第2話 暮しゅうしています。 (3) オバマの天宙塾 ①
三行でわかるあらすじ。
「仕事いきたくないなあ。」
「うし太郎。己様は今日ほど、人間の事を憎いと思った事はねーぞ。」
「わ、私…ッ!感じてなんか…、いません…、…???」
パディデビビボン♪ビボビバデン♪
外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その第1格納庫の片隅に何故か置かれたコンビエンスストア。「ヘブンダイブン・プレジデントオバマ出張店」の店内に、聞き覚えのあるチャイムが響く。
本店のある地球でも。はるけき宇宙のその彼方、ここ、氷の惑星ペンタゴンでも変わらない。「ヘブンダイブン」チェーン特有の、入店を報らせるチャイム音である。
「おー。本当で営業してんじゃん。」
入店してきた二人の女性。健康的に陽に焼けた褐色の肌の美少女と、透き通るような真っ白い肌に輝く金髪の美少女。対称的な二人は一様にやたらと布地の少ないセクシーなチアガール衣装に身を包んでおり、同様に大きく膨らんだ胸が窮屈な衣服を盛り上げている。その事がまた、対称的な二人の外見の違いを殊更に際立たせているように見える。
「これどうやって電気引いてんだ?」
褐色の美少女は珍しげに、店内の床、基礎のコンクリートが剥き出してところどころに空いた穴を覗き込む。この「ヘブンダイブン・プレジデントオバマ出張店」。雑な方法で駅前から拉致された際に乱暴に地面から引っこ抜かれており、割れた床からはその際に引きちぎられた電気・ガス水道等、ライフラインのパイプがそのままに放置されているのが確認できるが。不思議なことに店内には普通に電気の灯りが点り、冷蔵庫や空調機も問題なく作動しているように見える。
「あ…いらしゃいませこんにちはー。」
店の最奥、レジカウンターで黄昏ていたアルバイト店員。廻恵生こと通称めぐりんが、来客に対してほぼ本能レベルで刷り込まれている対応を投げる。
入店してきた二人、その見覚えのある姿に彼女の口から。思わず「あっ…」と素直な声が漏れ出る。
「よ。」
褐色の美少女。タツミ・ウシトラゥが右手を挙げる後ろで、金髪碧眼のアールグレイ・シホンティが軽くめぐりんに会釈を返した。
「200円になります。」
「ん。」
「200円ちょうどお預かりします。レシートは…。」
「あ、いや?大丈夫。」
地球よりはるけき宇宙の彼方。ここ、氷の惑星ペンタゴンにおいても。たとえここが昨晩、駅前から突然クレーンで宇宙船の中に運ばれてきたコンビエンスストアであるという非常識きわまる馬鹿な状況の中にあっても。
コンビエンスストアに客が来て、200円のオレンジジュースを買っていく以上。そこで交わされるやり取りはごくごく普通の店員と客のそれであり、なにひとつおかしな事なぞ起きない。
タツミとめぐりんの会話はとても自然に、それは淡々と進んでいく。
「なんていうか。大変だなぁ、アンタも…。」
オレンジジュースの紙パックの入ったビニール袋を受け取り、タツミは少々バツが悪そうにめぐりんを労う。
「本艦の艦長…無茶言ってしまって本当にすいません。」
シホは頭を下げつつ左手を額に伸ばすが。ぐいと引き下ろすはずだった制帽の庇は今日はそこに存在しない。彼女が現在着ているのは寒そうなセクシーチアガール衣装であり、そして彼女は巨乳である。
「あ…大丈夫…、です。」
(慣れてますから。)その言葉をめぐりんは胸の内に飲み込む。この理不尽過ぎる状況の中にあっても、「やりたくないことは絶対に避けられない」という彼女独特の人生観は健在であり。今までがずっとそうだったように、彼女の不平不満は外に出ていくことはなく、そのさりげなく大きな胸の内へと今日もまた積み重なっていった。
「お二人みたいにその…チアガールとかはできませんけど。この店員なら私、本当、馴れてますから…。」
俯き加減のめぐりんが自虐的に嗤う。
「あの…私たち別にチアガールじゃないんですけど…。」
「その衣装じゃ説得力ねーよ。」
困惑気味のシホ、呆れたようなタツミ。それぞれがそれぞれにツッコミを入れる。
「ま、こうなっちまった以上は仲良くやろーぜ。私はタツミ、タツミ・ウシトラゥだ。こっちは艦長のシホ。タツミでいーよ、同世代だろ?」
だろ?と気さくに声をかけるタツミ。その前でめぐりんは「え?」と意外そうな顔をしている。
「あ…!ごめん、年上だった?若そうに見えたからさぁ、悪ぃ…。」
キョトンしためぐりん反応に、素直なタツミは慌てて謝罪の言葉を告げる。
「失礼ですよ!タツミさん!」
シホがもぅ!と頬を膨らまし、その下の胸も膨らませる。
「あの…?お二人とも、おいくつくらいなんですか…?」
おそるおそると尋ねるめぐりん。
「あ?あぁ…私らはタメだよタメ。19。」
何の気なしに答えるタツミに、めぐりんは「じゅっ…!!?」と思わず言葉を喪った。
「(絶対二人とも年上だと思ってたのに!!!)」
驚愕の事実に外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その乗組員である天宙の美少女たちの中にあって唯一の二十代後半。
廻恵生こと通称めぐりんは、己の置かれた不幸な境遇にただ改めてその身を震わせるのだった。




