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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第3章 向日葵の秋祭り
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草履

「さっきも言っただろ。上手くタイミングを外せば会うことも無い訳さ。こんな格好でお参りなんかしてたら、そっちの方がよっぽど目立っちゃうじゃん?」


 確かにそれも一理有ると思った。熊五郎と鹿音でお参りなんかしてたら、また人だかりが出来ちゃって、お参りどころの話じゃ無くなるもんね。


 なので、あたしは渋々悠真さんの戦略に乗ることにした訳なの。もちろん不安が解消された訳じゃ無いけど。


「分かった......」


 そんな経緯で、あたしも着ぐるみを一気に脱ぎ捨てた次第。


 ああ......何て空気が新鮮なんだろう。正直着ぐるみの中に居ると、暑いだけじゃ無くてやたらと息苦しかった。


 それと、なに? この身体の軽さは?! 着ぐるみって、こんなに重かったんだ......あたしはまるで、月に居るのかと思ってしまった。身体が軽くて宙に浮いてるみたい。


 それであたし達は着ぐるみを大木の影に大事に隠したの。こんな重いもん持って歩けないからね。



「よし、行くぞ! 俺達2人の未来の為に!」


「よし、行こう! あたし達2人の未来の為に!」


 すっかり悠真くんに乗せられちゃった感じ。どこへ寄り道するのかは分からなかったけど、この時あたし達2人は、かなり浮かれてたんだと思う。


 きっと向かう所敵無し! みたいな感覚だったのかも知れないね。



 今思い返すと......


 ここで着ぐるみを脱いでしまったことが、運命の別れ道だった。だってあたし達のことを探してる狩人達が大勢居たなんて、知る由も無かったんだから。


 でも結果として、あたし達はその姿を晒け出してしまった。


 悲しいかな......それはもう変えようの無い現実だったの。もうほんと、嫌になっちゃうわ。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方ちょうどその頃......


 そんな2人にまんまと出し抜かれた佳奈子達はと言うと、


 スタスタスタ......


「ちょっと佳奈子待ってよ! どんどん先行っちゃうんだもん」


「見て、熊五郎と鹿音と一緒に写真撮ったんだよ!」


「ふ~ん......」



 悠真くんと向日葵は、絶対この秋祭りに来てる筈だから、何としてでも見付け出さなきゃならない。なので、熊五郎とか鹿音なんかの話に付き合ってる場合じゃ無かった。元々全然興味無いし。


 とは言っても、いざとなったらこの2人にも協力して貰わなきゃならないから、あんまり邪険にする訳にもいかない。


 そんな訳で、あたしは付き合い程度にスマホの写真を覗き込んでみたの。ただのポーズだったんだけどね。



「どれどれ......」


 見れば友人の両サイドには、確かに熊五郎と鹿音の姿が。3人揃って、ピースサインしてる。


 すると、この写真を撮影した方の友人が飛んでも無いことを言い出し始めた。


「なんだ......熊五郎も鹿音も草履履いてたのね。折角動物に成り切ってるんだから、足の先まで拘って欲しいもんだわ」


 見れば2体揃って、人間の草履を履いてる。確かに違和感満載だわ。


 因みに鹿音は桜色の草履、それで熊五郎の方はと言うと......


 なんと!


「あっ?! こ、この草履......ま、まさか、まさか、まさか......ちょっと、もっとよく見せて!」


 あたしは友人からスマホを引ったくると、汗ばんだ2本の指で画像をスクロールしてみた。


 すると!


「まっ、間違い無い! や、やられたわ!」


 あたしはその草履に、見覚えが有った。間違える訳も無い。なぜなら......それはあたしが自ら選んで、悠真くんにプレゼントした草履だったんだから!



 つまり、熊五郎は、悠真くん! 


 ってことは......


 鹿音は、向日葵!


 ブルブルブル......そんな飛んでも無いことに気付いてしまった途端、あたしの身体は痙攣したかのようにブルブル震え始めてた。


 更に血圧が急上昇して、目の前の景色がクルクル回ってるように見えてしまう。


 なっ、なんてこと! 


「ちょっと一緒に来て!」


「えっ? 来てって......どこへ?!」


「写真見てたら、あたしも熊五郎と鹿音に会いたくなったのよ!」



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