ギルドにいらっしゃい
ムランが落ち着いたところで休めそうな所を探す。
つか、今気がついた! 上着とカバンは宇宙船の中だった……もう爆発して無い。
スマホも入っていたのに。残念だが地球じゃないから電波は届きそうもないな。
おもむろに後ろポケットに入っている財布を取り出して中身を確認する。
三万六千八百二十三円。これが全財産だ。サービス券や電子マネー、クレジットカードが使えれば……よそう、そんな希望は持たない方がいい。
「おい、スズキヨシオ。何やってんだよ。早く休もうぜ」
ムランが図々しく頭の上から言ってくる。お前はさっきから肩車してるから休んでるだろ!
「良雄でいいよ。フルネームで呼ばれるのは少し恥ずかしいし」
「何? フルネームってなんだ?」
俺の頭をポコポコ叩いて質問してくる。あーうざい!
無視して財布をしまい、辺りを見回す。
やや斜め向かいの所に二階建ての大きい建物がある。そこには人がひっきりなしに出入りしているようだ。ホテルかな?
「よし! よくわからんが行ってみよう。飛び込み営業は怖くないぞ!」
「おい、ヨシオ! 聞いてるのか?」
「うるせい! 聞いてて無視してんだよ!」
するとまたポコポコ頭を叩いてきた。ムカつくがあまり言うとリモコンを持ち出しそうだ。
目的の建物の扉は開けっ放しのようで出入りが自由なようだ。
今まさに中へ入る人の後について行き潜入する。
外観通りなかなかの広い空間なようで、ちょうど手前は銀行の受付のようなカウンターになっていて何人もの受付嬢が客を相手している。
奥には広いラウンジがあり、いくつものテーブルで様々な種族が談笑しているようだ。バーも併設されているようで飲み物を注文している場面が見られた。
壁には大きな伝言板がついていて様々な情報を載せた紙が貼ってある。……ホテルじゃないな。銀行にしては変だ。
しかしよく見ると受付カウンターの列で一つだけ空いている。
ケモ耳のかわいい子の横、若く美人なのに誰も並んでいない。何かあるのか?
受付を観察していたらちょうど美人と目があってしまい慌てて視線をそらす。
「そこの君! 目をそらしたあんた! ねえ! 聞いてるの!?」
間髪入れず指をさし怒鳴ってくる。な、なんなんだ? 怖いので背を向けるとムランが聞いてくる。
「おい? あいつが言ってるのはヨシオのことだろ? いいのか?」
「いいんだよ。ああいうのは、かかわらない方がいい」
そのまま出口に向かおうとすると誰かに腕をつかまれた。
「ハァ、ハァ。あんたでしょ? なんで見てたの?」
振り向くと受付の美人が息も切れ切れ目の前にいる。行動力ありすぎだろ。
「い、いや、偶然目が合っただけだ…」
「そ。いいからこっちに来て」
無理やり腕を引っ張られ受付カウンターまで連れられる。その間、モーゼのごとく人波が避けていく。
カウンターまで来ると美人は素早く反対側に回る。
何事もないように乱れた髪を手櫛で整えると眼光鋭く口を開いた。
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ!」
え? そんな威嚇するように言わなくても。俺が外回りの営業じゃなかったら心折れてるぞ。
いや、待て。その前にどうやらここはギルドなのか。
「どうしたの? 用があるから来たんでしょ」
言ってる言葉と表情が違うぞ。なんでそんなガンつけながらなんだよ。
「い、いや、その、教えて欲しい事があるけど、大丈夫かな?」
「ええ、もちろん! 困ってるの?」
……もう少し表情を崩してもいいと思う。見下ろす感じはダメだ。いや、待て。ここで情報を得られないと後々困る。
「実はここに来たのは初めてで、いろいろ教えて欲しい」
すると美人が右手を差し出してきた。何?
「相談はブロンズ一〇枚」
「は? 金取るの?」
「当たり前でしょ! なんだと思ってるの? 親切じゃ飯は食えないの!」
美人が凄んで言ってくる。ま、確かにそうだけど。
くそ! なけなしの金を出すのか。
仕方なく右手に一〇〇円玉を置く。
「……何これ? 色はシルバーだけど大きさも模様も違うじゃない! あんたの目玉は腐ってるの?」
思った通り日本の貨幣は通じなかった。しかし、えらい言われよう。
「あ、これじゃないんだ。困ったな。どこか金と交換できる場所知ってる?」
「はー、なんなの。この建物の左二軒隣に雑貨屋があるからそこで何か売ってくるといいよ」
「おお、ありがとう! 助かるよ。じゃあ、また」
お礼を言ってそそくさとその場を離れる。
「金が出来たら来なさいよ! ここにいるから!」
逃げる背中に美人の声が刺さる。できれば来たくない。
「しかし、この世界の人間は恐ろしいな……」
頭の上でムランが呟く。悔しいが同じ意見だ。
ギルドを出て二軒隣の店に来る。
「こんにちはー」
ドアを開け入るとそこは所狭しといろいろな道具が置かれ、カウンターにも鍋が積みあがっている。
そこそこ広い店内なのにあふれんばかりに物が並べられていた。
「いらっしゃい」
太って顎髭を生やしたおっさんが声をかける。座っているようでカウンターにある鍋の横に丸い顔がある。
さっそく近づき財布を取り出す。
「いきなりで悪いけど、これを換金することはできる?」
カウンターに全財産を置く。
「うん? これを金に換えたいのか? どれどれ」
顎髭のおっさんは、まず五〇〇円玉を手に取り見始めて次々と硬貨と紙幣を調べている。
すると一円玉を手に取るとやたら詳しく見始めた。なんだ?
「こ、これは知らない金属だ。軽くて丈夫そうだな。うむ」
マジか…。まさかの一円玉! 三枚しかないよ。
しばらく調べたおっさんは店の奥へ引っ込むと再びやってきた。
「鑑定が終わったぞ。まずこの紙は丈夫で良い品だが、模様が入っているから安い。そして銀貨と銅貨も安い。しかしこの三枚は価値がありそうだ。と言うわけでシルバー一枚にアイアン三枚、ブロンズ四〇枚でどうだ?」
いや、全然価値がわからない。…しかたがない。
「あ、大丈夫です」
「よし! 成立だ! ありがとな。これが料金だ」
きっちり指定枚数を差し出されるので受け取り一部を財布に、残りをポケットに入れる。この世界の硬貨は少し大きくて厚いな。
「また何かあれば来な。俺はブロガンだ」
「あ、ヨシオです」
挨拶してブロガンと別れ、店を出た。その間、一言もムランは発していない。
重い足取りでギルドへ向かう途中、ムランが聞いてくる。
「な、なあ、またあの人間の元に行くのか?」
「まさか! 今度は優しそうな人物に行くよ」
いいかげんうんざりだ。こいつに連れ去られてからイイことが一つもない。
しかし、どんな世界でも生きていかなければならない。つまり金を稼がないと確実にひもじい思いをするのだ。
再びギルドに入ると、先ほどより人が少なくなっているような感じ。
さりげなく例の美人のカウンターを避け、ケモ耳娘の列に並ぶ。
しかし天は俺を見ていなかった。周りの視線が俺に集中するのがわかる。
ふと例の美人のカウンターに視線を移すと、受付嬢が俺をガン見しているのが瞳に映った。
列の前にいるおっさんが振り向いて目で「行け!」と訴えている。ああ、嫌だ!
しかたがなく列を出て美人の受付嬢の元へ向かう。
「遅い! しかも列を間違えてる!!」
第一声がこれ。違うよ、間違えてないよ。それに遅くもない。
「ほら、ブロンズ一〇枚! 早く!」
しぶしぶ出すとひったくるように奪われる。
「ひい…ふう……ぴったりね。さ、何が聞きたいの?」
一〇枚だけなんだから、これ見よがしに数えるな! 頭の上が震えてるぞ。笑っているのか?




