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階下の庭は青く輝く  作者: 森の 緑


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9/11

あの人は誰?

 長い夏休みも終わり、やっと、幼稚園、小学校が始まり、いつもの日常が始まった。

 斎藤から紹介された国土交通省のデータ入力のパートは、6月の上旬から1か月で終了していた。

 本当は、1か月半くらいかかる予定だったのだが、思いのほか処理が早く進み、任期が前倒しとなってしまったのだ。

 それでも、ママ友ではない大人たちと接するのは久しぶりの事で、新鮮だった。

 驚いたのは、短期のパートとはいえ、懇親会を開いてくれたことだ。

 舞子がいた前橋営業所は社員3名、パート5名の計8名。

 前橋市内にある居酒屋でこじんまりとした会だった。

 パートの5名はみんな地元の主婦だ。

 年齢層は、下が30前半で、一番上が50前半といったところだろうか。

 FAXで大量に送られてくる資料をパソコンに落とし込む作業だ。

 目は疲れるが、特に深く考える内容でもなく、気は楽だった。

 昼休みも、それぞれが弁当持参で、世間話で盛り上がった。

 昼休みくらいは、気を遣わずに一人で過ごしたいと思っていた舞子だったが、そんな心配は杞憂に終わった。

 とにかく、みんなの話がおもしろい。

 年代もそれぞれ違うが、子供の事、旦那の事では、共通点が多く、「そうそう、そうなのよー」と、びっくりするほど笑い転げた。

 こんなに笑ったのは久しぶりだった。

 そういう意味では、文字通り、気が合う仲間が集ったのだろう。

 そう言うメンバーに会えたのは貴重なことだった。

 ママ友でさえ、長く付き合っても腹を抱えて笑えるほど深い話をすることは少ない。

 幼稚園のサッカー教室で仲良くなったママ友2人とは今も交流は続いている。

 それぞれ違う小学校へ行ったが、今も2か月に1回くらい集まっては、近況報告をしている。

 それはそれで楽しいのだが、今回のパートの仲間は格別だ。

 なので、もちろん懇親会も楽しかった。

 PTAの本部役員になってからというもの、学期毎に1度のペースで飲み会があった。

 1次会で居酒屋、2次会は小料理屋、3次会でカラオケへ行き、自宅に帰ったのが1時を回っていた時には正直驚いた。

 そんな時間まで飲んで遅くなったのは、子供を産んで以来初めてだった。

 さすがに亮介も心配したのか、起きて待っていた。

 それでも、携帯電話に電話する・・といった無粋なことはしてこなかった。

 自分の飲み会に電話がかかってきたら、気持ちが萎える事を知っているからだろう。

 しかし、その後、PTAの飲み会がある度に、『またか・・』といった顔をするようになったのも事実だ。

 自分は遅くまで飲んでも、どうってことはないのに、妻が遅くまで飲むのは、なぜ許されないのだろうか。

 本当に男って奴は・・困った生き物だとつくづく思う舞子であった。

 しかし、自分の飲み会となると、困るのが爽太郎と蓮だ。

 結局、行くためには、夫に仕事を早めに切り上げて帰って来てもらわわなければならない。

 月末だとアウトだ。

 以前は、舞子も同じ会社で働いていたのでわかるが、営業職は月末が一番忙しい。

 営業成績がかかっているからだ。

 目標を達成できなければ、上司からの檄が飛ぶ。

 そして、達成できれば、万々歳で最終日に課全員で祝杯と称して飲みに行く。

 達成できなくても、次回頑張ろう会と称して飲みに行く。

 どちらにしても飲みに行くのだ。

 そして、次の日から、また仕事に励むのだろう。

 昔を懐かしく思い、ふと寂しさを感じる瞬間でもある。

 結局は、亮介の機嫌を見ながら、飲み会の日にちを告げ、「この日は早く帰ってきてね」とお願いする舞子であった。


 仕事を始めて1か月が経ち、パートの最終日を迎えた。

 最終日にも送別会を開いてくれることになっていた。

 パートの中でも長期と短期で分かれている。

 舞子と一緒に入ったもう一人の女性が短期パートだ。

 最初からいる斎藤は長期パートなので、まだ長く勤めることができる。

 送別会なのだが、前回の懇親会と違うのは、高崎支社との合同ということだった。

 群馬県内に、前橋と高崎、その他いくつか支社を持つこの会社の本社は東京にある。

 企業からのデータ入力依頼を受け持つIT関係の会社。

 今はやりの・・と言えば聞こえばいいが、楽天やヤフーといった大企業とは格が違う。

 位置づけとしては、小企業だろうか。

 社員は若い人が多いせいか、堅苦しさは感じない。

 一応、スーツを着ているが、リクルートスーツというよりもパンツにジャケットといった風合いだ。

 金融関係の仕事をしている人に間違われることはないだろう。

 高崎支社にも同じように社員が4名、パートが4名いた。

 その中で、短期パートは1名。 

 今回は、舞子と同じように、その短期の人が辞めるのだ。

 送別会を合同でやる意味があるのか・・と、ちょっと不満に思ったが、久々、高崎へ出向くのも悪くない。

 送別会は、高崎駅の駅ビルの中に入っている居酒屋だった。

 前橋から出向いてくる人のために、駅近くにしてくれたようだ。

 2名欠席していたので、総勢14名。

 畳敷きの和室に長テーブルを2つつなげて、両側に7名ずつ座るような配置になっている。

 高崎支社の人とは初対面なので、隣り合う席になっても、うまく話せる自身がなかった。

 なので、さりげなく斎藤の横をキープした。

 それなのに、送別される人が主役だから・・と、3人が真ん中の席に座らされた。

 しかも、その中でも真ん中だ。

 前橋支社のパートさんとは話ができるが、隣に座る高崎支社のパートさんとは何を話せばいいのだろうか。

 前橋の二人で話し込んでしまうと、高崎の一人が浮いてしまう。

 気を遣って両方と話をしなければいけない。

 きっと、そんな事はどうでもいい事なのだろうが、舞子は、そんなことを真剣に考えてしまい、余計な緊張を強いられる。 

 損な性格だ。

 しかし、お酒も入り、少々酔っぱらってくると、ウソのように饒舌になる。

 先程までの緊張がうそのように、いろいろな人と普通に会話ができるのだ。

 送別のあいさつも、考えてきたせいもあるが、淡々と笑いも交えながら話すことができた。

 初対面の人ともお酒の力を借りれば、容易に話せる。

 『いつも、こうならいいのに・・』

 その後、前橋支社と高崎支社の簡単なメンバー紹介があった

 もちろん高崎支社のメンバーを見るのは初めてだ。

 しかし、高崎支社長だと名乗る男性を見て、なぜか初対面ではない気がした。

 年の頃は30代半ば過ぎといったところだろうか。

 身長が高く、きちんとスーツを着こなし、目が印象的な、スマートなイケメンだ。

 『あれ?あの人、見覚えがあるような・・?』

 その人が誰であるのか判明するのは、1か月後のことだった。


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