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引きこもり王女とヤンデレ従者 ~一般生徒に扮して学園生活を始めてみたものの、なぜか友達が一人もできないのですが~  作者: 香月深亜


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13/24

13. 飼育場で

「それでですね! 私は無事に、自分から声をかけてグループが組めたわけなんです」


 グループ組がうまくいった喜びを誰かに話したくなり、私はルカのいる飼育場に来ていた。


『ほー。よかったな』

「はい!」


 喚ぶことも考えたけれど、放課後は特に予定もなかったので、たまには自分からルカの元に行ってみようと思い立ち、今に至る。

 飼育場が校舎とは離れた場所にあるためなかなか来たことがなかったが、来てみればここはかなり広い。


 ルカのように大きな魔獣を何匹も飼育しているのだから当たり前ではあるけれど。想像の何十倍も広い土地に、ルカたちが生活できる大きさの獣舎が何十棟も並んでいて圧巻である。


 飼育場の入り口で受付を済ませると、そこで私はある道具を渡された。

 ルカが大好きだという、表面がでこぼこした平べったい棒。


 ルカはこのブラシでガシガシと体をかいてもらうのが好きらしい。ということで、そのブラシで体をかいてあげながら、私は話を聞いてもらっていた。


『じゃあ次、右側頼むわ』

「はい!」


 ルカに指示され、私は背中側から反対側へと回った。

 大きなブラシを天高く持ち上げて、出来るだけルカの背中いっぱいにかいてあげられるよう必死に棒を動かしていく。


『そこそこ。あーいいわー』


 声だけで、気持ちよくなっているのが分かる。

 ルカが幸せそうで、なんだか私も嬉しくなる。


「ルカってば。まるでおじさんみたい」


 棒を動かしながらも、くすくすと笑みがこぼれる。魔獣の年齢はよく分からないけど、ルカの反応がまるで年配の方みたいだったからつい、そんな言葉を口に出してしまった。


『気持ちいいもんは気持ちいいんだからしょうがねえだろ』


 ルカはと言うと、おじさんと言われても開き直り、ふんっと鼻から息を吐いた。

 そのとき、ルカの耳がピクピクと前後に動き、何かを聞き取った彼はそれが聞こえた方向に体を向けた。


「ルカ……?」


 私は首を傾げ、ルカの顔を覗き込む。


『……お前、あいつから離れてるんだよな?』

「あいつ?」

『あのいけすかねえ従者だよ』

「あ、はい。避けてます!」


 堂々と、彼から逃げていることを宣言する。


『じゃあなんであいつ、ここに来てんだ?』


 その言葉はすぐには理解できず、頭の中で言葉を反芻した。



 えっと……?

 グレンがここに…………来ている?



 やっと事態を把握したとき、尋常じゃないくらい慌てふためいてしまった。


「え、え? グレンがここに!?」


 慌てて聞き返した。だって獣舎ここからでは、グレンどころか人影すら確認できない。避けている相手がここに来ていると言われれば慌ててしまう。


『あー、まあ落ち着け。足音が遠くに行ってるからたぶんセツナのところに行くんだろ。あいつはこことは違う場所にいるし、ここにいりゃ鉢合せはしないで済むだろうよ』

「ほほ、ほんとですか……!?」


 ルカの発言で一喜一憂させられたが、とりあえずは会わずにすみそうなので、ほっと安堵した。それでも、一瞬にして早くなった鼓動はまだドクドクと早鐘を鳴らしたままだ。胸に手を当て、なんとか落ち着けようとするが、ルカからの言葉でまた心臓は大きく跳ねる。


『そんなに会いたくないのか?』

「え!?」


 私の慌てる姿を見て、ルカはそんなことを聞いてきた。


 会いたくない?

 ……ううん、そんなことはない。


「違います。会いたくないわけではなくて……ただ私が、グレンと一緒にいたら、彼の将来が、その……」

『? じゃあ別に、多少会うくらい良いんじゃね?』

「あ、え……えぇと……」


 ルカからすれば至極当然の疑問だ。グレンを避けていることを知っていても、少し会うくらいならと思って当然で。そこまで過敏に反応しなくても良いのではないかとルカの銀色の目が尋ねてきている。


「あの。実は……」


 眉間に皺を寄せるルカに対して、私はもう一つ話をした。エラ様に呼び出され、言われたアレコレを。



『うわ。女ってこえーな』


 ルカは見るからにドン引きして、そう言葉を漏らした。言いながらブルッと身震いもしていた。まあ、エラ様含め先輩方が怖かったことは否定しない。


「私も怖かったですけど、でも、私が離れさえすればグレンは将来立派な爵位をもらえるかもしれなくて、それってすごく良いお話だと思うんです。だから私、彼と無理矢理距離を取ったんですが、いかんせん無理矢理だったので今は顔を合わせづらいと言いますか……。それに、少しだけのつもりで話したところをエラ様に見つかって、もしまた呼び出されたらと思うと……」


 先輩方に追い詰められる恐怖はもう経験したくない。その思いを吐き出すと、ルカからはもう一つ質問が出てきた。


『……一応聞くが、お前、あいつの気持ち聞いたことあるか?』

「あ、はい。私の両親と、私が自立するまでは従者でいるって約束をしていたらしくて。だから私、グレンのために早く自立しないとと思って学園に、」

『それであいつは、お前が自立したら離れたいって?』


 王宮で聞いた話を話そうとしたら、ルカは食い気味に質問を重ねてきた。


 私は頭上を仰ぎ、あの日の両親とグレンの会話を思い出して考えてみる。たしかにあの日、両親とグレンが交わした約束については聞いたが、私が自立した後グレンがどうしたいかは……あれ?


 私はその場でフリーズしてしまう。

 グレンの気持ちは、どこで聞いたんだっけ?


 いくら考えても、思い出せない。

 いや違う。思い出せないんじゃない。

 聞いてないんだ。



「……グレンの口からは、聞いてない、かもしれません」

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