こんにちは異世界
脱出用ボールの張り付ける力が弱まり姿勢が楽になると他を見渡す余裕が出る。
しかし高速で空を移動中のようで下を見ると雲しかない。……落ちたら死ぬな。
「おい! 宇宙人! いつまでもそこにいるなよ!」
腹にへばりつく宇宙人を引きはがし目の前へ置く。
「うぅうう。もうダメだぁ~~」
ヘナヘナと崩れ落ちる宇宙人。俺が言いたいよ!
「いつまでもクヨクヨするな。この球はどうやって降りるんだ?」
うなだれた頭を少し上げ俺をちらりと見る宇宙人。
「知らねーよ。どこに飛んでいくのかもわかんねー。オレだって初めてなんだよ!!」
三本の手を振り回して怒ってきた。丸い頭に手を当てグルグル振っている触手の手から逃げる。そんな短い手で当たるか!
そうこうしている内に飛んでいる高度が下がって来た。
グングン下降していく。おわぁあああ、怖えええ!
と、また宇宙人が俺の腹に抱きついてくる。あー、うざったい!
やがて森の手前の土が見える平地にボールがふわりと着地し、球が割れパカッと開く。
さすが超科学だ。安全設計だな。宇宙人を腹に付けながら地面に降り立つ。
「はー。なんとか落ち着けるところまで来たのか?」
振り返り改めて透明なボールを観察するが俺たち以外は何も入ってなかった。超科学でらくちんサバイバルを期待していたが無理だ。
「おい、地球人! ここはどこだ!?」
急に元気になった宇宙人が俺の腹から離れると例のリモコンを後ろから取り出し突き出した。
「俺だってわかんないよ。ただ、ここは地球じゃない……」
「なんだと!? 同じ姿の奴がいっぱいいただろ! しかも攻撃してきやがって!」
激おこ宇宙人がまくし立てる。ダメだわかってないな。
「いいか? あいつらの事は俺は知らない! 何度も言うがここは地球じゃないんだ!!」
くそ! 何が悲しくて地球じゃないことを力説してるんだ、俺。
やっと事情がのみ込めたのか宇宙人は数歩後ずさり座り込んだ。
「ち、地球じゃないとすれば何なんだ?」
「わからない。たぶん違う星かも」
聞いた宇宙人は頭を上げバカにしたような顔をしている。絶対、信じてねーな。
「あー、くそ! だいたいお前が俺をさらわなきゃ、こんなことにならなかったんだ!」
「お、オレは初任務で張り切ってただけだ。間抜けな地球人を一人、連れて帰るだけだったのに……」
ガックリうなだれている宇宙人。
「ちょっと待て! 誰が間抜けな地球人だって!?」
問い詰めると、ちらりと俺を見て再びうなだれる。ムカついてきた!
「ふざけんな! お前のせいで……」
怒鳴りつける途中で、宇宙人は鬼の形相になり例のリモコンを突き付けてくる。
「地球人。今、武器を持っているのはオレなんだぞ?」
じりじりと寄ってくる。しまった、武器の事はすっかり忘れてた。
「は、話し合おう。たとえ星が違ってもお互い文明人同士じゃないか?」
「さっきまでの勢いはどうした?」
ニヤリと余裕をかます宇宙人。立場が逆転してしまった。くそ! どうする?
内心焦りながら宇宙人の様子を見ると、どんどん顔色が悪くなってきている。視線は俺の背後にあるようだ。
前の宇宙人を気にしつつ振り返る。
すると近くの森の木々の間から緑色で背丈が子供ぐらいの怪物がわらわらと出てくるのが見えた。あー、なんか知ってるわ。ファンタジーだな。
よく見るとダッシュしてこちらに向かってきている。次第に雄たけびが聞こえてきた。
「ギャエエエエエエエエエェェ!!」
甲高い耳鳴りがしそうな雄たけびだ。少なくとも一〇人以上はいそう。宇宙人を見ると頭蒼白でブルっている。
「宇宙人! 早くあいつらを攻撃しろ!」
「お、おまえがやれよー」
弱弱しく俺に振る。ってアホか!
「武器持ってるのはお前だろ! その代わり一緒に逃げてやるから!」
固まっている宇宙人を持ち上げ肩車して走り始める。
「ほら! 早く攻撃しろ! 追いつかれるぞ!」
「……ムラン」
「は!?」
「オレの名はムランだ」
「ああ、俺は鈴木良雄。よろしくなムラン」
そんな事をしている内に雄たけびが近づいてくる。
「うわぁあああああああああ!!」
宇宙人のムランが叫びながら武器を使用したようで、走る背後で爆発音が響き渡り振動が襲う。
連続して爆発が起こり、さながら戦場の中を走っている気分になる。弾は大丈夫なのか?
全速力で走り続け、ムランが攻撃をやめたところで振り返る。
「えぇー!?」
そこには地面のあちこちが深くえぐられ、なだらかな平地がクレーターだらけの場所に変貌していた。…やりすぎだ。
「どうだ? あまりの威力にビビったろ?」
俺の頭の上でムランが自慢げにしている。頭が痛くなってきた。こいつの星の常識を知りたい。
「……」
何も言わず先を歩き始める。
土がむき出しの平地をしばらく進むと遠くに背の高い建物が見えてきた。あそこに行けば何かあるはず。
近づいていくと背の高い建物は見張り小屋のようで他にも何本も立っているのが見える。その下には高さ四、五メートルほどの分厚そうな壁がある。壁は居住区を囲っているようで、壁の前には水の無い堀があった。
入り口がわからないので見張り小屋を目指し移動すると大きな門が見えてきた。門の前だけは堀がなくそのまま行けるようだ。
門に近づくと上から声が降ってくる。
「おーい! お前らそこで待て!」
見上げると見張り小屋から男が身を乗り出している。
「わかったー」
返事をすると男の頭が引っ込んでいく。
少し待つと大きな鉄の門が低く重い音を出しながら少し開き、人影が二つ出てきた。
背の高いマッチョで短髪の男と俺と同じぐらいの背丈の痩せて男前なやつ。二人とも弓矢とヤリを持っている。
「待たせたな。あんた人族だよな?」
マッチョが聞いてくる。歳は俺よりも上っぽいな。
「あ、ああ。たぶん…」
“人族”ってなんだ? 意味が分からんが適当に愛想笑いしてみる。
「上から見てたけどお前の使い魔ってスゴイな!? どういうやつなんだ?」
痩せの男前が興味深々で迫ってくる。ええ? “使い魔”ってなんだ? ……ひょっとしてムランのことか?
ふと肩車しているムランを見ると、よだれたらして寝ている。道理でずっと大人しかったわけだ。
のんきに寝やがって! 丸い頭に渾身のデコピンをかます。
「っ! 痛てぇえええ!!」
ムランは叫びとともに起きたようだ。いい気味。
「ナニしやがるんだ! このクソ地球人が~~!!」
いきなりキレたムランがリモコンを俺の頬に当ててくる。
「今すぐぶっ殺してやる!」
「ま、待て、ムラン。この人たちが君のことを褒めていたんだ」
「ナニ!?」
ようやく他の人間に気がついたムランは門番の二人を見て固まる。さっきの勢いどうした!?
「す、スゲエ……。よくしゃべるな。こんな使い魔見たこと無いぞ」
汗をかき痩せの男前が感心してムランを観察している。ムランはそれを目で追っていた。
「ま、これで魔物が変装してるわけじゃないとわかったよ」
マッチョがほっとしている。ああ、魔物ってあの緑色の怪物の事か…確かゴブリンだっけ?
「おたくらこの町は初めてだろ? ようこそバンガラへ! 俺はダン。よろしくな! チキュウジン!」
「いや、違う! 俺は鈴木良雄だ! こいつはムラン!」
ハテナ? って顔すんなマッチョ! 痩せも苦笑いしてるし。
「ああ!? すまん。よろしくなスズキヨシオ! ちなみにこいつはベルドだ」
ダンは後ろ頭をかいて笑っている。紹介されたベルドは手を振りムランは固まったままだ。人見知りか?
「二人ともよろしく!」
「町でゆっくりしてくれ。また会いそうだしな!」
ダンたちと別れて門を通される。ダン達は門を閉めるとまた見張り台に登っていく。
やっと休めるのか……。
町を見渡すとどうも中世というより西部の開拓地みたいな様相をしている。高い建物でも二階建てのようだ。
活気があるようで道行く人々の顔は明るい。
「おい! 見ろよ! あの地球人は耳としっぽが生えてるぞ! おわぁ! あいつ、もはや人じゃねぇよ。地球とは恐ろしい所だな?」
いきなり雄弁になったムランがまくし立てる。こいつ俺の話しを聞いてたのか?
「確かに耳とかトカゲみたいな人にはビックリだが、いいか? 何度も言うがここは地球じゃねぇ! そして地球人にはあんなやつらはいなんだよ!」
「ははは。いい加減、オレを騙すなよ……」
俺の目をみたムランはやっと真実と悟ったようで青くなってきた。というより、俺も驚きたかった…こいつのせいで冷静だ。
だいたい人の容姿を言う前に自分を鏡で見てみろタコ型宇宙人。
「ははは、は。マジかよ……」
今頃ガックリうなだれるな!




