5 砦での日常①
アルさんが罰せられた夜から数日が経ち、小規模の戦争もなく、オレは砦での生活に慣れ始めています。
「おはようございます。騎士トルク」
朝になると従者のアルさんが起こしに来て着替えなどの用意をしてくれます。
その後、朝食を取る為に食堂に行き、オレは席に座っていると従者のアルさんが朝食を用意してくれるのでそれを食べる。
ちなみに従者は先に朝食を食べ終えているそうです。
食事を食べ終わったらケビンさんとアルさんと一緒に病院に行き怪我人の治療をする。
怪我の重い人達を回復魔法で治すのですが、二十人くらいで魔力枯渇で体調を崩すので、毎日十人くらいの怪我人を治してます。
城壁では三百人以上の怪我人を治していたのに二十人くらいで体調を崩すのか……。
砦に来るまで魔法をほとんど使っていない状態だったから魔力がたまっていたのだろうという仮説を考えた。
城壁で気絶してその後四日間ほとんど魔法を使わずにいたのでその次の日は四十回くらい魔法が使えた。
次の日は二十回、その次の日は十五回と段々魔法を使用する量が減っている。
十回くらいなら問題ないようなので一日の魔法の回数を十回に留めている。
戦争が起こるときまでに魔法を使える回数を増やせるように頑張るつもりだ。
ただ回復魔法だけではダメだと思うから砦の医師の人達から応急処置のやり方を習っているが、この世界は医療も遅れているようで怪我したら水で洗って薬を塗って包帯巻いて終わり。数日に一回薬を塗って包帯を巻く。
病室は汚く、所狭しで怪我人でいっぱい。
病院の改革が必要だと思いアーノルド様に怪我人の治療法や病室の清潔化などと言って清掃等をしている。
ちなみにオレを馬鹿にしていた医師はこの病院の責任者だったらしく、オレやアルさんに対する行動と今までの悪事が表に出たのでアーノルド様が処罰を行い、今は病院内には居ない。きっと何処か他の領地の病院に転属したのだろう。
午前中は病院で怪我人の世話や病室の掃除を行う。
オレの部下達も手伝ってくれるし、アルさんも手伝いをしてくれる。
その他にもオレが治療した兵達も手伝ってくれるので助かっています。
多くない治療費のやりくりをしていた他の医師も怪我人が減って楽になったと喜んでいる。
病院勤務が終わったら昼食を取る為にオレは騎士達専用の食堂に向かって食事をとる。
「騎士トルク、ご一緒しても良いかな?」
「はい」
ヴィッツさんやこっちで知り合った騎士の人達。
オレが治療した騎士の人もいる。
大人に囲まれて食事をとる。
「食後だが、また訓練に参加しないか?騎士トルクと戦ってみたいという者達がいる。どうだろうか?」
「私は大丈夫です」
「そうか!では後で訓練場に」
「部下達と一緒に行きます」
前に他の騎士達と模擬戦をして訓練をした。
基本的に昼食後は訓練をしている。オレも部下達と一緒に模擬戦をしたり、部下達の魔法の訓練をしている。アルさんも一緒に訓練をしていて現在、部下達と一緒に魔法の訓練を頑張っている。
まだ魔力を感じる事を出来る者はいない。オレも一ヶ月掛かったしマリーも時間がかかったからな。才能の無い者はどんなに頑張っても無理と言われているが最低でも一年は頑張ってもらいたい。
食後に訓練場に行き鍛錬をする。
まずは準備運動をして体をほぐす。ストレッチで体を柔らかくする。
その後、男爵家で教わった練習法で体を動かす。
「騎士トルク!今日そこは勝つぞ!ルールは前と一緒だ!」
「はい、よろしくお願いします」
騎士の人達と模擬戦をする。ルールは剣あり魔法なし格闘術ありのルールで模擬戦をする。
因みに剣あり魔法ありでの模擬戦はしていない。
魔力を貯める為に模擬戦で消費する訳にはいかないからな。
最初は剣だけの模擬戦だったのだが、オレが接近戦で相手の関節を決めて勝ってしまったら何故か褒められて関節技を教える羽目になった。
実を言うとオレが関節技で勝ったのを「卑怯」と言った者達もいたのだがその者達は王都の騎士や貴族達で、褒めてくれたのは領地持ちの貴族やたたき上げの騎士や兵達だ。
オレの仲の良い人達は後者の者達が多い。王都の騎士や貴族達はプライドが高く馴染みにくい。砦に来たのも厄介払いか島流しに会った者達だと他の騎士たちが教えてくれた。
剣を構えて騎士と対峙する。
騎士が間合いを狭め攻めてくるのを剣でそらしながら少しずつ後退する。
子供だから間合いが狭いので自分の間合いに入らないと。
相手は大人だから攻撃を受けると体勢を崩す。なんとか避け、そらし続けるがそう上手くいかない。
相手の上段からの攻撃を受け止めてしまい体勢を崩す。そこで追い打ちを仕掛けるがオレは横に飛んで転がり立ち上がる。
追い打ちから逃れたと思ったら再度攻めて来たので、転がった時に掴んだ地面の砂を相手の顔めがけて投げる。
相手は意表を突かれ手で顔を守ったのでオレは相手の左側から攻める。本当なら魔法を使いたいが魔法の回数を減らしたくないから使わない。
オレの攻撃は相手に受け止められる。しかしオレはその時剣を手から離していた。
相手の後ろを取って膝の裏に蹴りを入れて相手を倒す。
うつ伏せに倒れかけるが体を捻って剣を持たない腕から倒れる騎士。立とうとするがオレは相手の剣を踏みつけて相手を殴ろうとするが、踏みつけていた剣を動かされてバランスを崩しかけるが馬乗りの様に相手に飛び乗って相手の頭を殴ろうとする。
「それまで!」
なんとか勝った。砂かけから始まり、膝かっくんで倒してから武器を踏みつけ止めの一撃。
相変わらず卑怯な勝ち方だ。
「なるほど膝の裏を蹴ると倒れるのか……上手くすればうつ伏せで倒せるな」
「面白い戦い方だ」
「相手も砂攻撃を良く防いだな」
「次は私だ!」
「お前はこの前戦っただろう?私はまだ戦っていない!私の番だ」
待ってくれ!子供だからそんな体力はない!少し休ませて……。
休み休み模擬戦をする。負ける方が多いが斬新な戦い方が面白いとの事だ。
お前達が斬新な戦い方をしてくれよ!いきなり裸になって戦ったり、カツラを上に飛ばして意表を突く戦い方も斬新な戦い方だぞ!
その後、部下達とアルさんと一緒に訓練をした。
アルさんの強さは……オレよりも弱い。純粋な剣術でオレが勝つ。負けて泣きそうになる姿を見たヴィッツさんがアルさんに。
「騎士トルクはお前よりも訓練をしている。騎士になりたければ訓練をするのだ!」
「はい!騎士トルク、ご指導をお願いします」
……とりあえずストレッチをさせて体を柔くする事から始めよう。体を柔らかくする利点を教えていると何故か他の騎士達も聞きみんなストレッチをする。
訓練の後は自由時間となる。
他の騎士達は部隊の連携を図ったり、部屋で事務作業をしたりする。
オレの場合はそのような仕事はないから自由時間になる。
部下達は休みをとる者、見回りの仕事に就く者、部隊内の雑務をする者、オレの護衛などがある。
アルさんは従者の仕事があるので今から仕事に戻る様だ。仕えている騎士の部屋の掃除や洗濯など。
砦の広場が騒がしいので行ってみると、人が集まっている?いや徴兵された平民達がやってきたのか。
一緒に騎爵位を受けたロダンさんやブレインさんもいるようだ。
ブレインさんは話しづらいからロダンさんに話しかける。
「騎士ロダン、お久しぶりです」
「騎士トルク、久しぶりだ。ようやく我々も砦に来れたよ。帝国兵の動きはどうだい?」
「数日前に二千人規模の戦闘がありました」
「そうか……。帝国から王国を守る為、この兵達が力になってくれれば良いのだが」
徴兵された兵達を見る。数は千人くらいかな?大人から子供までいる。
子供は戦力になるのか?
「子供は孤児だ。帝国が村々を襲った時に親が死んで住む場所が無い者達だ。この子達は砦で働く事になる」
戦争孤児か……。砦の町のほうでも子供達を見た事あるがその子供達も戦争孤児なのか?
オレが出来る事なんて怪我人の治療くらいだ。他にも何かできる事があればいいのだけど。
そして高台で騎士の一人が徴兵された兵達に演説をしている。
内容は王国の為に死ね!だな。
難しい言葉で言っているが内容は間違っていない。
その後、大人達は砦の兵に案内されて訓練場に行き、子供達は町に案内された。
「では私も訓練場に行くとしよう。トルクはどうする?」
オレも訓練場にはさっきまで居たからな。それよりも子供達がいった町の方が気になる。
「私は町の方に行きます。では騎士ロダン、失礼します」
ロダンさんと別れて、オレは町の方に向かった。
町に行くのは初日にアルさんに案内されたとき以来だ。
護衛のケビンさんは町に詳しいのかな?
「そうですね、前に砦に居ましたから町も詳しいですよ」
そう言えば砦に居た事があったんだよな。
「私は孤児だったので砦で育ちました。ですから町にも詳しいです」
「そうだったか。ではあの子供達と同じ状況だったのですか?」
「敬語は不要です。そうですね、私が子供の時に両親が戦争で亡くなったので砦に行きました。町で労働をして食事を貰っていましたが、とても苦労しました」
親が居ないから誰も助けてくれない。助けてくれるのは同じ境遇の子供達とその境遇で成長をした兵達との事。
町の子供達からはイジメられ、仕事も少ない賃金で雇われる。
町にある孤児院で協力し合って生活をするのだが、成長したら男は兵隊になり、騎士の目に留まればその領地で働く事が出来る。
ケビンさんは運よくバルム領の騎士の目に留まって隊長職まで上り詰めた。
他にも騎士に目を付けられた若い子供が従者見習いになる事もあるが、他の従者からイジメを受けて辞めてしまう事もあったそうだ。
ちなみに騎士に目を付けられた従者見習いは男娼として育てられる事が多いそうだ。
そんな豆知識いらん!
そして成長した女は町で働いて将来は他の兵隊と結婚する者もいれば、酒場で客を取ったり売春婦などが多い。
……ケビンさん苦労したんだな。
砦の町に来ることに抵抗が有るんじゃないかと聞こうとしたが。
「私の故郷ですよ。この砦は」
問題ないようだ。
ケビンさんの様な人が副隊長を務めてくれて良かった。
「そうだ!孤児院の子供達に魔法を教えたらどうだろうか?魔法が使えれば将来の為になるんじゃないか?」
「……確かに将来の為になりますが、教えてもいいのですか?私達も魔法を習っていますが簡単には魔力を感じる事ができません。才能がありそうな兵士達を優先するとヴィッツ殿が言っていましたが、トルク隊長だけでは人手が足りませんよ」
「オレも魔力を感知するまで三十日くらいかかったかな?マリーは半年くらいだったかな?時間はかかるけど魔力を感知できれば魔法ギルドの人から教えてもらう事も出来るんじゃないか?」
魔法を使えれば砦でも町でも孤児院の子供達の地位向上になると思う。魔法使いは数が少なく才能がないと魔法が使えないと言われているが使える者がいるかもしれない。
「アーノルド様に聞いて許可を得てみよう。うちの部隊の人間を派遣して魔力の感知する方法を教えれば魔法を使える者が出るかもしれないな」
「……そうですね。その為にも私達も魔力を感知しなければいけません」
明るい口調で言うケビンさん。孤児院の子供達の将来を思っているのかもしれない。
そうと決まれば今度アーノルド様に許可を得よう。
町をぶらつき戻る最中に堅牢な建物がある。あれはなんだろう?
「あの建物は捕まえた帝国兵の牢屋です」
……好奇心で近づいてみると入り口に門番がいる。許可なく入れない様だ。
中に入ってみたいな……。そんな事を思っていると牢屋から声が聞こえる。
「頼む!お願いだ!」
なんの声だ?門番に聞いてみると。
「捕虜が叫んでいるだけです。騎士様はお気になさらず」
「お願いだ!医師を呼んでくれ!頼む!」
……怪我人がいるのか?
「帝国兵などの戯言など聞き流してください」
ケビンさんがオレの肩をつかみ「戻りましょう」と言い、オレは牢獄を後にした。
その後、夕食を取りアーノルド様に面会して孤児院の子供達に魔力感知の方法を教えてもよいか許可を貰った。
そしてアルさんに用意してもらったベッドで横になり休む。
牢屋での悲痛な声が頭に響く。
帝国兵の為に怪我人を治療するなんて……。
母親の親族は帝国に殺され村を焼かれた。そんな奴らに魔法を使うなんて……。
オレはベッドから起き上がり服を着替えて牢獄に向かった。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




