帰還(ミドルン)
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「おかえりー」
ミドルン城に入ったアデルをラーゲンハルトが出迎える。その背後にはフォスターも付いてきていた。
「ただいま戻りました」
アデルが笑顔で言う。その足元を千羽犬のイバが通り過ぎ、ラーゲンハルトの足元の匂いを嗅いでいた。
「あはは、またカワイイ子を連れて来たねぇ」
ラーゲンハルトはしゃがみ込み、イバの頭を撫でる。
「この城は歩きやすいティマね」
そこに彩ティアマたちが入ってくる。ミドルン城のメイン通路は様々な種族が通りやすいように広いスペースが確保されていた。
「この間みたいに馬扱いされるのはごめんティマ」
「す、すみませんでした」
不機嫌そうに言う彩ティアマのイルマーにアデルは頭を下げる。
「ふん、あの火を吐くドラゴンさえいなかったら……」
イルマーが何かを言いかけた時……
「か~わ~」
遠くから何やら甲高い声が聞こえてきた。
「え?」
声のする方にアデルが視線を向ける。黒い影がすごい勢いで向かって来ていた。
「い~!」
黒い影は勢いそのままにタックルでイルマーを押し倒す。
「ディヴァッ!」
カエルのような鳴き声を上げてイルマーは倒れ込んだ。その体には黒髪の美少女がしがみついている。
「デ、デスドラゴンさん!?」
アデルはその美少女――デスドラゴンを見て声を上げた。
「ヤバーイ! 超ゲロゲロ!」
イルマーに頬ずりしながらデスドラゴンが言う。恐らく誉め言葉なのだろう。
「な、なんて馬鹿力ティマ!」
イルマーはデスドラゴンを振りほどこうとするが、デスドラゴンの腕はビクともしない。
「ご、ごめんなさい、それうちの神竜のデスドラゴンさんなんです」
アデルはデスドラゴンに抱き枕のようにされているイルマーの傍らにしゃがみ込む。
「デ、デスドラゴン……!?」
他の二人の彩ティアマはその名を聞き、恐怖に後ずさっていた。
「み、見てないで助けるティマ!」
イルマーはアデルに助けを求める。
「大丈夫です! 夕飯までには放してくれると思うんで」
「まだ昼ティマ!」
アデルの言葉を聞き、イルマーが叫ぶ。
「その前にオヤツ」
ティマ吸いをしながらデスドラゴンが言った。その後ろを破魔妖狐たちが気配を殺して通り過ぎていく。どうやら関わり合いにならない方が得策だと思ったようだ。
「そう言えばアデル君、リザードマンちゃんたちもほぼクモネズミの駆除を終えたみたいだよ。もう1週間、クモネズミの姿はもちろんクモネズミにやられた動物の姿も確認できてない。殲滅できたと思っていいんじゃない?」
ラーゲンハルトが足元で呻くイルマーを無視して話した。
「へぇ、それは良かったです。じゃあしばらくは落ち着けますね」
アデルはほっとした表情で言う。
「いえ。それがカザラス帝国に不穏な動きがあります」
「えっ!?」
フォスターの報告にアデルは唖然とする。
「ど、どういうことですか!?」
「ドローレン要塞に向けてカザラス軍……というより、ラーベル教軍が移動していると報告がありました。救命騎士を中心に1万名ほどの兵力のようです」
「い、1万名!?」
その数字にアデルはギョッとする。ただの兵士ならともかく、それだけの数の救命騎士が投入されるのは前代未聞だ。
「奇襲なら脅威だけど、普通に進軍してくる救命騎士ってそこまでなんだよね」
だがラーゲンハルトはあっけらかんと言った。
「レイコちゃんとかがその気になってくれたら簡単にやれちゃいそうだし。ちょっとジークムント兄上……いや、誰だか知らないけど、大司教は戦に関しても政治に関しても素人だと思う。だから予想がつきにくいんだ」
「あぁ、確かにそんな感じはしますね」
ラーゲンハルトの言葉にアデルも頷く。
「もしかすると兄上の記憶とか残ってるんじゃないかとか期待してたけど、これだけヒドイ動きをしてるなら少なくとも頭の中は完全に別人だと確信してるよ。魔法が無かったらあっという間に蹴散らせてるだろうね」
ラーゲンハルトはそう言うと肩をすくめた。
「だが、流石に無策で突っ込んで来ることを期待はできまい」
イバを抱き抱えたイルアーナが言う。その頬をイバがペロペロ舐めていた。
「まあね。さすがに救命騎士1万を捨てるようなことはしないと思うけど……それが陽動の可能性もあるし、神竜ちゃんとかに対してなんらかの対抗策がある可能性もある。アデル君もどう動くか決めないと」
「そ、そんな! 責任重大じゃないですか!」
「あはは、いまさらそんなこと言っても仕方ないでしょ」
慌てるアデルを見てラーゲンハルトが微笑む。
「ラーベル教軍がドローレン要塞に到着するまで一週間程度と考えられます。ロスルーの将兵たちには戦闘の準備をさせていますが、その他の戦力の動員はアデル様からお願いします」
「うぅ……じゃあまずは……」
フォスターに言われ、アデルは考え込む。
「お昼ご飯にしましょう」
アデルたちはまだ昼食を食べていなかったのだった。
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