護衛(ラパイソ)
こうしてアデルと蛮族との間で話し合いが行われた。もっとも、アデル側からの提案は交易に関するものばかりで、軍事的な協力を求められると思っていた蛮族側としては拍子抜けするものだった。具体的な話は後回しとなったものの両者が協力関係を築くことに関しては合意され、ラパイソとロスルー間における交易路のルートが検討されることとなった。
「わぁっ!」
話し合いが終わり、緊張から解放されたアデルは町の通りに並ぶ店を見て回っていた。店には神竜王国ダルフェニアでは珍しい食材が並んでいる。ラングール共和国の交易商イルヴァに色々なものを持ってきてもらえるように頼んではいるものの、やはりその種類には限界がある。
「前は肉以外興味はなかったが……こうして見るとおいしそうじゃのう」
アデルの足元でピーコがパプリカのような野菜を見ながら言った。
「嫌いな野菜でも、焼いたりして甘みが増したらおいしく感じたりするんだよ」
アデルが色とりどりの野菜を見ながら嬉しそうに言う。
「そうか。でも買い物の前に、森にいるというダークエルフのような種族と会ってからだな」
「うっ……」
現実逃避していたアデルはイルアーナに言われて顔をひきつらせた。
そう、アデルはこれからジャングルの中にいるというダークエルフのような種族に会いに行くところだった。
事前に風魔法によって連絡を取ることも検討された。しかし相手が敵対的だった場合に待ち伏せに利用される恐れがある。そのためまずは相手を確かめてから接触を試みるという結論となった。
「私たちも付いて行きたいところですが……」
「いや、大丈夫ですよ。僕たちだけでどうにかしますから」
面目なさそうに言うクライフにアデルが言う。神竜騎士のクライフは鎧を着ていなかった。
神竜騎士たちの重装備はこの暑い気候で活動することに限界があった。また神竜騎士団は精鋭ではあるものの、あくまでも他の兵士たちと比べた場合だ。万能であるダークエルフや、強いうえに空を飛んで逃げることもできるコカトリスたちとは違う。未知の魔物の住む森に連れて行くと、むしろ足手まといになる可能性があり、護衛の神竜騎士たちはラパイソに残ることとなった。
(情けない……本当なら僕たちがアデル様をお守りしないといけないのに……!)
クライフは悔しがった。だが自分たちの力量も理解している。ついて行っても足を引っ張るだけだった。
「まあいざとなったらロック鳥さんたちもいますし」
アデルは森のほうに目をやった。森の上空をロック鳥たちが悠々と旋回している。何かあれば助けに駆け付けてくれる約束となっていた。
「お気を付けください。アデル様の代わりなどいらっしゃらないのですから」
「ははは……行ってきます」
不安な気持ちを押し殺し、アデルはクライフに笑顔を向けた。
「ルピスさんたちも……無理しないでくださいね」
アデルはしーちゃんの世話をするマーメイドたちに目を向ける。そもそも地上での活動が苦手なマーメイドたちがジャングルに同行することには不安があった。
「海竜王様のおそばを離れるわけにはまいりません」
マーメイドを束ねるルピスは硬い表情で言った。
「アデルのカシラ!」
アデルとルピスが話していると、コカトリスのシャモンが近づいてきた。
「なんならワシらがマーメイド衆を背負いましょうか?」
「え、いいんですか?」
シャモンの提案にアデルは驚く。
「もちろんですわ。まあ疲れたらロック鳥に送ってもらいますよってからに」
「じゃあそうしてもらいましょう。いいですか、ラピスさん?」
アデルはラピスの方を向く。
「かまいませんが……海竜王様もご一緒させていただきます」
ルピスはしーちゃんに目を向ける。
しーちゃんはコクンと頷くと、シャモンの足に抱きついた。
「ははは、かまいませんぜ」
シャモンは笑顔でしーちゃんが背中に上るのを手伝う。
「おお、そうかそうか」
「とりとりなのー!」
それを見たピーコ、ひょーちゃん、ポチもそれぞれ別のコカトリスの背中によじ登る。結局、アデルとダークエルフたち以外はコカトリスに背負われて森へ向かうこととなった。
(……これなら自力で歩ける分、僕らのほうがマシなのでは?)
クライフはその様子を見ながら思う。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
アデルは少し苦笑いしながらクライフに別れを告げた。そしてアデルたち一行はラパイソの横に広がるジャングルへと足を踏み入れたのであった。
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