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第十話

お読みくださりありがとうございます。





 それから数日。




 絵里は聞き込みを頑張ったが、全く成果を上げることができなかった。


 ロベルトの話では、キルアはまだ犯行を否認しているらしいが、だいぶ憔悴しているようで認めるのも時間の問題だそうだ。




――今日こそ何か有力な手掛かりを見つけなくちゃ。



 気合を入れて調査に勤しんだ。







*~*~*~*~*~*~*~*~*~*





「皆さん、誰か怪しげな動きをしている人を見ませんでしたか?」


 場所は白薔薇園。


 今日はここで貴族のご令嬢たちがお茶会を楽しんでおり、絵里は話を聞こうと藁にも縋る想いで訪れた。



 どうやら絵里の小説は貴族の子女の間でも流行っているようで、いきなりお茶会に割り込んで嫌な空気になるかと思ったが、熱烈に歓迎された。




「私は怪しげな殿方は見ておりませんが、キルア様が毒を盛ったというのはあり得ませんわ。私、キルア様とオスカー様がいちゃつかないかと思って、ずっとキルア様を目で追ってましたもの」


「私も怪しい人は見ておりません……」



 誰も怪しい人など見ておらず、今日も空振りかとがっかりする絵里。



――一応最後にキルアさんに罪をかぶせることができる人を聞いとこう。


 そう思い、ダメもとで尋ねてみる。



「……こんなこと言いたくはないですが、キルア様の部屋に入ることができる人は限られてますわ。それこそ……オスカー様とか。よほど親しくないと無理だと思います」


「しっ! ミラーさんに聞こえますわよ」


 心持声を小さくして告げる令嬢とそれをたしなめるもう一人の令嬢。


「ミラーさんって?」


 ミラーと呼ばれる人に心当たりのない絵里は二人に尋ねた。


「あの人です」


 少し離れた別のテーブルにいるピンクのドレスの令嬢を示す。


「彼女、オスカー様の婚約者なんです」


 付け足された情報に絵里はミラーと呼ばれた女性を注視する。


 はちみつ色の髪の毛と真っ青な瞳が印象的な美少女だ。



「とても可愛らしい方ですね」


 オスカー×キルア推しの絵里は無難にそう言うに留め、話を戻す。



「それで、オスカーさんの他に思い当たる人はいませんか? 最近キルアさんの家に行った人の噂なんかを知っていれば教えてください」


 何度も言うが、オスカー×キルア推しの絵里は、オスカーがキルアを嵌めたとは思いたくない。




 女性の噂話はバカにできない。

 彼女たちは日々たくさんの情報を手に入れ、それを武器に社交界で戦っているのだ。



「……やっぱりオスカー様しか思いつきませんわ。オスカー様はつい先日、それこそキルア様が疑いをかけられる数日前にキルア様の家に遊びに行ったみたいですわよ」



「……そうですか。ありがとうございます」



――キルアさんが犯人だとは思えない。でも、オスカーさんが犯人とも思えない……。そもそも私はオスカー×キルアを守りたくてキルアさんの弁護を買って出たのに、これじゃどん詰まりだわ……。




 意気消沈しながらバラ園を後にする絵里。


 その背中を一人の女性が無機質な目で見ていることには気づかなかった。






*~*~*~*~*~*~*~*~*~*





「今日も空振りでした……」




 夜。


 いつものようにロベルトと報告会をする絵里。

 場所はもちろん絵里の部屋だ。




「キルアさんの部屋に入るのは、やっぱりよほど親しくないと無理そうです……」


「親しい……オスカーならいけそうだな」


「ちょっと! オスカーさんじゃないです! 愛する人を嵌めるはずありません!」


「愛するって……おまえ……」


 絵里の主張に呆れるロベルト。



「俺もあのキルアがやったとは信じられんが……話を聞けば聞くほど状況はキルアが犯人だと示している……」



 そう、キルアを逮捕したロベルトだったが、個人的には彼がやったと信じ切れていない。


 誠実で曲がったことが大嫌いな彼が犯人だとはとても思えない。


 だからこそ絵里の調査を黙認している。




 何の打開策も浮かばないこの状況。

二人の間に重苦しい空気が漂う。





 少し場の雰囲気を和らげようと、ロベルトが話題を変えた。



「そういえば絵里の最新作、俺も読んだぞ」



 絵里の小説は今や騎士団内でも広まっているようだ。



――え、ロベルトさんがBLを読むなんて驚きだわ。


「! どうでしたか?」


 絵里は内心の驚きをそのまま顔に出しながら聞いた。



「なんというか……俺には男同士の恋だとかはよく分からんが、人物描写や心情描写は素直に上手いと思った」


「ありがとうございます」


 まさかロベルトが褒めてくれるとは思わず、絵里はニマニマしてしまう。



「それに、ストーリーというか登場人物というか、どことなく今回の事件を思い起こされるのも引き込まれたな」


「ふふ、オスカーさんとキルアさんをモデルにしましたから」




 ロベルトのおかげで重苦しい空気は霧散し、絵里に笑顔が戻る。

 気が抜けたのか小さくあくびをした。



「今日はもう遅い。ゆっくり寝ろ」


 ロベルトはそんな絵里の様子を見逃さず、頭をポンポンとすると部屋を後にした。




――なんか……どうしよう……。




 あとには、顔を赤らめむず痒いような感情に戸惑う絵里が残された。







*~*~*~*~*~*~*~*~*~*






――俺はどうしてしまったのだろうか。



 絵里の部屋を出たロベルトも自分の行動に戸惑っていた。



 絵里のショボンとした姿にらしくもなく慌て、絵里の笑顔に胸が暖かくなった。


 眠たげな絵里を可愛いと思い、無意識に頭をなでていた。




――嫌じゃなかっただろうか。



 手のひらを見つめたまま立ち尽くすロベルトの姿は不審者のそれだ。



「あれ、団長……何やってるんですか?」


 たまたま通りかかったマックスが真顔で尋ねた。


――団長……疲れがたまっているんですね……。




「ああ、マックスか。……少し相談があるんだが良いだろうか」



「相談……ですか?いいですよ」


 団長が相談など珍しいと思いながら快諾するマックス。



 ようやく己の手から視線を外したロベルトは、マックスと共に執務室へと向かった。









「それで相談なんだが……」



 部屋へ入りソファーへ腰を落ち着かせるやいなや早速切り出すロベルト。



「最近どうも絵里が可愛く見えて仕方ないんだが……どうしたらいいだろうか」



――何ですかそれ。ていうかあなた本当に団長ですか!? いつものしかめっ面はどうしたんですか! 大の男が照れても全く可愛くないです!



 照れてもじもじするロベルトに内心ツッコミの嵐だが、なんとか平静を装う。



「それは……絵里さんのことが好きということですか……?」




 マックスのその言葉にロベルトはピタリと固まった。




――好き? 俺が……絵里を……すき……。


 ぶわっと顔が赤くなる。


「お、俺は、絵里のことが好きなようだ……」


 いつもの鉄仮面は崩れ去り、真っ赤な顔であたふたするロベルト。



――いやいや、キャラ変わりすぎですよ。ていうか自分の気持ちに気づかないとか鈍いにも程がありますよ!


 呆れるマックスをよそに、ロベルトは初恋に舞い上がっている。

 そう、初恋だ。



「これが……恋……。おいマックス、俺は……絵里が愛おしくて仕方がない……」


「よかったですね」


「最初は絵里のテンションに戸惑ったが、今はそれも好ましい。いつも元気で明るくて……次は何するのかいつもドキドキだ」


「へえ、そうですか」

――私も彼女が何やらかすか(悪い意味で)ドキドキですよ。


「絵里のキラキラした目も好きだ。俺たちが訓練してるのをじっと見ている姿に元気を貰える」


「それは素晴らしい」

――私は彼女のハンターのような視線にいつもげんなりしますよ。


「だが彼女はこの世界でたった一人だ……。俺はそんな彼女を支えたいと思う」


「いいことです」

――いや、彼女は支えてもらうタマじゃないですよ。むしろ団長の手を無視してドカドカ進んでいきそう……。



 ロベルトへの相槌と内心のツッコミで忙しいマックス。




 ロベルトはロベルトで初めての恋に人格が変わるほど浮かれている。




 カオスとも呼べるこの状況は、夜更けまで続いた。





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