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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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閑話 帝都での出来事①

 トルクが寝込んで二日目。いまだ目を覚まさないトルク。

 ベルリディアは行方不明となった兄オーファンと寝たきりのトルクを心配して、本人も寝込みそうな雰囲気。

 ロックマイヤー公爵は皇帝に呼ばれて皇宮に行き、クリスハルトは屋敷の警備責任者として働いている。

 ボルドランは、サクラの罰から目覚めたウルリオに部下をつけて屋敷外の警備をさせ、また、密偵を放ってオーファン達の行方を捜している。しかし情報は集まっていない。

 ウルリオは屋敷外の警備と並行して、英雄としての権限を使って帝都の治安にもあたっていた。

 ララーシャルはトルクを見守りながら、ドラゴンから話を詳しく聞き出してクリスハルトとボルドランに伝えている。


「するとオーファン達はオルレイド王国に行った可能性があると?」

「トルクが救出した女の子とその母親は王国出身者だから、王国の会いたい人の所に飛ばした可能性があるのよ」

「……オルレイド王国か。ボルドラン、どう思う?」

「はい、王国にも密偵がいますので捜査は出来ますが、公にする訳には……。せめて王国の地域が分かれば」

「ララーシャル殿、女の子はニューラと聞きましたが、トルクの妹の名前は……」

「私も良く分からないのよね。ドラゴン、トルクと一緒に居た精霊の説明では、トルクがニューラって子を妹って言っていたらしいわ。ニューラってレイファって子の偽名なのかしら?」

「アイローン伯爵と水の聖女との娘の名前はレイファだと聞いています。ニューラという子は使用人の子供でレイファの友人だと密偵の報告がありました」


 三人が相談中だが、三人以外にももう一人いる。タヌキ姿の精霊ドラゴンである。ドラゴンは、


「そういえば、トルク君がニューラって子は腹違いの妹って言っていたよ」

「そういう事は早く言いなさいよ! ……ニューラって子はトルクの腹違いの妹だって」


 ララーシャルはドラゴンからの新情報を二人に伝える。しかし情報を伝えるが捜しようがなかった。


「念の為に王国の王都周辺の者達にニューラとクイナという名前の者達を捜索させましょうか?」

「大丈夫なのか?」

「問題ありません。しかし時間がかかります。オルレイド王国まで距離がありますから」

「その前にトルクが起きる可能性もあるが……、ボルドラン、頼む」


 ボルドランは「了解しました」と言って退出しようとするが、その前にウルリオが入って来た。


「ボルドラン、クリスハルト様、ララーシャル様、失礼します」


 数日前の罰を受けてウルリオは礼儀をわきまえるようになった。正確にはララーシャルやトルク、トルクの知り合いに対して礼儀を正す。皇族や貴族に対して表面上は行儀良くしていたが、ララーシャルやトルクに対して忠誠を誓うように礼儀を尽くしていた。


「ロックマイヤー公爵が客人を連れてお戻りになりました」

「客人? 誰だ?」

「ソバーレル公爵です」


 ソバーレル公爵が護衛の騎士も側近も連れずに一人で訪問したとウルリオは言う。公爵の地位についている者が護衛を付けずに敵対する貴族邸に来るなんて考えられない。騎士も側近もソバーレル公爵の愚行を止めなかったのだろうか? とクリスハルトはソバーレル公爵の訪問理由を考える。


「トルクとララーシャル殿に謝罪する為に来たのかな?」

「そう思われます。しかし一人で来るとは、御使いのトルク様を恐怖しているようですね」

「しかし父上も断れば良いのに、トルクはまだ寝込んでいるんだぞ」

「同じ公爵でもソバーレル公爵の方が格が上なので、断る事が出来なかったのでしょう」


 祖父が皇帝だったソバーレル公爵家。しかし精霊の怒りに触れてハゲになり、皇帝としての在位期間は半年にも満たなかったが。


「それでソバーレル公爵は、トルク様を連れて帰った女性、ララーシャル様にも謝罪がしたいという事で、現在、ロックマイヤー公爵が対応しています」


 部屋の全員がララーシャルを見る。ララーシャルは「え? 私に謝罪?」と言った表情だ。


「ロックマイヤー公爵によれば、空を飛んだララーシャル様もトルク様と同じ御使い様だと思っているそうで……」


 ララーシャルを御使いと勘違いして、謝罪の為に訪問したソバーレル公爵。


「……なるほど。ロックマイヤー公爵は、ソバーレル公爵がララーシャル様の情報を広めないようにする為に、ソバーレル公爵の訪問を許したのですね。変に断ったら有らぬ噂が立ちますから」


 ボルドランの説明に納得するクリスハルトとララーシャル。ララーシャルの事は内密にしないといけない。口止めをする為にロックマイヤー公爵はソバーレル公爵の訪問を許したのだろう。


「私も御使いと認識されているなんて……」


 また勘違いされている。とララーシャルは呟く。神秘的な美女の魔法使いで精霊と話す事が出来る半精霊のララーシャルを「御使いと勘違いされてもおかしくないだろう」と思う男性三人。


「一度、トルクとベルリディアちゃんの様子を見に行こうと思っていたのに……」

「では少し待たせましょう。それまで私達が対応します」


 ソバーレル公爵の対応をするとボルドランが請け負うと、ララーシャルは「じゃあ、お願いね」と言って姿を消した。退出したと思われる。


「オレも対応するのか? ボルドラン」

「ついでに来い。ソバーレル公爵にウルリオがロックマイヤー公爵の陣営に就いたという事を知らせる為にな」

「私はトルクの見舞いに行ったララーシャル殿を、ソバーレル公爵の元へ連れて行く役目を負おう」

「大変な役目ではありますが、お願いします。クリスハルト様」


 クリスハルトはララーシャルをどうやって連れて行けば良いのか考える。そして「こんな時にトルクが居ればな」と言ってため息をついた。




 ロックマイヤー公爵がソバーレル公爵の対応をしている客間。ボルドランとウルリオは許可を取って部屋に入った。そして目にした光景は、半泣きのソバーレル公爵がロックマイヤー公爵の肩を掴んで懇願する姿だった。


「頼む! 御使い様に謝罪させてくれ! 私の髪を助けると思って! 御使い様の言う通りアイローン伯爵とその一味を牢屋に入れて、サンフィールド公爵と縁を切り、ロックマイヤー公爵の和平派に入るから! 頼む! この通りだ!」


 ボルドランは『この光景はソバーレル公爵配下の者達には見せられないな』と思った。ウルリオはソバーレル公爵の必死の願いがツボに入ったのか笑いをこらえている。


「ボルドラン、助けてくれ」


 ロックマイヤー公爵の頼みを聞いて、ウルリオは笑いをこらえながらソバーレル公爵を離し、ボルドランはソバーレル公爵に闇魔法を使って落ち着かせる。ついでに『ボルドランの言葉は信じられる』と洗脳した。


「放せ! 下郎が! 公爵である私に触れて良いと思っているのか!」

「すいませんね。公爵様。では主であるトルク様に伝えておきます」

「す、すまない。帝国の英雄ウルリオよ。少し気が動転していた。さ、さすがは英雄と呼ばれることはあって中々の力量だな」


 見事なほどに態度が変わるソバーレル公爵。


「ソバーレル公爵、落ち着いてください、心配いりません。ロックマイヤー公爵、挨拶が遅れて申し訳ありません。お帰りなさいませ」

「う、うむ、ボルドランよ、留守中に不審な事は有ったか?」

「屋敷内では特に異常はありません。しかし屋敷外では密偵の数が増え、屋敷に侵入しようと試みている者達が居ます。こちらで対処し、捕縛して一ヵ所に纏めています。命は奪ってはいません」


 昨日から密偵の数が増え、対処が大変だったボルドランとウルリオ。ララーシャルから密偵の居場所を聞いたボルドランは、ウルリオに密偵を捕まえさせている。

 一度だけ居場所が崩壊した現場があった。原因が精霊ではないかと思ってクリスハルトがララーシャルに説明を求めた。


「それはソバーレル公爵邸を半壊させたドラゴンって言う精霊の仕業よ。あらかじめ地震は禁止させてたからこの程度で済んで良かったわ」

「ララーシャル殿。密偵は私達で対応しますので、精霊には手出し無用でお願いしたいのですが」

「私もそう言っているのだけど「対応が遅いから先に潰したよ」って事後報告してくるのよ」


 ボルドランは持てる権限をフルに使って敵密偵を捕縛する。それに全力で対応するウルリオ。


「ロックマイヤー公爵! 私の部下も使ってくれ! 密偵捕縛に協力しよう!」


 ソバーレル公爵は御使いであるトルクに謝罪の意を示す為に、ロックマイヤー公爵との協力を申し出る。

 帝位を狙っていたソバーレル公爵。数日前は敵意むき出しでロックマイヤー公爵を見下していたが、今では命と髪の為に態度が反転している。


「そ、それでだな。御使い様に謝罪をしたいのだが……」

「ソバーレル公爵、何度も何度も何度も言っているように、トルク殿は体調を崩して休んでいる。体調が戻ったら会わせるから、もう少し待ってほしい」

「で、では御使い様を連れて行った女性に謝罪を! あの方も御使い様なのだろう。空を飛んでいたのだから」

「あの方は……」


 ララーシャルの事情を知っているので、デックスレムは口を閉ざす。そしてボルドランに視線を流した。


「ソバーレル公爵。急な訪問では準備に時間がかかります。特に女性は身支度に時間がかかるモノです。あの方にどのようなご用件なのでしょうか?」


 デックスレムの視線に気づいてボルドランが対応する。


「も、もちろん、御使い様に挨拶をするのだ。あの方も御使い様なのだろう! 空を飛ぶのだから」

「申し訳ありませんが、私達もあの方が何者なのかを説明する事は出来ません。挨拶をされるのでしたら、もう少しお待ちください」

「分かった。お前の言う通りにしよう」

「その間にロックマイヤー公爵とゆっくり話されてはいかがですか? 和平派に入るという事でしたが? 話が纏まった方があの方も喜ばれると思います」

「そうだな。では王国との和平と、皇位継承権の話をしよう。私は継承権を破棄する。和平にも協力をしよう。他に……」


 闇魔法でソバーレル公爵の信頼を得たボルドラン。

 ロックマイヤー公爵とソバーレル公爵の話し合いの最中、ボルドランは使用人に化けた部下から手紙を受け取り、ウルリオと一緒に静かに退出した。


「どうした?」

「……皇帝の使者が来たようだ。現在、屋敷の入口で許可を求めている。ウルリオ、現場に行ってくれ」


 ウルリオは駆け足で皇帝の使者の所に向かう。そして騎士達に守られた使者、第二皇子のレンブラント・オルネール・ベルンダランが静かに待っていた。


「お前は、ウルリオだったな。エルアーモの部下がどうして此処にいるのだ?」

「トルク様に協力しておりますので、現在はロックマイヤー公爵邸の警備を務めています」

「……なんだ? その口調は? 気持ち悪いな。エルアーモに対しても反骨心を顕にしていた奴がどうしたのだ?」


 レンブラントはウルリオの勢いの感じられない態度に驚きを通り越して気持ち悪さを感じる。

 ウルリオはレンブラントの腹違いの弟であるエルアーモ皇子の部下で、アイローン砦を陥落させた帝国の英雄。レンブラントの知っているウルリオは貴族にふてぶてしい態度をとり、上司であるエルアーモに対しても無遠慮に振る舞っていた。


「……御使い様の恐ろしさを実感した結果です」

「寄るな、ウルリオ」


 ウルリオから数歩下がるレンブラント。言い伝えで御使いの恐ろしさを知っている為、頭髪を守りながら下がる。前にトルクとララーシャルに無礼を働いたレンブラントは、これ以上二人に悪い印象を与えたくないので、無礼を働いたウルリオに近づきたくなかった。


「第二皇子はどうしてこちらに?」

「……もちろんソバーレル公爵邸を見た結果だ。ロックマイヤー公爵が皇帝陛下に事情を説明したようだが、質問に答えられない事が多かったようで、私が使者となって直接説明を受けに来たのだ」

「ご愁傷様です。くれぐれも無礼を働かないように」

「ついでにルルーファルとの結婚の許可も頼む予定だ」

「アンタの病的な愛情は、御使い様でも治す事は出来んだろうな」

「病的とは失礼な。私は真剣なんだぞ。純愛だ」

「バツ二が何をいっていやがるんだ? 純愛じゃなくて変態だろう」

「……皇族不敬罪で罰してやろうか? ウルリオ」

「真実を言っただけで不敬罪とは酷い話だな。トルク様に伝えないと」

「ほう? 脅すつもりか? その程度で御使いが動くとでも?」

「どうでしょうね。でも不信感は持つかも?」

「皇帝の使者に不敬な態度で対応した者にも不信感を持つのではないのかな? 私が伝えてやろうか?」

「……守っている頭髪部分をぶん殴ったら記憶が飛んで忘れるかもしれないな」

「ほう……。面白い戯言だな。私の護衛騎士を突破する事が出来るのかな?」


 レンブラントの周りに護衛騎士が集まり剣を構える。それに呼応するようにボルドランが呼んだウルリオの部下達が剣を構える。

 一触即発の気配が広がる。そのとき、帝国の皇族しか使う事が出来ない馬車が近くに止まった。


「二人とも何をしているのかしら?」


 馬車の窓から声をかけたのは第四皇女のシャルミユーナだった。


「お兄様。貴方は何時の間に使者になったのかしら? 使者としてロックマイヤー公爵邸に行くように命令されたのは私ですよ」

「おや、そうだったか? しかし私も御使い様が寝込んでいると聞いて、心配で心配で見舞いでもと思ってな。それにロックマイヤー公爵に伝える事があったのだ」

「だからと言って使者と名乗らないでください。早く仕事に戻って。地震のせいで帝都は混乱中なのよ! これ以上もめ事を起こさないで頂戴! ただでさえ、皇位継承の人達が暗躍しているのに!」

「しかしだな……」

「これ以上言うと、お菓子作ってあげないわよ。ルルーファルにある事ない事伝えるわよ!」

「分かったよ……」


 レンブラントは肩を落として、皇族用の馬車に乗り込んで帰る。


「屋敷に入れてもらえないかしら? それからロックマイヤー公爵令嬢ルルーファルの帰宅も伝えてくれる?」


 シャルミユーナはウルリオに許可を求める。そしてルルーファルが窓から門番に「ただいま戻りました。門を開けてください」と伝えた。

 ロックマイヤー公爵家の門番は門を開けて皇族の使者を招き入れる。そしてウルリオは「……屋敷に帰った方が良いかな? 外の警備に戻るか? それとも警護か?」とぼやきつつ皇族が乗る馬車の警護に就く事にした。


「数日前のオレを殴りたい。どうしてボルドランに付いて行ったのだろうか……」


 暇つぶしにロックマイヤー公爵邸に行くボルドランに同行したのが全ての原因だった。人間には敵わない精霊の友人に悪意をぶつけて罰を食らって、反省して今では忠実な部下となった。

 エルアーモ皇子のような煩い奴や他の馬鹿貴族に仕えるよりもマシだと思っている。しかし自由時間が減って仕事サボって酒場に行けなくなったし、ナンパする事も出来なくなった。


「仕事サボって酒飲みてーなー」

「良いわよ、飲みに行っても」


 ボソッと愚痴っていたら返事が返ってくる。ララーシャルの声だ。しかし周辺にはララーシャルの姿は無い。数歩先に馬車が玄関口に向かっているだけで周辺には誰も居ない。


「私は屋敷内に居るわ。声をウルリオに飛ばしているだけよ。別に外出してお酒飲んでも良いわよ。トルクやサクラに伝えるだけだし。その後、貴方がどうなろうと私は責任持たないわ」

「……真面目に仕事に取り組みますから、どうかお二人には内緒でお願いします」


 背筋を伸ばして、申し訳ない感情をこめて謝罪する。これほどの謝罪をしたのは初めてではないだろうかと思うウルリオ。


「今後の働き方しだいね。期待しているわ」

「ありがとうございます。ララーシャル様」


 ウルリオはそれ以上喋らない。ふとした独り言さえもララーシャルに聞かれるのではないかと考え、仕事中は寡黙で働く事を決めた。心の中で『精霊怖ッ!』と思ったとき『心の中も読んでないよな……』と考える。そして『仕事に集中しよう』と考える事を止めた。



誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[一言] こりゃこええや。 ウルリオ普通に可愛そう。
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