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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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閑話 隠居している御使い①

7月1日から新しい小説を投稿します。

ある森の奥深くに二階建ての家が不相応に建っている。その場所は花が咲き、小川が流れ、小さい畑がある。

そこに住む老婆は椅子に座り朝日を浴びる庭の外を眺めていた。


「どうした?」

「なんだか今日は外を見たい気分なの」


いつの間にか隣に来ていた男性に尋ねられて静かに答える。彼は足音を立てずに側に来た。

足音を立てないのは当然である。男性は宙に浮いていて歩く事などないのだから。

男性は精霊で私の友人である。子供の頃からの付き合いだ。かれこれ何十年になるのかしら。

精霊の名前はジュゲム。本当はもっと長い名前だけど子供の頃からジュゲムと呼んでいる。……長くて覚えるのを苦労した幼い頃の記憶を思い出す。

昔はこの場所で母とジュゲムと付き人の男性と女性と五人で暮らしていた。母から精霊術を学びながら庭で遊び泥だらけになって女性の付き人から怒られたり、男性の付き人に悪戯して怒られたりしたものだ。

今日は思い出に浸りながらゆっくり過ごそうと決めた。


「ルルーシャルよ。今日は食料を受け取りに町に行く日ではなかったか?」

「そうだったわね。準備をするわ」


年に数回、町に食料や消耗品を買いに行く。その為に外出用の服に着替えて外に出る。朝の早い時間だが人目を避けるために早い時間に町に出るようにしている。


「ルルーシャル!今日は町に行くの?私も行きたい!」


小さい女の子の姿の精霊。ララーシャルが同行を願う。しかしこの子は連れて行く訳にはいかない。若い精霊は悪戯好きで周りに迷惑をかける。理由はそれだけではないのだが、精霊を連れて行くのは負担がかかるから連れて行けないのだ。


「駄目よ。今の私では貴方を連れて行く事は出来ないわ」

「……むう」


可愛い顔を膨らませて森の方に飛んで行った。少し拗ねたようだ。


「準備は終わった様だな。それでは行くか」


ジュゲムの言葉で私は宙に浮く。ジュゲムの力で空を飛んで町に行く為に。空を飛んで町に行こうとしたときに、ララーシャルがこっちに向かってきた。


「ルルーシャル!大変だよ!大変だよ!子供と老人があっちで魔獣に襲われていたわ!」

「……襲われていた?襲われているのではなくて?」

「うん、あっちで魔獣が老人を食べている。子供は死んでいるのかしら?」


あっちと言って指をさすララーシャル。こんな森の奥に老人と子供が来るなんてどういう事かしら?

「……確かに食べているな。む、アイツはランドではないか?」

「ランドって付き人だったランド?」

「だいぶ歳をとったがそのランドだろう。生きていて、さっきまで生きていたのだな」

「今すぐ行きます!ランドを助けないと!」


ランドは老婆の兄に等しい人だ。その者がここに居るとなると何かあったのだろうか?ジュゲムに頼んで町の方ではなくランドがいる場所に向かう。

ララーシャルと一緒に空を飛んでランドが居る場所に向かう。一匹の魔獣が老人を食べている。

老婆がジュゲムに頼む前に魔獣は消滅した。ランドは魔獣に食べられて酷い姿になっている。ランドが守るように覆い被さっている子供は怪我があるが気絶しているだけのようだ。


「ランド!ランド!」


何十年ぶりかの再会だが魔獣に食い殺されている。せっかくここまで来てもう少しで出会えたのに……。悲しさで泣きそうなときにジュゲムが言う。


「ふむ、どうする?ランドを生き返らせるか?」

「出来るの?ジュゲム?」

「死んで間もない。少し大変だが大丈夫だろう。しかし此処まで酷い怪我人は久しぶりだな」


ジュゲムがランドに手を添えた瞬間に光が発生する。回復魔法を使ってランドの傷を再生した。そして心臓が動いているのを確認して「終わった」と言う。ランドは怪我一つ無く呼吸している。片腕が無く治療に失敗したのか聞いてみると「腕を生やす事は面倒だ。後で治す」と言う。

そしてその下に居る子供。ランドが命をかけて守ったであろう子供。見ると片目は潰れ、首には絞められた形跡がある。片腕は魔獣に噛まれ血が流れており、体も傷だらけ。裸足で森を歩いていたようで足の裏からも血が流れている。

ランドも子供も手錠足錠の上鎖が付いており、更に子供には魔封じの腕輪がはめられている。どこから来たのだろうか?

ジュゲムに子供の怪我も癒してもらおうと頼む。


「先に怪我だけ治そう。一旦家に戻って二人の汚れを取ってから寝かせるか」


そう言ってジュゲムは子供を癒した。


「ねえ、ルルーシャル。この子の顔見た?薄いけど印が付いているわ」

「確かに印が付いているな。中々のデザインだ」


ルルーシャルの言葉であらためて子供を見ると確かに顔に薄いけど精霊の印が付いている。三色の色でぐちゃぐちゃにされた印。

この子は御使い?周りに精霊はいない。どうして?印が付いているのに精霊がいない。精霊がいるのなら魔獣なんて敵にもならない。魔封じの腕輪のせいだろうか?考えるのは後にしてまずは二人を家に連れて帰る為に空を飛ぶ。空を飛んでいる最中にジュゲムが「今日は町には行けなさそうだな」とつぶやいた。

ランドと子供を家の庭に寝かせる。早くベッドに寝せようと思ったがジュゲムが言う。


「まずは手錠の鎖と魔封じの腕輪を外そう。そして清潔にして服を寝間着に着替えさせてからだ」

「そうね」


ルルーシャルは一旦深呼吸をして心を落ち着かせる。心を落ち着かせながらララーシャルを見る。ララーシャルは子供の顔を触ったり、棒で魔封じの腕輪を突いたり、鎖を触ったりしている。


「ねえ、ジュゲム。私に鎖を壊させて?」

「良いだろう。やってみるか?」


ルルーシャルが止める間もなく、ララーシャルは子供の右腕の手錠と魔封じの腕輪を腕ごと破壊した。腕が潰れて血が流れる。


「……失敗したわね」

「その様だな。もっと手加減を学べ」


冷静な精霊の二人。血の気が引いているルルーシャル。


「早く子供の腕を癒して!何をしているの!死んじゃうわ!」

「大丈夫だ。前もって子供には麻酔をかけている。三日間は何をしても起きん」

「それ以前に出血多量で死ぬわよ!早く治療を!」

「しかし残り三ヶ所ある。全部壊してから治療した方が効率的で良いのではないか?なにより楽でいい」

「両手両足壊すつもりなの!手錠だけを壊しなさい!それから右腕の治療を早く!」


子供の右腕を再生させるジュゲム。怪我が元通りになり安心したルルーシャルだが。


「次は左腕ね!」


手錠ごと左腕を再度壊す。そして腕から血が出る。


「……手加減って難しいのね」

「早く治療を!左腕!早く!」


真っ青になりながらジュゲムに治療を促す。


「あと二ヶ所だ。手加減は覚えられるかな?……ランドの手足も合わると六ヶ所か」

「お願いだから!ランドや子供を実験台にしない!」


ルルーシャルが二人の精霊に懇願する。

ララーシャルに説教をしている間にジュゲムが二人の手錠を壊した。


……精霊は目的の為なら手段を選ばない。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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