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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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9 王太子襲来②

 王太子であるジークフリートをぶん殴ったエイルド。その表情はスッキリして穏やかだった。

 殴られたジークフリートは地面に倒れ、怒りを露わにして言葉を失っていた。そして


「王族に手を挙げるとは!」


 王太子の側近が剣を抜いてエイルドに襲い掛かる。

 エイルドは避けようとするが、避けたらクラリベルに当たりそうなので、逆に接近して体当たりをする。

 クラリベルから距離を置いたエイルドは、近くに落ちていたジークフリートの剣を拾って対応する。

 ジークフリートが「こいつを半殺しにしろ!」と側近に命令したので、エイルドは多数を相手するはずが、辺境伯とバルム伯爵とジェットンがエイルドの横に立ち、


「良くやった! バルム伯爵次期当主エイルドよ。よくぞクラリベルを守ってくれた。礼を言う」

「さすがは我が孫だ。良くぞやってくれた。誇りに思うぞ!」

「エイルド君、君って奴は怖いもの知らずだね。面白いくらいに」


 四人がクラリベルと第三王女ユリアンナと第四王女スメラーニャを守るように並んだ。


「貴様等! 私に逆らうのか!」

「家族を人質に取られ、領地を滅ぼされるくらいなら、逆らおう! 我々は王族の言いなりにはならない!」


 ジークフリートの言葉に逆らう辺境伯。そして辺境伯の言葉は参加者達の心も奮い立たせた。


「領民を守る為に、我々は王都から離れる!」

「家族や親族を守る為に私達は領地に戻ろう!」

「夫の重荷になるくらいなら、王都から出て行きます!」

「子供を人質にはさせない!」


 参加した貴族達が声を上げる。

 思い通りにならないジークフリートは、


「騎士達よ! 身の程を教えてやれ! 全員を反逆罪で捕縛しろ!」


 王太子の命令を聞いた騎士達は参加している貴族達を囲みこもうとする。そして更に完全武装した騎士達が百人程なだれ込んで来た。


「二百人の完全武装した騎士達が居るのだ! 女子供は人質にして降伏させろ!」


 辺境伯邸の警備兵は騎士や兵士を合わせても百人以下。パーティー中なので略式の装備しか身に着けておらず、武装で質・量とも負けている。


「女性や子供は屋敷に避難しろ! 男達は騎士達をけん制するのだ!」


 バルム伯爵の声を聞いて夫人や令嬢達は屋敷に早歩きする。女性陣を守る男性陣。

 しかし猛攻を受けて警備兵や男性陣が倒れ、騎士達が女性陣に近づこうとする。そのとき突然地面に大穴が空いて騎士が穴に落ちた。完全武装しているので上手く這い上がる事が出来ない。


「私が時間を稼ぎますから、急いで避難してください!」


 土魔法で地面に穴を空けたオーファン。しかし穴を避けて騎士が迫ってくる。

 オーファンが石礫の魔法を発動しようとする前に、ポアラとアルーネが近づいて来る騎士に石礫を放ってけん制した。

 他の貴族達も、魔法を使える者達はけん制し、武器を手にして敵と戦う。

 しかし多勢に無勢で警備兵は倒れて、男性陣も傷ついて他の者達の肩を借りて屋敷へ避難する。

 完全武装の騎士が相手では対抗が難しく、苦戦を強いられている。

 エイルド達は最初はジークフリートの側近達と剣を交えていたのだが、その側近達を無力化した今は、完全武装の騎士達を相手している。しかし次第に追い込まれてきた。

 そして何も力の無い夫人や令息令嬢、怪我を負った者達の避難が終わった。ポアラやアルーネも、アンジェとアルーネの姉に連れられて屋敷に避難している。バルム伯爵や辺境伯、警備兵は屋敷の玄関口に防御陣形を取っている。その後ろにエイルドやジェットン、武器の心得のある貴族や魔法を使える者達が備えていた。

 ユリアンナとスメラーニャとクラリベルは屋敷には避難はしていない。

 エイルドは王女達を守るように立ちはだかり、オーファンもエイルドの後ろに陣取って戦闘を続ける構えを見せている。


「どうする? 降伏するか? 降伏するなら助けてやろう」


 騎士達に守られたジークフリートは辺境伯達に降伏を促す。


「ユリアンナ、スメラーニャよ。お前達も自分の行いを反省して、地面に頭を付けて謝れば、許してやらんでもないぞ」


 ジークフリートは腹違いの姉妹に土下座させようとしている。ユリアンナは悔しさで、スメラーニャは恐怖で涙が出てきた。


「そういえばウィリバルテォイオン辺境伯。……舌を噛みそうな長い名前だ。そうだ、長すぎるから短い名前を考えさせるか……。辺境伯令嬢よ、お前が私のモノになるのなら、他の者達を助けてやろうか?」


 クラリベルを妾にと考えたジークフリート。クラリベルは『自分が犠牲になれば皆が助かる』と考えた。しかしジークフリートの玩具にはなりたくない。


「それから私に手を挙げた者よ、貴様は別だ! 私が直々に罰を与えてやろう」


 エイルドはジークフリートを殴ったので処罰されるとの事だ。エイルドは「理不尽だ!」と言って抗議するが、王太子にはエイルドの言葉は届かない。

 降伏は出来ないと考える辺境伯。ここで降伏すれば家族や親族を人質にとられて、戦場に行く羽目になる。

 バルム伯爵も同じことを考える。ここで降伏すればエイルドが処罰される。義息子のクレインから頼まれた家族を守る為に降伏など出来ない。


「おい、そこの子供。ユリアンナとスメラーニャを私の前に連れて来い」


 ジークフリートに指をさされた『そこの子供』とはオーファンだった。オーファンの後ろにはちょうどユリアンナとスメラーニャが居る。

 オーファンは姉妹を見て、


「お断りします」


 と言ってジークフリートの命令を拒絶した。

 オーファンは、彼女達の浮かべる表情がトルクと会う前の妹に似ていると感じた。騙されて兄妹以外は誰も信用できずにいた妹と同じ表情をしていた。

 自分の信念を貫く為に強くなろうとトルクに頼んだオーファンは「トルクも断るに決まっている」と小声でつぶやく。

 だからオーファンはユリアンナとスメラーニャを守ると決めていた。


「ほう、私の命令を断るとはな。お前も処罰されたいようだな」


 状況は最悪だとオーファンは考える。この現状を打開する為には、第一王子を人質にする手段しか考えつかない。だから王太子に近づく事にした。


「処罰できるかやってみろ! 騎士に守られているだけの小心者」

「……なかなか言うやつだな。私を怒らせる算段か? しかしその程度で私が怒る事はないぞ? 逆に私が怒らせてやろうか?」


 ジークフリートはそう言うと目配りをした。視線の先はスメラーニャの後ろにいる貴族だった。

 その貴族はナイフをスメラーニャの首筋に付ける。


「そいつの息子はバルム砦で帝国の捕虜となっていてな。捕虜となった息子を助ける代わりに私に忠誠を誓ったのだ」


「セロロン男爵! どうして!」

「申し訳ございません、バルム伯爵。しかし息子を助ける為には……」


 スメラーニャが人質にされてしまい、屋敷内から悲鳴が聞こえる。


「ウィリバルテォイオン辺境伯! 敵が裏口から屋敷内に侵入しました!」

「どうする? ウィリバルテォイオン辺境伯よ。負けを認めるか?」


 ウィリバルテォイオン辺境伯、バルム伯爵は何も出来ずにいた。エイルドやジェットンも動けずにいる。オーファンは人質をとるジークフリートに怒りを感じていた。


「さて、どうするのだ? ウィリバルテォイオン辺境伯よ」


 ジークフリートは騎士達と一緒に辺境伯の近くに来た。スメラーニャを人質に取っているセロロン男爵もジークフリートの近くに移動した。

 抵抗を続けていた者達は、自分達が負けたと悟り、体の力が抜け、膝を付いた。

 辺境伯やバルム伯爵もジークフリートに負けたと悟った。

 ジェットン、エイルド、オーファンは打開策を考えるが、


「エイルド、ジェットン、そしてそこの子供よ。武器を捨てて三人は私の前に出ろ」

 エイルドとジェットンは武器を捨て、オーファンも黙ってジークフリートの前に行く。そして騎士達に拘束され跪かされた。ジークフリートは、エイルドに奪われていた己の剣を騎士に取ってこさせるが、刃に血糊か付いているのを見て、「汚らしい」と投げ捨てた。


「さて、ジェットンよ。いやジェルトニアと言った方が良いかな?」


 ジェットンは隠していた本名を言われて驚愕した。


「ジェルトニア・ルウ・テルツエット。滅んだ公爵家の最後の生き残りよ。私が知らないとでも思っていたのか?」

「ど、どうして……」

「ウィリバルテォイオン辺境伯とクラリベルは知っている様だな。……ユリアンナよ、お前も知っていたのか。元婚約者だから当然か」


 テルツエット公爵。十年前に帝国との和平を実行しようと考えていたが、オルレイド国王に知られて没落し滅んだ公爵家。

 和平を考えていた国王の弟が、秘密裏に和平を進めているテルツエット公爵家の婿に入った。そして二人は帝国との和平に動いていたが、帝国を滅ぼす事が是と考えている国王に知られて罰を受け滅んだ。


「和平派の叔父とテルツエット公爵。この二人が近くにいれば和平に動くと子供でも予測できる。邪魔なテルツエット公爵と和平派を一掃できる簡単な作戦だ。そして公爵家の騎士や使用人を戦場で働かせ、財産を戦争経費に使わせて一石二鳥の策だったらしい」


 ジークフリートは辺境伯達に説明する。そしてジェルトニアに、


「お前が生き延びてウィリバルテォイオン辺境伯領に隠れ住み、名前を変えて王都に来ている事も知っていた。密偵に探らせていたからな。もちろんユリアンナとの密会も知っているぞ」


 愛し合っていたジェルトニアとユリアンナは、十年ぶりに再会した嬉しさと愛おしさで、いろいろな行動を取っていた事もジークフリートに知られていた。


「いとこ同士なのに私には会ってくれないからな。私を忘れたのか? 私は覚えているぞ。あの時お前は父親の死を一番近くで見て、祖父も殺され、泣いていた。その泣き声と絶望した顔を私は今でも覚えている」


 ジェルトニアの父と祖父。王弟とテルツエット公爵当主は、国家反逆罪でジェルトニアの目の前で殺された。母親は夫と父親が殺されたショックで倒れ、衰弱しそのまま病死した。


「国王は和平などどうでも良かった。しかしお前の父親は王位継承権を持っている。テルツエット公爵の後ろ盾があれば、現国王を廃して、お前の父親が国王の座に就く可能性があった。だから国王陛下はテルツエット公爵家を滅ぼした」


 ジェルトニアは親の仇である国王を憎んでいる。王族を憎んでいた。唯一の例外はユリアンナとスメラーニャの姉妹とその母親だけ。そしてジークフリートには国王以上に憎しみが募った。


「ジェルトニアや辺境伯などどうでも良かったが、現状が変わった。アイローン砦とバルム砦が落ち、帝国の侵略を防がないといけない。その為には王国に忠誠心ある者達が必要だ」

「人質を取って戦場に行かせるのが、忠誠心を持つ者達なのか! ふざけるな!」

「ふざけてはいないぞ、ジェルトニア。バルム砦周辺の領地が帝国に占領された理由は、領地持ちの貴族達の士気と忠誠心が足りなかったからだ。だから領地を奪われた」


 領地を奪われた参加者の貴族達は怒りを込み上げそうになる。バルム伯爵も怒りを抑えている。


「なので私は皆の忠誠心を高める方法として、素晴らしい案を考えた。戦場に赴く貴族や騎士の家族親族は王家が保護しているのだから、安心して帝国と戦えるだろう」


 ジークフリートの話を聞いている者たち全員が『ふざけるな!』と言いたい。しかしジークフリートが演説している間に、屋敷に避難していた夫人令嬢達が人質となって中庭に連れ出された。その中にはポアラやアンジェもいる。アルーネも捕らわれていた。


「学生隊などよりも、こちらの方が効果的ではないか? 学年で剣術上位のエイルドよ」


 そう言ってジークフリートは、側にいた護衛の騎士の剣を奪い、エイルドを鞘で殴りつけた。エイルドの額から血が流れる。

 アンジェが悲鳴を上げ、ポアラやアルーネ達令嬢が騒ぎ出す。


「お止めください! お願いします!」

「うるさいぞ、クラリベル。婚約者が殴られた程度で喚くな」


 更にエイルドを殴るジークフリート。


「止めてくれ! 孫を殴るくらいなら私を!」

「私に命令するな。バルム伯爵」


 殴る手を止めないジークフリート。エイルドは殴られ続けて、気を失い地面に倒れた。


「止めろ! エイルド君に手を出すな! 殴るなら私を殴れ!」

「安心しろ、ジェルトニア。お前も殴ってやるから。こんな風にな!」


 ジークフリートは近くに居たユリアンナを殴った。


「お前にはこっちの方が効果的だろう。愛している女が殴られているのを黙って見てろ」


 殴る相手をエイルドからユリアンナに変更したジークフリート。ジェルトニアは叫び、女性陣からも悲鳴が上げる。


「お、お願いします。お姉様を殴るのを止めてください!」

「お前も殴られたいのか? スメラーニャ。だったら希望通り殴ってやろう。セロロン男爵よ、下がれ」


 ナイフを首筋に付けていたセロロン男爵はジークフリートの命令に従い後ろに下がった。そしてスメラーニャを殴ろうした瞬間、オーファンが火魔法を発動して騎士を振りほどき、スメラーニャとジークフリートの間に入った。

 オーファンは剣の鞘を受け止めて、ジークフリートを人質に取ろうとした。しかし他の騎士に邪魔される。


「火魔法を使って捕縛を解いたか。そして私を人質に取るつもりだったのかな?」


 ジークフリートを人質に取って状況を変化させようとしたが失敗したオーファン。千載一遇の機会を逃してしまった。


「なかなか有能な子供だな。さて、これからどんな行動を取るのかな? 人質が居る状態でどんな行動を取るのかな?」


 オーファンは動けなかった。再度ジークフリートを人質に取ろうと考えたが、自分の実力では無理だと判断した。


「……女性を殴らないでほしい。私が殴られるから」


 どうする事も出来ない。だけど女性が殴られるのを見たくないオーファンは、自分が殴られる事を選んだ。


「そうかそうか。では希望通り殴ってやろう。その後は切り刻んでやろう」


 ジークフリートは鞘でオーファンを何度も殴りつける。意識が朦朧となったオーファンは、霞む目でジークフリートが鞘から剣を抜いたのを見た。


 オーファンは『これはヤバいな。死ぬかも』と考える。そして急に意識が遠くなった。

 ジェルトニアやバルム伯爵や辺境伯はジークフリートを止めようとする。

 ジークフリートは剣を掲げてオーファンめがけて振り下ろす。しかしオーファンはそれを避けて逆にジークフリートぶん殴った。


「あ、反射的に殴った。って体がイテー。……どんな状況なんだ、サクラ?」


 ジークフリートは殴られ、周りの者達は静かになり、当の本人はジークフリートの周辺を見渡した。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] インストールされたトルクかな? この状態でも精霊と会話できるのか?
[気になる点] 基本的に何かあるとスッキリしない形で収束する事が多いので 皆このまま追い込まれて捕まってしまうのかと思ったら、 その時オーファンに不思議な事が起こった!が発生? どうなるんだか。
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