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第三話 海から来た男、ウラシ・マタロウ

一方その頃――海辺。


 ザァァァ……。波が静かに打ち寄せる浜辺に、一人の女性が立っていた。


婆「今夜はお魚」


 可憐な婆様(45)である。


婆「煮ても良し、焼いても良し、刺身でも良し……」

婆「ふふふ……」


 少し怖い。婆様は海を眺めた。そして気づく。


婆「……?」


 海の中に――何かいる。


 バシャッ!ドボォン!!ザバァァァ!!!


 魚が宙を舞う。


婆「!?」


 海の中で、魚を素手で捕まえている男がいた。筋骨隆々。肩幅が広い。背中が厚い。そして――大胸筋がデカすぎる。


婆「……」

婆「大胸筋が歩いてる」


 その男の名は――ウラシ・マタロウ。



 その昔。マタロウは――弱かった。とても弱かった。


 海辺。少年マタロウは、いじめっ子たちに囲まれていた。


いじめっ子A「おいウラシ」

いじめっ子B「今日も海遊びしようぜ」


マタロウ「ぼ、ぼく泳げないんだけど……」


いじめっ子「知ってる」


 ドボォン!!


 海へ投げ込まれた。


マタロウ「ぶくぶくぶく」


 もがく。もがく。だが泳げない。


マタロウ「助け……」


 いじめっ子たちは笑っていた。


いじめっ子「沈め沈めー」


マタロウ「もう……ダメだ……」


 そのとき。足元に何かが触れた。


マタロウ「?」


 沈んでいたはずなのに――身体が浮いている。海の上に立っていた。


マタロウ「え……?」


 足元を見る。そこには――巨大な亀がいた。


 しかも。筋骨隆々。黒く輝く甲羅。大胸筋。広背筋。


タートル「お前たち」


 いじめっ子たちが固まる。


タートル「次は――」

タートル「沈められるのは誰だ?」


 ドスの効いた声。いじめっ子たちの顔が青ざめる。


いじめっ子「ぎゃああああ!!」


 逃げた。全力で逃げた。


 マタロウは震えていた。


マタロウ「あ、ありがとうございます……」


 何度も。何度も。頭を下げた。


マタロウ「悔しい……!」


 涙が止まらない。


マタロウ「ぼくも……」

マタロウ「タートルさんみたいな筋肉があれば……」


 タートルは静かに言った。


タートル「筋肉はな」

タートル「暴力のためにあるんじゃない」


マタロウ「……」


タートル「弱き者を守るために」

タートル「己を律するためにある」


マタロウ「……」


タートル「ついてこい」


マタロウ「え?」


タートル「本当の筋肉を見せてやる」



 海の底。そこにあったのは――巨大な建物。看板が立っている。


「龍宮城」


 そして小さく書いてある。


 筋肉の砦


マタロウ「え」


 リュウグウジム。そこは――筋肉の聖地だった。


 エビのシックスパック。タイの大胸筋。タコのサイドチェスト。イカの逆三角形。ハゼのプランクツイスト。


マタロウ「何ここ怖い」


 そこに現れたのは、一人の女性。美しい。だが――筋肉がすごい。


女性「ようこそ」

女性「リュウグウジムへ」


 彼女の名は――雄斗美姫おとひめ。ジムのオーナー。


雄斗美姫「筋肉は裏切らないわ」

雄斗美姫「裏切るのは――」

雄斗美姫「だいたい自分」


マタロウ「名言すぎる……」


雄斗美姫「今日からあなたは」

雄斗美姫「地獄を見るわ」


マタロウ「え」



 地獄だった。


 腕立て。スクワット。ベンチプレス。デッドリフト。プロテイン。スクワット。プロテイン。腕立て。プロテイン。


マタロウ「もう無理……」


雄斗美姫「あと100回」


マタロウ「鬼ぃぃぃ!!!」


 だが。マタロウは変わった。


 一年。三年。五年。十年。


 気づけば――マタロウは筋肉の化身になっていた。



 そして現在。海辺。


 バシャァ!!


 魚を素手で捕まえる男。ウラシ・マタロウ。


婆「……」

婆「大胸筋が歩いてる」


 そこへ。


モタロウ「祭りじゃあああ!!!」


 山から走ってきた。


モタロウ「……」

モタロウ「なんだあれ」


婆「魚取ってる」


モタロウ「違う」

モタロウ「大胸筋が魚取ってる」


婆「それ」


 ウラシ・マタロウが振り向いた。


ウラシ「フン……」

ウラシ「魚は逃げない」

ウラシ「逃げるのは――」

ウラシ「弱さだけだ」


 沈黙。


モタロウ「キャラ濃すぎぃ!!!」


婆「うち来る?」


ウラシ「プロテインある?」


婆「味噌汁なら」


ウラシ「タンパク質」


モタロウ「仲間になる流れ!?」



 その頃。山では――


キ・ンタロウ「修行きついぃぃぃ!!」


爺「あと三千本」


キ・ンタロウ「増えてるぅぅ!?」


 こうして。


 桃から生まれた問題児。ふんどし相撲少年。そして――筋肉の化身。


 三人が出会う時。物語は、さらにカオスになるのであった。


【第三話 完】

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