫を騎士に当て、姫様を救い出した。そして、
「サクラ! 行くぞ!」
サクラとフ○ージョンをする。……意識が持って行かれそう。オーファンの体だから負荷がかかっているのか? ……なんとか意識を繋いで成功したと思う。
(すぐに敵の装備を砂に変えるわ。 トルク、意識をしっかり持ってね!)
体から体力と魔力がごっそり奪われる感覚と共に、オレを中心に目を開ける事が出来ないほどの光が広がった。そして光が収まると、夫人や令嬢達の悲鳴が聞こえた。そして男性陣の驚きの声が響く。
王太子、側近、完全武装の騎士達が下着姿になっていた。服も装飾品も剣も鎧も、砂と化して足元に小さな砂山を作っている。
「今だ! 敵は文字通り丸裸だ! 今こそ立ち上がれ!」
魔力枯渇の苦しさに耐えながら、オレが皆に向かって叫ぶ。一番早く行動を起こしたのは気絶したと思われていたエイルド様だった。……どうやら気絶していたのはフリだったようだ。ウィール男爵家の訓練で、オレが気絶したフリを使って逆転したの覚えたのだろう。
エイルド様は後ろに居た騎士を殴り飛ばして王太子に向かう。いつの間にか後ろに下がっていた王太子を守る騎士を相手に、しなやかな動きで殴りかかっていた。
そしてエイルド様の隣に居た青年も少し遅れてエイルド様と一緒に騎士と戦った。
バルム伯爵の隣に居た中年男性が「今だ! 全員戦え!」と叫び、バルム伯爵も素手で敵に向かって行く。
男性陣は下着姿の敵に戦いを挑み、夫人や令嬢達は悲鳴を上げるか、下着姿の変態どもに魔法を放った。
オレは皆に叫んだ後、吐き気を感じて膝を突いた。……魔力の使い過ぎの反動だと思われる。しかしオレだけ休むわけにはいかない。水魔法や火魔法や土魔法を使って不利な人達を遠距離から援護する。
サクラも地面を砂に変えて敵を落として無力化させていく。
敵騎士達は混乱しており、男性陣や魔法に倒されていき少しずつ数を減らしていった。
王太子の守りも薄くなり、怒りに赤く染まっていた王太子の顔は、血の気を無くし呆然とした表情に変わっている。
そして、ハッと気を取り直した王太子がとった行動は、「そこの子供とスメラーニャを人質にとれ!」と言う命令だった。
そこの子供=オレ、スメラーニャ=オレの後ろに居る美少女。
……狙いはオレとその後ろの美少女狙いか。
後ろの美少女は座り込んで、恐怖または破廉恥な姿の敵のせいで目を瞑って震えて、オレの服を掴んでいた。……どうりで服が引っ張られると感じたわけだ。
しかしオレを人質にとろうなんて馬鹿な命令を出したモノだ。
(その通り、トルクを人質にさせる訳がないじゃない!)
サクラがオレに近づこうとした敵を地面に落として砂で動けなくする。
「何が起こっているんだ! どうしてこんな状況になったのだ!」
混乱している王太子の前にエイルド様と青年がたどり着いた。そして二人は王太子をぶん殴った。……ナイスパンチ! 腰の効いた良いストレートパンチだ。
位の高そうな中年男性とバルム伯爵が王太子の前に立つ。
「私達はお前達を人質に取って、王都から脱出する! 金輪際、王都の為に働かない。ウィリバルテォイオン辺境伯は独立してオルレイド王国と敵対する!」
「バルム伯爵家もウィリバルテォイオン辺境伯に倣い王国から独立する。これ以上オルレイド王国には従わない! バルム伯爵領を最前線として王国と帝国と戦う覚悟は出来ている!」
えっ! バルム伯爵領独立するの? 隣の人のウィリバなんとか辺境伯も独立するの!?
「私もウィリバルテォイオン辺境伯領に行きます! 私とスメラーニャは城には帰りません! 王女としての立場を捨てます!」
「私も帰りません! これ以上ジークフリート殿下に虐められたくありません!」
ええっ! この人って王女様なの!? それじゃ、後ろの美少女も王女様なのか!
そして他の貴族達も「辺境伯に付いて行く!」とか「私の領地も王国から離れて辺境伯に付く!」と声を上げる。……この王太子は何をやらかしたんだ?
オレはそろそろ吐き気が限界に近く、ヤバいことになりそう。回復魔法で吐き気を抑える事は出来るのか?
口を抑えて我慢していると、エイルド様が駆けつけてくる。
「オーファン、大丈夫か? 顔が蒼白だぞ!」
「ちょっと吐き気が……。それにしても気絶のフリとはさすがはエイルド様。訓練の成果が出ていますね」
「え、どうして死んだフリの訓練をしっているんだ? トルクから聞いたのか?」
そういえばオレの体はオーファンだった。だからエイルド様はオレの事をオーファンだと認識しているんだった。……オレがトルクと正体を言った方が良いだろうか?
(トルク、フュ○ジョンを解除するわよ)
するとエイルド様が「髪が元に戻った……」と呟く声が聞こえた。……やはりオーファンでフュージ○ンしても髪の色とかが変化していたのだろう。
「オーファン君、いいかな?」
ウィリバなんとか辺境伯が声をかけて来た。バルム伯爵と姉姫様を伴って、エイルド様と一緒に戦っていた青年もオレに近づいてきた。
「君が騎士達の武器や防具、服すらも砂に変えたのか?」
なんて答えれば良いだろうか? 馬鹿正直に答える訳にはいかないからな。
「……君は御使い様なのか?」
ウィリバなんとか辺境伯は御使いの事を知っているのか! 驚くオレと青年。バルム伯爵とエイルド様は意味が分からない様だ。そしてオレの驚きでウィリバなんとか辺境伯が、
「御使い様がどうして此処に! それも代替わりしたのか? 先代は帝国の者だろう」
「オーファン君。君は御使い様だったのかい! だから!」
二人がオーファンを御使いと勘違いした! どうする? 正直に話すか? しかしどう答えれば良い?
「オーファン様が御使い様……」
後ろの美少女姫様も勘違いを始めた。本格的にどうすれば良い?
「先代から御力を受け継いで、王国に来たのか? どうしてエイルド君の従者に?」
バルム伯爵に聞くウィリバなんとか辺境伯。バルム伯爵もオーファンの事をどう説明すれば良いのか迷っている様だ。
「な、なんだと! お前は御使いだったのか……」
あ、王太子はまだ意識が有ったのか。王太子も御使いの事を知っているようだ。
「御使いよ、私の味方になれ。そうすれば欲しいモノはなんでもやろう。金も美女も権力もなにもかもだ!」
「……じゃあ全ての王族が平民になれと言う願いも叶えてくれるか? 王族全員が辺境伯やサムデイル様の配下になれと言う願いも叶えてくれるか?」
「ふざけるな! 王族が反逆者や平民の配下になれだと? 真面目に答えろ!」
真面目に答えたつもりだったんだけどな。うるさい王太子を無視して視線を移動すると、
「エイルド様! 大丈夫ですか!」
また美少女が来た。誰かなと思っていたら「エイルドの婚約者で辺境伯の娘のクラリベルよ」とサクラが教えてくれた。
クラリベルはハンカチでエイルドの顔に付いている血を拭く。……仲が良い様だ。
そしてエイルドの側にアンジェ様やポアラ様やアルーネ様が近づく。……みんな変わってないな。
そういえばニューラ達はここに居ないけど無事……だよな。オーファンが無事だったのだから、きっと無事なのだろう。
「あ、あのオーファン様、助けてくださってありがとうございました」
側で震えていた王女様、確か名前はスメなんとか様だったな。
「ジークフリート殿下に殴られそうだったときに、私の前に立ってくださって、本当に嬉しかったです」
その辺はオーファンの行動だな。……オーファンも出来る漢に育っているな。そして美少女にも好かれるようになるとは。
「私とララーシャルの教育のお陰ね!」
……その通りな気がするが、その教育のせいでオーファンは大変な目に遭っているんだぞ。
「妹を救ってくれてありがとうございます。改めて自己紹介を。オルレイド王国第三王女ユリアンナと申します」
「皆を救ってくれてありがとう。私の本当の名は、ジェルトニア・ルウ・テルツエット。テルツエット公爵家の最後の生き残りだ。オーファン君、本当にありがとう」
青年の名前をやっと聞けた。……公爵家の生き残り? テルツエット公爵家? 確か歴史の勉強で習ったよな。反逆罪で滅んだ公爵家だったけ……。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ユリアンナさんは綺麗な、ジェルトニアさんは流麗な仕草で挨拶をする。オレも疲れた体に鞭打ってウィール男爵家で習った礼儀作法で返した。
二人とも怪我している。ユリアンナさんは顔を殴られた形跡があるので「怪我をしているみたいですね、回復魔法を使います」と言って二人を治療した。……オーファンの体でも回復魔法を使えるみたいだな。
「回復魔法まで使えるとは……」
と二人は驚く。
二人の治療が終わったのでエイルド様の怪我も回復魔法で治さないと。エイルド様に近づいて、
「エイルド様、回復魔法を使って怪我を治します」
と言って治療を始めた。
「オーファンさん。貴方が来てくれて本当に良かったわ。ありがとう」
アンジェ様が礼を言う。ポアラ様もアルーネ様も礼を言う。
「オーファンさんは、騎士トルクから回復魔法を習ったのですか?」
「ま、まあそんな感じです」
オーファンの正体がトルクだと言い出せない。タイミングを逃したのか?
エイルド様の怪我も治った。……でも吐き気が。これ以上魔力を使うのは難しいかも。
今度はウィリバなんとか辺境伯とバルム伯爵がこちらに来た。
「御使いよ、改めて感謝する。私達を助けてくれてありがとう」
「オーファンよ。助けてくれて感謝する」
辺境伯とバルム伯爵が礼を述べる。
「改めて質問するが、なぜ王国に来たのだ? バルム伯爵から聞いたが良く分からん。なにかしらの原因で帝国から王都に来たのか? そのトルクとかいう者のせいで?」
あれ? トルクが悪者扱いされてない?
「い、いえ! トルクは助けてくれたので! むしろ恩人です!」
「……ふむ。御使い様の恩人か」
考え込む辺境伯。バルム伯爵は、
「オーファンよ。さきほど辺境伯から御使いの事を簡単に聞いたのだが、精霊の力で帝国から王都に来たのか?」
「……その通りです」
事故だけどね。精霊ドラゴンが勝手に動いたせいで面倒な事になった。しかしある意味、ドラゴンに飛ばされて良かったのか? オーファン達が王都に飛ばされなかったらエイルド様達は酷い目に遭っていたかもしれないし。
「それよりもこれからどうするのですか?」
話題を変えよう。これ以上、御使いの事を説明したくない。
「屋敷に乗り込んで来た王太子達を人質に取って領地に帰る。王国にはなにも未練はない」
「私もだ。今までは恩人の為に王都に残って居たが、もう王都に居座る意味は無い。バルム伯爵領に帰る」
「出来ればオーファン君に少し相談がある」
辺境伯さんがオレと相談したいと言うが、オレの吐き気が限界に達する。
「その前に、トイレを貸してほしい。吐き気がしてもう限界……」
辺境伯さんの案内でトイレに行きました。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




