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王伝編集官   作者: 卵星店長(代理)
8章 闇鍋とドロボー
68/72

王伝編集官 58話

「げんぎでねぇ~~」


 旅の終わりは彼との別れ。大泣きしながらカピリーさんの首にしがみついているミレーナの声で我に返った。サフィもアクアもぼんやりしんみり撫でている。テラは・・・長寝をほぐすストレッチをしている。


「フンッス、フンッス」


 あれ?カピリーさんの様子が変だ。アラスティにいる間には見たことがなかった感じ。前脚をその場でふみふみしながら首を90度右に向けて何かを見ている。興味を引くものがあるのだろうか。でもそれが何かがわからないな。


「スティークさん、あれなんでしょうね」


 同じものを見ていても経験の差で得られる情報量がちがう。長年彼らと接していたスティークさんは興味深げに「そういう時期か」と呟き、もの申したげなカピリーさんに望む言葉をかけた。


「向こうへ行きたいのかい?」


 表情の変わらないカピリーさんは尻尾をブンブンさせて肯定の意を示した。向こうというのは僕たちの来た方角じゃない。ルシネイラには門が3つあって、ここは南門で道は2方向にある。一方はアラスティに、もう一方はエナナニさんのいるテウルカ村だ。


 今、南門にはそのテウルカ方面に行く馬車が何台も停車している。これらはテウルカ村の先、大陸の外側まで街道の整備と外海に新たな街を造るための先発隊で、関わっていないリノリスは出発日が今日だったのをすっかり忘れていた。忘れついでに馬車隊に指示を出している若い騎士を見つめる。じーっと見つめる。彼の名前はアリオ・エンドリーという。その頬はやや不自然にピクピクしている。こちらをというか先輩を気にしているのだ。ただ顔見知りだが友人というわけでもない。


(笑っちゃいけない場面だものねぇ。よし、見なかったことにしとこう)


 ゆるいウェーブの赤茶の髪と蜜色の瞳と甘めの顔立ちで現在20才。同世代の中ではとてもとてももてると我が家と隣接している騎士の独身寮の人たちが言っていたっけ。兄2人と姉2人がいる末っ子で寮に入らず実家から通っている。ルシネイラの騎士隊はアラスティや他国ほど数もなく、これまでは若手が城下担当といった流れがあるくらいしか組織化していなかった。


 そこに今回アリオは東部開拓の1隊を預かることになった。彼が今後開拓地に駐屯するかアラスティ南部の開拓参加を希望するかは本人にも定かではないとのこと。でも多分ぐいぐい勧められると思われます。こういうもてもてさんが新規開拓地に行けば若いお嬢さんがもれなくついてくるからですよ。


「リノもうちの馬車乗ってく?」


「ん、まだ少しここに残るよ。また明日ね」


「そっか、またねー」


 テラがくいっと親指で指差す仕草はまるでナンパだ。お迎えの執事さんが静かに目礼したことから、第一王子の従者というものは本来こういう扱いがふつーなのだと実感しますね。 


 そしてこの時もリノリスは見逃した。テラの家から来た賢覧豪華な馬車にサフィがミレーナを慰めながら乗り込んだ後、アクアがそそくさとついていくのを。かなりあからさまに開拓隊を見ないようにしていたが、それを見ていたのは先輩だけだった。


(まだ、こじれてるのか。よく飽きないな)


 なんでもご存知なモモンガが売りの先輩は、ほんの一瞬で読めてしまう。もてもて騎士のアリオとアクアの従姉妹エナナニが同級生だとか、カレはカノジョにほにゃららだとか、蟻ラブなエナナニはまったくスルーだとか、うん色々。報告の義務もなければ興味もない。


 今後定期的にアリオがテウルカ村を訪れるも2人の間になにもないんじゃないかとかも考えない。アクアが避けた。それだけが事実なのだから。アクアはアリオが嫌いではない。でも2人の仲を応援しようとまでは思わない。面倒見のいいアクアがだ。詳細はいずれどこかで。


「出発ー」


 先頭の隊に号令が出て東部開拓隊は厳かに動き出す。同日これと同じ景色がアラスティでもあり、新国に向けての準備もまた始まる。リノリスがそこに加わるまであと10年。それまではしっかり学生生活を満喫・・・できるのかなぁ


≪おい、そろそろ城へ向かうぞ≫


 はいはい、きっと10年なんてあっというまだろうねぇ


  

 

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