第103話 2人で1つ
襲い来るトッポさんと無数の刃。
見えちゃってるから全然かわせないことはないんだけど。
地面に手を押し付けた瞬間。
自分の周りを囲むように
黒みがかった紫色の壁がスっと出現する。
ギガギィーーン……
黒紫色の壁が大きくひしゃげる。
そして壁にぶつかった何かが細かく振動しているのが分かる。
しかし、すぐに何事もなかったかのように
凹凸のないまっ平らな壁に戻る。
「これはアダマンタイトじゃないか。
こんなの隠し持ってるなんて、
ずるいじゃないか。
魔力にもよく馴染んでるみたいだし。これじゃ放魔石に取り込むことも出来ない。
しかも復元性まで持ってる。
どういう仕組みなんだい?」
「それは秘密です。
トッポさんの技術と交換になら教えてもいいですよ。」
実はヒヒイロカネを少しだけ混ぜて
柔軟に対応できるように作ったんだけど。
ヒヒイロカネの事は、簡単にばらさない方が良さそうだしね。
トッポさんになら教えても全然良さそうだけど。
「それはとても、興味深い取引だね。
では決着がついたらその話、
乗らせてもらおうかな。」
そんな会話を交わしていた次の瞬間。
体を通り抜けていった何か…。
右肩に数ミリの穴が貫通していた。
「アダマンタイトは超高硬度だ。
でも君のその何かの技術により
柔軟性を持つことで、
少しだけ貫通に対する耐性が
下がってしまったようだね。」
そういうことか!
性質を見抜いてすぐに弱点を突いてくるなんて
さすが研究者。
目の付け所が違う。
「ちょっとこれは手間だけど、
この方法で倒せそうだね。」
壁の向こう側で、細かい雨粒のようなものが
無数に生成されているのがわかった。
これはまずい。
このままだと蜂の巣にされて、
復元不可能になってしまう。
アダマンタイトに復元性を持たせるため、
ヒヒイロカネをちょっとだけ混ぜたのが
仇になったか。
いい考えだと思ったんだけど……。
硬度を増すために魔力を込めたところで
トッポさんの放魔石の性質によって吸収され
利用され俺にはね返ってくる。
逆効果でしかないのは分かっている。
こちらが動けば即座に攻撃態勢に移るだろうし
様子を見ていてもトッポさんの準備を
万全に整えてしまうだけだ。
俺はアダマンタイトの防御壁に手を添え
壁を消し去った。
「やあやあ、
こらえきれずに出てきちゃったね。」
すでにトッポさんの攻撃態勢は整っていた。
「発射!!」
無数の白く輝く粒が同時に放たれる。
蜂の巣どころか跡形も残らないよ!
これはまともにくらったらひとたまりもない。
「どうしちゃったんだい?
諦めちゃったのか。
全く反撃の様子もないけど。」
抵抗の様子を見せない俺を見て
トッポさんは少しがっかりしたようだった。
表情は読み取れないけど。
チリリ……
チリリ……
体中のあちらこちらで白く輝く粒の当たる音がする。
光の粒によって周りは埋め尽くされ
何も見えなくなった。
「どうやら僕の勝ちだね!」
もうもうと白く輝く煙が上がる。
まるで蒸発するかのように。
「なんでだい?!
どうして無傷でそこに立っていられる?」
「黒紫に輝く鎧。
トッポ。あれはアダマンタイトよ。」
「でも、さっきは余裕で貫通できたのに。」
そう、瞬時にスライムスーツを生成
アダマンタイトを取り込ませ、
生命力を大量に注ぎ込み作り上げた鎧だ。
「体内に取り込んで僕の生命力と錬成を行ったんです。」
「なるほど、道理でさっきとは段違いに
耐久力が上がってるわけだ。」
トッポさんはしきりに感心していた。
今が最大のチャンス!
ここぞとばかりにトッポさんに斬りかかる。
決まった!
と、思った瞬間。
トッポさんの影が後ろにずれる。
「あれ?」
完璧なタイミングだと思ったんだけどな?
俺が呆気に取られていると。
「ありがとうスリヴァ。」
「このままでは勝負がついてしまいそうだったから。
勝手に参戦したわ。」
「うん、危ないところだったよ。」
そうだったー。
そういえばなんか最初二人で戦う。みたいなこと言ってたなー。
本番はこれからってことですか?
マヂで、やめて欲しい。
「ふふふ。とても楽しそうだね。」
と、トッポさん。
どうやったらそう見えるの?
僕は一言もそういった類の発言をした覚えはありません…。
「僕の魔力だけじゃ、
この人形を操りきれなくてね。
スリの魔力と、僕の技術で、
やっと完成ってところなんだよ。」
らしいですわよ、奥様。
あらやだぁ、知りませんでしたわ。
ほほほほほ……。
助けて!マダーム!
「残念ながらスリの魔力には光属性を付与することができなくてね。
丸見えになっちゃうんだけど、さ。」
トッポさんがそう言い終わるか終わらないかのうちに
体が大きく後ろにのけ反らされた。
斬撃だ。
スライムスーツの胸に
横一筋の切傷が。
さっきの戦いでは傷一つつかなかったのに。
トッポさんがにやり、と笑った気がした。
「どうやら反応しきれなかったようだね。」
トッポさんは聖母竜スリヴァの力によって
恐ろしいほど戦闘能力が跳ね上がっていた。
これはもっと集中しなければ。
目に見えないほど超高速の斬撃。
しかしさっきのように見えない攻撃ではな。
あとは俺次第。
ザルバさんとの戦いで身につけた相手の動きを読む洞察力。
筋肉の弛緩、視線の動き、空気の流れ、魔力の波動の強弱。
わずかな変化をとらえ相手の動きを読む。
トッポさんの場合は人形なので、
筋肉の弛緩と視線の動きを捉えるのは
不可能。
しかし魔力の流れを読み、攻撃の動作を予想する。
僅かな魔力の流れ、
強弱は攻撃の意思を示している。
自分の心を鎮めて、相手の動きの機微を捉える。
「明鏡止水。」
かっこいい言葉だなぁ。
「はあ。」
そんな言葉とは程遠い自分の心の中を
見つめながらため息をつく。
でも、今は自分にやれることを精一杯やろう。
分かるのはせいぜい横から来るか、 縦から来るか。くらいだろうか。
横!
伏せる。
縦!
捩る。
動きが変わった。
横が二回!
後ろに飛び退く。
「ワオ!君のゆるーい雰囲気から
そんな集中力は想像つかなかったよ。
そこまで出来るなんてね。
面白いね、やっぱり君。」
あんまり興味持たないでいいですよ。
どんどん戦いが激しくなりそうだから…。
次は…突きか。
膝を深く曲げ体制を低くし、突きを躱す。
おそらく頭を狙ってくるだろうと読んで。
ひゅん!
頭の上を大剣が真っ直ぐに通り抜ける。
ドンピシャ!
膝を曲げた反動で踏ん張り、カウンターの斬撃。
ズガンッ!
?!
「なんだ?!」
胸から上がひしゃげて弾け飛ぶ!
誘い込まれたのか……
「頭を潰したところで駄目そうだね。
でも斬撃より、貫通より打撃が一番効果的だね。
致命傷とは行かないみたいだけど。
ほんとに頑丈で、厄介だな。」
こちらの性質を徐々に暴きながら、
余裕で戦っている。
どうやら、こちらの回復を待っている様子。
もう一撃さっきのを喰らえばほぼ終わるのに。
「来ないんですか?」
「うん、再生を待つよ。」
興味半分といったところか。
「こんな楽しい戦いは久しぶりだからね。
ここで終わらせるのはもったいない。」
かなり余裕な発言。
そりゃ、手も足も出ないんだから当然か。
今までまともにタイマンで戦ったことなんて
なかったんだもん。
ザルバさんくらいかな。
でもそれとは比較にならない戦闘力。
洗練さで言えばザルバさんだけど。つまり大した戦闘技術じゃないのに、
この実力差。
まあ、こっちより引き出しの数が明らかに多い。
「よし、回復してきたね。
続き、やろうか?」
「お願いします!」
お願いします?!
俺は何を血迷ってるんだ。
こんな戦闘なんか全然望んでなかったのに。
僕にもどこか遠い惑星の戦闘民族の血が
流れているのかもしれません…。
離れれば斬撃、刺突。
近づけば打撃。
魔法は効かないし、八方塞がり。
転移して後ろに回ればどうだろう。
かたは付きそうだけど、それってどうなの?
俺は誰に答えを求めてるんだ?
自分で考えろ!
後ろを取る、か。
そもそも斬撃は両手から来るけど
打撃はどこから?
それを見切らなければ活路はない。
斬撃刺突をくぐり抜け、再び懐へ。
しかし打撃が来る気配がない。
と思った次の瞬間。
ガツリ!
これだ、しっぽ。
いや触手?
背中から二つの細長い尻尾のような物が。
なんとか直撃は避けれた。
更に懐に深く潜り込む。
尻尾の直撃!
しかし体に密着したことで
威力は殺すことができた。
さらにもう一撃が繰り出される。
3メートル近くある彫像の股下をくぐり抜け、
後ろとった!
と同時に一撃を浴びせる。
「勝負ありね。」
スリさんの声。
渾身の一撃は尻尾にいなされ、
地面にめり込んでいた。
そして頭上高くに尻尾が振り上げられていた。
「参りました。」
正直、悔しさはあまりなかった
格が違いすぎて。
クローンのレベルアップ、
魔力、生命力で更なる強化。
スキル付与で有利に持ってく。
勝つ方法はいくらでもあった。
だけど自力でそこを突破することで
得られる何かがあるんじゃないかと
。
今回はそういう戦いだった気がする。
戦いは好きじゃないけど、こういうのって面白いと思う。
「えへへ。
そりゃ、まだまだ君に負けてるわけには
いかないからね。
新米魔王君。
今回はこれくらいにしておこう。
石は好きに使ってもいいよ。
こっちから技術を提供するのは簡単だけど、
新しい魔王の発想力も期待できそうだしね。
まずは自分で柔軟に考えてごらん。
何かあったらまた訪れねばいいよ。
何でも聞いて、相談してよ。」
トッポさんから、嬉しい言葉を貰えた。
「ありがとうございます。
是非これからも力になってください。」
俺は丁寧に挨拶をしてトッポさんと
スリさんのもとを後にした。




