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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
239/276

8 王太子襲来①

 エイルドとクラリベルの婚約発表から二日後。

 王都のウィリバルテォイオン辺境伯邸の中庭でパーティーが開かれる。

 辺境伯の派閥に属する貴族達が招かれ、その貴族の中にはバルム伯爵家、ウィール男爵家の顔も見られた。

 参加を嫌がっていたエイルドはバルム伯爵当主のサムデイルに怒られながら嫌々参加し、同じく参加を嫌がっていたポアラはウィール男爵夫人のアンジェに怒られながら嫌々参加した。末弟ドイルは不参加でリリア達と留守番をしている。


「どうして私が参加しているのでしょうか?」

「エイルドの従者として参加してほしい。エイルドが逃げないようにしてくれ。トルクがしていた仕事だ」

「バルム伯爵、私ではなくエイルド様の従者がいるでしょう?」

「お主との決闘に負けて、癇癪起こしてへそを曲げて、参加しないとの事だ。これを機に従者クビにする予定だったから問題無い」


 昨日、オーファンとエイルドの従者であるアントンが決闘をした。アントンが『平民の分際でいつまで屋敷に居すわる気だ! 早く出て行け!』と言ってきたので、オーファンが『数日後には出ます』と返事したら、『平民の分際で口の利き方がなってないな』と言って剣を抜いて向かってきたので、オーファンが返り討ちにした。

 決闘というよりも、アントンがオーファンに戦いを挑んで、あっけなく負けた。その後アントンは

「卑怯な手段を使った。決闘を汚した! 屋敷から追放するべきだ!」とエイルド達に言うが、エイルドとドイルは二人の争いを最初から見ていた。

 エイルドとドイルがオーファンの味方をしてアントンの嘘がバレて、ポアラから「最低ね」と言われて、アントンは不貞腐れ逆ギレして「覚えていろよ!」と言い捨て、その後「従者を休む」と言って屋敷に来なくなった。

 明日が辺境伯主催のパーティーだから従者を連れて行かないとエイルドは恥をかく。アントンは自分の味方をしなかったエイルドへの仕返しとして従者を休んだ。

 だからしてオーファンがエイルドの従者代理となった。


「今日は頑張ろうね、オーファンさん」


 ポアラの従者であるマリーがオーファンを慰める。オーファンは「頑張ります」と言う。

 従者の仕事は全く分からないが、アンジェから『エイルドの近くに居てフォローして頂戴』と言われた。……何をフォローすれば良いのか全く分からない。しかし屋敷に住まわせてもらっている恩を返す為に従者として頑張ろうとオーファンは思っている。

 しかし『従者としての振る舞いを学ぶ時間が欲しかった』とオーファンは思う。パーティー直前になって突然従者として参加させるなんて……。エイルドの後ろに立つオーファンはため息をつきそうになる。

 今日の主役予定のエイルド。クラリベルとの婚約が発表されるパーティーである。

 また、バルム伯爵次期当主がエイルドに決定した事も発表された。そして二人は婚約者となるのだが、エイルドは婚約を嫌がっており不機嫌だ。しかし挨拶に来る貴族達に不機嫌な顔を見せないようにと隣に居るアンジェが見張っており、笑顔の仮面を張るエイルド。


「エイルド様、バルム伯爵次期当主になられた事、おめでとうございます」


 デンキンス子爵令嬢のアルーネと姉が挨拶に来る。アルーネも着飾っており、活発な言動を控えている。隣にいるアルーネの姉が見張っているのだろうかとエイルドは思った。


「ありがとうございます」


 エイルドは挨拶に来た者達が次期当主のお祝いの言葉を伝える度に何度も同じ返事を返した。

 王宮騎士の夢は諦めた。しかし世界一の剣の使い手になる事はどうしても叶えたい。トルクが居れば二人で家出して世界を回って強くなれるのにと考える。


「ポアラ様からトルク様が無事だとお聞きました。本当に良かったです」


 アルーネは学校でポアラからトルク生存の事を聞いた。そのときのアルーネは嬉し泣きをして周辺の令嬢達を困らせた。男勝りのアルーネが泣くなんて誰も思ってなく、後にはポアラに抱き着いて「無事で良かった」と泣き崩れた。

 そのときのポアラはアルーネがトルクに好意を抱いているという事を再確認した。トルクがアルーネを選ぶ可能性がある。その場合はどうすれば良いか? その答えはまだ出ていない。

 そして主賓のウィリバルテォイオン辺境伯とクラリベルが会場に姿を現した。


「今日はお集まりいただき感謝する」


 ウィリバルテォイオン辺境伯の声が中庭に響く。全員が二人を見た。そして美しいクラリベルに未婚の若い男性は見惚れる。見惚れていない未婚の若い男性は二人。婚約を嫌っているエイルドと、美しい人達を見慣れているオーファン。オーファンはララーシャルやシャルミユーナ皇女、妹のベルリディアの様な美人と知り合いなので見惚れてはいない。


「今日はゲストとしてユリアンナ第三王女とスメラーニャ第四王女がいらっしゃった」


 第三王女と第四王女のエスコート役にジェットンが二人の手を引いている。騎爵位持ちのジェットンが王族をエスコートしている事に全員が驚きを隠せなかった。

 ジェットンを『高位貴族の子弟なのか?』と不審がる。

 飛び級で学校を卒業し、ジェットンやクラリベルと同年代の第三王女。エイルドやポアラと同年代の第四王女。

 ウィリバルテォイオン辺境伯の姉は国王の側室となった。そして生まれた姉妹は王宮貴族よりも領地持ちの貴族の味方をしている。


「皆様、お久しぶりです。今日はウィリバルテォイオン辺境伯のパーティーに参加させて頂いて感謝いたします」

「各領地での出来事は私達も耳にしております。ですが王族は貴方方を見捨ててはいません。帝国に奪われた領土を必ず取り返します」

「王都と他領では深い溝が在りますが、それを埋めるのは王族の役目です」

「私達に出来る事は少ないですが、皆様の為に動いて来たつもりです。ですから皆様も私達に協力をお願いします」


 二人の王女が貴族達に演説する。しかし王族とはいえ女性。王都の貴族達には有力かもしれないが、王族同士なら立場は低いのは女性の方である。その事を知っている大人達だが、現状を良い方へ努力している姉妹を知っているので望みを託していた。


「この度、私達の従妹であるクラリベルの婚約者が決まりました」

「皆様、これを機に更に団結し、協力し合って、領地を奪った帝国を滅ぼし、王国に更なる栄光を掴み取りましょう」


 姉妹の演説が終わり、次にウィリバルテォイオン辺境伯が中庭に集まっている貴族達に言う。


「先ほど両殿下達がおっしゃったが、クラリベルの婚約者が決まった。バルム伯爵家次期当主のエイルド殿だ」


 エイルドに貴族達の視線が集まる。そしてエイルドはバルム伯爵と一緒に辺境伯の所に行き、クラリベルの横に立つ。


「アイローン砦が帝国に奪われ、王族が捕虜になった。帝国は王国との交渉でアイローン砦を返す代わりに、バルム砦を掠め取り、そこで戦う者達を捕虜にした。皆の親族が帝国の捕虜になり、領地を奪われた。そしてバルム伯爵領は最前線となった」

「バルム伯爵領が帝国の手に落ちたら、王都や辺境伯領にも危険が迫る。そしてこれ以上王都に人員を派遣すれば、バルム伯爵領が帝国に奪われる可能性がある」

「ウィリバルテォイオン辺境伯として、王国が危機にさらされる事を重く考え、バルム伯爵との関係を深める事にした」


 辺境伯の演説を近くで聞いているエイルドは『早く終わってくれないかな。どうして大人の話は長いのだろうか?』と他人事のように考える。


「皆にもバルム伯爵次期当主エイルドとクラリベルの婚約を祝福してほしい」


 いつの間にかエイルドの手にはグラスを持たされていて、参加者全員もグラスを持っている。

 そして辺境伯が乾杯の音頭を取ろうとしたとき、百人近い完全武装した騎士達がなだれ込んで来た。そして参加者が居る中庭を囲もうとする。そこへ警備をしている騎士達が駆け付けてきて侵入者達を遮った。両者とも剣を抜いて一触即発の気配になる。


「貴様等! 何者だ!」


 騎士が無頼漢のようにパーティーに乗り込んで来た事に怒り、辺境伯が咆える。


「すまない、ウィリバルテォイオン辺境伯。私もパーティーに参加させてもらおうと思ってね」


 高貴な姿をした人物が騎士達に守られながら辺境伯へ歩み寄る。


「……どうして武装した騎士を連れてくる必要があるのですか? 王太子ジークフリート殿下」


 現れたのはオルレイド王国、第一王子で次期国王のジークフリートだった。王太子が騎士を連れて来た事で、参加者達は騒がしくなる。


「すまないな。パーティーの招待状が無かったからな。私も参加したかったので勝手にお邪魔したよ」

「そうですか。数年前に招待状を送った時に『田舎者のパーティーに誰が参加するか』と言うお言葉を頂きましたので、お送りするのを遠慮させて頂きました」

「その通り、田舎者に相応しい安っぽいパーティーだな。しかし一度くらいは貧相なパーティーに参加した方が良いと思ってな。参加してやったのだ」


 辺境伯を侮辱するジークフリート。そして王太子の側近達も笑いながらパーティーを侮辱する。


「ジークフリート殿下、無礼ではありませんか。王太子である御方が臣下の者を蔑むなんて!」

「黙れ! 誰が口を開いて良いと言ったのだ。女の分際で! 昔のように躾けてやろうか?」


 第三王女のユリアンナが咎めるが、ジークフリートはしかりつける。

 ジークフリートはユリアンナとスメラーニャを王族とは認めてはいない。正室の子供が王族で、側室の子供は王族の駒としか認識していなかった。

 ユリアンナとスメラーニャ、他の側室の子供達は、正室の子供達から嫌がらせを受けて育っていた。特にスメラーニャはジークフリートから執拗に虐められていた過去があり、ユリアンナの後ろで怯えている。


「ジークフリート殿下、粗暴な言葉を使われては王族に相応しくありません」


 ユリアンナを守る様にジークフリートに立ち向かうジェットン。

 ジークフリートはジェットンの顔を見て、側近に「奴の爵位は?」と聞く。側近は「確か、ハルムート子爵家の騎爵位です」とジークフリートに伝えた。


「……騎爵位程度の爵位で、王太子である私に口答えするとはな。……まぁ良い。それよりもコレがウィリバルテォイオン辺境伯の娘か……」


 ジェットンの言葉などどうでも良いと考え、クラリベルに視線を向けるジークフリート。ほうほうと頷きながら辺境伯に言う。


「これがエリギンギの婚約者だった女か……」

「違います、エリギンギ様は婚約者候補の一人です。私は候補にすら挙げたくありませんでしたが、彼が勝手に婚約者候補と触れ回ったので、仕方なく候補としたのです」


 クラリベルの婚約者候補の一人だったエリギンギ・ルウ・ピエール。王宮貴族のピエール伯爵家の子息で第一王子の側近。


「顔は悪くないな。私の妾にしてやろうか?」


 クラリベルの元婚約者候補のエリギンギは「え?」と言わんばかりの表情だ。ジークフリートにクラリベルを取られようとしている。しかし側近として拒否は出来なかった。

 そして大事な娘を妾にするとジークフリートに言われて、怒りが込み上がる辺境伯。相手が王太子であろうが関係ないと言わんばかりに表情を変えた。


「ジークフリート殿下。ウィリバルテォイオン辺境伯令嬢は私の孫の婚約者です。王族ともあろう御方が、婚約者を奪うのですか?」


 バルム伯爵当主サムデイルも辺境伯ほどではないが、ジークフリートに怒りを感じていた。孫の婚約者を王族に取られる訳にはいかないし、クラリベルは幼少の頃から知っていて幸せになってほしいと思っている。


「そういえば本題を言っていなかったな」


 バルム伯爵の言葉を無視して自分勝手に物事を進めるジークフリート。王太子である自分が国王の次に偉いと信じているので、他の者の言葉など素直に聞く必要が無いと思っている。


「ウィリバルテォイオン辺境伯の派閥の者達が、王都を離れるという情報を耳にしてな」


 ジークフリートの言葉で武装した騎士達が武器を構えて一歩出る。


「オルレイド王国の危機が迫っている状況で王都を離れるとは、不敬だと思わないか?」


 辺境伯邸の警備兵が一歩下がった。


「アイローン砦が落とされて帝国の侵略の可能性があるのに、王都を離れ領地に帰る。領地持ちの貴族は王族よりも領地が大事と見える」


 辺境伯邸の警備兵は少なく、ジークフリートが連れて来た完全武装の騎士達は百人くらい居る。その騎士達が徐々に近づいて来た。


「領地よりも王都が大切だと思えるように、我々王族が領地持ち貴族の親族を保護してやろうと思ってな。されば皆も王都の為に戦ってくれるだろう」


 ジークフリートは領地持ちの貴族の親族を人質に取り、王都を、ひいては王族を守る為に帝国兵と戦えと強制するつもりだ。

 辺境伯やバルム伯爵、参加の貴族達もその事を理解した。そして人質は帝国に勝つか、王国が滅びるまで解放されないだろう。


「そ、そのような命令を、強いるか! 我々は王家の為に、血と汗を流し続けてきたのだぞ!」

「王家の為でなく、領地の為であろう。もちろん私は信じているぞ。王族の為に皆が戦う事を。帝国兵に家族や親族が無残に殺されないように、私が保護してやろうと言っているのだ」


 参加の貴族が反論するが、剣を向けられて言葉を封じられた。


「私の慈悲に感謝して、帝国を打ち破ってほしい。もちろん褒美もやろう。領地が欲しければ帝国領に与えよう。財宝が欲しければ帝国の財を与えよう。女でも奴隷でも帝国を滅ぼしたら手に入る」


 ウィリバルテォイオン辺境伯は我慢の限界だった。長年王国の為に帝国と戦い続けていたのに、人質を取り帝国と戦わせられる。

 バルム伯爵も怒りでどうにかなりそうだった。バルム砦を奪われ、配下の者達が捕虜になり、領地内が戦争で傷ついている。今も王国の為に戦っている仲間たちを思うと、王族に忠誠を誓うのが間違っているのではないかと思う。

 参加している貴族達も同じ考えだった。特に年頃の娘たちが王宮貴族達に乱暴される可能性もある。家族や親族を人質にされるのは聞き入れられない。


「安心しろ、皆の家族は私が大切に保護しよう」


 ジークフリートはクラリベルに近づいて顔を触ろうとする。

 クラリベルはジークフリートの人外の様な考え方に嫌悪感で逃げ出したかった。

 辺境伯が娘の前に立ち、ジークフリートから守ろうとしたが、王太子の側近が武器を構える。

 ジークフリートがクラリベルの顔に触ろうとした瞬間、『パチッ』と言う音が聞こえる。ジークフリートの手を叩いた音だった。

 叩いた主はクラリベルの隣に立っていたエイルド。パーティー中ずっと保っていた穏やかな表情のまま、第一王子の手を叩いた。

 ジークフリート、王太子の側近、辺境伯、サムデイル、クラリベル、参加者の貴族、騎士達がエイルドを見る。王族の手を叩いたエイルドを。そして、


「貴様! 誰に手を出したと思っているのだ!」


 と言って腰にある剣を抜いて、振り上げ振り下ろすジークフリート。エイルドはその剣を躱して今度は顔面を殴った。

 殴られた衝撃で倒れるジークフリート。

 王族に二度も手を出したエイルドは、


「申し訳ない。あまりにも気持ち悪くて殴ってしまった。トルクが前に言っていたんだが、我慢の限界に達したら反撃しても良いのだよね」


 穏やかな表情だったが我慢の限界で王太子をぶん殴ったエイルドだった。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 滾ってくる展開になってきました!! 続きが早く読みたいです
[一言] むしろ王太子を手土産に帝国に降っても良いレベルの王家w
[良い点] 辺境伯令嬢の婚約者としてはどうなのかというエイルドだけど、横暴な王太子相手によくやった! [気になる点] でも、この後どうするんだか。 エイルド当人の不敬罪は確実で身内もタダですみませんよ…
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