第2話 暮しゅうしています。 (4) 黒の騎士、強襲 ①
三行でわかるあらすじ。
「これでは…宇宙ごと全滅ですかなあ。」
「…いいよね、委員長は。運動も勉強もなんでもできるし、ロボットだって乗れるし、偉い人達とも普通にお話できるし。おまけに美人でおっぱいも大きいし!あーあ、羨ましいなあ!!」
〈ヤメッ!やめてお願い!!それだけはヤメ…ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!〉
白い氷の水平線に、黄金の旭日が照り映える。地球より自転周期の大分緩やかな氷の惑星、白のペンタゴン星の長く暗い夜が明ける。時空と次元の果ての宇宙で悪の幹部会議が楽しく催されていたその間に。こちらでは地球時間で言うところの1週間程の時が過ぎていた。
朝の8時半。白く透き通った流氷の中の黒一点、巨山の如き外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その食堂には乗組員の一同が集まり、本日も定刻より朝礼の始まる様子である。
整然と並んだ鳥人たち。制服女子高生のハルカとアキノ。パステルカラーのコンビニの制服を着ているめぐりんと店長・駒どりあき男。全裸に白衣の変態ルックは教授・リー。それに際どいセクシーチアガール衣装のタツミとシホが加わり、そのなんだかよくわからない集団を同じくチアガール姿のツバサが1人、前に立って満足げに見渡している。
「それでは朝礼を始めます。まずは行動規範の読み上げと唱和から…。」
集団の中でただ1人。国際太陽系外宇宙探査開発機構、通称OMNKOの制服をきっちりと着こなしたイソジニール少佐が口を開く。ビッシと背を伸ばし整った身なりの少佐が逆に異質に感じられるほど、この場に集まっている者達の様相は混迷の淵をきわめているが。朝礼自体はあくまでごくオーソドックスに、特に気にせず進行していく模様だ。
「では本日はめぐりん、お願いします。」
「めぐりんって呼ばないで下さい…。」
例によって何故か若干嬉しそうな様子でその名を口に出すイソジニール少佐。めぐりんがとぼとぼと前に出る。この艦における彼女、廻恵生の呼称は既に、めぐりんで固定のようではあるが。もはやめぐりんと呼ばれる歳でもない彼女は、未だにこうして僅かな抵抗を日々、試みているようだ。
「えぇ…『行動規範』、唱和。『ひとつ、我々国際太陽系外宇宙探査開発機構は…』。」
「ノオォ。」
『行動規範』の読み上げを始めためぐりんをツバサが制する。大袈裟なアメリカンジェスチャーで肩を竦めたツバサの前で、イソジニール少佐が無言で首を左右に振る。
「えっと…?」
困惑するめぐりん。
「ルビ振ってあるでしょ。ちゃんと読んで。」
ツバサは突き放すような冷たい口調でめぐりんを促す。
「えぇ…?えぇ…『ひとつ、我々国際太陽系外宇宙探…』」
「アーゥ。」
ハァ、とツバサが感じの悪い溜め息を吐き、同じく感じの悪い笑みを浮かべた少佐がンーと首を捻る。艦のトップ二人からの予想外に厳しい当たり。この艦にきてまだ日の浅いめぐりんは動揺を隠すことができない。
「えぇ…オームンクオ…?オー…ムンクォ…。」
明らかに悪くなった場の空気をどうにかしようと懸命になる健気なめぐりん。しかしクソ上司である二人はさも面白そうに、ニヤニヤ笑いながらジーザスと頭を抱えたり、アーメンと十字を切ったり。真面目なめぐりんをいたぶるかのように嘲笑い続けている。
「…OMNKO…どう読むんですか…?」
既に半泣きのめぐりんが涙目で質問する。
「え、マンマよ?おマn。」
「はいっ!では今日も、安全作業でガンバロー!おーッ!」
危険な空気を察したシホが割って入り、超神速のタッチ&コールで朝礼自体を強制終了させてしまった。
新人オペレーターへの過分にセクハラを内に孕んだパワハラ。皆が「お、おー。」と戸惑いがちに応える中で。
プレジデント・オバマのNo.3、艦長代理であるアルーグレイ・シホンティの美しい笑顔の上のこめかみは今日も、ピクピクと細かく痙攣していた。
「えェー、そーいうワケでェ、だァ。」
どやどやと引き上げかけている乗員一同。引き留めるかのように、ツバサの声が食堂に響く。朝礼は既に終了したはずであるが。そして、いったい何がどういうワケであるのか一同にはさっぱり理解できないのであるのだが。いつの間にか旧式の大掛かりな拡声器まで抱え、頭にハチマキ肩にはタスキ、背中に「振り込め詐欺」と書かれたノボリと。必要以上にやる気を出してしまっているツバサの姿を目にしては、彼女たちも足を止めざるを得ない。
「当艦はァ、人員及び物資の補充の為にィ、このペンタゴン星に駐留しておったワケであるがァ…キイィィィィィィィイイン!」
やたらとエコーを効かせたツバサのマイクがハウリングを起こし、だしぬけに甲高い騒音を立てた。ツバサの話に耳を傾けていた一同は思わぬ奇襲を受け、一斉に耳を塞ぎ身体を縮ませる。
「えー、あハン、いヤン、そこはらめぇ…ポンポン。はいマイクオッケー。あー、なんだ。物資の搬入。物資の搬入作業はペンギン君たちがだいぶん頑張ってくれたおかげで昨日のうちに完了した。お疲れ様です。」
一同の「なんだよもう。」という視線に臆する事なくツバサはスピーチを続ける。「お疲れ様です。」と労をねぎらわれたペンギンたちは一斉に頭を下げ、「おつかれさまです。」と挨拶を返す。
「…と、言うわけで、だ。本艦には既にこのペンタゴン星に留まっている理由何ひとつ存在しねー。本日この場をもちましてさっさと出発、そのまま外宇宙にカチ込みかますことにします。なので配置につけお前ら。もうバカンスは終わりだ。」
一瞬。
皆がツバサの言葉を理解するまでに一瞬の間が空き、その一拍を置いた後にどよめきが場を支配する。
「艦長!?」
あまりに唐突な上司の指示に、真面目な部下が抗議の声を上げる。大股にツバサへ詰め寄るシホ。彼女の波立つ感情を現すように、左右の胸が大きくバウンドを繰り返している。
「己様権限。」
「くッ…!!」
いつもの二人の平時のやり取り。皆の頼みの綱であった艦長代理は、ツバサの魔法の一言の前にあっさりとその輝きを喪ってしまう。
「オラァ!!いつまで正月気分でいるんだテメーら!!今すぐ切り替えろ!さっさと始めっぞ、練習だ練習!!」
一体何を始めるつもりであるのか。そして、季節は正月ではなく夏の終わりであるのだが。この謎の幼女艦長にはそんな意見を聴く耳は端から持ち合わせがないらしく、戸惑う乗組員たちを練習だ練習!と怒鳴り煽り急き立てていく。
ビコーン!ビコーン!ビコーン!
俄に慌ただしくなった船内に突如鳴り響く警報音。
ツバサに追い立てられ蜘蛛の子を散らすように散開していた一同が、思わずギョッと動きを止めた。
「敵…襲?艦長!!」
顔色を変え振り返るシホ。
「ほう…随分とナイスなタイミングじゃないか?いーぜ、出がけの駄賃に蹴散らしてやる。オゥお前らァ、総員戦闘配置ィ!降下てくる前に片ァつける!衛星軌道上で迎撃だ!オバマ発進すんぞ!!」
騒然とする艦内に号令一喝、艦長・ツバサの檄が飛ぶ。
「…もうバカンスは終わらない。」
混乱する部下たちを尻目に。
ツバサはひとり、嬉しげにニッと微笑んだ。




