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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
145/275

閑話 隠居している御使い③

精霊が悪戯をしないように見張る為、私はランドと子供の部屋で看病する事に決めた。

ジュゲムが言っていた様にランドはもうすぐ目覚めそうね。兄の様に慕っていたランドが老いてもなお生きている事が嬉しかった。確か十歳くらい年上だったから亡くなっていると思っていた。

昔、私が帝都の城に行ったときもランドは帝都に住んで見守ってくれた。その後の帝国と王国の厄介事に巻き込まれてランドとは音信不通となった。

始めはジュゲムに頼んで探してもらおうと思ったが出来る環境ではなかった。風の噂?ジュゲムの話では「捕まって何処かに連れて行かれた」と聞いた。どこに連れて行かれたか聞いたがジュゲムも分からないと言った。そしてランドが見つかる事はなかった。


「ランドの魔力が感じられない。魔封じの腕輪を付けているか、魔鉄がある鉱山の近くか、もう死んでいるか」


助けたいと、探したいと思ったけど動けない状態だった。勝手に動くと私の周りが危険な事になる可能性がある。静かに嵐が収まるのを待つように何事もしないで騒ぎが収まるのを待った。そしてランドは見つける事が出来ず死んだと思っていた。


「……う、此処は」

「ランド!目が覚めたのね!」


ランドが声の方、私の方を向いて驚く。


「ルルーシャル様ですか?生きておられたのですか!」

「お互い老けたわね。でもランドだとすぐに分かったわ」


ベッドで寝ながら私を見てすすり泣く。


「ルルーシャル様、お久しぶりです。生きておられたのですね」

「貴方も無事で何よりだったわ。体の調子はどう?病み上がりだから楽にして」

「う、腕が?腕がある!」

「ジュゲムに頼んで治してもらったわ」

「ジュゲム様も御側におられるのですね。傷を治してくれてありがとうございます」


ランドにはジュゲムが見えない。母親から修行を受けたが精霊を見る事は出来なかった。御使いになるのを諦め私の従者になり帝都に行くまで助けてくれた。


「私の近くに子供がいませんでしたか?顔に精霊の印が付いている子供です」

「貴方の横のベッドで寝ているわ。ジュゲムが傷を治したから今は疲労で寝ているだけよ。明日には目が覚めるそうよ」

「良かった。生きていたか……」


子供を見て安心するランド。彼の子供?孫かしら?


「今は休みなさい。ここは安心だから」

「申し訳ありません。御厚意に感謝します。ルルーシャル様」


そう言って再度眠りにつく。いつの間にかジュゲムが私の横に居る事に気づいた。


「ランドは随分老けたな。あの子供があっという間に大人になり老けたな」

「でも生きていてくれただけでも嬉しいわ」

「……そうか、そうだな」


何十年くらい前だったか。子供の時、あの頃は兄の様なランドと姉の様な女性の従者。御使いの母と四人で国中を旅した。

その後、私が御使いとなりララーシャルと出会い。結婚して子供を産んで……。

……ランドの目が覚めたのは夕暮れ時だった。私はいつの間にか寝ていたようだ。ベッドに寝ていたランドは私を見て泣いていた。


「夢ではなかった!御無事で良かった。それだけが心配だった。良かった。良かった」


私の手を握って泣き出す。落ち着くまで少し時間がかかった。


「ランドは今までどこに居たの?ジュゲムに探させたのだけど貴方だけ見つからなかったの」

「ルルーシャル様が居なくなった後、帝国兵に捕まり貴方と皇女様の事を聞かれました。私は事情を知らない、何も知らないと言ったのですが帝国兵は私の言葉を聞かず牢屋に入れられました。その牢は脱獄できたのですが、その後、ルルーシャル様と合流しようと思って皆さまが居そうな場所を探しているときに、再度追っ手に捕まって今度は辺境の鉱山に連れて行かれました」

「辺境の鉱山?」

「この森から数日の距離にある鉱山です。囚人が強制労働させられている場所です」


そんな近い所に居たの?でもどうしてジュゲムが探しても見つからなかったの?


「先日、鉱山で魔鉄が発掘されました。魔力が阻害されたせいでジュゲム様でも見つけられなかったのでしょう」


そんな事があったのね。魔鉄は魔力を阻害する性質を持つ金属。だからジュゲムでも探せなかったのね。


「数日前に鉱山から脱走して町の近くに来ました。子供が殺されそうだったので助けたのですが傷を負ってしまい、前に住んでいたこの場所に行って傷を癒して手錠を取ろうと思い二人で向かっていました。でも途中で魔獣に襲われてしまって。ルルーシャル様が助けてくれたのですね」

「……ジュゲムが見つけてくれて助けたの。傷も癒して貴方の腕も元に治したわ」


ランドは腕を触り、手を開いたり閉じたりして感覚を確認している。


「ルルーシャル様!ジュゲム様!ありがとうございます!これでまた貴方に仕える事が出来ます!」

「貴方も年なのだからゆっくりしても良いのよ」

「大丈夫ですよ。まだまだ行けます!」

「それでこの子なんだけど。精霊の印が付いているわね」

「この子は精霊が見える初代のようです。王国出身で名前はトルクと周りの者が言っていました」


この子がトルクと言う名前にも驚いたけど初代と聞いて更に驚いた。ジュゲムも驚いている。初代なんて私も会った事が無い。ジュゲムも「久しぶりに会ったな」とつぶやいている。

そして名前も。私の亡くなった子供と同じ名前。殺された私の子供と同じ名前。


「トルクとは鉱山の労働施設で出会いました。彼が帝国の貴族に殺されそうだったので助けたのですが、私も傷を負ってしまいました。それでトルクが私を背負って此処に逃げようとしたのですが、途中で魔獣に襲われて……。トルクは大丈夫でしょうか?」

「ジュゲムが傷を癒してくれたわ。明日には目を覚ますでしょう。貴方もトルクさんも苦労したのね」


この子の面影が私の子供に似ている気がする。髪を撫でていると亡くなった子供を思い出した。あの子にはこうやって髪を撫でる事も出来なかった。


「ランドも食事を取ってもう少し寝なさい。疲れているでしょう」


食事を持って来ると言って部屋を出る。ジュゲムが側に来て話しかけてきた。


「初代とは珍しいな。久しぶりに出会った」

「そうね。御使いは代々精霊を受け継ぐから、精霊に好かれることが珍しいと聞いているわ。私はそうとは思っていないけど」


精霊が子供の時から見えている私にとって精霊は特別ではない。どちらかと言うとトラブルを起こす目を放せない存在である。ちょっと目を放すと何をするか分からない子供達。それが私の認識。


「それに初代となった人間は精霊達に遊ばれる者が多い。そして人間を嫌う精霊達から殺されたりもする。精霊の無茶な願いで命を落とす可能性もあるな。精霊の力を使って制御しきれず死ぬ事もある」


初代となった者は人生半ばで亡くなる可能性が高いらしい。精霊の力を上手く扱えない者は命を落とす事があるし、精霊が見えるようになったらその情報が他の精霊達の耳に入り人間嫌いの精霊がその人間を害する。

人間を好きな精霊はその人の友達になり精霊の印を付け、その人間の魔力を糧に人間と行動する。しかし魔力を使いすぎて人間が死ぬ事もある。

人間が嫌いな精霊は印が付いている人間に害をなして殺したりする。

初代となった人間が生き残るには人間に友好的な強い精霊が必要である。しかし人を好きになった精霊は力が弱く制御も苦手な精霊が多い。その結果、初代となった人間は死ぬ方が多いそうです。


「……そうね。私は精霊術を学んだから精霊達から身を守れるけど。この子はどうかしら?」

「死ぬ可能性が高いな」


私はもうすぐ死ぬ。でもこの子に精霊術を教えたら精霊術がのちの世に残せる。精霊や新しい御使いの為に精霊術を残す。私の世代では誰も覚える事が出来なかった。でもこの子なら覚える事が出来るかもしれない。


「……ねえ、ジュゲム。私はこの子に精霊術を教えようと思うの」

「……良いのではないか?初代も不幸な子供が居たら助けろと言っていたからな」


この子の髪を撫でる。私の子供と同じ名前の子供に精霊術を教える事を決めた。




ランドは次の日には起きて家事や私の身の回りの世話をする。その表情は嬉しそうだ。


「久しぶりにルルーシャル様のお世話が出来ます。死ぬまでお仕えさせてください」


彼もいつまで生きられるか分からないから好きにさせる。でもランドよりも年下の私の方が先に死ぬだろう。それだけの無茶を若い頃からやったから。

ランドは再生した腕を確認しながら家事をする。私はランドが用意したお茶を飲みながら子供を見守った。これ以上精霊に悪戯をさせない為に。

ジュゲムの話では今日には目を覚ます予定だからそれまで見守ろうと思う。

私の隣にはいつの間にかジュゲムが子供を見守っている。いつの間に来たのだろうか?


「そろそろ目覚めるだろう」

「そう?良かったわ。でもこの子、うなされているわね」

「その様だな。回復魔法でもかけるか」


そう言って回復魔法をかける。光が子供を温かく包む。子供が穏やかな顔になった。


「これで大丈夫だろう」

「ありがとう。ジュゲム。私はランドに水差しを貰ってくるわ。トルクさんをお願いね。くれぐれも他の精霊達に悪戯をさせない様にね」


一階に降りてランドから水差しを貰う。ランドに用意をしてもらって部屋に戻ったら言い争いが聞こえた。


「声くらい聞こえるさ。耳は悪くないはずだ。それよりも早くオレを輪廻の輪に戻らせてくれ」

「輪廻の輪とはなんだ?」

「命あるものが何度も転生する事だ。死神だろう、そのくらい知っておけよ」

「だから私は死神と言うものではない!」

「死神だろう。オレを迎えに来たのだろう。早くオレを旅立たせてくれ」


目を覚ました子供はジュゲムの事が見えるらしい。でもジュゲムの事を死神って。どうやらこの子は自分が死んだと思っている様ね。


「早く起きろ!いつまで寝ぼけている!」

「どうしたの?」


二人の言い争いに割入ってジュゲムをなだめる。トルクさんはまだ寝ぼけている様ね。


「子供が私の事を死神とかなんとか言ってな。寝ぼけているのだ!」

「あらあら、子供が大人を背負って随分と歩いていたのだから疲れているのでしょう。ゆっくり寝せておけば良いでしょう」

「……しかしだな」

「子供が寝ているのだから静かにね」


トルクさんは私を見て何だががっかりした様な顔をする。その後に部屋を見渡して今度は自分の顔に手を当てた。


「目が治っている!鎖も無い!魔獣に受けた傷も無い!どうして?なんで?」

「大丈夫?お水いる?」

「……混乱しているのだろう。少しすれば落ち着くだろう。今はそっとしておこう」

「そう?では飲み物は置いていくから後で飲んでね。それじゃ」


一旦部屋から出た方が良いと思ってジュゲムと一緒に二人で部屋を出る。起きているなら精霊も悪戯をしないでしょう。


「待て!死神!なに自然と宙に浮いている!重力というモノを無視するな!」

「だから私は死神ではない!これでも精霊だ!」

「……そうか精霊か、それなら宙に浮く事も出来るか。知り合いの精霊も宙に浮いていたからな」

「分かればいい。では正気を取り戻したら降りて来い」


ジュゲムとトルクさんのやり取りに少し笑ってしまう。ジュゲムとため口であんな事を言う子供がいるなんて。


「面白い子供ね」

「……そうだな。良いツッコミだ。初代を思い出す」


あら?ジュゲムが初代の事を話すなんて久しぶりね。二人でリビングに行ってランドを呼んだ。


「ランド、トルクさんが目覚めたわよ」

「その様ですね。ここまで声が聞こえましたよ。あのように年頃の声で喋る子供だったようですね」

「そう?」

「私と居た時は張りつめていましたから。何かに追い詰められていた様な顔をしていました。さて、それでは食事の用意でもしましょうか?トルクも腹が減っているでしょう。なんせ三日も食べていないのだから」


そう言って私と別れて部屋を出た。トルクさんに会いに行くみたい。自分の目で無事を確認したいのでしょう。

あら?ララーシャルは?さっきまで私達と一緒にいたと思ったのに?


「ララーシャルなら子供の部屋に行ったぞ」

「起きている子供に変な事しないと思うけど……」


二階からララーシャルの声が聞こえる。叫んでいるわね。「変なこと言っているのよ!」「こっちを見ろー!」「無視するなー!」「逃げるなー!」とか聞こえるわね。


「照れているな」

「そうなの?」

「初代と一緒で無意識に口説いている様だ」

「あら?ララーシャルを口説いたの?」

「可愛いと言っていたぞ」

「あらあら」

「ララーシャルも満更でもないようだ」


そんな事を話しているとララーシャルが私達の前に来た。


「ルルーシャル!あの子供はなんなの!変な事言ってくるし、私の話を聞かないし!私の事を絶世の美女って言ってくるし!」

「絶世の美女とは言っていないだろう。怒った顔も可愛いと言っただけだ」

「そんな事は良いのよ!あの子供、私の事が見えたわ!本当に御使いなの?精霊は?印をつけた精霊は?」

「落ち着いて。後でトルクさんに聞くから」


ララーシャルを落ち着かせて三人で食堂に入る。トルクさんはランドから貰ったお茶を飲みながら考え込んでいる。私達が正面のテーブルに座っていても気づかない。


「降りてきたようだね。気分はどう?」

「貴方が御使い様ですか?」

「そう呼ばれているわ。私の名前はルルーシャル。隠居してこの森で暮らしているただの老人よ」

「ではルルーシャルさん。助けてくれてありがとうございます。傷の手当までしてくれてなんとお礼を言ったら良いのか」


この子は貴族なのかしら?躾がしっかりしていて言葉使いも丁寧。


「貴方が森でランドを助けてくれました。こちらこそお礼を言います。ランドは私の兄の様な人。それから貴方の名前を聞いていいかしら?」

「失礼しました。私の名前はトルクと言います。王国出身で捕虜として労働施設に居ました。こちらこそランドさんに助けてもらって感謝しています」


本当に言葉使いが丁寧ね。礼儀作法も良く出来ている王国出身の子供。貴族の訳ありの子供なのかしら?帝国の辺境まで来るなんて。

労働施設の事は町で聞いた事がある。成人男性の犯罪者達が来る服役施設で鉱山の仕事をするらしい。最悪の環境で一日に何人も死人がでると聞いた事があった。そんなところにランドは何十年も居たなんて思わなかった。


「故郷を離れ、捕虜となり大変でしたね。ここで休んで心の傷を癒してください」


施設に子供が来るなんて、普通に考えるなら殺す為に連れてきたのかと思ったけど、トルクさんは生きている。何か理由があるのかしら?


「ありがとうございます。それであなたの側にいる男性と小さい女の子は精霊ですか?」


私の横に座っているジュゲムとテーブルに座っているララーシャルを見ながら言う。


「そうよ。男性の方はジュゲム、女の子はララーシャル。二人とも精霊よ。やはり貴方も精霊が見えるのね。訓練をしたの?」

「訓練はしていません。いつの間にか見えていました。声だけしか聞こえない場合もあります」


本当に初代のようね。精霊の最初の友人。精霊の頼みを聞く者、悪戯を抑える者、精霊の尻拭いと言われる自然の精霊達に認められた者。

彼はどのように精霊と友人になったのか?聞いてみましょう。


「ランドから聞いたけど本当に初代だったのね。私も初代を見たのは初めてよ。ジュゲムはどう?」

「私も初代は久しぶりに見た。うむ、ランドのお茶は美味いな。腕を上げたか?」

「お茶が美味しい。お菓子も有ったら最高だけど!」

「お菓子はご飯の後でね、ララーシャル。それでトルクさん。貴方の……」


ランドが部屋に入ってきて私達に言う。


「お待たせしました。食事の準備が出来ました」


美味しそうな匂いがする。食後に詳しい話をトルクさんから聞きましょう。




食後にトルクさんと改めて自己紹介をした。

彼は初代と同じ国の出身という事。特に初代と同じ出身だと聞いたときは驚いたわ。ジュゲムの名前を聞いたら頭をテーブルに打ち付けていたし。

初代は転移してこちらの世界に来たと聞いた事があるけど、トルクさんは前世が初代と同じ国に生まれて死に、六歳くらいの時に前世の記憶を思い出したそうね。

気難しいジュゲムがトルクさんと仲良くなったわ。ジュゲムは人付き合いが最悪だから。嫌な人間には男女お構いなしにハゲにするし、便秘にしたり、手加減を忘れて……、思い出したくない記憶だったわ。

ララーシャルもトルクさんに懐いている様ね。お菓子持ちながらテーブルの上で喜んでいるわ。トルクさんは精霊に好かれる性格なのかしら?

その後、帝国の者達のせいで殺されそうになった事。その者達を恨み復讐すると誓っている事。

お茶を飲みながら冷静にトルクさんにどうするのか聞く。聞く限りではその者達に殺意を持っている。トルクさんにその事を聞いてみた。「そうなの。貴方はその二人をどうするの?殺すの?」って。

トルクさんは怒気や殺気を放ちながら言う。


「出来れば殺してやりたい。部下を切りつけられ、オレ自身も死ぬような事をされた。殺してやりたい」


こんな子供が、こちらが恐怖を感じるほどの殺気を放つなんて。この子はどんな人生を送っていたのでしょうか?聞いた限りでは普通の生活をしていたと思っていたけど、他にも私達に聞かせる事が出来ないような事を経験したのでしょう。


「難しいと思いますよ。ダニエルという者は知りませんがローランドという者は貴族でしょう?貴族を殺すとなると逆に貴方が殺されますよ」


トルクさんは貴族の使用人として過ごしていたみたいだけど貴族の恐ろしさをしらないのかしら?貴族が持つ力は権力だけではない。


「……でも、オレには魔法が使える。それを駆使すれば何とかなると思う!」

「仮に上級魔法が使えても貴族の権力は凄いわよ。貴族を殺せば貴方は報復されるでしょう」

「そうだとしてもやり方はいくらでも有る。オレと分からない方法で殺せば大丈夫だろう!」


……確かにこの子にはそれだけの力があるかもしれない。でも一人で貴族を相手するのは無謀です。貴族の力は私達が良く知っています。

貴族の力は権力だけではない。貴族を守る騎士や兵隊、その貴族の親族、領民や平民までも敵になる。そしてギルドも敵に回る可能性もある。


「……それも難しいかもしれないわ」

「でも!」


トルクさんはあきらめる様子はない。それだけの憎悪を心に宿しているのか、それとも貴族たちを軽く見ているのか解らない。でも彼には人を殺すような事はさせたくないのだけど。


「だったら私が手伝ってあげましょう!貴方を裏切った相手と半殺しにした相手に復讐するのね!私が協力してあげる!大丈夫よ!私ってとても強いのよ!」

「初代と同郷の者の頼みだ。私もやぶさかではない。敵はローランドとダニエルという奴か?」


……ララーシャルとジュゲムが私の考えを無視するような発言をする。この二人がトルクさんの復讐を手伝うとは思っていなかった。基本的に精霊は人を傷つける事を嫌うのだから。どうしてそんな事を言ったの?

それ以前に精霊術を覚えないと他の精霊達からちょっかいを出されて死ぬかも……そうね!


「駄目よ、二人共。トルクさんは修行していないから精霊術は使えないわよ。それに彼は精霊が見えなかったりするらしいの。二人の協力は難しいわ」


ララーシャルは分からないけどジュケムはトルクさんに精霊術を学ばせようと思っているのね!精霊術を学べば死ぬ可能性は低くなるから!それに今のままでは他の精霊に殺される可能性の方が高いし、覚えた方が良いわ。

トルクさんも精霊術の事を聞いていた。精霊術に興味を覚えたようね。私は精霊術についてトルクさんに教えた。


「精霊術って言うのは……簡単に言うと精霊と友達になれる事ね。精霊を見る事や話しを聞く事が出来るし、お願いを聞いてもらう事もできるのよ。貴方は精霊に好かれているから精霊の友となる御使いになる事をお勧めするわ。じゃないと精霊達から変な事をされるから」

「変な事って?」

「今のままでは精霊達からとんでもない事を依頼されたり、姿が見えないで苦労したことがあるでしょう?それを解決する為にも精霊と姿を見て話が出来る精霊術を覚えた方が良いわ」


私が最初に母から教えてもらった言葉でトルクさんに説明をする。私が教わったのはトルクさんよりも年下の頃だったかしら。少し懐かしいわ。でもトルクさんは私と思っているのと違う答えを言った。


「オレは御使いになろうと思っていないので覚えなくても良いです」


……あっさり言い切られたわ。ここまでキッパリと断られたのは生まれて初めてかもしれない。ララーシャルがトルクさんを責めているし、ジュゲムがトルクさんに理由を聞いている。


「理由は……。御使いになろうと思っていないからかな?たぶん?」

「……なるほど。精霊術を覚えるという事か」

「待て!どうしてそうなる!精霊術を覚えるなんて言ってないぞ!」

「押すなよ!絶対に押すなよ!だろう。否定しなくても良い」


……出たわね。ジュゲムの良くわからない持論が。なんでも初代から聞いた限りでは否定ではなくて肯定の意味らしい。私も何度か否定しても肯定とジュゲムは捉えてしまう。本当に良くわからない持論です。

そしてララーシャルも加わって精霊術を教える事になったみたいね。トルクさんに二人が意地でも精霊術を教える事を伝えたら頭を抱えたわ。

その後に森から出るのに精霊術を覚えないと森から出られない事を伝えたら覚える気になったみたいね。

ジュゲムとララーシャルはトルクさんに精霊の印を付ける事を決め、トルクさんは私に助けを求めた。精霊の我儘を回避する方法は精霊術を学ばなければならない。


「……諦めて頂戴」


精霊術を学ぶための試練と思って諦めて……。お茶を飲みながら諭す。その後二人がトルクさんに印を付ける。


「ギャー!イテー!目が!目が痛い!」

「すまん、精霊の印を付ける為の痛み止めをするのを忘れていた」

「ごめんね~」


……後で聞いた話だったけど精霊の印は急いで付けると痛みで悶絶するらしい。それが二つも付けるとなると気絶してもおかしくないとジュゲムから聞いた。

何故そんな事をしたか問い詰めた。


「印を先に付けた精霊がその者を所有している証となる。ララーシャルは私より先に付けたからトルクはララーシャルの御使いになった。私は二番目に付けたから所有権はララーシャルの次になる」

「トルクさんには精霊の印が付いていたけど」

「印を付けた精霊は周りに居ないし、精霊の印も薄くなっている。トルクの御使いとしての精霊はララーシャルになった。もう少し印を付けるのが早ければ面白い事になったのに……」

「……ララーシャルは昔の事を覚えていないのよ!大丈夫なの?」

「大丈夫だろう。思い出したらそれに越したことはない。トルクと良い友人になるだろう」


トルクさんがジュゲムとララーシャルに振り回される光景を思い浮かべて頭を抱えた。



……代々の御使い曰く、精霊達の頼みを聞き悪戯を抑える者、それが御使い。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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