最終話 冬の日向
開園の時間だ。
スピーカーから音楽が流れ出し、係員が入園ゲートの鎖を外す。
流れるオルゴールの音色は昔CMでよく聞いた曲。
平日の遊園地は客もまばらで、勢い良く走り出す子供が俺の横を通り過ぎると、ゲートの前は閑散とした空気に包まれる。
俺達が東京から秋野市に移ったのは4年前だ。
人口が20万ほどの地方都市だが、住んでみれば特に不満は無い。
駅前の繁華街には一通りのものが揃っていたし、日南は時折、神戸まで買い物に出かけてもいるようだ。
秋野に来てから日南と出かけた記憶と言っても、駅前の繁華街に荷物持ちで付き合わされたくらいだ。
学校を除けばむしろ、どちらかの家で過ごした時間の方が長かったと思う。
ゲートの先の広場では、のっそりと登場した着ぐるみが親子連れと写真を撮っている。
つい先日。夜縁と記念写真を撮ったのが遠い昔のような気がする。
あの日の夜縁はひどくはしゃいでいて、まるで子供の頃に日南と3人で遊んだ時のようだった。
そしてあの時Yu-noから届いたメッセージは、実は夜縁が俺の居ないところから送っていたのだ。
……夜縁の笑顔が偽物だったとは思えない。
俺が知っているYu-noはいくつもの顔と感情を持っていて、どの瞬間もその役割に正直だ。
遊園地を楽しむ夜縁は確かにそこにいて、同時にかつてのフレンド達を獲物のように刈り取るYu-noもそこにいた―――
俺は色褪せた案内板の前で立ち止まり、園内地図を眺める。
日南が姿を消してから三日目。
……もし彼女がこの遊園地に出入りしているとしたら、夜はどこかで過ごして昼はここに来ているということだ。
だとすれば、開園と同時に来る必要は無かった。
一通り歩いたら、他の場所に移動しよう。
……夜縁は何故、ここに日南がいるかもしれないと思ったのだろう。
一緒に来たことは無いし、学校の友達と来たなんて話も聞いたことない。
俺が知る限り、日南と遊園地との関わりは9年前の一回だけ。
日南が茅ヶ崎ミサとして、イベントに出演したことくらいだ。
野外劇場を見下ろす夜縁を思い出す。
その時彼女の顔に浮かんでいたのは、侘しさを含んだ郷愁の色―――
……なるほど。
思わず自嘲の笑みが口元に浮かぶ。
―――自惚れだ。
勝手に日南が俺との思い出を追っているものと誤解していた。
彼女が追いかけていたのは、家族がまだ一緒にいたあの頃。
姉妹と母親がずっと一緒にいた、幸せだった頃の思い出だ。
――――――
―――
野外劇場は今日も閑散としている。
すり鉢の縁から見下ろす先、客席に取り囲まれるように古びたステージが鎮座している。
夜縁と来た時はここを上から見下ろしただけだ。
俺は落ち葉を踏みしめながら、急な階段を下りていく。
近くで見るステージは想像よりも大きい。
コンクリート造りの白いステージはしばらく使われていないようで、隅に風で吹き寄せられた落ち葉が溜まっている。
9年前。
日南と夜縁の二人は、ここで満員の観客に向かって笑顔を振りまいていたのだろう。
二日前に姿を消して以降、日南はここを訪れたのだろうか。
俺は痕跡を探して、ステージの裏側に回る
裏手には楽屋に繋がる扉がある。
両開きの扉は土埃で汚れていて、年単位で立ち入る者がいないことをうかがわせる。
踏み出した足元。
俺は思わず息を呑む。
細かい砂の積もった地面に、うっすらと靴の跡が扉まで続いている。
この足跡がいつ付いたものかは分からない。
ただ、足跡は扉に向かっていて―――戻ってきた形跡は無い。
汚れたガラス張りの扉から中を覗くが、薄暗い廊下が微かに見えるだけだ。
扉に手をかけると、予想よりも簡単に扉が開く。
中に足を踏み入れると、埃とカビの乾いた臭いが鼻をつく。
人の気配は無い。
壁際のスイッチを押すが、灯りはつかないままだ。
長い廊下の突き当りは扉になっている。
おそらくはステージに繋がっているのだろう。
慎重に足を進めながら、壁に貼られたポスターを眺める。
ここで行われたイベントのポスターだ。
一番新しいものが5年前で、奥に行くほど古いものが貼られている。
先に進むにつれ、段々と古いポスターになっていく。
―――6年前
―――7年前
―――8年前
――――――9年前
古びたポスターの中央に茅ヶ崎姉妹の写真が大きく載っている。
可愛らしい衣装に身を包み、笑顔で顔を寄せる日南と夜縁――――――
暗い廊下でポスターを眺める俺の爪先に、何か軽いものが当たった。
視線を落とすと、足元には真新しい空のペットボトル。
中には水滴すら残っている。
……つい最近、誰かがここに居た。
それともまだ居るのか?
ポスターの反対側。
目を向けるとそこは楽屋になっている。
俺は恐る恐るドアノブを回す。
鍵は掛かっていない。
軋む扉を押し開けると、部屋から冷気が流れ出す。
夜に冷えた空気が、そのまま閉じ込められていたのか。
……まさかこんなところに日南は居ないだろう。
半ば興味本位で踏み入れた足が止まる。
部屋の奥。
壁際に膝を抱えてうずくまる人影。
次第に暗さに目が慣れて来る。
膝を抱えた人影が着ているのは―――学校の制服。
「……日南?」
声をかけながらも、早鐘のように心臓が打つのが分かる。
人影はピクリとも動かない。
「そこにいるのは……日南なのか……?」
震える足を一歩踏み出す。
胸をよぎる最悪の予想。
まさか。
まさか。
怖気つく足をさらに一歩踏み出す。
ガサリ、と何かを踏んだ音がする。
うずくまる人影がわずかに動く。
人影が長い髪に包まれた顔をゆっくりと上げる。
「日南!」
俺はうずくまる日南の前に膝を付く。
日南は焦点の合わない瞳で俺を見る。
不思議そうに手を伸ばし、俺の頬に触れる。
「啓介……? 本……物……?」
「日南、大丈夫か!? 具合は悪く無いか!」
「……大丈夫……少し夢を見てただけ……」
頭がはっきりしないのか。
日南は頭を何度も振ると、もう一度俺の顔を見る。
「なんで……ここにいるの?」
擦れた声で尋ねる日南の唇はひび割れ、長い髪が頬に張り付いている。
日南の手を取ると、芯から冷え切っている。
……日南はこの寒い部屋の中で二晩を過ごしたのか。
「君を探しに来たんだ。俺が言えた義理じゃないけど、話は後にしてまずは帰ろう」
「帰るって……どこへ?」
日南は掴んだ手を力無く振り払う。
「私に帰る場所なんてもう無いのよ」
「家で夜縁ちゃんも待ってる。お父さんだって、東京で必死に日南を探して―――」
「―――ママは?」
俺が一瞬言葉に詰まったのを日南は見逃さなかった。
暗い炎が日南の瞳に宿る。
「パパからも夜縁からも着信があった。……ママからだけ着信が無かったわ」
立ち上がろうとした日南の足がよろける。
俺は慌ててそれを支える。
「もちろん、おばさんも心配しているよ。電話は家の電話からかけたんだ。着信が何度かあっただろ?」
……嘘だ。こんな嘘をついても、すぐにばれるのは分かっている。
そして俺が驚いたのは、息をするように嘘が口から出てきたことだ。
日南は再び力無くへたり込む。
「……学校だってもう行けない。偉そうにしてた女が皆にあんなもの見られて」
日南の肩が震え出す。
「私……そんなに強くない」
すすり泣く日南の姿に俺は何も言葉がかけられない。
俺にはその資格すらない。
「ごめんね」
「え? いや、謝るのは俺だよ。日南は何も悪くない」
「……あんたに恨まれて当然よ。私はそれだけのことをしてきたから。ただ―――」
日南は涙をぬぐうと、気丈に笑って見せる。
「Yu-noとかいう女じゃなくて。あんたに直接、手を下して欲しかったな」
「…………」
……何故だ?
怒るでも無く。恨み言を言うでも無く。
なぜ日南はそんなことを言える?
「……私はね。どうしても納得いかなかったの」
「納得?」
「夜縁の事故はあんたが悪いわけじゃない。分かってはいるの」
日南は膝を抱えると、スカートに顔を埋める。
「でもね、あの事故以降、家族がどんどんバラバラになって。誰にもどうにもならなくなって」
あの当時の日南の一家の状況を覚えている。
業務を拡張して会社が忙しい時期だったらしい。
父親は殆ど家には帰ってこなかった。
母親も半ば引きこもりのようになり、時折爆発しては家から飛び出す。
母を恋しがって泣く夜縁を、日南があやしながら寝ることも多かったと聞く。
「あんたは夜縁のことばかり気にしてたけど。会うたびに無理して笑ってくれてたから……それだけで心強かったの。一緒に戦ってくれてるって。一人じゃないって」
俺達が中学に上がった頃。
ようやく日南の一家が新たな生活を受け入れ始めた矢先の出来事だ。
DVDの件が再燃したのは。
「だから秋野に引っ越すって決まって。あんたがこの戦いから降りるんだって。居なくなるんだって思ったら……私にはああするしかなかったの」
日南の独白は続く。
「自分自身、何に対して怒ってるのか分からないの。どうしたらいいか分からなくて……私……分からなかったの……」
再び日南のすすり泣きが聞こえて来る。
「ごめんね……私、こんなんじゃ嫌われて当り前だよね……」
……謝るのは俺の方だ。
俺は日南の手を握る。
「ごめん。つらかったよね」
「うん……」
しおらしい日南の口調に胸が痛む。
彼女にこんなことをした俺を。
彼女をここまで追い込んだ俺を。
日南は許すどころか反対に許しを乞うてきたのだ。
「……一緒に戻ろう」
その言葉に日南が涙に濡れた顔を上げる。
「学校では俺が守るし、日南の味方になってくれる奴らもいる」
「でも……」
「それでも居辛かったら。一緒に学校を辞めよう」
「辞める……?」
「また転校したっていい。高校なんて行かなくたってもいい。大学に行けば、こんなことを吹聴して回る連中とも縁が切れる」
日南は涙に濡れた瞳を俺に向ける。
「……そうね。高校なんかにこだわる必要はないわ。転校したって、辞めたっていい。それでも大学は行けるし、なんなら海外に行けばいい」
「そうだよ。日本にこだわる必要なんてない」
もし彼女が望むのなら、俺も一緒に海外に行こう。
夜縁と日南と3人で日本を出るのだ。そんな未来があってもいい。
「でも私……疲れたの」
日南はそう言うとハンカチを取り出した。
涙でも拭くのだろう。
そう思っていた矢先。
「……もう頑張れない。戦えないの」
日南は両手で持ったハンカチを自分の首に近付ける。
はらりとめくれたハンカチの中から、小型のナイフが現れる。
「ちょっ! 何やってんだ!」
「―――最後にお願い。あんたの手で終わらせて」
震える手。
日南は切っ先を喉に突き付け、目を閉じる。
……終わらせる? 俺の手で?
「なに……言ってるんだ?」
「指紋さえ付けなければ大丈夫。全部終わったら、あんたはここから姿を消せばいい」
余りのことに身体が動かない。
下手に動けば日南が自分で喉を突くかもしれない。
日南の瞑った目から涙が一筋流れ落ちる。
「お願い……」
「……分かった」
俺は覚悟を決めて手を伸ばした。
そして力一杯握り締める―――ナイフの刀身を。
「啓介?! なにやってるの、やめなさい!」
日南は必死に俺の手をこじ開けようとする。
俺はそれを見ながら泣きそうな気分になる。
今の日南は、両手を使っても俺の指を開くことすらできない。
いつの間にか、俺の方がずっと力が強くなっていた。
俺が間違っていた。
勝手に俺が強いと思っていただけで、日南はただの一人の女の子だ。
日南も。夜縁も。
ただ独りになるのを恐れて泣いている一人の子供だ。
「日南は何も悪くない。君はただの被害者で―――俺が加害者だ」
「なに言ってるの?! いいから離しなさい! 血が出てるから!」
「……君に何かが起きているのを、俺はただ何もせずに見ていた」
俺は日南の手を反対に引きはがすとナイフを床に落とす。
慌てたようにハンカチを俺の手に巻こうとする日南。
血に塗れた掌に血染めのハンカチが巻かれるのを、俺は映画の一場面でも見るように眺める。
「俺は夜縁ちゃんへの罪悪感だけにとらわれて。それを隠れ蓑に、他のことから目を逸らしていた」
「ちょっと啓介! 動くと血が止まらないから!」
「それじゃ、日南が俺に何をしても気持ちは晴れない」
俺は傷付いた手で日南の腕を掴む。
「日南が俺を殴っても犯しても奪っても―――それは単なる俺の自業自得だ。俺の犯した罪の一部を返しているに過ぎない」
「啓介……さっきから何を言っているのよ……」
「日南は加害者になるべきだ」
「……加害者?」
混乱した表情の日南。
……無理もない。
倫理の枠の外。俺の頭の中だけにある理外の論理。
分かってくれという方が無茶な話だ。
「仕返しでも復讐でもない。ただ理不尽に不条理に不合理に。俺から奪ってくれないか。日南が加害者になるためなら、俺は何だってあげる」
「あんた何言って―――」
言いかけた日南は、突然全てを理解したらしい。
信じられないとばかり、ゆっくりと首を振る。
「私が加害者になれば……私達、やり直せるの? 子供の頃のように、3人でまた仲良くできる?」
「もちろん。それでやっと俺達は対等になれる。そうすればきっと、出会った頃からやり直せる」
俺は傷付いてない方の手で日南の前髪を整える。
日南の耳に触れ、鼻に触れ、頬に触れる。
日南は美しい。たとえどんなに汚れても。
「日南と初めて会った日のこと。今でも覚えてる」
夜縁が生まれてまだ間もない頃。
4才の日南がうちに預けられたことがあった。
自分の母親の陰に隠れて、俺を恥ずかしそうに見る日南の姿。
「君を見て、天使が現れたって思ったんだ」
「……天使?」
「絵本に出てきた天使とは髪の色も瞳の色も違うけど。君の背中に確かに翼が見えたんだ」
日南はいつものように、呆れた顔で俺を見る。
「……私はね、あんたを初めて見た時。なんてボンヤリした男の子だろうって思ったの」
日南はゆっくり身体を倒してくる。
俺の額に日南の額がコツンと当たる。
「それは酷いな」
「あら、これでもオブラートに包んでるのよ?」
日南は楽しそうにクスクス笑う。
「日南は……俺の何が欲しい?」
もう一度クスリと笑うと、日南は俺の指を掌で優しく包む。
そして値踏みするかのように、俺の指を一本一本撫でていく。
「……あんたの女の子みたいな細い指。なんかあったら折れちゃうんじゃないかって、ずっとずーっと、不安だったの」
そのまま手を伸ばすと、今度は俺の耳をつまんでくる。
機嫌のいい時、日南はやたら俺の顔を触ってきたのを覚えている。
そんな時、俺は日南の好きなようにさせてやるのだ。
「……あんたのやたら小さな耳たぶも。口に含むたび、このまま噛み千切ったらどうなるんだろうっていつもいつも考えてたの」
日南は両手で俺の顔を挟むと、俺の両眼を覗き込む。
「あんたの薄らボンヤリした瞳も。最後に映ったモノが私だったらどんなに素敵だろうって。会うたびに思ってたわ」
「……俺、いつも命を狙われてたんだ」
「知らなかった? 今日も例外じゃないわ」
いつものように勝気な日南の瞳は、すっかり悪戯っ子のそれだ。
俺は吸い込まれるように日南の瞳を見つめる。
「日南は……どれを選ぶ?」
「どれを選ぶ?」
日南の顔が近付いてくる。
「知ってるでしょ? 私は欲張りよ。全部全部私のモノにしたら、どうなるのかなって」
「日南はずいぶん欲張りさんだ」
「本当。加害者にもほどがあるわね。貰い過ぎちゃったら……お釣りを返さないと」
「……じゃあ、利子はまけとくよ」
「助かるわ。ずっと……ずーっと。お釣りを返し続けなきゃいけないから」
日南は俺の瞳を覗き込んだまま手探りを始める。
俺は日南の手にナイフを握らせた。
「……そうだね。全部返してもらうまで、ずいぶん時間がかかりそうだ」
日南の瞳に俺が映り。
俺の瞳に日南が映る。
―――日南と出会ってからずっと俺は、この瞬間を待ち続けていたんだと今気付いた。
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―――
――
雪
雪
粉雪
建物から出ると、周りは薄く雪に覆われていた。
こんなに積もったのは秋野市に越してきてから始めてだ。
サク サク
慎重に足を踏み出すと、積もりたての新雪に靴が吸いつくように跡を付ける。
病院の門の前。
一人の少女が手に息を吐きかけながら、こちらを見ている。
「日南、来てたんだ」
俺が手を上げると、日南は花のような笑顔を浮かべる。
「啓介、なんとも無かった?」
「ただの検査だよ。次は3か月後で大丈夫だってさ」
駆け寄ってきた日南は最後の一歩、足を滑らせて俺の腕にしがみつく。
「危ないよ、気を付けて」
「あんまり遅かったから心配したんだから」
日南の髪には雪が疎らに積もっている。
俺はハンカチでそれを払う。
「寒かっただろ。中で待てば良かったのに」
「私、病院の雰囲気が嫌いなの」
日南は不貞腐れたようにそう言うと、俺の首元を見て満足げな笑みを浮かべる。
「あら、誕生日にあげた“首輪”を使ってくれてるようね」
日南は冗談めかして俺のマフラーを締めるフリをする。
「ああ。とても暖かいよ。ほら、君の方こそ首輪が外れそうだよ―――お嬢様」
日南の首には俺とお揃いのマフラー。
俺は日南のマフラーの雪を払う。
緩んだマフラーの隙間から覗くのは―――赤い首輪。
俺はそれが見えないように丁寧にマフラーを巻き直す。
「これで大丈夫」
「あら。あんたのマフラーも崩れちゃった」
俺はマフラーに伸びてきた細い手を握り締める。
「……大丈夫。後で自分で直すよ」
握った日南の手は氷のように冷え切っている。
「随分と冷えてるね」
「あんたが待たせるからよ。ごめんなさいは?」
「日南を温めるから、それで許してくれないか」
俺は日南と繋いだままの手をコートのポケットに入れる。
「構わないけど。右手だけで済ませるつもり?」
「……ごめん、ちょっとメールが届いた」
俺のスマホに入っている番号はたった二件だけ。
一人はここにいる日南だ。
そしてもう一人が誰か、もちろん言うまでもない。
「……私といるのに、他の女からのメールにニヤけるとか。どういうつもり?」
日南は繋いだ手を強く握りしめて来る。
俺は苦笑しながら、寒さで赤くなった日南の頬に唇を触れる。
「ご不満かい?」
「ご不満よ」
言葉とは裏腹に、日南は楽しそうな表情で歩き出す。
「今日は家に泊って行きなさい。あの子も喜ぶわ」
「それは命令かい?」
日南は無邪気な笑みを俺に向ける。
初めて会った時と同じ、天使の翼が背中に見えた。
そんな気がした。
「もちろんよ。ご不満?」
俺はもちろんこう答える。
「よろこんで、お嬢様」
3人の物語はこれにて終幕です。
若い彼らなりに幸せを掴もうと辿り着いた結末ですが、解釈は読み手の皆様の数だけあると思います。
読んで頂いた皆様方には、最後にバナー下から★~★★★★★の採点評価、ブクマや感想を是非お願いします。
約12万字。これまでお付き合い頂きありがとうございました。
また皆様にお会いできるよう、精進いたします。




