なぜだ・・・
ルイナスの部屋にいた、ルイナスを見守るように佇む幽霊。
若い女性の姿だったし、そのあとのお父様の反応からして『ルイナスの亡くなった母親』だと思っていたのだけど……。どうやら違ったみたい。
勘違いしてしまった理由は、幽霊が見える人と見えない人がいたせい。
私とアリスには幽霊が見えたけど、ルイナスの母親の顔は知らなかった。
お父様はもちろん顔を知っていたけれど、彼には幽霊が見えなかった。
だからこそ、髪色という普遍的な特徴と、ルイナスの近くにいた若い女性ということで『母親』だと勘違いしてしまったのだ。
「私には見えないからよく分からないっすけど、危害を加える感じじゃなかったんですよね?」
「えぇ、そうですね」
「そして今までルイナス様は無事だった。となると、あえてその幽霊とやらに触れる必要はないんじゃないっすか?」
「それもそうかもしれませんけど、長くこの世に留まった幽霊がだんだんと変質して――というのはお約束じゃありません?」
前世のだけど。
「……んー、まぁそうっすね。よく聞く話っすか……。それで? リーナ様はどうするつもりなんですか?」
「まずは話を聞こうかと」
「話?」
「えぇ。危険じゃないかもしれないなら、無理して祓う必要もないですし」
「ほーん。お嬢様のことっすから力任せに蒸発させるつもりかと」
「力任せって」
私のことをなんだと思っているのか。というか幽霊が蒸発するってなんやねん。
まったくもーっと呆れつつ、ルイナスの部屋へ。
鍵は開いている。
ルイナス君、出かけるときは鍵を掛けるようにしましょう。
「……どうも~」
小さな声で挨拶しつつ、ドアを開けて中を覗き込む。
室内にいたのは、あのときルイナスの側に立っていた女性だった。
もちろん幽霊。
この世界でもそういうものなのか、足元はうっすらと透けている。
優しそうな顔つき。年齢は20代前半くらいだろうか?
ルイナスのいないベッドを、静かに、静かに見下ろしている。
その瞳に浮かぶ感情は――寂しさ、だろうか?
ちらりとフィナさんを確認するけど、やはり彼女には見えていないみたい。
「えーっと、はじめまして。リーナ・ルクトベルクです」
『…………』
私の声に応えたかのように、女性がこちらを向いた。
こちらを見定めようとする瞳。
つまり、意志がある。
これは話しかけ続ければいずれ意思疎通もできるかなと判断した私は、会話を続行することにした。
「えーっとですね、この度は公爵家に引き取られまして。ルイナスの姉になったんですよ」
『……あ、ね?』
「はい。お姉ちゃんです。姉は弟を守るものですから、ご安心を」
『――おまえ、か』
途端に。
女性の身体から突風が吹き荒れた。いやこれは……魔力? いやいや魔力とも少し違うような?
ともあれ、友好的な反応とは思えない。
彼女がこちらに向けてくる目に込められている感情は――敵意。
あれ? これ、もしかしてバトル展開ですか?




