第122話 魔王、行きます!
魔王に攫われたエルフの姫様を取り戻しにエルフ軍が攻めてきた訳ですが、何故かエルフ軍と姫様が戦っております。なので困ってます。
それだけでなく、姫様がかなり好戦的なので迷惑してます。
なので俺が何とかしなくてはならなくなりましたとさ。
はい、めでたしめでたし。
と、言うわけで、エルフ軍の前に進み出たのですが。
……圧がすごい。
いや、帰したいのよ。でも帰ってくれないの。分かってくれー!
「貴様が姫様誘拐の首謀者か」
……るはずもなく。
将軍様からもれなく首謀者扱いですよ。
「まあ、なんというか。
結果そうなりました」
完全に不本意ですけど……。
「1人で前に出てくるとは、いい度胸だ。
色欲の魔王が軍門に下るとか抜かしていたが、ところで貴様は何者だ?見たところどう見てもただの人間のようだが。」
「えっと、一応人間なんですけど、魔王やってます。
ほら、知りませんか?新参魔王のヒトシです。」
「貴様が、あのヒトシなのか!?」
『あの』ってなんだろう?
「ククッ、人間風情が世界征服とはデカく出たものだ」
エルフ軍から嘲笑が起こる。
そういう意味の『あの』ね…。
あー、完全にバカにされてる。
これじゃあ話し、まともに聞いてもらえなそうだなぁ。
「そうです、そのヒトシです。」
--シーン…。
「よろしくお願いしますね。」
誰も口を利かなくなった。
こっそり魔王の能力『脅威』を発動してみたら、効果テキメン。
…いや、多分この笑顔のおかげだけど。
将軍様、ショックのあまり大事な精霊弓落としましたよ。もっと丁寧に扱ってあげてください。
「き、貴様。何者だ?!
人間などと嘯きおって。
弓に宿る精霊共もざわついておる。」
念の為、笑顔に加えて魔王の能力、『脅威』も織りまぜてみたけど、効きすぎじゃない?
ただのスマイルですよみなさん!
……俺、涙目だよ。心折れそうだよ。
「か、姫様は帰りたくないそうです。
必ず説得して帰しますから少し時間をください。」
ふぅ、やっと言えたよ。
笑顔がエルフさん達に効きすぎたショックで少し噛んじゃったけど。
「そのような戯言を信じて素直に帰るやつがいると思うか?
我らは命懸けで魔王から姫を取り戻しに来たのだ。」
ですよねー。
でも見てたでしょ、攻撃を仕掛けたのはあなた方の愛すべき姫様だけなのよ。現実を受け入れて!
「まだ分からないのか?
こちらは魔王2人、更に姫までいると言う事がどういうことか。」
「卑劣なヤツめ、姫を盾に我らを退かせるつもりか!
その手には乗らぬぞ!」
えー、なんでそうなるの?確かに最前列で戦ってたけども。
「姫が前線に立っているんだぞ。
それがどういうことか分からないのか?
もし姫を傷つけたらどうするつもりだ?
魔王が悪い。
で通る話か?子供じゃあるまいし。」
「ぐぬぬ……。知った風な口を利くな」
「一度戻って国王に報告した方がいいんじゃないのか?
さっきも言ったがこちらは魔王ふたりだ。しかも、色欲を下した魔王ということを忘れてないか?
それに対抗するだけの戦力がここに有るとは思えないが、そうでないと考えているならば俺は舐められているのか?」
各方でエルフがザワついている。
今度は『脅迫』を使ってみたのだけど。
卒倒するエルフ兵が続出だよ。恐慌状態のエルフ軍。いや、大袈裟すぎるでしょ?!ただの笑顔ですよ。
…ショックで笑顔がひきつってきた。
よく効くけど、こっちの精神への反動がデカすぎる。諸刃の剣だ!
「グッ、このままでは済まさぬぞ。
全軍一時撤退だ!姫を人質に取られては分が悪い、作戦を練直す!我に続け!」
………。
が、振り返り唖然とする将軍。
「何だこれは…。」
気絶する者、パニックで泣き叫ぶ者、腰が抜けて動けないもの、逃亡をする者。軍は壊滅状態ですよ将軍。
ていうか気付いてなかったのね。
「撤退だ!皆の者、一時撤退だ!」
撤退の合図に散り散りに逃げ惑うエルフたち。なんか悪いのはこっちなのに申し訳ないな。
そう思い、俺は一体のクローンを生成する。
聖女。
あらゆる回復術に長けたジョブである。
「ヒールレイン」
ポツリ、ポツリ、サァァァァ…
晴れ渡る空にキラキラと癒しの雨が降り注ぐ。
「雨だ、恵みの雨だ。」
「まだ、助かるかもしれない。」
「神は我らを見捨ててはいなかった。」
強恐慌態だった軍は平静を取り戻しつつあった。
癒しの雨を受け、気絶した者達も目ざめ始める。
「…雨?癒しの雨?」
良かった、これでみんな歩いて帰れるね。
そしてここに白き聖女の伝説が生まれようとしていた…。
「いや待て皆。あの聖女の顔つき、魔王に似てないか?」
「確かに、いや。瓜二つだ!
訳が分からない。助けて…。助けてくれー!」
恐怖の魔王と同じ顔の聖女が不気味な笑顔で癒しの雨を降らせるという訳の分からない状況に再び混乱をし始めたエルフ軍。
伝説は幻に終わりました。
ま、みんな目を覚まして無事に帰ってくれればそれでいいか。
そういう事にしておこう。
自分で不気味な笑顔って思っちゃったことは記憶から抹消しよう。
「ヒトシ様、なぜ泣いておられるのですか?」
な、泣いてなんかないもん!
記憶を涙と共に流した俺は、何とか魔王とエルフの全面衝突は避けることが出来た。
エルフとエルフ姫は衝突してた気もするけど。
「それにしてもさすがとしか言いようがありません。戦うまでもなく実力を示されました。更には気絶した者達にまで慈悲の心を…。」
憧れの眼差しが眩しいぜ。
でも、ここまで話がややこしくなった原因はあなたですけどね。
「ええ、さすが『我が主』ヒトシ様ですわ。」
リリーさん、ハートマークいっぱいでてます。そして「我が主」を強調しすぎですよ。
さっきの「色欲を下した〜」の下りは言葉の綾ですからね。
…
あれ?エルフ軍の方から誰か歩いてくる。
浅黒い肌の灰髪のオールバック紫がかった瞳、すらっと背の高い美男子。
あれがダークエルフって言うのか?
安堵の表情を見せていたフリスの表情が瞬時にこわばる。
「いや、お見事でございます。」
黒い革のグローブをはめた手が賞賛を打ち鳴らす。
きらびやかなスーツの様な格好から見るに、戦士でも魔法使いでもないようだけど。
エルフ軍が逃げ惑う中なんの警戒もなくただ1人でこちらに向かってくる様に、只者でないのはわかる。
それに、
「フリスさん大丈夫ですか?」
フリスさんの緊張が尋常じゃない。
「な、何故あなたがここに?!」
「それはもちろん、私があなたの執事…」
そう言いかけてこちらに向き直る。
「あぁ、これは失礼いたしました。
私としたことが自己紹介もせぬままとは。
私、フリス様の執事のブラム、と申します。以後お見知り置きを。
戦わずしてエルフ軍を退けるその迫力に、名乗ることも忘れてしまったのです。お許しください。」
礼儀正しく自己紹介をした男は恭しく礼をした。
「あ、どうもご丁寧に。ヒトシです。」
「何をしに現れたのです?」
「何をしにとはまた、寂しいことを仰られる。
私は貴女の執事、姫の身を案ずるのは当然のことかと。」
「また白々しいことを。
私を、連れ戻しに来た訳ではないのでしょ?
私が出ていくのを知りながら見ぬ振りをしたあなたですもの。」
何と、この執事は攫われていく姫を見殺しにしたのか?
さっきから姫様の目も伏せがちだし。あまりいい関係とは言い難いようだ。
確かに、物腰も低く喋り方も丁寧だけど、さっきから感情を全く感じられない。
すごい違和感だ。
姫様の反応も頷ける。
「そのような仰られ方は甚だ心外です。
姫様が自ら出ていくものを誰が制止できましょうか。」
「…ブラム、何が目的なの?」
執事の目を見据えて真意を問う姫様。
それにしても姫様、やりずらそうだ。
「目的、ですか…。
そうですね、しいて挙げるのであれば、姫様のお役に立つこと。で御座いましょうか。」
ここで男は初めて口角を僅かに上げた。
「…そう。…分かったわ。
また、追って連絡します。」
「かしこまりました。
では、心ゆくまで魔王様との交流をお楽しみください。
いずれお迎えにあがります。」
「……はい」
表情なく姫様が答える。
「魔王様方、姫様のこと、どうかよろしくお願い致します。」
そう言うと執事ブラムはニコリと笑い、くるりと向きを変え撤退するエルフ軍の方へ歩いていった。
「不気味な男でしたわね。」
「……」
ブラムの去る方を見つめ、ボーッと佇む姫。
「フリス?」
と、リリーさん
「あ、……ええ、アハン将軍とは別の意味で苦手です。」
そんな感じですね。
「えっと、取り敢えず姫様がなぜ自らここに来たのか、なんで俺のことを知ってるのか。聞かせてもらってもいいですか?」
執事さんに帰るって言ってたから、エルフが攻めてくる事はしばらくないとは思うけど、あんまり長居はさせられない。でも理由はちゃんと聞いておかないとね。
「ヒトシ様、ここではなんですので、中で話の続きを致しませんか?」
「確かに、せっかく招待してもらったんだからリリーさんの魔王城でゆっくり話を聞きましょう。」
トラブルはひと段落ついて、俺達はリリーさんの居城に戻ることにした。




