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15話 訓練2

 オンボロ屋敷から出ると、それなりに広い庭が見えた。

 この屋敷に到着して以降、「ここは伯爵の私有地とはいえ、見つかる可能性もないわけではないから極力出ないように」と言われてこの屋敷に閉じこもっていた為、久しぶりの外である。

 太陽がまぶしい。

 どうやら、この世界でも太陽は存在しているようだ。

 常識から何まで違う異世界だけに、それだけで妙に安心してしまう。


「それでは、始めましょうか」


 ロジー老人の落ち着いた声が響く。


「杖を配ります。これが、魔法の呪文を唱えるには必須になります。


 やはり、魔法といえば杖。

 それは、この世界でも同様だったようだ。

 杖、というか西洋紳士の持つステッキのようなものが皆に配られる。青、赤、緑、茶、黒、金の色が用意されていた。


「もしかしてこれって、属性の色っすか?」


「お、ナオキ君よく気がついたね。そうだよ。違う色のステッキを使っちゃうと使えないから気をつけてねー」


「という事は自分は青色っすか」


 そう言って青色の杖をナオキがとる。

 アレックスが茶色、タダシが赤色、サラが金色のそれを取る。


「じゃあ、俺は黒か」


 俺が杖を持ったのを確認し、ロジー老人は緑色の杖を持つ。


「ロジーさんは風属性だからね」


 補足するようにハナコが言う。


「まずは、想像してください。自分が魔法を使うイメージを。それを、体の中から外に出すように」


 ロジー老人が説明を続ける。


「マナ、と呼ばれる魔力の源が皆さまにはあります。しかし、皆様方のいた世界では使われず、閉ざされておりました。しかし、レミーお嬢様から『祝福』を受けた事により、塞がれていた扉が開けられているのです。今ならば――使えるはずです。皆様方が魔法を」


 魔法、か。

 正直どう想像したものか。

 いまいち実感がわかない。


 どかーん、とかぴかっ、とかいった擬音で敵を倒すようなイメージでいいのだろうか。


「……」


「……」


「……」


「……」


 戸惑いは他の皆も同様だったのか、なかなか杖に反応はない。


「落ち着いてください。皆さまは既に『祝福』を受けている。もはや決して難しい事ではないのです」


 ロジー老人の落ち着かせるような声が包み込む。


 落ち着いて。

 落ち着いて。


 ……。

 ………。

 …………。


 最初に、反応があったのはタダシだった。

 赤色の杖の先から、わずかに火が灯った――ように見えた。


「おお、おおっ」


 妙に興奮したような声が漏れる。


「で、出たっ」


 サラの声に、皆の視線が集まる。

 見ると、サラの金色の杖の先からわずかに光が漏れている。


「おお、一番乗りはサラちゃんか」


「えっと、これは何の魔法になるんだ?」


「光魔法の初歩の初歩。『点火』だね。まあ、暗いところで使うと少し便利なぐらいかな」


 それはまた……。

 便利なような不便利なような。


 妙な気分になる。


「ぬおおおっ!」


 力を込めた声が響く。

 何事かとみると、タダシが杖の先から猛烈な勢いで炎を出していた。


「おお、おお、おおっ!」


 どうやら、炎を出す事に成功したらしい。


「おお、タダシ君が2番乗り」


 ハナコも感心したように目を瞬かせる。


「……」


 続くように、アレックスの茶色の杖から小さな石のような塊が出る。


「アレックスさんが3番、と」


「えいやっ」


 今度はナオキの杖から水が漏れた。

 それは、壊れた水道からしぼりだすような水滴のようなものだった。


「ナオキ君は4番だね。さて最後になるのは――」


 周りの視線を気にしながら、集中力を高める。

 魔法、魔法……。

 これから自分は魔法を使うんだ。魔法を。


 ……。


「おおっ」


「で、出ましたよ! 何か黒色なのがっ」


 関心したようなナオキとサラの声が聞こえる。


「これが、闇属性の初歩『暗闇』だね。この黒い塊を誰かにぶつければ、目潰しとして使えるものだね」


 何ともせこそうな。

 神魔属性などいうからには、もっと御大層なものを想像していた。


「ま、これで一通り全員ができたみたいだね」


 一安心、といった様子でハナコは皆を見渡す。


 ナオキは喜んだ様子で、「おお、おおっ」なんて言いながら水を出したりしている。

 その様子は、まるで水遊びでもしている子供に見える。


「……ふんっ」


 アレックスは小さく呪文を唱えると土を出し、もう一度呪文を唱えるて少し大きな土を出したりしている。

 どうやら、どの程度力を入れればどれほどの威力になるかを検討しているようだ。


 タダシも炎がどの程度の威力が出せるか試しているようだ。


「じゃ、まずは簡単なものを。『探査』なんかをしてみたらどうかな?」


「探査?」


「うん。『暗闇』と同様に簡単な魔法。周りに誰かいるのか調べる事ができる魔法なんだ。 ……目を瞑ってみて?」


「目を?」


「うん」


 言われた通りにしてみる。

 視界がシャットアウトされる。

 当たり前だが、何も視界にはうつらない。


「集中してみて――落ち着いて。落ち着いて探るようなイメージをしてみて?」


「イメージ……」


 探るイメージ。

 といわれても、困るが、何とかしてみる。


 すると、小さくいくつかの人型が浮き上がってくる。


「あ、何かが見えるような……」


「お、いけたかな?」


 人型の一つが、軽く指を二本立てて見せた。


「今、この指は何本たっている?」


「二本」


「うん。ちゃんと使えているみたいだね。目を開けてもいいよ」


 うんうん、とハナコは頷いているようだ。

 それに従って目を開けてみる。


「へえ、便利なものだな」


「まあ、基礎中の基礎だけどね。本当は、夜とか何も見えない洞窟とかで見えない相手を探す為に使うものなんだ」


「なるほど」


 と頷いてから、


「それで、他に闇属性っていうと何があるんだ?」


「とにかく数は多いよ。『爆破』とかもそうだね」


「爆破?」


「うん。その名の通り爆発させる魔法だね」


「そのままだな」


「うん。単純だけどね。威力はそこそこだし、習得も簡単なものだよ」


 ハナコはふところから、古い人形を一つ取り出す。


「これを爆発させるイメージをしてみて?」


「爆発、か」


 爆発。

 爆発、爆発、爆発……。


「うわあっ」


 ばん! と急に人形が爆発した。

 ハナコではなく、近くで見ていたサラの方が驚いたように声をあげた。


「うん。すぐに使えるみたいだね。やっぱり素質は高いよ、キミ」


「そうなのか?」


 そうはいっても、この世界の基準とやらがさっぱり分からない以上、すごいなどと持ち上げられても困る。


「もっと他にないのか? もっとすごい奴とか」


「そうだね。『転移』なんかも闇属性かな。あ、でもこれは難易度がかなり高いからね」


 俺の質問にハナコが答えた。


「転移っていうと――テレポーテーションみたいなやつか?」


「概ね、その印象で間違っていないね」


 ハナコは頷く。


「といっても、ほとんどの『転移』の使い手がせいぜいが数メートル、あるいは数十メートルの移動がせいぜいだからね。はっきり言って普通に歩いたほうが楽だよ」


「ほとんどっていう事は一部は違うのか?」


「うん。世界にほんの一握りだけど、大陸中どこにでも移動できる使い手がいるって噂だよ」


「じゃあ、俺はどれくらい?」


「さあ? 試してみないと分からないけど、貴方の適合率はかなり高いし、かなりの距離をいけると思うけど」


「そうか。じゃあ試してみるか」


 どうでもいい話ではあるが。

 子供のころ、一番欲しい超能力は何かと言われた時、一番欲しいのがテレポーションだった。

 物を動かす能力やら、発火能力よりもただ便利そうだから。


 意味もなく練習したりもしたが――当然ながら、使えるようにはならなかった。それが今、使える。

 超能力ではなく魔法だったが、どこかわくわくと興奮してしまう。


「あ、でもいきなり試して成功するわけ――って聞いてないのか」


 ハナコの声をよそに、集中する。

 イメージしてみる。


「ま、一応試してみるのも悪くはないか。 ……どうせ失敗するだろうけど。何事も基礎からだよ?」


 ハナコの声を無視するように、イメージをしてみる。

 消えて遠くの現れるイメージだ。


 できるだけ遠くに。

 遠くに……。


 イメージする。

 行った事もない景色を。

 行先を。


「ユタカ殿?」


 とにかく遠くに。

 遠くに。


「ユタカ殿っ!」


 ロジーが急に声を荒げている。

 落ち着いた人だと思っていたが、妙に慌てているな。


 いや、今は集中、集中……。

 集中、集中、集中……。


「どうしたの? レジ―さん」


「力が強すぎます。このままでは、暴走しかねません。ユタカ殿、早く力を止めてくださいっ」


 ……。

 え?


 ロジーの言葉の意味を理解するのと同時に、


「う、うわあっ」


 サラの声が聞こえ――。


「な、なに?」


「何だ?」


 ハナコ達の驚いた声が聞こえ、意識が吹き飛ばされるような感覚に襲われた。

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