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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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20 パトラッシュ・ルウ・ラスカルの過去話

 今から何十年も前の事。ラスカル家が伯爵の地位にあったときだった。

 私達が治めるラスカル領は代々の秘密があった。屋敷の裏山には数百年前に亡くなった御使いの墓がありそれを守る精霊がいる。そして御使いが次代に役目を譲った後は我が領地で生涯を終える。そして精霊が住む裏山に埋葬する事になっていた。

 私の先祖は御使いの付き人だったそうだ。そして時の皇帝からこの領土を御使い様が頂いたのだが、御使い様が「この土地を守ってほしい」と私の祖先におっしゃって、それで祖先は領土と共に爵位を代理で受け取る事になったそうだ。

 そして年々功を重ねてラスカル領は伯爵位を頂いている。これも人の手に負えない事を御使い様にお願いして解決してもらっているからだ。

 ラスカル伯爵家では御使い様は当主よりも地位が高い。これも代々の当主が御使い様を信頼し、敬愛しているからだ。

 私が初めて御使い様のルルーシャルと会ったときは子供の時だった。父に紹介されて兄と共に会った。私よりも年上の奇麗な子だった。隣の兄を見ると顔を真っ赤にして彼女を見ていた。兄は彼女に惚れたなと思った。

 私達は三人で勉強をしたり遊んだりしてすぐに仲良くなった。兄は彼女に良いところを見せようと躍起になり、彼女はそれを見て良く笑っていた。私は彼女から弟の様に可愛がられていたが、私も兄よりも姉が欲しかったのでそう言ったら彼女から抱きしめられ、兄からは無言の殺気を受けた。……兄よ、嫉妬はみっともないぞ。

 彼女は母親と一緒に旅をしては帰ってくる。短いときは一ヶ月、長いときは二年くらい旅をしていた。

 私も兄も彼女達と旅をしたいと父に言った事がある。だが父は許可を出さなかった。


「御使い様の仕事を邪魔してはいけない。私達の仕事は御使い様の土地を守る事だ。この土地を守る事が何よりも大事な仕事だ。そして御使い様の仕事を手伝うのは付き人だけではない。我々爵位持ちにしか出来ない事がある。ラスカル家はその仕事をしているのだ」


 御使い様の願いで先祖が受け継いだ土地を守る。身分証をラスカル家が保証しているし、旅費もラスカル家が出している。そして皇帝からの御使い様の依頼もラスカル家が窓口になっている。その為にラスカル家は存在すると父は私と兄に話す。

 ラスカル家は御使い様の為に存在するのだと父から教わって育ってきた。

 数年が経ち、彼女が先代から精霊を受け継ぎ御使い様になった。彼女はランドとレローラを連れて旅を始めた。

 付き人の一人であるランドはラスカル家の執事教育を受けていて、剣の腕も騎士達にも負けないし礼儀作法もしっかりしている。父もランドに「ラスカル家に仕えないか?」と聞いていたが「御使い様の付き人になります」と答えた。彼はルルーシャルの母親のときからの付き人で御使い様に忠誠を誓っている。ルルーシャルからも信頼されていて兄から嫉妬されていたがある日を境に急に仲良くなった。


「ルルーシャル様の好みを教えてと、相談を受けただけなのだが……」

「ランドを味方につけてルルーシャルと仲良くなりたいのだろう。気にしなくて良いよ」

「……そうですか」


 後日、ランドと相談をして兄はルルーシャルと一緒に街に遊びに行ったそうだ。

 そして女性の付き人であるレローラも先代の御使い様から仕えている付き人だ。彼女はルルーシャルの姉の様な存在で信頼されている。彼女も侍女教育を受けていて護身術の心得もあり礼儀作法は貴族の令嬢レベルらしい。

 彼女を慕っている館内の女子や領内の独身男性から人気で、女性vs男性で彼女の気を引く戦いをしているそうだ。残念ながら私は見た事がない。兄は見た事があるそうだが口を閉じて話してくれない。


「ランドと付き合わないの?」


 前に私がレローラに聞いた事があったが彼女は笑って「ランドは私の兄ですよ」と言って笑っていた。

 ……兄妹だったのか。後日ランドに聞いたら「私は孤児でしたから親の顔は知りません。彼女も孤児で親の顔を知らないのでそろって同じ親から捨てられた可能性も否定できませんね」

 ……二人は兄妹という設定なのかな?


 ルルーシャル達が旅に出て戻ってきた。今度は裏山から帰ってきた。それも見慣れない人間達がいる。騎士と思われる者が二人、侍女が二人、侍女姿のルルーシャルとレローラが帰ってきた。……ランドが居ないな。

 父が詳しい話を聞くために私と兄とルルーシャル達を執務室に招き聞き始めた。

 ルルーシャル達はララーシャル皇女に依頼されて内密に王国の者に会い和平の為に会談をしたが失敗したこと。そして帰りに帝国の者に冤罪を着せられてララーシャル皇女が傷つけられて精霊が暴走して襲ってきた帝国兵を全滅させたこと。そしてララーシャル皇女を助ける為に御使いの力で空を飛んで帰って来たこと。

 それを聞いた父は考え込んだ。……私もどうすれば良いのか兄を見る。兄はルルーシャルを慰めている。


「……ルルーシャル様、そしてララーシャル皇女と同行をした皆様。今回の件は裏にどの貴族がいるのかハッキリしない上に情報が足りません。そしてルルーシャル様の身分証にはラスカル家の保証がついていますから、ルルーシャル様の情報からからラスカル家が狙われる事があります。皆様には避難していただいた方が良いでしょう。ラッシーは皆さんを隠れ家に案内しろ。パトラッシュは館を頼む。私は帝都に行って事の次第を皇帝に伝える。明日には出発をするから急いで用意しろ。ルルーシャル様達は旅の疲れを少しでも取るために休んでいてください。必要な物があればこちらで用意しますから」


 私達はすぐに行動した。兄のラッシーはルルーシャル達を部屋に案内して、私は準備の為に部屋を出て行動する。その夜に父は私と兄を部屋に呼んだ。


「皇帝は御使い様の事を知っているので悪いようにはならないはずだ。そして裏に誰が居るのかを調べないといけない。皇女の殺害を指示した者を調べる為に帝都に行くが最悪の事態を考えておく必要がある。万が一私が冤罪で捕まってしまったらラッシーが伯爵家を継ぐのだ。パトラッシュもラッシーを支えてくれ」

「わかりました」


 そして私達の前に何冊かの本を置いた。これは何ですか?


「この本は歴代の領主の日記だな。御使い様の事、領主の心得、魔獣が攻めてきた時の対策案、領内の方針案、帝国での出来事などが書かれている当主の助言書の様なモノだ。ラッシーはこれを読んでおけ。パトラッシュは私の執務室と書斎のカギを与えるから領内の仕事を頼んだぞ」

「父上、私がラスカル家を継ぐ後継者ですよね。どうしてパトラッシュに執務室のカギを渡すのですか?弟がラスカル家を継ぐのですか?」


 私も疑問に思っていた。どうして兄に渡さなかったのだろう?


「私が帝都から戻るまでお前は御使い様と一緒に隠れ家に避難しているだろう。隠れ家には本なんて無いから日記を読んで領主勉強をする為だ。御使い様を守るのは次期領主としての責務だ。パトラッシュには領主補佐として今から勉強をしてもらう為にカギを渡したのだ」


 領主は御使い様の事を守るのが仕事。少し疑問に思って兄を見たが兄はやる気を出している。


「パトラッシュは奥手だからな。いい加減に相手を見つけろよ。お前と結婚したいという令嬢達の親からの手紙も執務室にあるから後で読むなり捨てるなり好きにしなさい。ラッシーも私が戻って来るまでに両想いになるように頑張れよ!」

「父上!」


 兄は父に抗議するが赤い顔で責めても父は笑うだけで、私達を執務室から出す。

 そして兄と別れて明日の準備を始めた。このとき父の今生の別れと最後の会話になるとは夢にも思わなかった。




 それから一年が経った。

 父は帝都から戻ってこない。兄もルルーシャル達と一緒に隠れ家にいる。帝都で何が起きているのか父からの手紙である程度は理解した。

 ララーシャル皇女が殺されて皇帝は倒れて臥せってしまい会えないそうだ。皇帝の弟が執務を継いでいるのだが面会できないとの事。そしてラスカル家が今回の首謀者として挙げられている。父はそれに真っ向から対立して異議を唱えている。

 父の手紙には「最悪の場合を考慮しろ」という内容が書かれていた。この手紙を兄に届ける為に信頼できる者に頼んで手紙を送ってもらった。

 さらに一年後。父からの手紙が来なくなった。こちらからの手紙が届いているのかも怪しい。騎士に直接向かわせたのだが戻ってこない。何が起きている?こちらでは隠れ家にいるレローラと騎士の一人が結ばれて結婚をして女の子が生まれた。子供を産んだことがある侍女に必要な物を用意させて隠れ家に送る。

 兄もルルーシャルと良い仲となっている事を聞いた。

 ……私も隠れ家に行きたい。領主の仕事がこんなに大変だったなんて。愚痴っていたら執事に怒られた。

 その数ヶ月後。領主代理として仕事が終わり、日課の寝る前の日記を書いている最中だった。執事がいきなり部屋に入って来た。何事だ!


「帝都から騎士が戻ってきました!ご当主様が牢獄に入れられ処刑されそうだと!」

「その騎士を呼べ!内容が聞きたい!」


 執事はすぐに騎士を連れてきた。騎士は疲労で倒れかけている。それでも帝都で起きた事を私に教えてくれた。

 騎士の話では父は半年くらい前から監禁されていたそうだ。ルルーシャルという侍女が皇女を誘拐したという事になっていた。一度ルルーシャルが皇女を帝都の街に連れ出した事があるからそれで誘拐したと言っているそうだ。そしてルルーシャルの身分証にラスカル家の親族との記載があったから誘拐の計画はラスカル家が立てた事になっている。

 そのくらいで誘拐犯に仕立て上げられたのか?帝都の者達は何を考えている!


「極秘の任務なのにどうして皇女の誘拐になっているんだ!」

「極秘の任務を指示した皇帝陛下は病に倒れて話すことが出来ないと。周りの者達もそんな事は知らないと言っているそうです」

「そんな話があるか!内密とは言え皇帝の側近は知っているはずだ!」

「側近たちも知らないと言っているのです。誰も知らないと!」


 なにが起きている?確かに私はルルーシャル達から聞いただけだ。本当に極秘の任務だったのか?本当に王国の和平派との会談はあったのか?誰も知らないなんてそんな事あるのか?


「そしてルルーシャル様達を襲った兵は王国との戦争に向かう為に出発した者達との事です。皇女様を殺害したのは王国でそれを手引きしたのはラスカル家でルルーシャル様達は実行犯となっているのです!」

「そんなバカな話があるか!どうしてそうなる!」

「ご当主様は異議を唱えていました。しかし次第に味方していた貴族達が敵に回り……、最後には誰も居なくなったのです。味方が敵に回り誰もがご当主様を非難しました。そして臥せっている皇帝の代わりのドライセン様が実権を握りご当主様に罰を下しました」


 ドライセン……。確か皇帝の弟で戦争派の者だったな。


「当主死罪と関係者の鉱山送りもしくは当主服毒死罪で爵位を伯爵から男爵に下げるという罰でした」


 ……皇族殺害の容疑にしては罰が軽いな。領地没収・一族郎党死罪くらいだと思っていたのだが。


「そしてルルーシャル様をドライセン様へ寄こすようにと……」

「そんな事出来るわけがない!」

「ご当主も反対しました。反対するなら領地没収のうえ一族郎党死罪だと」

「死罪で結構!今から帝国と戦を始める準備をするぞ!……そうか!今回の事はドライセンがルルーシャルを手に入れようとして画策したのだな!御使い様に手を出そうなど百年早いわ!」


 そうか!ルルーシャルが帝都に居た時に見染めたのだな!四十台デブハゲの中年が十代に手を出そうとしやがって!我が領内全軍を挙げてルルーシャルを守るぞ!


「落ち着いてください!まだ話の途中です。ご当主様もキレてパトラッシュ様の様な事を言ったそうです。そして皇族批判の罪も上乗せされて騎士達に捕まりそうだったので反撃して騎士達数名を倒してドライセン様を殴りつけました!」


 良くやったぞ!さすがだ!ラスカル家の当主だな!


「その結果、牢屋に入れられて数日後に処刑と決まりました」

「……わかった。しかしどうするべきだろうか?父を助けるにしても時間がないし兵力も足りん。……帝国は領内を攻める準備はしているのか?」

「私が帝都を出た時にはそのような事はありませんでした。しかし王国のバルム砦へ向かう兵達が数日前から集まっていました」


 バルム砦に向かう兵をラスカル領へ向かわせる可能性はあるか。おそらく五千以上の兵が我が領地に来るだろう。こちらの兵力は千人くらい、領民を徴兵して三千くらいか……。領民の事を考えると私と父の首を渡して降伏している間に兄やルルーシャル、親族達を逃がした方が良いだろう。一族郎党死罪だが二人の首でどこまで帝都の奴らが満足できるか?

 考えていると執事が兄とルルーシャル達が館に来たと言う。……こんな時に来るなんて良いのか悪いのか。兄とルルーシャル達に今までの話をしよう。


「パトラッシュ!ルルーシャルに子供が出来た!オレの子だ!」


 扉を開けて兄はルルーシャルと一緒に開口一番言ってくる。普段なら喜べるのだが今の現状では……ラスカル家の跡取りが出来たから喜ぶべきだろう。これでラスカル家が途絶えないで済む。


「お二人ともおめでとうございます。これから用事で私は帝都に行きます」


 二人に帝都であった事を話す。ララーシャル皇女の誘拐・殺害の犯人に仕立て上げられた事、父が捕まり処刑される事、ドライセンがルルーシャルを手に入れようとしている事、そしてラスカル領に帝国兵が攻めてくる可能性がある事。


「兄上はルルーシャル達と一緒に逃げてください。親族達も逃がします。私は領主代理として帝国兵が攻めてきたときに時間稼ぎをしますから」

「お前にそんな事はさせん!私が領主代理だぞ!」

「ルルーシャルと子供の為に兄は生き延びてください!」

「弟や父を犠牲にすることは出来ん!」

「他に方法がありません!なんとか時間を稼ぐので逃げてください!ルルーシャルの為にも!」

「しかし!」

「ねえ、ちょっと良いかしら?」


黙っていたルルーシャルが私達の会話に加わる。


「ドライセンって私の父の名前なの……。母から父は死んでいるって聞いていたから間違いだと思ったのだけど。ジュゲムに確認してもらったら本人だって」


……どうなっているんだ?


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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