割り込み男
アスラカーズとゼルティウスがイクサスの市内で騒ぎを起こしていた頃、辺境伯の城館では別の騒ぎが起きていた。
「辺境伯閣下と御嫡子殿はいずこですか」
そう問うのはラスティーナ。
華美なドレスをまとい、表敬訪問するかのような姿であったが、その眼差しは鋭い。その理由は、辺境伯とその嫡子がそろってこの場にいないからだ。
「俺が代理である。それでは不服か?」
そう答えるのはイズヴァルト・イクサシオン。辺境伯家の次男であった。
「父も兄も病に倒れている。俺が代理で何か文句が?」
脅すような目つきでラスティーナを見るイズヴァルト。
貴族の女が面会に来たということで会ってみたが、イズヴァルトはラスティーナの眼差しが気に食わなかった。責めるようなまなざし、それは父と兄が常日頃自分に向けているものと同じだった。
「いいえ、かえって都合がいいですわ」
ラスティーナはフッと微笑み続けざまに言い募る。
「閣下にお伺いしたいことは、この街での魔増薬の蔓延、衛兵隊と魔増薬の売人の癒着です。このことについてはどうお考えなのか伺いたいと思っていましたの。これらは全て、閣下が辺境伯の代理となってから起きていることですわ!」
「貴様! 誰に対してものを言っている! 俺は辺境伯代理、いわば辺境伯である。その俺の統治に不備があるとでも抜かすか!」
「いいえ、全ては貴方の差し金なのではと疑っているのです!」
ラスティーナは決然と言い放つ。表情には怒りがこもっている。もっとも、それは正義が果たされていないことに対する怒りであり、同じようにイズヴァルトも怒っていたがそれは罪が暴かれたことに対する怒りであった。
「無礼な女め! 生きて城をでられると思うな!」
「私に手を出すつもりですか。どうぞ、出してごらんなさい!」
ラスティーナは一呼吸おいて、城内に響き渡るような声を発する。
「我が名はラスティーナ・アウルム! アウルム王国第三王女である! 王国に仕える臣が王族に刃を向けるのか! 答えよイズヴァルト・イクサシオン!」
辺境伯と王族で比べれば格は当然、王族の方が上。
手を出せば辺境伯家は反逆者として取り潰しである。
「王女がなぜこんなところに……」
「私は諸国を回り見聞を広めるとともに悪政が行われていないかを監視する役目を国王陛下から与えられています。イズヴァルト貴方の悪事も全て知っています」
がっくりと項垂れたイズヴァルトだったが、全てという言葉を聞きにわかに笑い声をあげ始めた。
「すべて? すべてだと? 何も知らん小娘が! 俺が父と兄に毒を盛り、寝たきりにしたことも、白神教国と繋がっていることも全てお見通しだとでも? なめるな!」
イズヴァルトは立ち上がると剣を抜いた。
ラスティーナの護衛の騎士たちが立ちふさがるが、どういうわけか触れてもいない剣の一振りで護衛たちの体が吹き飛んでいく。
「旅の途中といったな小娘。それは好都合。不幸にもこの街で事故にあい命を落としたということにしておいてやる!」
イズヴァルトの眼は正気のそれではなかった。
護衛の騎士が誰もいない状況でラスティーナにイズヴァルトの剣が迫る。
だが、そのときだった──
「ちょいと失礼」
横合いからの蹴りがイズヴァルトを捉え、イズヴァルトを吹き飛ばしたのだ。
蹴ったのはアスラカーズ。街中を走り抜け、最短距離でこの場にたどり着いた。
「貴様、何者だ」
「邪神のアスラカーズ様でーす。キミが呼べって命令したんだろ。もうちょっと責任もとうぜ」
「アスラカーズ!」
「よう、姫さんお元気。ちょっと面倒そうな相手だから、お仲間の騎士たちを連れてどっか行っててくれると助かるなぁ。ついでに城から人も避難させておいてね」
「私に命令するのですか?」
ラスティーナは微笑みを浮かべている。自分を姫と知ってここまでぞんざいな扱いをするやからにはあったことが無かった。
「そうさ、だって俺の方が気持ち的に偉いしね。キミは俺の命令を素直に聞いて動いて頂戴」
そういわれると、ラスティーナは回復した騎士たちを連れてこの場を脱出するのだった。
「さて──」
アスラカーズの顔には常に自身に満ちた不敵な笑みが浮かんでいる。
だが、イズヴァルトを見る雰囲気には若干の変化があった。
「キミさぁ、内力法使ってるよね。どこの誰に習ったんだい?」




