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なんでも屋さんの弟子  作者: ソフィア・ラグナロク
第1章「師匠は療養生活中」
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第1話「急変した師匠」

第1章「師匠は療養生活中」

第1話「急変した師匠」


 憧れの人・立花結衣のもとで修行に励む一番弟子の岬響子。明るい性格で言葉遣いの丁寧な美人である。でも師匠の立花結衣は世界ランキングでも有名なほどの美人だから、響子はそんな師匠を尊敬している。

 結衣は美人だけでなく、ハンター、鍛冶屋、クリエイターと、幅広いジャンルでたくさんの受賞経験がある。とくに鍛冶屋としての腕はトップレベルで、非常にたくさんの作成依頼がくる。1人だけでは素材集めや工房とショップ管理が出来ない事から、響子を工房兼ショップに雇用する事になった。

 そんな響子は師匠に弟子入りもしてショップ管理を任される事になり、早1年が過ぎた。

 

 武器作成依頼は疲れ果てている結衣の姿を見て、響子が調整をして1月に2本程度に下げる事にした。

 結衣はまだまだ出来るから4本でもいいとムリをしていた、そんなある日の夜の事だった。

 春が過ぎてそろそろ暑くなる頃。

 いつものように結衣が風呂に入り、響子が夕食を作り待っている時、30分、また30分が過ぎても、結衣が風呂からあがってこないから心配になった。

 一緒に住んで1年が経つ。こんな事は初めてだ。

 いつもは20分くらいであがるのに。しかも、明日は作成した武器の納品日。完成はしているものの、今回の武器依頼者は特別な人だ。大人気ギルドの熟練ハンターのマスター。その人が直々に取りに来る。

 とても響子だけでは対応のできない、難しい人。性格など喋り方はとても穏やかな人だが、20歳になったばかりの響子にとっては威圧感が強く感じる。

 他の男性なら、若い響子が相手なら喜ぶ事が多い。もちろん結衣でもだが。

 ただしそのギルドマスターは、響子一人では難しいのだ。

 結衣もそれを知っているから、2人で一緒に迎えようという話になっていた――。


 洗面所のドアをノックする。けれど何も反応がない。シャワーの音も、水のチャプチャプという音も。

 静かすぎる。不安になってドアを開けても、中から何も反応がない。

 風呂場のドアを開けると、横たわって出血している結衣の姿があった。身動きひとつもしてない。顔面蒼白になった響子は叫んだ。


「師匠! 師匠!?」


 あまり揺さぶらないように、けど動揺している響子は何をするべきかわからなくなっていた。

 出血は口元からだった。大量ではないけれど、吐血はよくない状態である事には変わりない。

 

(まさか死んでないよね!?)


 慌てて手首をつかむと、脈はちゃんとあった。けど、弱っている。

 血の様子を見ると、何度も咳き込んで、吐血したような感じだった。

 額に手をあてて熱を計ってみると、とても高い。

 

 救急車をすぐ呼ぶべきだ。

 そう悟って、ポケットに入れているスマホを取りだしてすぐに救急センターに繋げた。

 住所と緊急性を伝える。


「脈が弱ってます。早急にお願いします!!!」


 明日の事よりも師匠の命の方が心配になった。

 電話してから数秒も経たずに、救急車はすぐにきた。夜間だけど、ワープしてきたのだろう。

 呼び鈴が鳴って、走って玄関まで駆けつけて、すぐに鍵を開けた。すると救急員の男性2人と女性2人がいた。

 

「こっちです!」


 救急員が男性だろうが関係ない。師匠をすぐに助けたい。

 その一心で風呂場に4人を案内すると男性2人は一瞬戸惑ったが、吐血している様子をみてすぐに仕事に戻る。

 女性2人と男性2人で結衣を簡易転送シートに横にさせる。

 姿が消えたが、女性1人が響子の手を取った。


「ワープします」

「あ、待って!」


 この家の奥には明日くるギルドマスターに渡す武器がある。

 だから玄関の鍵を開けっぱなしにするのは危険だ。

 駆け足で鍵をかけて風呂場に戻ると、他の3人は既にワープ移動したようだった。女性の手をとると、場所が変わり病院にいた。


 師匠の結衣は手術室にいるようだった。


「師匠は大丈夫ですか!?」


 とても不安になっている響子が叫ぶ。

 救急員の女性は落ち着いた声でなだめてくる。


「きっと大丈夫ですよ。落ち着いて下さい」





 そういう経緯があり、日付はあっという間に翌日になり、ギルドマスターが武器を取りにくる時間帯になっていた。

 店は閉まったまま、隣接している家も鍵がかかったまま。

 武器を取りに来ると伝えていたギルドマスターは不審に思った。

 10時10分前。いつもなら響子が開店準備をして店の前にいて何かしらしている時間だ。

 だけど、その気配も全くない。

 何かあったか?

 急に何も連絡なく店が閉まる事はない。

 武器納品の件とは別に、店に訪問しにきた一般女性2人もいぶかしげな表情をしている。

 

「おはようございます。店、まだ開いてないんですか?」

「そう、らしい」


 おかしいぞ。

 そう思ったギルドマスターは、まずは店の電話番号に電話してみる事にした。

 中にいるのなら、何かしらアクションがあるはず。

 1コール、2コール、3コール……。

 全然出る気配がなく、奥から人が出る様子もない。

 一般女性2人にはここにいてくれと伝えて、ギルドマスターは家の方を観察し始めた。


 決して怪しい行為ではない。

 呼び鈴は鳴らしても、何もなし。

 ドアを開けようと思っても、もちろん開かない。

 少し周って中の様子を見ようと思った所、電気は点いていた。台所だ。廊下も。

 けれど明るい時間帯なのに電気を点けるだろうか?

 もう少し周って見るが、それ以外のおかしな点はない。

 仕方なく玄関先に戻り、呼び鈴を鳴らして、それがダメなら呼んでみるしかない。

 

「立花さ~ん! 岬さ~ん!」


 ……………。

 全然ダメだった。


 不安を抱きながら、あと何かあるか? と考えようとすると、さっきの一般女性2人がこっちにきた。


「インターネットでも、今日は通常通りに開店です、と……」

「どうした? 今日は武器を取りにくると連絡したんだが……」


 不満を募らせながら、今度は立花結衣の仕事の電話にかけてみる。

 けれど、それも反応がない。

 次が最後の連絡手段である、岬響子の仕事用に電話を試した。

 しかし、それもダメだった。


「岬さんの番号もダメだ」

「何かあったのかな?」

「事件……とか?」

「立花さんと岬さんに限っては事件はないだろう。2人共良心的な人ですよ」

「しかし、です。車の貰い事故と同じように、事件に巻き込まれた、とか?」

「けど、それだとインターネットですぐ話題にならない? ここ、有名だし?」

「どちらにせよ、さっぱり、皆目見当がつかな――」


 電話がきた。

 慌ててスマホの画面を見ると、その電話番号は最終手段のだった。

 急いで出ると、慌てている岬響子の声がした。


「大変申し訳ありません! どのようなご用件でしょうか?」

「武器を取りに参りました、ギルドマスターの――」

「あっ! すみません! 誠に申し訳ありません! え、えぇ、っと……。ナースの人。あぁ、コールどこぉ~!」

「???」

「いま病院でして……。大変申し訳ありませんが、数分お待ち下さい。また電話します」


 慌てた様子で電話を切られた。


「病院……?」


 ギルドマスターは何も状況がわからず、頭の中は「???」で理解不能状態だった。

 けれど事件に巻き込まれているといった心配は何もなかった。

 それはそれで安心なのではあるが、全然腑に落ちない。

 

 一般女性2人も、病院と聞いて「え?」と反応していた。


「岬さんからですか?」

「そうです」

「病院? けど、電気が点いて……。もしかして、昨日の夜、救急車がきた?」


 ハッとして、ギルドマスターはスマホからマルチツール機能で昨夜の出来事がわかるように、時間再現機能をオンにした。


 昨夜の出来事を目にして、ハッキリとした。

 突然救急車がワープ転送してきて、男性2人と女性2人が玄関前に現れた。

 呼び鈴を鳴らすと、顔色を悪くしている岬響子が現れる。

 

「こっちです!」


 けど、ギルドマスターと一般女性2人はそれ以上から先の事は体験できない。

 昨夜を再現している光の姿は家の中へと消えていった。


 そうこうしていると、慌てて岬響子が鍵を開けて出てきた。


「あっ!」


 家の前にいると思っていなかった響子はビックリして現れてきた。

 3人は怒ってはいない。けど状況がわからないから不安になっていた。

 けどそれよりも先に、響子はする事があった。

 店の前にかけつけると、そこにはもう既に客が5人ほどいた。


「遅いよ」という客もいる。


 しかし響子は、今日は開店できない事を店の窓に表示させる。


「本日は開店できません。依頼も、全部受付できません。お越しいただき申し訳ございませんが、今日はお帰りください」

「どうして?」

「状況がわかり次第、インターネットにて情報公開をします。大変申し訳ありませんっ!!!」


 響子が深く深く頭を下げる。

 そうまでして謝ったら、さすがにそれ以上怒る客はいない。今回は理解のある客が多く、咎める人は出てこなかった。

 

 店を閉店状態にして、インターネットからの告知で「本日諸事情のため閉店中です」とのお知らせがギルドマスターの所にもきた。


 閉店準備を済ませて家の方に戻ると、一般女性2人とギルドマスターが説明を求めてきた。

 しかし、響子の顔色がよくない。それを察して、一般女性2人は何も言わずに去っていった。


「何かあったんですか?」

「……………」


 響子はどう説明をするべきか躊躇った。

 どこから説明をしよう。どこから話をするべきだろう。

 うーん。うーん。といろいろ考えたが、ギルドマスターは察して立花結衣に何かあったのか? と聞いた。


「どう……お答えするべきか、わかりませんが……。昨夜から吐血して現在も意識不明なんです。とても……とても心配で」

「それ以上はいいですよ。わかりました。立花さんの状態がよくなったら、また連絡してください。いまは師匠の側にいてあげて下さい」

「ありがとうございますっ! けど、この事は公言しないで頂けますか? 混乱を招かないためにも……」

「重々承知しました」


 ギルドマスターはとても気が利く人だった。

 それだけ言葉を残して、ささっと車へと戻っていってくれた。


 響子はすぐに転送装置を通って病院に戻った。

 まだ、師匠は目を覚ましていなかった。機械を通してわかる師匠の心拍数は以前弱いままだった。


 昨夜の緊急手術を終えたものの、結衣の状況は変わらなかった。

 ドクターから知らされた事は、過労が原因でいくつかの臓器の機能が著しく低い事。そして、体内に侵入していた寄生虫がいた事。

 寄生虫はすぐに取り除かれたが、たくさんのダメージを体内に与えていた。

 声帯機能、思考能力、行動能力、神経系統、臓器機能の低下。等。とても深刻なダメージで、あと数時間遅ければ命を落としていたという。

 

 そういえば師匠は、昨日、ドラゴンとの対峙中に奇妙な虫に右腕に刺されたと言っていた。

 その虫は未発見で、数分間、右腕が麻痺状態になっていた。ドラゴンはその虫を脅威と判断したのか、すぐに逃げていった。

 とても小さいサイズだが、防具を貫通して突き刺すほどの虫だ。

 たまたま4人パーティーでドラゴンの狩猟をしていたから、師匠はすぐに待避できた。しかし状態は深刻になっていき、3人はクエストリタイアを選んだ、とか。

 そのまま病院に直行し、師匠はひとまず落ち着きを戻した。しかし、風呂場でのあの惨状。

 響子はとても心配で、ずっと付き添っていた。


(お願い、目を覚まして……!!!)

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