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精霊の友として  作者: 北杜
五章 伯爵家騎士編
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6 帝国の捕虜

夜の砦はかがり火が焚いており比較的明るかった。月も明るく問題なく牢獄に行けた。

問題はどうやって門番の目を潜り抜けるか……。

と考えていたが。


「もうすぐ交代の時間だ。行くぞ」


門番が近くの家に入ってしまった。これで門番はいない。

オレは牢獄の中に簡単に入れた。

……それで良いのか?

簡単に入れて良いのか?

子供でも入れるなんて牢屋の意味は有るのか?

入るのは簡単で出るのは難しいのか?

頭を押さえる。今度アーノルド様に言っておいた方が良い案件かな?

気を取り戻してオレは怪我人が居る牢屋に向かった。

だけど誰が叫んでいたか分からないし、怪我人もどこにいるか分からない。捕まっている帝国兵に聞くしかないな。

牢屋に近づいてみると牢屋の中にいる帝国兵が声をかける。


「子供がこんな時間にどうした?トイレはここにはないぞ」

「それともお漏らしをしたシーツを隠すのかな?」


ウザい奴らの言葉を無視しよう。


「医師を呼んでくれと叫んでいた奴は誰だ?」

「何の用だ?」


声が変わる。馬鹿にした口調から怒気や殺気を含んだ口調だ。


「医師を呼べとうるさいから来てやったぞ!誰を治療するんだ?」

「ガキが治療出来る訳ないだろう!」

「回復魔法を使えるガキだ。良いから教えろ!」

「私だ!私が呼んだ!」


奥から声が聞こえる。オレは声の方に向かった。

牢屋には五人の人がおり立っている者が二人、横になっている者が三人。


「……アンタが牢屋で叫んでいた帝国兵か?外まで聞こえていたぞ」

「そうだ!頼む!部下を助けてくれ!」

「……その助けた部下は、またオレ達、王国の人間を殺すのか?」


どうしてこんな質問をしているのだろうか?答えなんて出ないのに。


「……私は帝国に住む者として同胞を助けたい。頼む!私が出来る事なら何でもする!だから部下を助けてくれ!」

「そしてその部下は王国の人間を傷つける」

「そんな事はさせない。私の名誉にかけて!」

「名誉なんて戦争時じゃゴミと同じだ!」

「では私のすべてにかけてこの者に武器を持たせない!」

「だが他の誰かに命じる事が出来る。他の者に王国の人達を殺させる事が出来るはずだ」

「……頼む!私に出来る事は何でもする!だから部下達を!」


頭を下げる牢屋の中の人。

……何を喋っているのだろうか。牢屋に来て変な質問をして帝国兵達に優越感でも浸りたかったのか?それとも恨みをぶつける為か?

オレは怪我人を治療する為に牢屋に来たんだろう!


「すまない、頭を上げてくれ。オレの親族は帝国兵に殺され村を焼かれた。それを実行したのはお前達ではないと信じる。オレは回復魔法使いとして怪我人を治療しに来た。怪我人を近くに」


牢屋の前で座り怪我人を見る。

傷口が化膿してヤバいな。熱も有る。

怪我をしている所を回復魔法で治す。数十秒で怪我が治った。

後の二人を治し終わったときに腕を掴まれ、牢屋に引かれる。鉄格子に体を勢いよく当たり痛い。

しまったな。オレを人質に牢屋から逃げる気か。

帝国兵を信じたオレが間抜けだった。

魔法を使ってこいつらを殺してやる。


「馬鹿者!何をしている!恩人に対して何を無礼な事をする!」


叫んでいた者に殴られて手を放す。オレは牢屋から距離を取って叫んでいた者を見る。


「恩人に対して申し訳ありません。私の名は……」

「やめてくれ、帝国兵の名前なんていい。オレは怪我人を治療した。それだけだ」

「では医師殿の名前を教えて欲しい。貴方には恩がある。その恩返しを我が祖に誓おう」

「……オレの名はトルクだ。それから他にも怪我人はいるのか?」

「怪我人は他の牢屋にいる」

「なら明日も来るから他の牢屋の人達の説得してくれ。そんなに大人数は治療出来ないからな」

「感謝する。貴殿の安全は私が保証する」


……こいつは身分が高い人間のようだ。そんな奴がどうして牢屋にいるんだ?


「分かった、明日は今と同じ時間に来れると思う」


牢獄を出ようとすると門番がいる。

……どうしよう。

あ!入口に近い牢屋の帝国兵が手招きしている。


「坊主、門番は次の鐘が鳴るまでいるぞ。出るのは次の鐘まで待っている方が良い」


……仕方がないから待つか。


「坊主、同胞の怪我を治してくれて感謝する」

「……オレもどうして治したのかわからん。きっと戦争を経験したから人が死ぬのを見たくなかったのだろうな」

「そうか……。坊主はどうしてこの砦に来たんだ?まだ子供だろう?」

「回復魔法が使えるからだよ。……っていかん。情報を敵に流すところだった」

「では敵の情報を知りたくないか?」


なんでこいつはそんな事を聞く?何かの罠か?優しい顔で近づいて騙すのは詐欺師の常套手段だ!何か裏が有るのか?


「私の口からでは無理でもロックマイヤー卿なら大丈夫だろう」


誰だよ、ロックマイヤー卿って?


「あの牢屋で話していたお方だ。あの方と話せばいい。安心しろ、門番が居なくなったら教えてやる」


……行きづらい。戻りづらい。なんか恥ずかしい。明日来るって言って別れたのにすぐに会うなんて……。

「さっきぶり」

「あらためて自己紹介をしよう。私の名前は ロックマイヤー家のクリスハルト。トルクよ、改めて礼を言う。部下を助けてくれてありがとう」

「……門番が居なくなるまで暇つぶしよろしく」

「なにこちらも暇だからな。さて!どんな話が聞きたい?」


なんか明るいなこの人。あの悲痛な叫びは何だったんだ?


「では機密に関わる事のない話だな。……どうして帝国は王国に戦争を仕掛けている?」

「何をふざけた事を言っている!王国が我が帝国を騙し戦争を仕掛けているのだろう!」


オレを掴んで人質に取ろうとした人だな。


「ローランド!控えろ!私と彼との話に口を出すな!」

「……失礼しました」

「多分そう言うと思っていた。オレが聞いた話では帝国が王国を騙して戦争を仕掛けて来たと聞いている。オレが聞きたい事はどんな状況で、どんな理由があったのかを知りたかった。さっきの人が言ったように王国と帝国では主張が違う。何をして騙したのか知っているか?」


クリスハルトとローランドは口を開かない。機密情報だったか?


「……私が聞いた話だが戦争中に一度、和平が組まれた。そのとき王族同士の結婚で同盟を組むはずだった。上辺だけでも嬉しい出来事だが人質交換みたいなモノだな。そして王国が帝国の姫を殺害して姫の側近が王国の王子を殺した。その結果和平は無くなり戦争が今に至るという話だ」

「お前達王国が帝国の姫を殺したからだ!姫の側近が忌々しい王国の王子を殺し、仇を討つのは当たり前ではないか!」

「あんたはそれを見たのか?」


暗くて見えないが何を聞かれたのか分からない様な表情をしていると思う。


「その場にいたのか?本当に帝国の姫が王国の人間に殺されたのか?どうやって殺したんだ?殺害現場は?凶器はなんだ?どんな方法で帝国の姫に近づいて殺した?周りには誰もいなかったのか?周りの護衛は?側近は?和平派の王国も何をしていた?近くで見ていただけか?どんな対応をした?」


……至極一般的な質問だと思うが誰も答えない。


「王国の人間達も黙って見ているだけか?簡単に王族を殺せるのか?帝国の姫の護衛は何人だ?側近の数は?王子は何処で殺害された?どうやって王国の王子を殺害した?どうやって王族のいる場所に刃物を持ち込んだのか?それとも毒殺か? 」


オレが思っている疑問に答える人は居ない。

昔の事だから分かる訳はないか。証拠は偉い人の言葉だけだろう。


「この数十年、戦争を続けお互いが血を流すだけ。血を流すのは平民と現場の人間だけだ。王族や貴族は後ろで見るだけ。一体いつまで戦争を続けるのかを知りたい」

「……お前は戦争を止めるべきだと思うのか?」

「オレが思うだけで戦争は止める事は出来ないだろう?ただ理由が知りたかっただけだ」


前世でも戦争が起きる理由は様々だった。オレはただ理由を知りたかっただけ。どうせ殴られたから殴り返した理論だろう。

戦争を止める事なんて今のオレには無理だ。将来も無理かもしれない。

エイルド様やドイル様達が戦争に行かなければ良い未来であって欲しいが難しいだろう。


「ふん!口先だけで戦争が止まる訳がない。お前は我々の機密を聞き出す為にここに来ているのだろう。そんな手には乗らん!我々は由緒ある帝国貴族だ!悪辣な王国なんかの為にどうして帝国貴族が恩を感じなければならん!」


ローランドって人には何を言っても無駄だな。帝国が正義で王国が悪か……。

クリスハルトを見る。考え込んでいるな。何を思っているか知らないが


「王国に仇は有っても恩など無い!帝国が王国を滅し、平民に秩序ある安全な暮らしが待っている。王国の貴族達を奴隷にし、農奴にして帝国に詫びながら生きていくのだ!」


……こんな奴が大勢いるのなら帝国とは和平なんか無理だな。戦争継続か……。

ドンという音で考えるのを止めたらローランドって奴が床に倒れている。クリスハルトが殴ったようだ。


「……恩人に対して申し訳ない。しかしこのような者が帝国貴族全員の考えとは思わないでほしい」

「……ローランドって人の下に付いている部下は苦労しているはずだよ。その人達にも謝った方が良いよ」

「そうだな。考えておく」


ローランドを見下してドンと音を立てて牢屋越しにオレの前に座るクリスハルト。ローランドは気絶したようだ。


「ローランドの治療はしなくて良いよね?」

「勿論だ!私が許さん。話を戻すがお前の質問は戦争が起きた理由だが私が知っている事はすべて喋った。そしてお前の疑問には答えられない」

「知らないからか?」

「そうだ。疑問にすら思わなかった。私だけではなく他の者もそうだろう」


……上の人間の言葉を信じるのが、もしくは……。


「私の生まれる前の話だ。その時代に生きている者達は少ない。そしてその場にいる者など……。いたとしても憶えているかも怪しい」


長い年月で記憶も忘れていそうだ。


「それならいいよ。理由が知りたかったのは好奇心だ。戦争を止めるとかそんな事は考えていない」

「それならお前ならどうすれば戦争は終わると思う?」


……むずかしい問いだな。少し考える。

カンカンカンと鉄格子を叩く音が聞こえた。


「どうやら時間だな。門番がいなくなったようだ。明日までに答えを教えてくれ」

「……分かったよ。答えが正しいかはしらんが考えておくよ」


門番が居なくなった事を教えてくれた人に礼を言って牢獄から出る。門番はいないから宿舎に帰って寝よう。

そして寝ながら答えを考えるか。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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