番外編1 彼女の贖罪②(グロ表現注意)
「わた、し……?」
目の前の光景が、飲み込めなくて、頭がクラクラしてくる。
なんで、私が目の前にいるの? 『私』は、『リリィ』はここに居るのに。私が『リリィ』で、私が『ヒロイン』なのに!
目の前のおばあ様は、小さな『私』の頭を撫でて、そのまま私の方へと歩いてくる。
……そうだ、私はこの景色を知っている。
この部屋も知っている。
──ここは、私が初めて『おまじない』を知った、あの地下室だ!!
視点が違うから、今の今まで気が付かなかった。
ああ、もう、なんで気づけなかったんだろう。『おまじない』をするために、何度も何度も、何度も訪れた部屋なのに!
何も分からない、なんて言うのは、不安になる。
今いる居場所だけでもわかって、ちょっと心に余裕ができた。
だから、気が付かなかったの。
おばあ様が、『私』に何かを囁いて、私の目の前へときていた事に。
思うわけなかったの。
だってここは、『私』のための場所だったから。
忘れていたの。
──『初めておまじないを知った時』に、『今、私がいる場所』にいた薄汚い子供が、どんな目にあっていたのかを。
「 」
おばあ様が、私の頬を無理やり両手で挟んで、よく聞きなれた、『おまじない 』を囁いて。
おばあ様の胸元に光る、綺麗なピンクの宝石が、怖いくらいにキラキラと光、って──……
──どすっ
鈍い音を立てて、私のお腹に、おばあ様の手に握られていた短剣が突き刺さった。
「あ……ぁ、ああああああああぁぁぁあ"あ"あ"!!!!!」
最初は、衝撃。
次に、熱さ。
そして、その後に襲ってきたのが、焼けるような痛みだった。
痛い、痛い痛い痛いあつい痛いイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!
引き抜かれた短剣のせいで、傷口が広がった。
そこからどろりとした真っ赤なものがどんどん流れて、痛みにのたうち回る私の下に生暖かい水溜まりが出来る。
苦しくて、叫び声で喉が枯れて、けれど逆流してきた真っ赤なそれで叫ぶことすら出来なくなる。
「う"ぇ、げっ、ぁぐ……ぁ、あ"……っ」
私から出るなんて思えない、汚いえづき声が地下室に響く。
そのうち、それも出せなくなって、ヒューヒューとした音だけが口から出るようになった。
地下室の汚い床でのたうち回ったもんだから、体中にホコリやゴミが引っ付いて、すごく気持ち悪い。
痛みもどんどん引いていって、代わりに今はとても寒い。
視界もぼんやりとしてきた。なんで、私がこんな目にあっているんだろう?
──だって、私が今されていることは、この痛みは……過去に『おまじない』のために生贄にした、あの子供にした事だ。
私が受けるはずのない、痛み。苦しみ。
私のために、必要な生贄が負うべきもの。
私がするべきモノじゃないのに。
私は、ヒロインなのに……!
「ど、……し、て……」
ひうひうと、微かな音が漏れる。
ぼやける視界の中で、小さな『私』が顔を背けるのが分かった。
……確か、汚くて、気持ち悪くて、見たくなかったんだ。
そして、それを見たおばあ様、は──……
──思い出したけど、もう遅い。
「まったく、最期まで汚いガキだねぇ……さっさとリリィのためにならないか」
おばあ様は、見たくないと言う私のために……もう息絶え絶えな子供に、トドメを刺したんだ。
最期に見えたのは、短剣を振りかざす、冷たい瞳で『私』を見下ろす、おばあ様の姿だった。
──ズブリ。
そこで、私の意識はブツリと切れた。
……暗闇の中、見覚えのある薄汚い子供が、嬉しそうに光の方へと駆けていく後ろ姿が、見えた気がした。
……意識が切れた、はず、なのに。
「!!!!」
はっ! と勢いよく目が覚めて、飛び起きる。
心臓が嫌な音を立てて、めちゃくちゃな早さで動いていた。
「なん、で……、どうなってるの」
私は、また『あの地下室』にいた。
ついさっき自分の身に起きた、おぞましい出来事が鮮明に蘇って、体が震える。
夢? 違う。あんな生々しい夢があるもんですか!
髪を掴まれ引きずられる痛みも、投げつけられた衝撃も、──死が刻々と近づいてくる、あの寒さも。
全部、全部本物だった!!
なんで私があんな目に合わなきゃいけないのよ……!
ヒロインである私が愛されるための必要な生贄だったじゃない! 光栄に思いなさいよ!
孤児院や貧民の人間なんて、汚くて何をすることも出来ない。生きてたって意味ないんだから、世界のヒロインのために死ねたら本望でしょ!?
恐怖を無理やり怒りに置き換えて、血が滲むくらい強く拳を握りしめる。
……そうでもしなかったら、気が狂いそうだったから。
とにかく、何が起きてるのか考えないと……早く、この悪夢から逃げないと!!
そう、思った時。
──また、勢いよく、扉が開いた。
「ひっ……」
そこにいたのは、幼い『私』。
可愛らしい、愛らしい顔を歪めて、にいと笑っている。
その胸元には──おばあ様から譲り受けた、ネックレス。
「ぁ………、ああっ」
カタカタと体が震える。
さっきの痛みと、恐怖が頭を一瞬で支配する。
『私』が『ここ』に来た。
それは、つまり………
「うふふ、そんなに怯えないで? 大丈夫。あなたは……」
──世界のために、死ぬんだから。
『生贄』を、殺すということ。
振りかざされたナイフに、つんざくような悲鳴が響き渡った。
彼女は、『リリィ』は気がついていなかった。
叫び続ける彼女の体に、倒れ伏し血溜まりに横たわる彼女に。
彼女が『生贄』として扱って来たモノ達が無数に絡みついていることを。
彼女の体が、もの言わぬ骸に成り果てる度に、そのモノ達が1人ずつ減っている事に。
そして、また彼女は『目覚める』のだ。
──彼女が、全ての『生贄』の末路を追体験するまで、彼女の地獄は終わらない。
彼女の贖罪は、終わらない。
全ての命に、報いるまで。
また1人、ひとつの魂が、光へと駆け出した。
リリィの考えはあくまでも「やべえ女」として作ったもので、作者とはなんの関係もありません。ご了承ください。
全部の命に償った後もそのまま地獄にINするので、リリィの地獄に終わりはないです。
もっとスカッとするざまあが書けるようになりたい……。




