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2 ホテル王に僕はなる

 僕は定刻(ときさだ)(てる)

定刻グループの御曹司で、無能の息子でアホの孫だ。

廃ホテル巡りを趣味にしている。


 今回僕が入るホテルは、定刻ホテルTOKYO。

トーキョーではなく、トーキオとユーロビートっぽく読むようだ。

父親が改名したらしい。…既にここから無能さがにじみ出ている。


 普段は、たむろしている不良や、見回りをしている警察官を首チョップで昏倒させたり、

気が付かれないようにリコーダーで狙撃したり、ダンボールに潜みながら侵入するのだけど、

今回はその必要は無い。

周りに通報されないように、こっそり入る必要もない。


 なぜなら、この廃ホテルは僕のものだからだ。

まさか僕が自前の廃墟を持つことになるとは1週間前は思わなかった。

…正確には、まだ僕のものではなく、成人するまでは父親の預かりだが、

そんなことはどうでもいい。

立ち入り禁止のロープを背面とびで飛び越えて中に入っていく。


 意外と中は綺麗だ。

多少は劣化や風化が無いわけじゃないけれど、落書きの数もそう多くない。

そうやって、電気の消えた薄暗いホテルの中を懐中電灯と直感を頼りに進んでいく。

取り敢えずは、入口の全体図に乗ってあった大広間に行こう。


 たしか、紅雀の間と、藤の間と、光莉の間があったはずだ。

最初は、うん、藤の間に行こう。


 そう思い階段を昇って行った僕の身には何も起こらなかった。

何事もなく順調に藤の間に辿り着いた僕はその扉を開けた。


 うん、流石は道三氏だ。

例え怨霊でもキチガイでも、センスだけは確かだ。

嘗ては結婚式場や大規模なセレモニーに使われたであろう建築家と、

その建築家を採用した祖父の確かな目がそこに在ったことを一目でわからせる作りだった。



キュッキュッキュッキュ



 …何か音がする。

耳を澄ませば…



キュッキュッキュッキュ


 あの町に続く気配はなく、

何か別の気配がそこに在った。


 その気配の方向に懐中電灯を向けると、

そこには、



落書きを必死で消している和風美少女がいた。



「…何してるの?」


「何って掃除ですよ掃除。」


 いや、それは解かるけど。

っていうか…。


「…へっ?ニンゲンッ!?」


 僕が『人間』であることに気が付いて驚く、

おそらく人間以外のナニカ。


「……君は?」


「ゴメンなさい。赦して下さい。まだ成仏()にたくないです。

初恋も結婚も出産もマイホームも初孫もはつ曾孫もまだなんですからっっ!!」


 やたら壮大な大団円的人生設計を語るこの子は一体?


「いや、別にしないけど、君誰さ。」


 取り敢えずなんとなく聞いてみた。


「えっと…、え~っと、駄目、いい言い訳が思いつかない。

ちょっと待っててください。」


 ……一つ解かったことがある。

この子は僕の父親と同レベルに無能かもしれない。



「言いたくなかったらそれでいいや。」


「言います、言いますよ。もうっ。

そういう時はど~っしても知りたいって空気になってくれないと。」


 この日本人特有の他人に空気を読むことを強制させる文化が僕は大っ嫌いだ。


「じゃあおしえてください。」


 仕方がないので棒読みで言ってやる。


「ふふ~ん、じゃあ教えてあげますね。

私、藤の正体とは―――――」


 あー、解かった。

もう名前だけで全容が分かった。


「解かったからいいや。」


「へっ? …いやいやいや、それはないでしょう。

そんなのってないですよ。最後まで私に言わせてくださいよ。」



「じゃあ言えばいいんじゃないかな。」


「もっと知りたそうにしてください。」



「うわーすごくきになるーー。」


「…まあ、いいでしょう。

私、藤の正体とは―――――、

大宴会場、藤の間の部屋の幽霊なのです。」


 うん、想像ついてた。


「で、ですね? そのついでにお願いがあるんですけど。」


 どのついでかわからないけれど一応どうぞ?


「このホテルが出来てから数人のお客様は来られたことはありましたが、

この大宴会場を使うようなことは一度もありませんでした。

何とかしてください。」


 …何とかしてくださいって、丸投げじゃないか。

そういうことは一般市民じゃなくて、この廃ホテルの本来のオーナーにでも―――、

って今オーナー僕だった。


「仕方がない。このホテルには僕が責任がある…多分。

まずは電気やガスなどのインフラの再生と清掃スタッフが必要だな。

このホテルを復旧させて、ホテル王に僕はなるッッ!!」



「キャー素敵、抱いて。

ついでに結婚とマイホームもよろしくお願いします。」


 …部屋がマイホームをねだるなよ。

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