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第二十二話 前世の魔法騎士団の同僚


『アーリア。君の大好きな木の実だよ。おいで』


 手の平に木の実を乗せて、ルナセーラは頭の中で魔鳥に話しかける。

 鳥籠から出たアーリアは黒い翼を広げて飛んで来た。一つ二つ木の実を口ばしに挟み、ルナセーラの肩に乗る。


「ルナセーラの言うことなら大人しく聞くんだな」

「普段からこんな感じではないのですか?」

「ルナセーラのように心を開く者はいないな」


 餌やりの様子を眺めていたレオランドは関心したように言った。どうやら他の人でも餌は食べてくれるようになったが、肩に乗られる者はいないらしい。


 アーリアは喉を動かして木の実を飲み込むと、満足したようでルナセーラの首元にすり寄ってくる。

 可愛らしいので、ルナセーラは「よしよし」と優しく頭を撫でた。

 ずっと付きっきりだと話題が尽きてしまう。ルナセーラはレオランドのことを聞くことにした。


「レオランドは、大魔道士セドリフ様と仲が良かったんですよね」


「仲が良かったというか、向こうからズカズカと行動範囲内に入ってきたって感じだな」


 レオランドは魔法騎士団では一匹狼のような存在だったが、どこか寂しそうな雰囲気をまとっていたのだ。話しかけられずにはいられなかった記憶がある。話しかけたら、不機嫌そうな顔も。

 後から聞いたら、迷惑だった訳ではなくて年下から話し掛けられて照れていたのだと。


「私が男の子だったら、友人になれましたか?」


 突拍子のない質問をしてしまった、とレオランドの反応を見て気づいた。


「ルナセーラが男⁉︎」


 レオランドは素っ頓狂な声を出した。それでも、口元に手を添えて、考える仕草をする。


「年齢差もあるから、友人になるには男のルナセーラが遠慮するかもな」

「男のルナセーラ……」

「なんだ、ルナセーラが言い出したことだろう」

「言ってみて、自分がおかしな発言をしたことに気付きました」

「いつものことだろう。ルナセーラは」

「えっ……」


 ルナセーラが目を白黒させると、レオランドはプッと吹き出した。


「何を驚いているんだ。俺はルナセーラのこと、よく見ているんだぞ」

「レオランド……」


 肩に乗っているアーリアが抗議をするように羽をバタバタと動かす。


「うわっ! 痛っ」


 アーリアはレオランドを攻撃した。まるでアーリアは娘を見守る父親のようだ。その過保護な父親に認められる日は遠いかもしれない。


「わかった。離れる。ルナセーラから離れるから!」


 レオランドが一歩下がるとアーリアの動きは収まった。


「そういえば、図書館の入室許可証をもらった。今度一緒に行こう」

「わざわざすみません! レオランドが本当に暇な時で大丈夫なので、よろしくお願いします」

「今日のお世話はこれくらいでいいだろう。俺は戸締りをしてから行く。ルナセーラは帰ってもらって大丈夫だ」

「はい」


 これがいつもの流れだ。餌やりをして、レオランドと少々会話し、アーリアと戯れてから解散。

 魔鳥の管理部屋から退出すると、ルナセーラは廊下の窓からの昼下がりの日差しを浴びながら歩いていく。


 そのルナセーラの後ろ姿を眺める者がいた。

 物陰に隠れてどのような人物かは判別できない。

 厳しい視線をルナセーラに送っていたのだ。


 ☆☆☆


 レオランドに図書館に連れて行ってもらえることになった約束の日。

 待ち合わせの王城の門で、ルナセーラはレオランドの到着を待っていた。

 早く着いたが、時間を潰すお金も場所もない。門の外で時間が来るのを今かと待っていた。


「君が待っているのはレオランドかい」

「あ、はい──」


 門番のおじさんから話し掛けられたのかと思って振り返ると、黒いフードを被った男がいた。


(知らない人だ。一体誰?)


「君に用がある。着いて来い」


 ルナセーラは眉をひそめた。

 着いて来いと言われて、素直に従うのは子どもだけだ。怪しい。怪し過ぎる。


「待ってください。私はレオランドと約束しているんです。行けません」 

「断るのか。……では無理やりにでも来てもらおうか」

「嫌ですっ」


 大声を上げようとした途端、手で口を塞がれた。


「何をすっ……」


 逃れようと必死に抵抗を試みるが、女の力で男にかなうはずがない。

 男は小さく魔法の詠唱をする。聞いただけで、ルナセーラは魔法の効果がわかった。


(転移の魔法だ! 避けられない。……それなら)


 ルナセーラは覚悟を決めて、イメージする。転移先までの場所に足跡が浮かび上がるのを。

 連れ去られると思ったルナセーラは、手がかりになるように追跡魔法を残した。


 ☆☆☆


「ルナセーラはまだ来ていないのか?」


 少し遅れてやってきたレオランドはルナセーラの姿が見えないことを不審に思った。

 ルナセーラが待ち合わせの時間に遅刻することはなかったのに。


「君、ルナセーラの姿を見なかったか」


 門番のおじさんの一人に話し掛けると、おじさんは首を横に振った。


「いつもやってくる嬢ちゃんだね。俺は見なかったよ。見たやついるか?」

「俺、見たぞ」


 門番の中でも若い男が手を上げた。


「詳しく教えてくれ」

「三十分くらい前かなぁ。歩いてくる少女を見かけたよ。でも、目を離した時にはいなくなっていた」

「どんな女の子だった?」

「赤い髪にポニーテールの少女だったよ。年頃の女の子は目立つから、よくわかるんだ」

「ルナセーラだ。どこへ行ったんだ……」


 先に王城に入ったのだろうか。その可能性はない、とレオランドは自らその考えを打ち消す。既に王城に入っているとしたら、ルナセーラとすれ違っているはずだ。

 ルナセーラは優秀な生徒だった。だとしたら。


「魔法の気配を映し出せ」


 魔法の痕跡が残っているのではないか、と勘が告げてレオランドは魔法を詠唱する。

 地面には白く光る足跡が浮かび上がっていた。

 足跡は王城の中に向かっていた。


「行き先がわかった。ありがとう」

「もういいのか?」

「ああ」


 レオランドは浮かび上がる足跡を頼りに、ルナセーラを追いかけ始めた。


 ☆☆☆


 転移先は石壁で囲まれた部屋だった。まるで犯罪者を収容する場所のようだ。


「魔鳥の世話係に任命された、魔法学院の生徒というのは君なのかい?」


 唐突に男は話し始めた。


「……そうですが」

「そうか。城内では噂になっているよ。魔法学院に優秀な生徒がいるとな」


 称賛されているような感じはしない。むしろその逆だ。

 フードの影から緑色に光る瞳が見えた。

 多数の魔道具の気配には身に覚えがあった。


「……貴方は、ラドナ・モータリス様ではないでしょうか」

「ほう。勘もいいんだな」


 フードを邪魔とばかりに脱ぐと、昔の同僚の面影があった。


「ジョルシュは一歳の時から英才教育した自慢の弟子だ」


 セドリフも昔、親から引き離されて師匠の元で教育された。

 ジョルシュも同じ境遇だ。通常の子どもより魔力が高い者が、才能を見込まれて選ばれる。


「君は誰か師匠に習ったことはあるのか」

「……いいえ。ありません」


 本で読んで学んだと言ったら、ラドナから「ふざけるな」と言われそうなくらいの迫力があった。


「師匠がいない? では、どうやって魔鳥の世話をするのだ?」

「私にだけ……懐いてきたんです」


 頭の中で魔鳥と会話ができることは秘密にしないといけない。魔鳥の力は未知数なところがあって、その魔鳥と意思疎通できると知られてしまうと、もう普通の少女ではいられなくなるからだ。


「鍵の魔法が掛けられていたが、壊された痕跡があった。どんな魔法を使ったのかい?」

「……」


 魔道具に釣られてラドナ宅に侵入してしまった時のことだ。

 侵入行為が明らかにバレている。まずい。


「それは……」

「それは、別にいい。鍵の魔法が壊れただけだ。……だが、私の弟子のトップ合格を阻んだ。君がいると弟子の将来が傷つくことになる」


 セドリフが師匠によって魔法の手ほどきを受けたように、ジョルシュも師匠に訓練された弟子だ。国からも期待される逸材だ。


 ラドナのルナセーラを見つめる瞳は濁っていた。ルナセーラの首にラドナの指先が触れると、冷たい感触だった。

 ルナセーラはキッと瞳に力を込めて見上げる。


「あなたはこんなことをする人じゃない」

「……すべてを持っている君に、俺の何がわかる」

「だってはあなたは弟子のために魔道具を開発してますよね。ジョルシュは『あなたを尊敬している』と話していましたよ」

「君が……憎い!」


 ルナセーラの首を締める手に力が入る。

 圧迫感で意識を飛ばしそうになった時、扉が蹴り破られる轟音ごうおんが響いた。

 驚いたラドナの手が緩んだおかげで呼吸ができるようになる。


「こ、こほっ……」


 咳き込みながら見上げると、息を切らしたレオランドが立っていた。


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