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第五章 2 新しい仲間

 わたしが知る限りのことを話し終えたときには、もう窓の外が暗くなっていた。もう少しで暗闇に閉ざされてしまいそうな部屋の中で、わたしと奏は向かい合っていた。


「……まあ、伝えておくべきことは大体話したかな。人間界には帰れないから、しばらくはここに留まってもらうことになると思う」


 わたしはそう締めくくって、奏の表情を窺った。これまでずっと、驚いたり悲しそうな顔をしたりはしていたけど、大きく取り乱すことはなかった。わたしがリンにこのことを教えてもらった時と比べて、落ち着き方が段違いだ。


 そして、暗がりの中で顔を上げた奏は、悲しげな微笑を浮かべていた。


「話してくれてありがとうございます。おかげで少しだけ落ち着けたような気がします。どうしてわたしがここにいるのかはわからないけど、多分危ない場所じゃないと思うし」

「……無理しないでいいんだよ?」


 奏があまりにも穏やかに話すので、気が付くとそう口に出していた。


「わたしだって、家族や友達が奪われたって聞いた時はすごくショックだったし。わたしの前だからって我慢しないでね。むしろ頼ってほしい。会ったばっかの見ず知らずの人間なんて信用できないかもしれないけど、わたしも同じ境遇の奏の力になりたいと思ってるから」


 あの時は正直しんどかったし、わたしに出来ることならなんでもしたい。

 でも奏は小さく首を振って笑うだけだった。


「大丈夫です。気を遣わせてしまってごめんなさい。わたしは大丈夫ですから」


 わたしの耳が当てにならないだけかもしれないけど、その声は強がっている風には聞こえなかった。そこでハタと思い出す。『Ⅰ』の物語の中でツカサから説明を受けた時も、奏は取り乱していなかったと。気が弱そうに見えて、実はかなり強いのかもしれない。


「それじゃ、わたしは向こうに戻ろうかな。みんな心配してるだろうし。奏はどうする? ここに残ってもいいし、一緒に来てくれてもいいよ」


 わたしが立ち上がって奏を見下ろすと、奏もすぐに立ち上がった。


「わたしも行きます。……その、今はあんまり、一人になりたくなくて」

「そっか」


 確かに、知らない場所に一人置き去りにされるのは不安だろう。わたしは頷いてから奏に笑いかける。


「そうだ、わたし達にはかしこまって敬語使わなくていいよ。そんなこと気にする奴らじゃないからさ。これからしばらく一緒に過ごすわけだし、もっと気楽にいこう」

「は、はい。えっと……彩ちゃん?」

「そうそう。そんな感じ」


 わたしが親指を立てると、奏はふにゃりと笑った。ちょっと気の抜けた感じの笑顔だ。


 わたし達は部屋を出て図書館に戻る。図書館の扉を開けると、テーブルにみんなが勢ぞろいしているのが見えた。みんなはわたし達が入ってきたのを見るなり、駆け寄ってくる。


「彩先輩、ちゃんと話せましたか!?」

「話したつもりだよ」


 すると、わたしの後ろにいた奏が顔を出した。ぎこちない動きでわたしの隣に並び、気をつけする。


「あ、彩ちゃんからいろいろ教えてもらいました! これからお世話になります、立花奏です。そのっ、よろしくお願いします!」


 勢いよく頭を下げる。さっき敬語使わなくていいよって言ったばっかりなんだけど。まあ必死な感じでかわいいし、ちょっと様子見しておこう。


 奏の必死の自己紹介を聞いたセイが、顔いっぱいに笑顔を浮かべて奏の手を取った。


「奏、良い名前ですね! あたしはセイっていいます。困ったことがあったらなんでも言ってくださいね!」

「うん……! ありがとう、その、セイちゃん」

「えへへ、なんかその呼び方新鮮ですね」


 セイが照れくさそうに笑う。歩み出てきたナオが、照れているセイの肩に手を置いた。


「はじめまして、奏ちゃん。私はナオ。ここにいるセイの姉よ。よろしくね」

「さっきも名乗ったけど、ボクの名前はリン。ここの館長をやっているよ」

「ユーリ。あー……特に名乗れるような肩書がないな」


 すぐに残りの二人も挨拶する。奏はちょっと緊張したような顔で頷いた。


「よろしくお願いします。ナオさん、リンさん、ユーリさん」


 確かに、その三人をさん付けしたくなる気持ちはわかる。特に奏に向かって微笑んでいるナオは、いかにも「頼りになるお姉さん」って雰囲気だ。すぐに奏に声をかけ、セイと三人で話し始める。


「彩」


 その和やかな様子を眺めていると、ユーリに呼ばれた。ユーリも奏を見つめている。


「あいつ言葉がわかるらしいけど、お前なんか魔法とかかけた?」

「確かに、言葉……。でもわたしは何もしてないよ。そんな高度な魔法使えるわけないし」

「ま、そうだろうな」


 ユーリは腕を伸ばしてぐっと伸びをすると、「もう一つだけ」とわたしを見た。


「奏のこと、前から知ってたりしないよな?」

「……まさか」


 わたしは笑って首を振った。


「さっき言ったみたいに、制服に見覚えがあるだけだよ。初めて会った」

「そっか」

「うん」


 ユーリは小さく首を傾げ、どこかを見つめている。何か考えているらしい。でもすぐに「やめた」と呟いてわたしに背を向けた。


「眠いからちょっと寝てくるよ。なんかあったら起こしに来て」

「わかった」


 廊下に出ていくユーリを見送って、わたしは大きく息を吐きだした。


 咄嗟に嘘を吐いてしまった。いや、一応真っ赤な嘘ではない。確かにわたしと奏は初対面だし、制服に見覚えがあるのは事実だ。でもわたしは、それ以前に奏の存在だけは知っていた。


 嘘を吐いたのに理由はない。なんとなく、まだあの三冊の本の存在は隠しておきたいと思っただけだ。もう少しわたしの中で整理が出来てからみんなに伝えたい。それに……ユーリは、何かを知っていそうだった。


「彩ちゃんっ」


 奏の声に顔を上げると、リンを加えた三人に囲まれた奏が、こっちに向かって手を振っているところだった。リンもわたしを手招きする。


「そんなところに棒立ちしていないで、アヤ君も話そうよ」

「うん、話す」


 難しいことは置いといて、今は奏と仲良くなることを優先しよう。これから過ごしていくうちに、もしかしたら奏も何かを思い出すかもしれない。


 そう結論付けて、わたしは奏たちの輪の方へ走って行った。


 

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