第104話 記憶の香り
光は全てのものを照らし恵みを与える唯一
闇は淀み、燻り、混ざり、全てを飲み込む
光は恩寵。
闇は誕生。
混沌より、産まれし数多の魂は、
光に触れ人となる。
人は光の子、そして闇の子。
「なんか難しくてわかるようなわからないような。」
(謎解きの手助けになればと思ったんだがな
余計に混乱させてしまったかの。)
俺は魔王の魔結晶で作った
大樹のてっぺんに来ている。
スライムおじじのダンジョンに繋ぎぱなしのままだけど。
とりあえず今は使う目的もないから
このままにしておこうと思っている。
「いえいえそんなことはないです。
頭の中で今引っかかっている疑問の解が
その言い伝えの中にあるような気がします。」
(そうじゃな。
もう少し熟考を重ねてみると良い。
人の言葉だけを頼りに出した答えなど
なんの価値もない。
『スライムに剣を与える。』
という、古き言葉もある。)
コトワザみたいなものかな?
「どういう意味なんですか?」
(ほほ、そうじゃのう。
ワシらに武器防具は装備できん。
ただ剣を渡されても、無意味じゃろ。
だがの、時間をかけ、鉄を溶かし取り込むことで自らの血肉とすることが出来る。その時にその剣の歴史が見えることもあるのじゃ。
すぐ答え、力を求めるだけではなく、その答えにたどり着くための、考え、想い。それこそが本当の力になる。
と、言うことかの。
年寄りの戯言じゃ、ほほほ。)
……。
(それにしてもここから見る景色は
素晴らしいのう。)
考えさせられる言葉に思わず
黙ってしまった。
スライムおじじはよくここを訪れて
景色を楽しんでいるようだ。
「俺もおじじにこの景色を
気に入ってもらえて嬉しいです。」
(このどこまでも続く景色を見ていると、
遠い昔を思い出す。
すでに記憶は色褪せ、擦り切れ、
微かな残り香があるのみじゃ。
それでもなお、懐かしい心地がする。)
スライムおじじの過去。
お爺は昔から暗いジメっとした穴蔵の中で
過ごしていたんではないのだろうか?
ちょっとスライムおじじの過去に
興味が湧いた。
「その残り香、俺にも分けてくれませんか?」
(ほほ、こんなお爺の昔話に興味があるのか?
何を話そう…。
胸の踊る話が良いの。
お主は マグナスを知っておるか?
神話に出てくる『大地の怒り』と呼ばれる
巨大龍じや。
怒りは大地を震わせ人々を恐怖に陥れる。
一部では破壊の悪魔と呼ばれ
恐れられているとか。)
マグナス…。
どっかで聞いたことがあるような気がするけど。
魔竜王マグナ?
ちょっと違うけど、魔王の名前だったかな。
「そのマグナスがどうしたんですか?
恐ろしい龍のようですけど。」
(本来はそういうものではなかったのじゃ。
元々は龍人の一人。
人の姿をしておったのじゃ。
この話は、あやつとわしが若かった頃
共に旅をした話じゃ。)
……
スライムおじじの話は、
ところどころ曖昧で辻褄が合わなかったり、
抜け落ちた部分があったけど、
マグナスとの出会い。ダークエルフの少女出会い。それから、魔王退治。
とても懐かしむように、思い出を楽しむように、話して聞かせてくれた。
もしかしたらおじじも、マグナスと同様、今のこの姿ではなかったのかもしれない。
(わしの昔話はどうじゃったかの。)
「おじじも昔は色んな人と出会い、
旅をしたんですね。」
(いやいや、わしは嫌われ者じゃったからの。
ほとんど周りは敵だらけじゃったよ。
まあ、その話も、後でしてやろうか。)
「はい、お願いします。」
ただ今は、どこまでも広がる景色と、おじじの色褪せた思い出。
心地よい風に吹かれて、流れる雲を眺めていよう。
……
『リリスが通信の許可を求めています。』
なんだ?なんかきたぞ。
承認/拒否
浮かび上がるふたつの文字。
あぁ、魔王システムか。
リリーさんからだ。
「おじじ、六魔天の1人、リリスさんから通信が来ました。」
(ほう、新魔王たちが使う遠距離念話じゃな。)
新魔王?魔王も進化してるのかな?
便利な時代に生まれたものです。
(わしのことは良い、話してみるといい。)
「すいません。」
リリーさんからの通信を許可する。
『あぁ、ヒトシ様。
良かったですわ、私がワープホールをくぐる瞬間、アリとなにやら話していたようでしたので、心配していたのです。
かと言って、心配して連絡しては、それはヒトシ様の力を信じていないことに等しく、かと言ってもしもの事があったらと思うと……。』
あー、これはそのうち、罰を〜。
とか、死ぬ。とか、言い始めるパターンだな。
『リリーさん?』
『あっ!申し訳ございません。』
『だいじょぶですよ。
アリさんとは、あの後
少し、話をしてただけです。
心配してくれて、ありがとうございます。』
『そんな過ぎたお言葉、私には勿体なく、
私の心配など、ヒトシ様の力に比べれば
塵の如きもの。
あ、それではヒトシ様に塵を付けた私は、
万死に値する……。』
結局そこにたどり着くのね。
『あの、リリーさん?
用事はそれだけですか?』
『……。』
あれ?黙っちゃったぞ?
『『あの。』』
『あ、どうぞ。』
『はい。
あの、できればおそばに置いて欲しいと、
思いまして……。
なんでもいたします。
小間使いでも、護衛でも、
あの、その、
夜の、お相手でも……。
は!申し訳ありません。
余計なことを。
これはただの私の願望。
ヒトシ様に望んで頂けるのなら、
これ以上ない喜びなのです。』
セクシー美女魔王の忠誠の言葉がスゴすぎるんです。「俺、そんなんじゃないんで。」
なんて、言い出せる雰囲気ではない。
『だ、だけどリリーさんにも、
魔王としての仕事が…。』
『そんなもの私にはありませんわ。
ヨギや、アリのように
国など持っていませんもの。
強いて言えば、王女に美貌とカリスマを与え王を虜にし影からあやつったり、姫を他国に嫁がせ、王宮内の人間すべてを魅了したり、女宮に潜り込みハーレム三昧を楽しみ、飽きたら女宮に溢れる愛を王に預け溺れさせ、国政を傾けたり。
その程度ですわ。』
あとは勇者にわざと封印されたりね。
て、なにがその程度なのか。
そっち方面の戦闘力はピカイチですね。
恐ろしい魔王だ!!
真夜中の寝室での熱い戦い。
俺では敵わないだろう。
敵に回らなくてよかった。
『でもみなさん言ってたじゃないですか。
パワーバランスが崩れるって。』
『そんなものヒトシ様の独裁で
解決ですわ。』
いやいや、そんなことする気ないから。
皆はヒトシ様に支配されたいですか?
「絶対皇帝ヒトシ」はアリですか?
ん?
でも世界征服って、そういうことか?
『独裁だなんて、そんなこと考えたこともありませんよ。』
『正直そんな事は二の次です。
お傍に置いてください。』
熱い気持ちが伝わってくる。
でも、あの格好で常にそばにいられたら、
嬉しすぎる。
いやいや、危険すぎる。
『リリーさんにはリリーさんの
役目があるんです。
俺もまだ魔王になりたてで、
どうしていいのかわかりません。
もう少し時間をください。』
『……ええ、分かりましたわ。』
シュン、となってしまった。
ごめんなさい。
『良い返事、お待ちしてますわ。』
『すいません。
その代わりと言ってはなんですが、
いつでも遊びに来てください。』
『いいんですの?』
あはは、キラキラ笑顔が見えるような
声に変わった。
『もちろん。いつでも来れるように、
転移用のスライムを預けますよ。
でも、一度会って渡さないとな。
えっと、どうしたらいいのかな?』
『良ければ私の居城に一度お越しください。
おもてなしさせて頂きたく存じます。』
リリーさんが言うには魔王招集で、
個別に招集出来るらしい。
せっかくの招待を断るのも失礼だし、
何よりほかの魔王の居城も見てみたい。
俺は招待を喜んで承諾した。
リリーさんの魔王城はどんな感じなのか、非常に楽しみ。
もてなしの準備があるとのことなので、
後でまた連絡をくれるそうだ。




