7 戦争を終わらせる方法
寝不足気味でアルさんに起こされ朝食をとり日課の病院で怪我人の治療をする。
怪我人は矢で傷を負った者、刃物で傷ついた者、衝撃を受けて骨を折った者、馬に踏まれて骨を折った者。
そんな人達の重症患者に回復魔法をかける。
そして立場を利用して魔法を使えと命令をする貴族もいる。
「おい!そこのガキ!早くオレに魔法を使え!オレは貴族だぞ!」
その様なかすり傷で魔法を使うのは勿体ない。無視して他の患者を癒す。
勿論、暴力に訴えようとしたのでケビンさんに丁重に対応させて、その間にアルさんにヴィッツさんを呼んできてもらい退場させる。
昼食を取って訓練場に行くとアルさんが頼み事を言った。
「私も強くなりたいのです。お願いです!私も一緒に訓練をお願いします!技を教えてください!」
技とは投げ技だろうか?それとも関節技か?部隊の模擬戦で他の人達に投げ技とか関節技を教えていたからな。
人間が簡単に投げられる事に驚き、小さい子供でも出来る関節技に感嘆したようだ。
オレとしては問題ないから柔道の投げ技と関節技を教えた。
そして部隊のみんなで投げ技の練習をする。勿論、石畳ではなく土の地面で投げ技を練習するが土でも痛い事は痛い。
アルさんに受け身の練習から始まり投げ技のコツを教えるとあっという間に覚えた。
この子も才能あるかも……。
そして夕食を食べ昨日と同じ時間に牢獄に行く。
丁度、門番も交代の時間だったようで誰もいなくなったので牢屋に入る。
そしてクリスハルトのいる牢屋に足を運んだ。
「お待たせ、誰を治療する?」
「右側の牢屋の者と手前から三番目の者達を頼む。前回と同じく三人だ」
「わかった」
……ハイ終了。怪我人から感謝の言葉はない。呆然と見ているだけ。王国の人間なんかと喋りたくないのだろう。
「終わったよ」
「同胞を治してくれて感謝する」
「別にいいよ」
床に座るとクリスハルトも同じく床に座る。後ろには三人、怪我を治した人達が直立不動の姿勢で立っている。
あれ?ローランドって奴は?どこだ?居た!後ろにいる。
「それはそうと部下達が礼を言いたいとの事だが、聞いてくれるか」
「クリスハルトから礼は受け取ったが、後ろの三人の気持ちが晴れるなら聞くよ」
「トルク殿!私達を助けてくれて感謝します」
一人が代表して礼を言い三人とも一斉に頭を下げる。
「礼は受け取った。しかしこのおっさんが頼んだからだ。クリスハルトのおっさんにも礼をいってくれ」
「……おっさんって私はまだ二十五歳だ。おっさんはないだろう」
「子供から見たらおっさんだ。暗くて見えないし、髪や髭のせいで四十代に見えるぞ」
笑いならがおっさんに言う。
「これでも帝都では女性に噂される紳士なのだぞ。パーティーでは淑女が寄ってきて私の凛々しさを絶賛するのだぞ!」
「いまなら野生的だと絶賛するぞ」
後ろの人達も雰囲気が変わった。穏やかな雰囲気になっている。横の牢屋の人達から笑い声が聞こえる。
「全く、子供だから私の凛々しさが理解できないか。まあよい!また暇つぶしに付き合ってくれ」
暇つぶしってもっとやる事はないのか?……牢屋でする事はないか。
「それで答えは出たか?」
前の質問だな?どうすれば戦争が終わるか?
「どっちかが勝てば戦争は終わる」
「それは当たり前の事だ。どうすれば勝てる?」
……子供が考える事じゃないと思うが。
「どちらかの国の戦争継続能力が無くなった方が負けるな」
「……戦争継続能力?なんだ、それは?」
あれ?その言葉はないの?
「物資・人的資源が無くなったら戦争できないだろう」
「……ま、まさか全ての人間が死滅するまで戦争は終わらないというのか」
死滅するまでは戦争なんてしないよ。
「戦争するのが嫌になれば止めるよ。その時の世界の人口がどのくらいになるかは分からないけど。戦争で徴兵された平民達が死ぬと村の働き手が少なくなり物資が減る。次に前線で戦っている貴族や兵達が死ぬ。そして現状をどうにかしようと王都や帝都でも謀略や陰謀で貴族や王族が死ぬ。そして生き残った者達が和平なり降伏をする」
オレは泥沼の戦争現状でどうすれば戦争が終わるか客観的に考えた。答えは「ずっと戦争したらそのうち終わる」だ。
「そのような事あってはならん!死滅するまで戦争を続けるとは私達はそこまで愚かではない!」
「だが数十年も戦争をしているんだ。十分愚かだと思うよ」
「そんな事はない!王都にも和平を考える者がいるはず!その者達と協力をすれば……」
「しかし帝国には戦争派がいるよね。その人達はどうする?」
「それは……」
「そして王国の和平派に会ったとしてどうする?和平の条件は?王族の人質交換か?」
黙るクリスハルトのおっさん。……すこしイジメすぎたかな?
「オレは王国も帝国も現状がよく分からない。どうすれば戦争を無くせるのか?それを考えている人達はいるのか?その為には何が必要なのか?金か?土地か?食料か?資源か?何も分からない。どうすれば戦争が無くなるのか……」
カンカンカン。門番交代の知らせだ。
「今度はオレが質問する。どうすれば戦争が無くなるのか教えてくれ。明日また来る」
教えてくれた牢屋の人に頭を下げてから宿舎に戻った。
クリスハルトはどんな答えを出すのだろうか。
その次の夜。
同じ時間に牢獄に行く。
門番を潜り抜け牢屋で怪我人を癒してクリスハルトの牢屋の前で座った。
「昨日の質問の答えが聞きたい。どうすれば戦争が無くなるのか?」
クリスハルトは牢屋でオレの前に座っている。
帝国のお偉いさんがどんな答えを出すが楽しみだ。
しかし喋らない。無言を貫いているが目だけはオレを向いている。
「……戦争を終わらせる考えは出なかった」
一日で出るなら凄いと思うよ。
「だが!必ず答えを出す!平和的な考えで血を流さず!誰も不幸にさせない方法で戦争を終わらせる!」
「それが良いと思うよ。時間をかけて、みんなと協力をして、少しずつ進み平和を掴む事が一番大切だと思うよ」
「私は答えを出さなかった。何故お前は責めない!」
「一日考えたくらいで答えが出るならもう戦争は終わっている。必要なのは戦争を無くす為の意思だ!」
……なにかの本で読んだ事がある。希望を求める意思で人は動くと。
「本当に戦争が無くなるのか……。部下達が傷つく事は無いのか?人を傷つける事は無いのか?」
泣きながら喋るクリスハルトのおっさん。
「人間が始めた事だ。終わらせる事も出来るはずだよ」
泣きながらオレに話しかける。
「手伝ってくれるのか?戦争を無くす為に!」
「無理だ」
即座にキッパリと断る。
牢屋内が静かになる。誰も喋らない。クリスハルトのおっさんも泣き止んでいる。
……あ、空気を読むのを忘れた。
この状況をどうすればいいんだ?なんて言い訳をしよう?
子供だから無理です……って言葉じゃ無理かな?
「ならば私が手伝ってやろうか?」
入口の方から砦の責任者の声が聞こえる。気のせいだと思いたい。足音から複数人がいる。
見えて来たのはアーノルド様と騎士ヴィッツと副隊長のケビンさんに従者のアルさん。
やべぇ!どう言い訳をしよう!えーとうーとえーと……。
オレの座っている横に座るアーノルド様。
「初めまして、私はアーノルド ルウ バルムだ。この砦の責任者でバルム領主の弟だ」
「お初にお目にかかる。私の名はクリスハルト。ロックマイヤー公爵家の者です」
……公爵って言えば王族の親戚だよね。そんな奴とため口で話していたのか。
てっきり伯爵くらいと思っていたが、よく考えたら伯爵でもため口はダメだろう。
「お主が言った戦争を無くす……。出来ると思うか?」
「出来る!戦争を終わらせる!これ以上、血を流さない為にも!」
「……どうやって戦争を終わらせる?」
「トルクにも言ったが終わらせる考えは出なかった。だが!必ずやり遂げて見せる!私だけでは無理かもしれないが他の者達の力を借りてやり遂げて見せる!」
……オレよりもクリスハルトと話している。
アーノルド様が戦争を終わらせる方法を帝国兵に聞くなんてどうしたんだ?
しかしどうしてバレたんだ?ケビンさんに見られたのか?やはり先に許可を得て入るべきだったかもしれない。
「……私もどうすれば戦争が無くなるか考えていた時期があった。王都では戦争派が多く、和平派は隠れるように動く。中立派は自分たちの領地の事を考えながら動く。何十年も戦争をしているが止まる気配はない。帝国は砦を攻めたて、周辺の村々を襲う。帝国への憎しみは募り、みなが帝国を倒すべく戦争に行き傷つき倒れる」
「我が帝国でも同じだ。私も王国を恨んでいたし、民達も王国を恨んでいる。だが!これ以上戦争を続けるのは両国にとって重い負担になる。これ以上民を傷つけたくはない!」
曾祖父の代から続いている戦争だからな。恨み憎しみは凄かろう。
「そしてトルクは私達にも回復魔法を使い怪我を癒してくれた。帝国兵に癒しを使う優しき者もいる。その者達が少しでもいるなら戦争を終わらせる事が出来るはずだ!」
何を言っている!怪我を治療したのは内緒の約束だぞ!……そう言えば内緒っていったっけ?
後ろにいる人たちの視線がオレに集まっている気がする。
やっぱり勝手に帝国兵を治癒するのは間違っていたかもしれない。
「お主の考えは分かった。だが言うは簡単だ」
「命が続く限り私は戦争を止めてみせる!」
……考え込むアーノルド様。立ち上って言った。
「私も平和に考えてみよう。しかし此処ではなく会議室で話す内容だな。ヴィッツよ、牢を開けよ」
ヴィッツさんが返事をして牢屋のカギを開けた。
「感謝する!アーノルド殿」
クリスハルトを筆頭に出て最後にローランドが牢をでる。
ローランドが急に走り出しアルさんを捕まえる。
「動くな!動くとこの子供を殺す!」
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




