王伝編集官 57話
≪ちょうどいい、城まで乗せていってもらおうか≫
これはモモンガの特異体で僕の先輩ククーラクーラ(長いのでククラクラともクーさんとも呼ばれてる)の発したセリフ。言葉で伝えたものでなく、アクアの膝の上でくつろぐ先輩の頭上に出てるフキダシと呼ばれる白い物体に書かれたものだ。伝えたい相手に向けて書かれているためアクアには見えてない。
「まだお腹痛い?」
アクアはお腹をさすってキューキュー鳴いている先輩を心配して背中をなでている。でも、そこまで痛かったかなぁ。建国時からいる生き字引だが思考は大人とは思えない。現に言動と挙動が一致してないし。とりあえず先のセリフに返答しないと。
「この荷車は街の入り口までしか行きませんよ」
≪なにを言ってる。ここなら城まで行けるだろ≫
そう告げると先輩はアクアの膝から降りて僕に登ってきた。はじめからそのつもりだったのか・・・。頭の上から顔の前にでたフキダシはもっと不穏なセリフを吐いた。
≪ところでリノ、なんかうまいもん持ってるだろ。味見させろ≫
なんでこう、僕の周りは鼻が利くのが多いんだか。強引な上逆らえないとこも同じだし。ぶつくさ思いながら一欠けら出すと
≪そんな甘ったるそうなのじゃない≫
マロングラッセはお好みでないと。うーん、しばし考える。味見と言った。それはすなわち普段食べてるものではないということか。やだな、該当するものが1つしかないよ。僕の好物。
≪ハシバミか。どうせ大量にあるんだろ。もっとよこせ≫
生のハシバミの実はようするにドングリ。加工した製菓用のパウダーやペーストだけ買ってれば興味をもたれなかっただろうに。あれこれ買っていたらつい気が緩んで生の実30キロ買ってしまいましたよ。自分で加工すればちょっとお徳だし。まぁ渡すにしても一掴み分だけど。
「あ、門見えてきたよ」
ゆるやかなのぼり坂が終わり、一月ほどとはいえ初めて長く離れた景色を見てアクアの声も喜びに弾んでいた。リノリスにとってはやれやれといったところだろうが顔は2人とも変わらない。今だれも労わなくても言いましょう。リノ君おつかれさま。
と、見えた景色で彼らに関係ありな物体は3点。ひとつは黒塗りお高そうな馬車。ひとつは若く親しみもてる凛々しい騎士。ひとつはその騎士より無駄に体格のいい商人さん。まずリノリスに声をかけてきたのは
「やぁ、リノリス君おかえり」
「スティークさん、ただいまです」
スティーク・アロアリアはアロアリア商会の次男、つまりフェルクの兄ということだ。リノリスは長兄セオシールに会う機会がなかったため判断しにくい。なにがというと
(似てないなぁ・・・・)
顔立ち?雰囲気?いや、もっとなんというか
フェルクにもある甘いマスクは日焼けによって硬度が上がり、上質な服からのぞくのは船乗り顔負けの二の腕。身内の評価だと、実直だが温和な長兄をまさしく支えている。彼の手腕によってカストルファンの物流は格段に早くなっている。
早いと表現する理由は転移門を使う商人は言わば「御用聞き」といった面があるためで、売れるとわかっているものが多い。手堅く確実に稼ぐのが通常の商人の姿で、彼はそういうのは兄に任せ自分は南方諸島や開拓の進んでいない西島に直接船で回っている。新しいものが見たければ彼に聞けというのが同業者の合言葉。リノリスも今まではアラスティのものを間接的にしか見なかったが、現地で見るものはとても新鮮に見えた。それが今回の買い物に出たということ。
「どうやら良い仕事をしてきたようだね。彼はずいぶんお気に召したようだ」
スティークさんは僕の頭の上を見ながら目を細めて言った。笑わなかったのは気づかいです。だって他の人たちは微妙に目を逸らしたもん。頭の上ではポリポリ
聞こえない。聞こえないったら。誰か言って。
ねぇ、他の人をだますのはよくないけど自分をだますのはいいよね?
自分の心は騙せないという概念に真っ向勝負。




