一撃
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「何か来ます!」
アデルが警告を発する。いくつもの大きな影が草むらをかき分けながら接近していた。何やら灰色の丸い身体が迫ってくるのが見える。
「ホッホゥ! お待たせしました!」
その時、空からセバスチャンが戻ってきた。灰色の丸い生物はアデルたちの手前で停止する。
(……ダンゴムシ?)
その生物はダンゴムシにそっくりだった。ただしその大きさは2メートルから3メートルほどある。それが数十匹の群れでやってきていた。
「セバスチャンさん、これは……」
「彼らはダンゴウムシ。この辺りで静かに暮らしている平和的な種族ですぞ」
「ダンゴウムシ……」
アデルは触覚を動かしてアデルたちを見つめているダンゴウムシの顔を見た。意外とかわいい顔をしている。
「岩ムシか。確かに襲ってくることは少ないが……言うことを聞くのか?」
サラディオが眉間にしわを寄せながらダンゴウムシたちを見た。
「どうなんですか、セバスチャンさん?」
「それは交渉次第ですな」
アデルの問いにセバスチャンが答える。
「じゃあみんなを運んでもらえるか聞いてもらえます」
「かしこまりました」
セバスチャンがダンゴウムシたちに何やら話すと、ダンゴウムシたちは頭を突き合わせて何やら話し合いを始めた。そして代表者らしい一匹がセバスチャンに話しかける。
「ホッホウ。運んでもいいらしいですが、条件があるそうですぞ」
「条件?」
アデルは首をかしげる。
「何やら彼らを襲う大きなカエルがいるそうで、それを倒して欲しいとのことです」
「カエルですか。まあそれくらいなら……」
アデルはダンゴウムシたちの出した条件を了承する。
「待て。まさかエンマガエルじゃないだろうな?」
そこに話を聞いていたサラディオが割り込んだ。
「エンマガエル?」
「かなり厄介な奴だ。素早いうえに力もあり、毒を吐いてくる」
アデルの疑問にサラディオが答えた。
「そ、そんな強いんですか?」
アデルは慌て始める。
「まあ問題ないだろう」
イルアーナは余裕の態度で腕を組んだ。
「そうですか。じゃあ大丈夫ですね」
アデルも安心して頷いた。イルアーナはアデルが倒せるだろうと思っての発言だが、アデルはイルアーナの知識でたいしたことがない敵と判断したと思っている。
しかしアデルはそんなすれ違いに気付かず話を進め、何はともあれ乗り物としてダンゴウムシたちの協力を得ることに成功したのだった。
そしてアデルたちはダンゴウムシの背に乗る。ダンゴウムシたちの硬い外骨格は座りやすく、多くの足を持つダンゴウムシたちの走りは安定しておりほとんどブレがない。ダンゴウムシたちは背の高い草をものともせず草原を突き進んだ。
「あれは……」
草原を進むと、すぐに前方に木々が見え始めた。その木々は熱帯地方に生える種類だった。
「どうりで蒸し暑いと思った……」
「死の砂漠」からそれほど離れていないというのに、暑さの質が全く違っていた。それだけ「死の砂漠」の気候がいまだに歪んでいるのだろう。
「気を付けろ。この辺りからはエンマガエルの生息域だ」
サラディオがアデルに警告する。これまではヒトコブダチョウに乗っていた蛮族たちが先導していたが、いまはアデルたちが先行し蛮族たちはその後ろにつく形となっていた。エンマガエルを警戒する蛮族たちが先に行くことに難色を示したのだ。
「そんな危険なんですかね。いったいどんな……」
呟こうとしたその時、アデルは草原に潜む気配に気づいた。アデルは弓に手を伸ばす。
「来るぞ!」
アデルにやや遅れてイルアーナから警告の声が飛ぶ。それに合わせるように草むらから何かが飛び出した。
「な、なんだあれ!?」
神竜騎士団たちを率いるクライフから驚きの声が上がる。それは8メートルはあろうかという、毒々しい色をした巨大なカエルだった。ただし二本足で立ち、右手には棍棒のように倒木を握っている。身体からは泥水が滴っていた。沼地の中に身を潜めていたのだろう。エンマガエルは大きな目でアデル一行をギョロリと睨む。
「ア、アデル様をお守りしろ!」
クライフが慌てて叫ぶと、神竜騎士たちは盾を構えて展開する。しかしその動きは精彩を欠いていた。神竜騎士たちはただでさえ実戦経験が少ないうえに、エンマガエルのような巨大な魔物と戦うのは初めてだった。対峙したものの、どう戦えばいいのか見当もつかなかった。
「気を付けろ! 奴は毒液を吐いてくるぞ!」
「ええっ!?」
サラディオの警告の言葉にクライフはさらに狼狽える。
その時、何かが空中を飛んだ。
「うわぁっ!」
クライフは顔を庇ってしゃがみ込む。毒液が飛んできたと思ったのだ。
「……へ?」
しかし何も起きず、クライフは顔を上げる。すると額に矢を生やし、後ろへと倒れ行くエンマガエルが目に入った。
「倒しましたよ」
何事もなかったかのようにアデルが皆に言う。
「……どうなってるんだ奴は」
またも一撃で大型の魔物を仕留めたアデルに、蛮族たちはもはや呆れかえっていた。
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