1、玉藻前
日本三大妖怪。
大天狗・崇徳上皇、
九尾の狐・玉藻前、
鬼神・酒呑童子。
その妖怪が眠る、3つの村__
大天狗眠る、「羽生叉村」。
九尾の狐眠る、「椰乙女村」。
鬼神眠る、「坂脩村」。
日本三大妖怪村。通称、三大村。
その三つの村は、三大妖怪の末裔だけで形成されている。だがどこかで人型になってしまったらしい。
今回の主人公__六花は、椰乙女村に住む妖狐。艶やかな茶髪は所々跳ねており、襟足までの長さは首の真ん中ほど。一族でも大きめの耳がいかにもというようにピンと背筋を伸ばして生えている。妖狐にしては少し大きめの茶色い目と、狐のような逆三角形の鼻、緩やかに何度かカーブする口。
今日は六花の誕生日の前日だ。
六花「村長、六花です」
⁇「入ってどうぞ〜」
のれんの向こうから声がする。
六花「はぁ…相変わらずですね、村長は」
六花のそう言う声がして本から顔をあげたのは、人間でいうところの18歳ぐらいだろうか。すでに9本の尾がある、若い妖狐だった。周りには本という本がありとあらゆるところに置いてあり、村長の周りには読み切ったであろう本や読む予定であろう本が高く積まれていた。
梓「梓でいいって。久しぶり〜!元気にしてた?六花」
六花「そういうわけにもいかないんですって。はしゃぎまくってたあの頃とは違うんだ…ですから」
梓「そっちも相変わらずだねぇ…六花も12歳でしょ?明日で。尻尾増える時まじ超痛いんだよ〜?」
いかにも冗談混じりというように、にやっとしながら言う村長__梓。
九尾の狐の一族の妖狐は、十二歳が境と言われている。
十二歳になった瞬間に尻尾が二本に増え、妖力が爆増する。
そこからは妖力が増えると共に、尻尾も増えていく。
九尾の狐の一族は、今ではもう半数しか九尾にはなれない。
残りの半数は五本〜八本であることが多い。
玉藻前の血が薄れてきているからである。
梓「"歌"、何にするか決めてる?」
六花「大然なら煌星、樹華なら花影、ですかね」
梓「いいんじゃない?六花っぽくて。私は蒼天〜」
六花「知ってますよ」
軽く笑いながら返す六花。
この世界にも、選ばれし百首の歌__そう、誰もが知る「百人一首」が存在している。
「百人一首」は、長い年月を経て、妖力が宿り、いつしか「呪文」となった。
五色各二十首に分けられ、どれか一人一種まで使うことができる。
いわば風属性、青色の《蒼天》。
いわば花属性、桃色の《花影》。
いわば光属性、黄色の《煌星》。
いわば草属性、緑の《若松》。
いわば炎属性、橙の《黄昏》。
この五種類も二種類に分けられ、花影・若松の《樹華》と
蒼天・煌星・黄昏の《大然》。
選ぶには《妖火》と言われる誰もが出すことのできる灯りを使う。
初めて妖火を出した時、黒か白になる。
黒なら大然、白なら樹華からどれかを選ぶことができる。
そしてを出した状態で、選びたい色を唱えると妖火がその色に変化する。
梓「じゃ、増えたら一番にあたしに見して?」
六花「はいはい、わかりましたよ。…失礼しました」
梓「またね〜」
ーーー
六花「あと30秒…」
そう、六花はあと30…20秒で十二歳になる。
尻尾が一本増えるのだ。
そして一人暮らしの六花は今、自宅で時計と睨めっこしていた。
3、2、1__
六花「ッ!」
全身の血液が脈打ち、体温がぐっと上がり、そこからお尻に熱さが集中した。
そして熱さが段々冷めていき、青白い淡い光が2本目の尻尾の形を作った。
光がぼんやりしたものからどんどんはっきりしていく。
30秒ほどすると、青白く淡い光の影はなく、完全に尻尾と化していた。
六花「…痛くないじゃん、梓め……」
漏れた独り言。
悪口のつもりだったのだろうが、口角は上がっていた。
六花「…?あれ?」
よっぽど妖力の強い九尾の狐でない限り、通常の妖狐の尾は身長の三分の二ほどだ。だが、なぜか2本目の尻尾は元々あったものより1.5倍ほど長く、毛量も2倍近くあり、少しくすんだ色をしていた。
六花「なんか太いし長い…?色もちょっと暗いし…で、でも先に妖火…!」
ぼわっ
念じると、六花の前に炎が現れた。
六花「黒…大然だ…!」
烏のような鮮やかな黒色だった。
六花「煌星」
妖火が眩い光を放ち、美しい黄色に変わった。
普段あまり感情を表に出さない六花だが、この時ばかりは顔が嬉しさに溢れていた。
六花「尻尾はまぁ…とりあえず、あず…村長に聞くか」
さっきまであんなに顔を輝かせていたのに、「村長」という言葉が出てきた瞬間、真顔に戻った。
自分の家の戸の鍵を閉め、徒歩5分ほどの梓の家に向かう。
やっぱり自分で見ても尻尾がアンバランスで、一目につかないかと少し心配になる。
六花「(こんな明るかったら見られそう…でもみんな寝てるよな)」
妖怪の昼夜は人間と逆だ。
夜に活動し、昼に寝る。
そんなことを考えながら歩いていると、梓の小屋が見えてきた。
戸をノックして、召使いに挨拶をして、いつもののれんの前までやってきた。
六花「村長、起きていらっしゃいますか。六花です」
梓「!!六花!入って入って!」
六花「では、失礼します」
昨日と同じようにのれんをくぐる。
梓「おー!2本になって…る…」
本の海から抜け出していた梓は、六花の元に駆け寄る。
六花「?村長、どうかしました?」
梓「六花、増えたのってこっちだよね…」
そう言いながら触っているのは、大きくくすんでいる方の尻尾。
六花「ちょっ…勝手に触らないでくださいよ」
梓「……これ、玉藻前の尻尾…?」
六花「えっ」




