intermission.
黒い空闇と白き氷海。天地を別つ黒白のコントラスト。静かに眠る氷の惑星、ペンタゴン星の長い夜。
その景観の中に晃々と、電気の明かりの灯る窓。夜の闇に佇む外宇宙探査艦プレジデント・オバマの船窓から漏れる黄橙の光、青白の光。2つの光は巨大な黒い怪物の、歓喜に輝く目玉さながら。宵闇の中であちらにぽつり、こちらにぽつりと、消えることなく灯り続ける。
皆が寝静まった夜の第1格納庫。橙色の明かりに惹かれる蛾のように、寝ぼけ眼でふらふらと歩く下着姿の褐色の美少女。タツミ・ウシトラウは寝崩れたタンクトップから今にもまろび出さんとしているたわわな膨らみをごそごそと直しつつ、頭上にボンワリと灯る青白い光を見上げる。
「(ハルカのヤツ…まだやってんのか…?)」
第一格納庫の壁時計の示す、地球時間は午後11時。良い子でなくともそろそろ寝てよい時間である。現にこの、良い子のタツミはとっくに寝ており、これからコンビニに行ってまた寝るのである。
卵型の白い機体、Pai1号機。頭頂部の搭乗口から漏れる無機質な画面の冷たい光と、時折聴こえるハルカの声。
「ぺんぎん!」
「くじらとら!!」
その意味するところはタツミにはサッパリわからぬ奇声であるが。その声色はハルカが真剣に何かをやっているときのソレであり、ハルカが何かわからぬが「頑張っている」らしいことはこのタツミにも伝わっている。
「無理すんなよぉ。」
タツミは操縦席の中のハルカに聴こえるともなく呟くと、んー、と大きく背伸びをひとつ。
頭を掻きつつ橙色の明かり、コンビニエンスストア「ヘブンダイブン・プレジデントオバマ出張店」へと吸い込まれるように、下着から美しくすらりと伸びた健康的な脚を進めていった。
「あ、いらっしゃいませこんにちはー。」
他に客のいない店内に看板娘、廻恵生こと通称めぐりんの明るい営業ボイスが響く。黒い夜にも明るい店内。コンビニエンスストアの店内だけはいつでも能天気に明るいのは、宇宙時代の地球でも。白き氷の惑星ペンタゴンでも、そして、この外宇宙探査艦プレジデント・オバマの艦内においても同様である。
「お疲れ。寝ないの?」
タツミは手に持ったオレンジゼリーをレジに差し出す。
「店長がその…まだ奥でラリってるので…。」
めぐりんは手慣れた手付きでレジを通す。
「ふーん。大変だねアンタも。」
「まあ…、あ、200円になります。レシートは…。」
「んあ。いや、大丈夫。」
ごく普通の店員と客のやりとりを経て、タツミはオレンジゼリーの入ったコンビニ袋を受け取る。そのタツミの目がふと、レジの脇にあるおざなりにホッチキスでとめられた小冊子。「プレジデント・オバマ オペレーターマニュアル」を捉えた。
「ソレ…?」
「あ、コレ、艦長さんが読んでおくように、って。」
おもむろに手を伸ばしたタツミはパラパラパラとページを捲る。
「えー、なに。せ、先生はァ、ン…こんなことッ。気持ちよくなんか…ありマセンッ…!??」
二人に沈黙の数秒が経過する。
「たぶんコレ、真面目に読まなくていいやつだぞ。」
「私もそう思います。」
眠れる氷の惑星の外宇宙探査艦プレジデント・オバマ。
それぞれの夜は更けていく。




