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引きこもり王女とヤンデレ従者 ~一般生徒に扮して学園生活を始めてみたものの、なぜか友達が一人もできないのですが~  作者: 香月深亜


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12. 頼れるルカ

『お。今度はなんだ?』


 無意識にルカを召喚してしまったが、やはりルカも私を煙たがっているようだ。


「うぅ……。ルカも私が嫌い……?」


 ルカからも嫌われてるのかと思うと、涙が出てきそうになって、でも泣くのは違うと思ったので、目にグッと力を込めて必死で涙を堰き止める。


『は!? え、なんだ!?』


 召喚早々、主が泣きそうになっている。

 ルカにとっては訳が分からない状況だろう。


『おい泣くな! 泣かれたらどうしたらいいか分かんねぇ!』

「な、なきま、せん……!」


 慌てふためくルカに、私は泣かないと宣言した。そしてどうにかこうにか涙を内側に引っ込めたところで、ようやく落ち着いてルカと話をした。


『で? 何かあったのか?』

「……聞いてもらえますか?」

『聞いてほしくて喚んだんだろ? 話してみろよ。いくらでも聞いてやるから』


 ぶっきらぼうな言い草なのに、言葉はすごく優しい。その優しさに触れて、さっきとは別の意味で涙が出そうになるが、それもなんとかグッと堪えて話を聞いてもらった。


 とりとめもなく下手な説明だと思う。なのに、ルカは怒ることも馬鹿にすることもなく、最後までしっかりと聞いてくれた。



『……ふーん。で、お前は友達が作りたいと』

「はい。でも誰からも話しかけてもらえなくて」

『自分から話しかけたら良いんじゃね?』

「え」

『それとも何か。身分の低い奴には話しかけられねえか?』

「いいえそんな! 身分は関係ありません。ただ……」


 ただ、と言葉が続き、ルカは首を傾げた。

 身分以外に何を気にするのかと言いたげだ。


「待っていれば良いと言われて……」

『は? もしかしてまたあの従者か?』


 また?

 たしかにグレンから言われたことではあるけれど。ただでさえ怖いルカの顔がさらに怖さを増した。


「それはえっと、はい。そうですけど」


 でもきっと、グレンの言葉には理由があるはずで。ルカは訝しげだけれど、グレンの言うことだから正しいはずだと思ったのに、ルカは私の言葉を一刀両断してきた。


『じゃあそんなもん聞くな。自分から話しに行け。お前の悩みはそれで解決するはずだ』

「え、でもグレンが、」

『そのグレンが言った方法で今まで友達ができてねえんだから、違う方法も試すべきだろ』


 至って正論である。ぐうの音も出ない。

 今までの私は、ただグレンの言うことを信じて動いてきたから。途中で違う方法を試すことに抵抗があったのだ。


 でもじゃあ、自分から話すとして、一体何を話せば良いの?


 そんな人見知り丸出しの不安も悟ってくれたようで、ルカが助言をくれた。


『まずは挨拶してみろ。あとは、昼ご飯を一緒に食べたいとか、何か学園のことについて話してみるとか。話題なんてなんでも良いんだ』


 ルカの言葉は私に勇気をくれる。

 主従契約を結んだばかりの魔獣に頼ってしまうなんて、なんてダメな主なのかと思ってしまうけれど。グレン以外に助けてもらうのは初めてだから、なんだか不思議な気分だ。


「……ありがとうございます。た、試してみようと、思います」

『ああ。もし失敗したら俺のせいにすれば良いし。まああれだ。これからもいつでも喚んで良いからな。どうせ俺は飼育場で寝てるだけだし』

「る、ルカ……!」


 感動のあまり、無意識に手を組んで拝んでしまっていた。あろうことか、ルカのことがまるで慈悲を与えてくれる神様に見えてしまった。


 私は勢いで、大きなネコの神様に向かって誓いを立てる。


「わたし、頑張ります!」


 自立への一歩を進めるため、ルカの助言を元に何としてでも友達を作らなければ!

 と、今一度気合いを入れ直したのだった。



***


 午後の授業で、初めてクラスメイトに話しかけてみた。ちょうどよく、三~四人ほどでグループを作って課題研究をしようという内容だったのも幸運だった。今までそういう授業の時はグレンがいて、グレンが誰かクラスメイトに声をかけてグループを作ってくれていたから。グレンがいないなら、否が応でも私が誰かに声をかけなければグループが作れない。


「あ、あの……私も一緒に、い、いいですか?」


 緊張してしまって言葉も噛みながらではあるけれど、話しかけやすそうな二人組の女の子に声をかけた。確か二人の名前は、ミモザ・クラウスさんとメアリー・フィリップさん。

 私に話しかけられ彼女たちは少し驚いた顔をしていたが、快諾してくれた。しかし。


「うん、もちろん」

「あれでも、グローヴェンさんはいつも、」

「あ、バカ。そこは触れちゃダメ」

「え? あ……」


 ………えっと?



 クラウスさんが返事をくれた後、フィリップさんがその後に続けた言葉が引っかかる。正確には、続けようとしたのにクラウスさんに止められて口をつぐんだ言葉。


 いつも?

 私はいつも、なんだろう?


 小首を傾げると、クラウスさんが説明してくれた。


「ごめんなさい。メアリーは悪気があったわけじゃないの。ただ、いつもあなたはロブロイくんと一緒にいるから、そのことを聞こうとしてしまって」

「あ、ああ……」

「でも大丈夫よ。誰にだって触れてほしくないことの一つや二つはあるものだから。無理に話す必要はないわ」


 つまり、いつも通りグレンと一緒じゃなくて良いのか、と聞きたかったようだ。でも聞かれたとて、一体何から話せば良いのかも分からない。


「……」


 答えに困って無言でいると、クラウスさんは話を進めてくれた。


「まあ兎にも角にも。あなたが私たちと一緒に組みたいと言ってくれるなら、私たちは歓迎するわ。ちょうど人も足りてなかったし。ね?」

「うん。さっきはごめんなさい。私ってば、よく口を滑らせてしまうことが多くて、いつもミモちゃんに叱られてるの」


 フィリップさんは、てへ、と可愛く謝罪してきたので私は恐縮してしまう。


「と、とんでもないです! 私こそ突然話しかけてごめんなさい。その、グレン以外の人とも交流してみたいとは前から思っていて。お二人は話しかけやすそうだと思って、それで……。お二人さえ良ければ、一緒に組んでくれると、嬉しい……です」


 頭の中で必死に考えながら言葉を紡ぐ。

 事細かに話すことはなく、ただ一緒に組みたいことを伝えてみた。


 伝え終わると、二人は互いに視線を交わし、うん、と頷いたようだ。



「じゃあよろしくね。私はミモザ・クラウス。ミモザでもミモでも、好きに呼んでくれて構わないわ」

「私はメアリー・フィリップ。私は名前で呼んでくれると嬉しいな」


「あ、私は、ミスティア・フォ……じゃなくて、ミスティア・グローヴェン、です。私も好きなように呼んでください」


 あぶないあぶない。

 ついうっかり、本当の名前を口に出してしまうところだった。

 一瞬だったし、バレてはない……よね?


「じゃあミスティア。まずその、敬語をやめない? クラスメイトなのに敬語なんて余所余所しいし」

「あ……つい、癖で」

「癖? じゃあそれは追々やめられたらってことでいっか。よろしくね」

「はい!」


 こうして私は、友達作りの第一関門『自分から話しかける』を見事クリアできたのだった。

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