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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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19 ルルーシャルの過去話

 母親から御使いの名を継ぐため、はじめに私は母と共に精霊のジュゲムを連れて初代の精霊が住むラスカル伯爵の屋敷の裏にある小さい山に向かった。

 昔、母親に連れられて会いに行った事があったけど、そのときは精霊の声も姿も見る事が出来なかった。名を継いでから会うのは初めての事で、初代の精霊様は美しくて凄まじい力を持っている事がわかった。

 初代の精霊であるサクラ様と面会して私は御使いになった。先代となった母は私に精霊やジュゲム、付き人のランドとレローラを任せて、父の墓に行くと告げてきた。そのとき私ははじめて父がすでに死んでいる事を知った。

 いつも父親の事を聞くと話を濁していた母が私に言った。


「貴方の父親は立派な人でした。勇気ある帝国の貴族で自然が好きな人でした。戦争で王国に捕まってしまった人で、脱走して倒れていた所を私が助けたのです。あの人は帝国に妻子がいたのですが私は看病しているうちに好きになり貴方を授かりました。そして貴方の父親は精霊の印が付いている初代だったのです。初代の事は説明したでしょう?」


 私の父が死んでいて、しかも初代だという事は驚きましたが、隠す事なのでしょうか?

 初代は精霊に認められた者。しかし何の知識もない者が精霊の友人になると無茶な願いで亡くなる者が多い。精霊と人間の価値観の問題で精霊が楽勝な願いも人間には難しい願いなのです。どうして初代になった者は無茶な願いを叶えようと思うのか、一説によれば精霊が無意識に見た者を魅了するからと言われています。特に異性に対しての場合はその効力は魅了ではなく、もはや洗脳の域であると聞きました。


「貴方の父も精霊に好かれていました。でも魅了されてはいなかったですよ。自分の意志でその精霊と友人となったそうです。魅了はデマですね」


 精霊が人間を魅了する事をデマだと聞いて、その事を言ったジュゲムにどう制裁をしようか考えました。


「私達は王国の町で貴方を産むために家を借りて生活をしました。そんなある日、。彼が用事で外に行っていた時に何者かに捕まってしまったのですが、臨月が近づいていた私は動ける状態ではありませんでした。彼を捕えたのは王国人で、精霊や御使いの事を調べているようでした。その者は帝国人の事を否定していたのですが、精霊の事は否定しませんでした。そして彼はその人達によって殺されたそうです」


 私の父がその様な者達に殺されたとは!精霊や御使いの事を調べている王国の人間に……。どうしてそんな事に!


「ジュゲムが知ったのは彼が殺された後でした。私は貴方を産むために動けなかったし、ジュゲムも私の側で守っていたので何も出来ませんでした。彼を殺した人間達に見つかりそうになったので私は貴方を産んだ後に無理やり魔力を使ってジュゲムと一緒に逃げました。戦う事も出来たでしょうが万が一の事があったので身を隠すためにその場から離れました」


 ……生まれてすぐの私に何かあったら駄目だと思ったのでしょうね。母もジュゲムも敵から背を向けて逃げる事しかできなかったのですから悔しい思いをしたのでしょう。


「それ以降、私は仇を探しましたが、判ったのは敵が王族である、という事くらいでした。王国の者がどういった理由で精霊の事を調べていたのかわかりません。ですがルルーシャル、なるべく王国には近寄らない様に。なにが起こるかわかりませんから」


 私はその事を承諾しました。好き好んで近づくほど馬鹿ではありません。でも私達は王国にも何回か行っていますけど大丈夫だったのかしら?王国では長居をしていなかったから大丈夫?

 そして母は私の父の墓に行くと言って私達と別れました。母はジュゲムとランドもレローラを私に付けて、自分には前に知り合った精霊達と一緒に行きました。レローラは号泣して、ランドは泣くのを我慢していましたが目から涙を流していました。

 私は母と別れて悲しかったけど、その心境を乗り越えてみんなで旅をしました。精霊の声の向くまま帝国の辺境に行ったり、文字通り国境を飛び越えて王国にも行きもしました。偶にラスカル領に戻って伯爵家で旅の疲れを癒すためにゆっくりしたりもしましたけどね。

 伯爵家では領主の子供で幼馴染の兄弟と話したりしています。兄は私と同じ年で皇都の学校に数年間勉強をしていて今では領主の息子として領地経営をしています。弟は私達より年下でもうすぐ帝都の学校に行くそうです。別れたくないと泣かれて少し可愛いと思ったのは私だけではないと思います。




 ラスカル伯爵家に滞在をして帝都の方に向かった。そのときレローラはラスカル伯爵家の騎士に告白されたけど断ったって言っていたわね。

 帝都に向かう旅の途中に小さな精霊が私達に助けを求めて向かった先は賊に襲われている馬車だった。高級な馬車だったから貴族だと思ったら皇族だったのでびっくりしたわ。私と同じくらいの年で可憐な華やかな女の子だった。

 自己紹介のときに皇女だと聞いて驚き、目的地が一緒だった事から何故か一緒に皇都に行く事になった。

 その途中でララーシャル皇女といろいろと話し、家に遊びに行く事になってしまった。

 平民である私には拒否する事など出来ず、ララーシャルが住んでいるお城の後宮に行く事になってしまいました。

 付き人のレローラは私と一緒に行けるけど、ランドは男性だから連れていけないので彼には帝都に居てもらう事になった。

 後宮でララーシャル皇女の母親とも仲良くなり、ララーシャルとも自他認める友人となった。レローラも付き人から侍女になっていた。

 ララーシャルと一緒に勉強をして、彼女の弟と遊んだり、内緒で帝都の散策をしたりした。散策にはランドに護衛を頼んで案内をしてもらったりして楽しい日々でした。

 そんな日々が終わりを告げる。ある日の事、ララーシャルが皇帝の父に言われた事だった。


「父である皇帝から「和平の為に王族の王子と結婚をして両国の架け橋になってもらいたい。戦争を止める為に、王国と和平を結ぶために」って言われたわ。私も戦争を終わらせる為に王国の王子と会おうと思うの」


 確かに帝国と王国は何十年も前から戦争をしている。和平の話も有ったのだけど戦争を終える事は出来なかった。


「内密で行く事になるから護衛も最小限になるわ。信頼できる騎士達で行く事になるの。侍女も私の侍女を連れて行くつもりよ。そしてルルーシャルにお願いがあるの」

「私にもついて来てほしいでしょう?もちろん付き合うわよ!友達でしょう」

「ありがとう!レローラも一緒に行きましょう!貴方達がついて来てくれるなら何も心配ないわ!」


 私とレローラは侍女の格好をしてララーシャルと一緒に帝国のある場所に行く事になった。ランドに言おうとしたのだけどその次の日に出発する事になってランドに伝える事が出来なかったが、精霊に頼んで手紙をランドに送った。

 しかしランドは合流地点に来ていなかった。遅れているのかしら?

 そして王国の王子と出会い、襲撃を受けたが撃退した。今回の会談は失敗に終わり、帝都に帰る最中に帝国兵から襲撃を受けた。

 私達を迎えに来てくれた騎士達と思っていたのに。


「ララーシャル皇女を誘拐した犯罪者が!」


 ……放った言葉の意味が分からなかったわ。ララーシャルが馬車から降りてきて護衛と共に現状を話そうとしたら矢を放ってきた。

 護衛の騎士が放たれた矢をララーシャルから守ろうとしたけど数本の矢がララーシャルに当たったわ。ジュゲムに頼んでララーシャルの傷をいやしてもらい帝国兵を倒してもらおうと願う前に、ララーシャルを好いていた精霊が飛び出して。


「彼女には指一本触れさせないわ!」


 ララーシャル周辺に竜巻を発生させて私達は帝国兵を飲み込んだわ。私達はジュゲムに守ってもらって助かったけど、竜巻が収まり周りを見渡すとララーシャルの近くは奇麗に残っておりそれ以外は破壊されていたわ。周りの木も道も帝国兵も無くなっていたわ。

 そしてララーシャルの傍に行って命があるか確認したわ。竜巻の影響でララーシャルの近くに行けなくて収まるまで結構な時間が経っていたの。

ララーシャルは出血多量で死にそうで竜巻を発生させた精霊も魔力を使いすぎて消滅する寸前だったわ。

 そして精霊はとんでもない事をしでかした!


「……ララーシャル。大好きだよ」


 と言って精霊は残った力を使ってララーシャルと融合したわ。融合は精霊と精霊が力を合わせる為の秘儀で融合した精霊は一つになる。

 御使いが使う奥義は融合の劣化版で人と精霊が力を合わせ解除出来る秘儀だが、融合は精霊に強大な力を与える代わりに解除が出来ない。二人の精霊は一つの人格になり、強い精霊となる方法で弱い精霊達が生み出した秘儀。

 融合を精霊が人間につかうなんて!それも二人とも死ぬ寸前!どうすれば良いかジュゲムに聞く。


「まずはララーシャルを回復させる。そしてサクラの所に行くぞ!彼女なら助ける事が出来るだろう。だが最悪の場合は『ボン』だ!」


 生き残った騎士が二人、侍女が二人、私とレローラを入れて六人、そしてララーシャル。これくらいの人数ならジュゲムに頼んで空を飛んで初代の精霊の所まで行けるわね。

 混乱していた騎士や侍女達に事情を話してララーシャルを助けるために四人に手伝ってもらう事にした。

 私が御使いである事を話して、その事を知った騎士達は膝を付き頭を下げて「今までの無礼を許してください」と謝罪する。侍女達は御使いの事を知らなかったようですね。侍女達は御使いの事を騎士に聞いているが私はジュゲムに頼んでみんなを浮かせて初代の精霊の所に向かった。

 侍女達が空を飛んでいる事に悲鳴を上げて失神し、騎士達がレローラに私達の事やララーシャルの事を聞いていたがそれ以外は特に何もなかった。

 一旦、ラスカル伯爵家で全員を下ろして私とララーシャルとジュゲムだけで初代の精霊の所に飛ぶ。ララーシャルと精霊は死にそうだけどまだ生きている。なんとか二人を助けないと!


「……どっちを生かすの?」


 事の次第を聞いた初代の精霊は私達に聞いてきた。


「精霊の子を生かすの?それとも人間を生かすの?」


 どういう意味ですか?


「未完成な融合だから解除は可能よ。でも融合して時間が経っているから解除したら二人とも死ぬわね。人間は血の流しすぎで死ぬし、精霊も魔力が足りなくて消滅するわ。どちらかを優先したら運が良ければ生き残る事が出来るかもしれないわ。確率は低いけど」

「では二人とも死ぬのですか!ほかに方法はないのですか!」

「一つ方法があるわ。それは完璧に融合させる事ね。今の未完成な融合から完璧に融合させる。精霊は魔力不足で消滅寸前。人間は血が無くて死ぬ寸前。精霊になれば血は必要ないし、人間になれば魔力不足で消滅はしない。人格が一つになるけど生き残る事が出来るわ」


 このままの状態なら二人とも死ぬ。でも融合すれば生きる事が出来る。でも人格が一つになったらララーシャルはどうなるの?ララーシャルを助けた精霊は?


「ハッキリ言って人間と精霊の融合は初めての事だわ。運よく二人とも相性が良かったのね。二人の記憶が混じって一つの人格になる可能性もあるわ。でも精霊と人間が完全に融合する事によって何が起こるか分からないわ。精霊となるか人間になるかは分からないわ。最悪の場合は「ボン」もしくは「ドッカン」よ。気を付けなさい」


 ……私は二人を助けてもらう為に可能性にかけた。完全な融合を初代の精霊にお願いする。

 初代の精霊はララーシャルを助ける為に力を使う。そして御使いである私は魔力を初代の精霊とララーシャル達に渡す。

 その力は光になってララーシャルを包み込んだ。そしてその光が収まると一人の小さい精霊が、ララーシャルを慕っていた精霊がいた。きっとララーシャルが精霊の子を優先したのだろう。ララーシャルは死んでしまったのね。


「……完全な融合が出来なかったわ。精霊の中に人間が混じっているせいね……」

「どういう事ですか?」

「人間がね、私に精霊を助ける為に自分を消せって言ったのだけど、精霊は人間を助けてって言うの。二人の意思が一つにならないと完璧な融合は出来ないわ。それで二人を説得して記憶を混じって一つの人格にするのだけど人間のせいで時間がかかるの。だから人間を精霊の中で眠らせて少しずつ融合させる事になったわ」


 二人が助かる事に喜び初代の精霊に感謝する。


「それまでは精霊の子が主になるわね。人間は融合するまで精霊の中で眠っているわ。人間と融合した初めての精霊ね。魔力がある若い精霊だから大変だと思うけど頑張ってね」

「……風と精神の精霊か。もともと風の精霊だったが人間と融合して属性が増えたのか?しかし本当に力がついたな……」


 今まで見ていたジュゲムが言う。属性が増えたとかどういう意味?


「精霊は年数を重ねて属性を得る。私も最初は風の属性のみだった。初代と会い力を蓄え年数を重ねて土と光を持つ事が出来た。しかしこの精霊は今生まれたと言っても良いだろう。その精霊が二つも属性を持っている。結構な三百年くらいの精霊の魔力を持っているな。そんな魔力の使い方を知らない精霊が手加減など出来ると思うか?」

「……思わない」

「そういう事だ。この精霊をきちんと育てないといけないな」

「わかったわ。それでララーシャルはいつ眠りから覚めるのですか?」

「……さあ?」


 さあ?って、小首傾げてないで答えてください!いつ起きるのですか!


「早ければ十年後、遅ければ百年後くらいかしら?私にも分からないわ。精霊の子を成長させて魔力を与えたら少しは早く起きるかも?」


 ……遅くて百年後、寿命がきて私の方が死んでいるわ!もうララーシャルと会えないの?


「そんな事よりもその子はなんて名前なの?」


 名前、精霊の子の名前はララーシャル。私とララーシャルとの絆。必ず彼女と会う為の誓いの名前。

 私は彼女にもう一度会う為にララーシャルから精霊の印を貰い友となって育てる事を決めた。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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