王の心得(死の砂漠)
誤字報告ありがとうございました。
焚火の明かりが辺りを照らす。アデルたち一行はオアシスの脇で野営をすることとなった。倒したスナザメは切り分けられ、塩をかけて焚火で焼かれた。ポタポタと油が落ち、香ばしい匂いが野営地を包む。
(……淡泊すぎていまいちだな)
焼けたスナザメの肉を頬張ってアデルは思った。
(でも骨のない大きな肉片が取れるから、フライとかにしたら食べやすいかもしれない。ソースはタルタルか……デミグラスソースとか掛けても美味しそうだな)
アデルは色々と妄想を膨らませた。アデルの横からはバリボリと音が聞こえる。ポチが焼いたスナザメの鱗を齧っているのだ。
「新鮮なだけあって臭みは無いが……もう少し酸味のあるソースでも掛けたいところだな」
「いや、甘みのあるソースのほうがいいじゃろ」
イルアーナとピーコが話をする。アデルの影響か、ピーコもいろいろと料理の味にうるさくなってきていた。
そんなアデルたちの元に一人の蛮族が近づいてくる。ハーヴィル家の忘れ形見、サラディオであった。
「失礼する」
サラディオはそう言うとアデルと正対する形で腰を下ろした。
「ど、どうも」
アデルは少しオドオドしながらペコリと頭を下げる。
(これがスナザメを倒した男か? いまだに信じられぬな……)
そんなアデルを見据えながらサラディオは思った。
サラディオは腰に差していた剣を脇に置く。ミスリル製の剣は闇夜の中でさえ煌めきを放っているかのように見えた。
「改めて挨拶させてもらおう。ハーヴィル王国の国王、サラディオだ」
「ア、アデルです……」
堂々とした挨拶をするサラディオに対し、アデルは緊張気味に答えた。
「お前には我が国の復興のために力を貸してもらい、ありがたいと思っている」
「い、いえ。とんでもないです……」
両者の態度は傍目にはどちらが立場が上なのか勘違いしそうだ。
「それに妹を守ってくれていたことに感謝している」
「い、いやいや、守ってるのはウルリッシュさんとかですから」
サラディオの言葉にアデルは首を振った。
「あの……クロディーヌさんとはその後お話しされたんですか?」
アデルがサラディオに尋ねる。
「いや……どう接してよいかわからなくてな」
サラディオは気まずそうに頭を掻いた。妹のクロディーヌとは兄妹とはいえ、物心つく前に離れ離れとなり、これまで出会うことのなかった二人だ。サラディオはどの程度の距離感で接すればよいかわからず、あまり話をできていなかった。
「わかります。僕も人とどう接していいかわからなくて……」
全方位に対してコミュ障のアデルはサラディオの話に共感するが、まったく次元の違う話だった。
「ところで……お前は平民の出と聞いたが本当か?」
「ええ、そうです。父は森の木こりでした」
「森の木こり……アレがか?」
サラディオは怪訝な表情となる。サラディオの印象ではドレイクは平穏な生活とは程遠い存在だった。
「それでどうして王になることになったのだ?」
「ええと、それは……」
アデルは事の経緯をサラディオに説明した。
「ダークエルフに頼まれて……?」
サラディオは話を聞き唖然とする。
「そ、そうなんです……」
アデルは少しバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「そんな成り行きで王になって大丈夫なのか? 国を背負うという重責は……」
「その辺にしておけ」
説教を始めそうなサラディオを不機嫌そうなイルアーナが止めた。
「成り行きだろうが何だろうが、アデルは国を立ち上げカザラス帝国に勝利を続けている。そこにケチをつけるのは、お前も立派な国を作り上げてからにしてもらおうか」
「なっ……!?」
辛辣なイルアーナの言葉にサラディオは言葉を失う。
「それにアデルのことを平民というが、国を失ったお前も平民に過ぎんだろう。元がどうであれ、今のアデルは王だ。本来であれば気安く話しかけられる立場では……」
「イ、イルアーナさん! やめましょうよ!」
さらに続けようとするイルアーナをアデルが止めた。
「……いや、その女の言う通りだ」
悔しさに顔をゆがませながら、サラディオが絞り出すように言う。
「国を再興するまで、偉そうなことを言える立場ではなかったな。だが俺は必ずハーヴィルを復興する。よく覚えておけ」
サラディオはそう言うと剣を手に取り立ち上がった。
「あっ、サラディオさん! ひとつだけいいですか?」
立ち去ろうとするサラディオにアデルが声をかける。
「なんだ?」
「あの……たぶん『王はこうあるべきだ』みたいなことをおっしゃりたかったんでしょうけど、それよりもみんなの『王はこうあって欲しい』っていう意見を大事にして欲しいというか……いや、僕も全然そんなこと出来てないんですけど」
「王はこうあって欲しい……?」
たどたどしく言うアデルにサラディオは再び呆気にとられる。
「ええ。大事なのは国民であって、国や王ではないと思いまして……」
「国がしっかりしなければ国民を守れぬではないか」
「そ、それはそうなんですけど……優先順位といいますか……」
サラディオの指摘を受け、アデルはしどろもどろになる。そんなアデルをサラディオは不思議そうに見つめた。
「わかった。気に留めておこう」
サラディオの言葉を聞き、アデルはほっとする。そしてサラディオはアデルに背を向けるとその場を去っていったのであった。
お読みいただきありがとうございました。




