番外編1 彼女の贖罪
私は、因果応報って言葉が嫌いだ。
というか、なにそれって感じ。やられる方が悪いじゃん。
それなのに『悪いことをしたら、同じくらい悪い目にあっても仕方ないね』なんて理不尽じゃない。
悪いことをされて嫌で、怒ったんなら、他人が同じような目にあってたら助けなさいよ。何『仕方ない』で済ませてんのよ。意味わかんない。
やられる方が悪い。
私はこの世界のヒロインなんだから、何をしたって許される。
だから、大嫌いな『因果応報』なんて言葉が自分に降りかかるなんて、思っても見なかった。
「ここは……どこ?」
真っ暗な小汚い部屋に、私は横たわっていた。窓が一切なくて、地下室だと思われるそこ。
わけがわかんなくて、頭が混乱する。
だって私、あの時、身体が崩れ、て──……
「っ!!」
思わず勢いよく自分の手を確認すると、そこには元通りの綺麗な自分の手があった。
細くて白い、綺麗な手。
ささくれやひび割れなんかもない。
元通り、『ヒロイン』に相応しい私の手。
「よかっ………た……」
思わず腰が抜けてしまったのも、無理がないと思う。
震える両手で、しっかりと存在する自分の体を抱きしめた。
よかった。あれは夢だったんだ。
そうよね、体が紙くずみたいに崩れ落ちるなんて、ある訳ないもの。
あれは、自分が牢屋に入れられたショックで見た悪い夢。
これも夢の延長線に決まってる。
『ヒロイン』である私が、こんな薄汚い部屋に転がされてるわけないもの。
きちんと目を覚ましたら、きっと何もかもが『元通り』になっているに決まってるわ。
私はみんなから愛されて、アレンも私に夢中で。
そして、隣国の王子様のレオもあの女を捨てて、私のことを愛してくれるの!
そう思ったら気分が上がってきた。最近嫌なことばかりだったから。
力が抜けてた足腰も、もう大丈夫そう。
早く夢から覚めるためにも、少し動いてみようかしら。
──ガチャッ
そう辺りを見回したら、突然ドアが開いて、眩しい光が差し込んできた。
突然の光に目が開けてられなくて、舌打ちが出そうになる。
誰よ、いきなり! ちょっとは考えなさいよね!
そう、文句を言おうとしたら、光から伸びてきたしわくちゃな手に髪の毛を掴まれた。
「きゃあ!? 何すんのよ!?」
「うるさいね。早くおし」
……え?
聞こえてくるしわがれた声は、なんだか聞き覚えがある気がする。
この声、確か……
「きゃああ! 痛い! 痛いいっ!!」
やっと喉まで出かかっていた答えが出そうだったのに、髪を掴まれたまま引きずられてそれも弾け散ってしまった。
というか、声からしてババアでしょ!? なんで私を引きずる事が出来るのよ!!
確かに体が弱くて、華奢な『私』は体重も軽い。
けど、いくらなんでもこんなに軽々と枯れ枝みたいなババアが引きずれるわけも無い。
髪を掴む手に爪を立てたりもしてるのに、一切気に止める様子もないし!
痛みと驚きで目の前のババアを罵倒するけど、そんなの関係なくババアはスタスタと歩いていく。
ブチブチと音がして、髪の毛も抜けている気がする。ちぎれてるのもあるかも。
何よ、何よ何よ何よ! 私はヒロインなのよ!?
なんでこんな仕打ちを受けないといけないの!?
そう叫ぼうとしたら、目的の部屋にたどり着いたらしくて勢いよく放り投げられる。
引きずられて擦り傷だらけだった体が、冷たい床に叩きつけられて、息が詰まった。
綺麗に整えてた髪の毛もぐちゃぐちゃで、やっぱりちぎれてるいたみたいでハラハラと何本か落ちていくのが視界の端に映る。
「なにす、………………ぇ、?」
ゲホゲホと咳き込んで、文句を言おうとして、それが止まった。
だって、だって、私の目の前にいたるの、は──
「……おばあ様、なあに? これ……」
「ああ、可哀想なリリィ。今、楽にしてあげるからね……」
幼い日の、私とおばあ様だったんだもの。




