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11話

アイガは家に帰る前に少しスーパーに寄っていく。お金は無駄遣いせず、きちんと昼食代と夕飯の材料代だけに使っているので、少し食材を買い足せそうだった。

 

「今日の夜ご飯、どうしようかな」

 カゴを持ちながらスーパーの棚からヒントを探る。

 野菜コーナーの玉ねぎを見ていると、一つの料理が浮かんできた。ご飯をケチャップで味付けして卵で包むアレ。そうと決まればあとは買うだけだ。アイガは玉ねぎやケチャップなどをカゴに入れていく。

 

 ウインナーを買おうとお肉コーナーに来た時、一組の若そうな夫婦が目に入った。若そうと言っても、チャラそうとかの意味じゃなくて、柔らかい雰囲気の新婚さんみたいな夫婦だった。

 

 二人はカートにカゴを置いて、二人であれこれ相談しながら買う品物を決めていた。

 二人は「昨日はこれ食べたね~」とか、「この前のアレ美味しかったよね~」とか、実に微笑ましい会話をしていた。

 

 それを少し離れた所から見ていたアイガは

「いいな。楽しそう」

 と、自分でも気づかずにポツリとどこか寂しげに言いこぼした。

 

 

 ————————————————————————————————

 

 

「おっはよー、情」

「はよーっ」

「なぁ情!これ見てくれよ!」

 そう言って伊織は情の目の前に携帯を出し、一つの動画を見せる。

 その動画は、数日前とは打って変わって幸せそうな顔をしてトコトコと散歩をするディーが映っていた。距離は遠いものの、何度も後ろを振り返っては尻尾を振る。

 そして場面が変わり、今度は伊織がエサをあげているシーン。これもまた幸せそうな表情で、ディーはペロリとエサを綺麗に平らげた。しかし、手からはまだまだ難しそうだ。

 

「おぉー、良かったじゃんか」

「そうなんだよー!おかげで、今日は初めて絆創膏を貼らずに登校して来たぜ!体触れたりとかはまだなんだけど俺、頑張るわ!」

 そう言うと伊織は腕を伸ばしてこちらにピースサインを出す。そして、何かを思い出したかのように椅子に座りながらまた話を始める。

 

「そういやさ!今日俺、夢にアイガちゃんが出てきたんだよ!」

「ほーん、そうか」

 情は興味無いですアピールとして、教科書をリュックサックから取り出し、パラパラとめくり出す。

 

「おい!聞いてくれよー!」

「夢だろ?俺に話してどうなる」

「うーん、そうだなー?恋がしたくなる!とか!」

「無いな」

 早押しクイズ番組のように即答で情は答えた。

「まぁそう言わずに聞くだけ聞いてくれよー!」

 そう言われ、情は仕方なく目線を教科書から伊織に移す。

 

「しゃーねーな。んで、何だ。夢にあいつが出ただ?」

「そーなんだよ!この前初めて見た時から、なんか一般的な子とは雰囲気が良い意味で違くて可愛いな~とは思ってたんだけどよ、夢にまで出てきちまったら自然と朝から頭から離れなくてな、俺、多分恋してるんだよ!」

「ほーん、そうか」

 

 そう言いながら情はまた頬杖をついて教科書に目線を移す。

 

「だからさ、俺、決心ついたら思い切ってアイガちゃんに告白しようと思う!情、サボらず結婚式来てくれよな!?あっ、そういやアイガちゃん、彼氏居ないよな!?」

「おー、多分居ないと思うぞー。結婚式は行けたら行くわー頑張れー」

 

 情は棒読みのお手本というように返答する。

 この返答に流石の伊織も呆れたように言う。

「おい、それだけか?」

「あぁ」

「はぁー。あっ!そういやお前、イレギュラーに憧れがあったよな?お前も恋してみないか?」

 伊織は「どうだ?この提案!」という感じで顔をパッと明るくさせ、情を覗き込むように話しかける。

 

『恋』。その単語に情はあまり良い思い出が無い。

「俺も高校生の頃は恋してたさ。でもなんかトキメキ?とか楽しさとかは全く無かった。何してもあんま楽しくなくてさ。多分、まわりで付き合う人たちが増えてたから、それに乗っただけだったんだろうな」

 

「はー!?せっかく付き合ったのに!?」

 伊織は軽く机を両手で叩いた。それほど驚く事か?

 

「あぁ、俺もその子に大して興味無かったし、正直どうでも良かった。だから振られた。それで何事も無かったように高校生活は終わった」

「はぁー、なんか言葉見つかんねーわ。あっ!じゃあさ、いっその事この学年のマドンナと言われている柳木(やなぎ) (れい)さんに告れば?美人だって有名だぞ?」

 

「いやー、別に恋はもういいかな。別にしなくても生きていけるし、俺は独身人生を貫くよ」

「なんだー、つまんねーの」

 

 伊織は「呆れたー」と言うように手足を伸ばして背もたれに体重を預け、目を瞑り上を向いた。と、その時

 

「あの、これ落としましたよ」

 伊織が顔の向きを声の方に向けると、そこでは透明感のある声で、黒髪の女の子が情に向かってシャープペンシルを差し出していた。

 

「あぁ、わりぃ、ありがと」

 情がそう言ってシャープペンシルを受け取ると、女の子はスタスタと自分の席に戻って行った。

 

 その姿を見て伊織は思わず情に話しかける。

「おい情!今のが学年のマドンナ、柳木玲さんだぞ!?どうだ?美人さんだろ!?」

 

「……まぁ、確かに?顔は整ってる方かもな」

「それだけ!?もっと何かないのかよ?」

 

 もっと何かないのかよ。と言われましても、今のたった数秒間の関わりで他に何の感想があるんだよ……?

 

 情は、まだ小声でわちゃわちゃ隣で騒いでいる伊織を見て少しうんざりした。

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