閑話 隠居している御使い②
あれからランドと子供を癒して客間のベッドに寝かせた。
ジュゲムに頼みこんでランドの腕を再生させたときは少し気分が悪くなったけど瞬く間に腕が生える。気持ち悪くて夢に出てきそうな出来事だったわ。
怪我人の世話をする為にベッドの側で二人を見守る事にしました。
ランドは随分歳を取ったわね。体も細くなって、昔の力強い兄とは思えないくらい変わった。今までどんな生活をしていたのだろう。苦労をしたのだろうか?幸せだったのだろうか?
そしてランドが連れてきた子供。この子は何者だろうか?顔に精霊の印が付いている子供。それだけしか分からない。
「ルルーシャル、町に行かなければ食材が無いのではないか?」
ジュゲムの言葉で気づいた。この家には私とジュゲムの分しか食料がない。
精霊も食事は出来るが人間の様に必ず食べる必要はない。気分で食べているだけだ。
ジュゲムの場合は初代の「食事はみんなで美味しく食べる!」との言葉を聞いて一緒に食べている。
ララーシャルの場合は小さいから私の分を分けて一緒に食べている。
ランドと子供の分の食料を考えると足りないかしら?
やはり町に行かなければならない様ね。その場合、意識のないランドと子供は家に寝かせておかなければならない。
自分が居ないときに目を覚まさないだろうか?心配をして考えているとジュゲムが言う。
「痛み止め魔法が効いている。ランドは二日、子供は三日くらい寝ているだろう」
「本当?」
「本当だ」
……町まで早く行ってすぐに帰れば大丈夫と思い、準備を始める。
家を出る前にベッドで寝ているランドと子供の状況を確認してみるとララーシャルが二人を見ている。
「ララーシャル、今から町に出かけるけどすぐに帰るから」
「わかったわ!いってらっしゃい!お土産は甘いお菓子で良いわ!」
「良い子にしていたら買ってきてあげる」
そう言って部屋を出て庭に出る。庭にはジュゲムが待っており側に行くと宙に浮いて町の方に飛んでいく。
本当にランド達は大丈夫なのか?精霊達が悪戯をしないか心配である。
「大丈夫だろう。ララーシャルや他の精霊も怪我人で遊んだりしないだろう」
「……そう言って昔、怪我人の顔に落書きをしたのは誰かしら?」
「……それより、あの二人はどうする?」
「あからさまに話をそらしたわね。それでどうするとは?」
「ランドは知り合いだから大丈夫だが、子供はどうする?精霊の印があるとはいえ部外者だ。それに印をつけた精霊も側にいない。魔封じの腕輪で魔力を封じられたせいなのだろうか?」
精霊は魔力が濃くないと声が聞こえないし、姿も見えない。逆に魔力が薄いと精霊も印をつけた子供を見つける事が出来ない。精霊に何かあったのか?それとも何か他の事情が?精霊の印が付いている子供に魔封じの腕輪を付ければ魔力を練る事が出来なくなる。そして側にいない精霊。最悪の場合は精霊を使役しようとした権力者の目に留り精霊の力を利用されそうになったのだろうか?子供は精霊を逃がしたが権力者に魔封じの腕輪をはめられて殺されそうになった。
我ながら酷い想像だ。ルルーシャルは考え直す。帝国はそんな事はしないはず……。
「……今は二人の回復を待って、詳しい話はランドと子供に聞きましょう」
「そうだな。そろそろ町だ、降りるぞ」
町の近くに降りて門から入るが今日はどうも町の様子がおかしい。町に住んでいる者達がなにやら騒いでいる気がする。いや、いつもよりも遅い時間に町に着いたらそう感じるだけなのだろうと思い直し、行きつけの商店を目指して歩いていく。
「いらっしゃいませ。ルルーシャル様」
「お久しぶりです。食料と消耗品を取りに来ました」
「準備をしますので、少しお待ちください」
客間に案内される。この店の客間は高位の者達を招く為の高級な部屋であり、そこで少しの間くつろがせてもらう。森の中での生活に比べ町の中は時間が過ぎるのが早い気がする。出されたお茶を飲みながらゆっくりと待った。
ドアからノック音が聞こえて店主が入ってくる。食材の準備が出来たのかしら?
「ルルーシャル様、お客様です」
店主の言葉に首を傾げる。私に客と言われ誰?と思った。しかし店主が客の詳細を伝える前に、護衛と思われる騎士達、礼儀作法が出来ている侍女。そして知り合いの上品な女性が部屋に入ってきた。
「お久しぶりです。お母様」
「久しぶりね。今日はどうしたの?」
「あら、娘が母親に会うのに理由が必要なの?」
「公爵夫人がこんな辺境の町に来るなんてって思ったのよ」
「だったらお母様も私達と一緒に住めば良いでしょう。お茶をお願いね」
立っている侍女に命じてお茶を用意してもらう。その後侍女と騎士は礼をしてから部屋を出た。二人きりになると女性は雰囲気を変えた。
「体の調子はどうですか?」
「……もって半年ってところね。若い頃の無茶が祟ったわ。フローラ」
フローラ ルウ ロックマイヤー公爵夫人。世間では私の娘となっているが彼女とは血が繋がっていない。
亡くなった付き人の子供。ランドが兄の様に信頼できる男性の付き人で、フローラの母親は姉の様に慕っていた女性の付き人だった。
ある騎士の男性と結婚をして出来た子供だけど、フローラの両親は彼女が幼い頃に亡くなっている。そして私がフローラの親代わりをして育てた。
十歳くらいまでは私が育てていた。その後フローラはある貴族の養女になって貴族の家で暮らしていた。
その貴族はフローラの事を大事にしてくれた。そしてフローラは公爵家の御曹司と大恋愛の末に結婚をして、公爵夫人となり子供にも恵まれて幸せに暮らしている。
フローラは私の事を母親の様に思っており、私も彼女を娘の様に思っている。
「ルルーシャルお母様、どうか私の家に来てください!お願いです!そこで治療しましょう!」
「無駄よ。私は病気ではないし怪我もしていない。寿命で死ぬのよ。治療は無駄よ」
「それでも私はお母様を助けたいのです!」
「フローラ。貴方には感謝しているわ。今まで生きていられたのは貴方が助けてくれたから。森での生活の為に色々と骨を折ってくれた事も感謝しているわ。でも私は精霊と共に生きる御使いなの。わかるでしょう?」
「……私に御使いの才能があれば」
フローラは御使いの才能がなく、魔法を使う為の魔力を感じる事が出来なかった。御使いにも付き人にもなれない。その事でフローラは貴族の養女になる事を決めた。その時の言葉は今でも覚えている。フローラが泣きながら貴族になると決め、貴族令嬢として礼儀作法や勉強をする事になり私と別れた。
フローラが成人するまで年に数回は会いに行っていた。フローラが母親に年々似てきたのが嬉しく、母親として慕ってくれる娘がとても誇らしかった。
でもフローラは貴族の令嬢、私は爵位などを持たないただの平民。フローラや親族の人達は気にしなかったが、周りの人達から不満の声が聞こえ始めたので大きくなる前に私は少しずつ距離を置き始めた。
しかしフローラは成人して誰からも文句を言われない様な立場になって私に会いに来てくれる。
本当に優しい娘だ。
「それは言わない約束でしょう。貴方は頑張ったわ」
フローラの目から涙が流れる。ルルーシャルがフローラの側に行き頭を撫でると、彼女はルルーシャルに抱き着く。今まで頑張ってくれた娘に対してゆっくりと頭を撫でて慰める。
「……お母様」
……長い間、フローラを慰める。
「そろそろ良いのではないか?こちらは暇なのだが」
ジュゲムが私に言う。先代の御使いからジュゲムは空気を読めない精霊と言われ続けているが本当に雰囲気を壊す。フローラには精霊の声が聞こえないがルルーシャルには聞こえるから怒りで少し体が力む。その力みがフローラに伝わったのか抱き着くのを止めた。
「申し訳ありません。情けない姿を見せました」
「そんな事ないわ。私はフローラの母親なのだから」
二人が話をしている間にも時間は進む。ドアの方からノック音が聞こえて侍女が部屋に入ってきた。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
ルルーシャルとフローラはお茶を飲みながら話を再開した。フローラの子供の事を聞く。先日まで王国の捕虜になっていてようやく帰ってきた事。家に戻ったときに父親、公爵家当主と話し王国と和平を考えていると話した。それを聞いた両親はとても驚いた。その子がそんな考えをするなんて思わなかったからだ。どうしてその様な考えに至ったのか話を聞くと。
「帝国と王国が戦い続けると国が荒れます。民は疲弊し、税の収入も減る。王国にも私と同じ考えを持つ貴族がいる。その者達と今の状況を変えないと我々の行きつく先は帝国の崩壊と言っていました。それを聞いて夫も考え込んでいました」
そんな話を聞いているとジュゲムは言う。
「まだ戦争中だったのか。あれが原因なのだろう」
私は戦争の原因を知っている。正確にはジュゲムから聞いた事だけど。数代前の御使いが関与していて終わらせようとしたのだが、ある事件のせいで終わろうとしていた戦争が続く事になった。その事を知る者はいないだろう。
「公爵家は和平の道を考えるようになりました。それでお母様にも協力をお願いしたかったのですが」
「……私では力になれません。ごめんなさいね」
「大丈夫ですよ。私達だけで頑張りますから!」
「ではそろそろ私達も帰りましょう。今日は貴方に出会えて楽しかったわ」
最後にフローラを抱きしめる。
「お母様、またこちらに来る日は何時ですか?その時にまた来ますから」
「四ヶ月後かしら?」
「わかりました。そのときに伺います」
フローラと別れて店主から食材を受け取る。四ヶ月分の食料をいつもの様に外に出してもらい、ジュゲムに頼んで荷物だけを森の家に運んでもらった。
「ありがとう。おかげで助かったわ」
「とんでもございません。ルルーシャル様のお願いでしたらなんでもしますよ」
店主とは長い付き合いだ。昔からの先々代からの付き合いのある店で、今の店主の祖父が行商人だった時に御使いから助けてもらい恩を返す為に店を大きくして他の町にも店を構えるくらいになった。そしてフローラの協力、ロックマイヤー公爵の伝も出来て帝都にも店を構えている。
店主に挨拶をしてジュゲムと一緒に町を出た。そして人が居なくなったら宙に浮いて森の上を飛んで家に帰りついた。
家の中がなにやら騒がしい。森に居る精霊達が来ている様だ。悪戯をしていなければ良いのだけど。
庭には町で買った食材と日常品がある。それをジュゲムに頼んで食材は台所に、日常品は居間に運ぶ。
ひと段落してランドと子供の様子を見る為に客間に行ってみると……。
「この子が森で死にそうだった子供よ!みんな!」
「そうなんだ~」
「何か弱そう~」
「子供だね~」
「あ!顔に印が付いている!」
「笑える印だね!」
「良く出来ている印だね!」
「誰が付けたんだろう?」
「他にも印は有るのかな?」
「体を見てみないと!」
「子供の体を見るなんて……なんて刺激的な!」
「よし!みんなで調べるぞ!」
「隅々まで調べよう!」
「質問!内側は調べる?」
「内側って?」
「内臓とか?」
「そうそう、後はお尻の中も!」
「……楽しそう」
「よし!みんなで調べよう!どうせ何しても起きないって言っていたし!」
……他の精霊達が子供に集まって悪戯?遊ぼうとしている。何をする気だったの?
「みんな!この子は怪我人よ!そんな事をしては駄目です!」
「え?でもこの子の近くには精霊が居ないけど初代でしょう。だから私達が代わりに居ないと!」
「だからと言って怪我人の近くで騒いではいけません!それに調べるって何ですか?」
「え?人体の神秘だよ。ジュゲムが前に言ってた」
「……ジュゲム、貴方何を言ったの?」
「前に初代の事を話したときに「はじめて会う人(女性)には神秘が待っているから調べるのは人(男性)としての務めだ!」と言っていたからその事だろう」
……子供の周りには男性や女性の精霊もいる。貴方達は何をしようとしていたの!
「大丈夫!見るだけだから!優しくするから!痛くないから!」
……意味が違うように聞こえるのは私だけでしょう。どうしてこうなったのか……。
子供に近づく精霊達を追い払ってララーシャルに説教をする。
「どうして他の精霊を連れて来たの!」
「ちゃんと玄関から入ってきたわよ。キチンと対応して怪我人が居るから静かにしてって言ったら、お見舞いするって言ったから案内したの」
その結果がコレなら見舞いはさせません!精霊達に正座をさせて説教をする。
説教の最中にジュゲムが「怪我人が居る所で大声を出して説教するのはどうかと思うぞ?」と呟きジュゲムの方に意識を向けた途端、精霊達は逃げ出してしまった。
残っているのは最前列にいて逃げ遅れたララーシャルだけ。私は逃げた精霊の分までララーシャルに説教をする。
……精霊は好奇心旺盛で逃げ上手。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




