introduction.
漆黒の宇宙空間を進む外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その、縦に長い戦橋の窓から。ハルカは強化ガラス越しに真っ黒な世界を眺めている。その顔はいまひとつ、ピンとこないという風で。ガラスの鏡の微妙な顔を、同じ顔をしたハルカが見ている。
「どうだ?宇宙は。初めてなんだろ?」
ぎゅうと押し詰められた豊かな胸の谷間もあらわに、タンクトップ姿のタツミが声を掛ける。唐突に始まった宇宙の旅路。先ほどまではまさに文字通り、オバマの艦内は上へ下へ、比喩ではなく物理的な意味でひっくり返るような大騒ぎ。このタツミもハルカとともに、「ぎゃー!」「にゃー!」とガチの悲鳴を発していたが。
地球の重力圏を離脱し、オバマが安定航宙に入った現在はさすがに落ち着きを取り戻し。隊長として、新人を気遣う余裕を見せる。
「…何て言うか。宇宙って…何もないんですね。」
ハルカは少々寂しげに。窓を塞ぐ真黒の空間を眺めている。微と笑みを浮かべたタツミはチョイ、チョイ、と親指で戦橋後方。一面に拡がる大窓を指し示した。ハルカは指示されるままにそちらへ向かう。
「?」
同じように黒一色の窓の前に立ったハルカは、ハッと息を飲んで足元を凝視めた。黒く閉ざされた壁のような宇宙空間。その奥底に、青く輝く惑星が視認える。
「大分トバしてやがるからなあ。あーぁ、もうあんなに小さくなっちまったか。でもさ、『ある』だろ。宇宙には『何もない』んじゃない。『なんでもある』のさ、宇宙の中にはな。」
ハルカは窓の外遥か宇宙の底に沈んでいく、青く小さな地球を取り憑かれたように視続けながら。
「『なんでもある』…。」
タツミに言われた言葉を呟き、反芻している。
「しっかり見とけよ。しばらく戻れなくなりそうだからな。」
タツミは普段の快活な様子からは意外に思えるほど、優しく穏やかな言葉を、ハルカの背中に語りかけていく。
「(…見納めになるかも知れねーからな。)」
伏し目がちに窓へと目を遣るタツミ。ガラスの鏡に映った自分、その奥に拡がる宇宙の闇は。
来た途と、往く未知。すべてが溶けて混ざり合い、底知れぬ黒に塗り込められていた。




