休日
「りま、帰ったぞ」
「あ、うん……」
省吾に声をかけられ、慌てて手のひらに乗った。
「どうしたんだ? 守内さんの奥さんに、何か言われたか?」
私の様子がおかしいと気付いたのか、そう訊いた。
「それは、その……」
どうしよう、今なら訊けるのに、急に言いにくくなってしまった。どうして……。
「りま」
手を上げて、私に目線を合わせた。
「言っただろう? 俺は君に、自分の気持ちを言うようにするって。だから君も、自分の気持ちを隠さず言ってほしい。どんなことでも構わないから」
「……」
省吾は、私と向き合おうとしてくれている。私も、応えないと。
「好美さんから聞いたんだけど、省吾、西滝町出身なんでしょ?」
「ああ、そうだ。言ってなかったか……」
「そうだね、初めて聞いた。実は、私も西滝町出身なんだ」
「え、そうだったのか?」
私も、言ってなかった。
「うん、そう……それでね、私と省吾には、出身が同じってこと以外にも共通点があって、それが、好美さんが思考が吸い取ることができないってことなんだって」
「確か、出身が同じで、奥さんより歳下だとそうなんだったな。そうか、出身が同じ……意外な共通点だな」
「……それでね、その話を聞いてから、急に、その……ホームシック、みたいになっちゃって」
「なるほどな」
納得してくれたみたい。
「へ、変だよね、サバイバル生活までしてたのに、今更ホームシックなんて」
「そうか? どんな状況でも、淋しいと思うのは変じゃないと思うぞ。むしろ、十八で家を出て……よく頑張ったな」
「省吾……」
優しい笑顔で、私を見ていた。
「そういう事なら、どうする? ご実家に連絡するか?」
「あ、それは……実は私、家を出る時、置き手紙を残して出てきたから、ちょっと連絡しにくくて……心の準備がしたいかな。連絡したくなったら、言うから」
「そうだったのか、わかった。……それにしても、ホームシックか。俺はてっきり、今日の捜査のことでかと思っていた」
「捜査のこと?」
何かあったかな……。
「集中できてなかっただろう、パズルの答えが気になって……」
「あー、そうだったね。でも、さっきも言ったけど、仲西刑事や照井刑事よりは集中できてたし、推理もできてたから、あまり気にはならなかったよ? むしろ、集中できてた方だと思う」
「……そうだったか?」
「うん。むしろ、片腕でよく頑張ったと思うよ」
利き手じゃないとはいえ、片腕が使えない状態で、よく捜査できた。やっぱり、立派な刑事……あ、いや、これは思うだけじゃ駄目だ。
「省吾は、立派な刑事だよ」
そう言うと、ありがとうと呟いて、嬉しそうに照れ笑いをした。
「でもそれなら、答え合わせしないとね。あの雑誌、見てみてよ」
「ああ、そうだな」
私をテーブルに降ろして、雑誌を取り出した。
「思えば、昨日のうちに答え合わせをしておけばよかったんだ」
呟きながらページを捲る。
「ここだな、えーと……あくび、びじれいく、くれーん、さんかくきん、か……」
「私の答えも、あってるか、わからないけど……」
「いや、きっとあっている。君は賢いからな」
「……」
はっきり言われ、恥ずかしくなってしまう。
「ああ、スッキリした……どうする? パズル、やって行くか?」
「今日はもう疲れたから、また明日にするよ」
「じゃあ、風呂の準備をしよう、待っててくれ」
そう言って、テキパキと準備をしてくれた。
私も、言いたいことが言えて、スッキリした。
それから数日後。省吾は、お姉さんに付き添われて、肩の傷の抜糸のために、病院を訪れていた。
「ようやく片腕生活から解放されたな……まだ無理はできないそうだが」
「まあ、吊ったままよりはいいんじゃない? りまちゃんも安心できるでしょ」
お姉さんの言葉に、ポケットの中で頷いた。
「じゃ、私は車持ってくるから、待ってなさいよ」
病院の前で、一旦別れた。
「……りま、ちょっといいか?」
周囲に人がいないのを確認し、私に声をかけた。
「実はこの後、姉貴を誘って買い物に行こうと思ってる。そこで、君の服を姉に見繕って、買ってもらわないか?」
「え、私の服を?」
「俺が作るのにも、限度があるだろう? その……下着とか」
「あ……」
確かに、これまでワンピースとセーターの他、ジャケットやズボンも作ってもらっていたけど、下着とかは、会った時のままだった。……そろそろ買い替え時かもしれない。
「勿論、君が嫌なら、無理にとは言わない。だが、姉貴なら、ノリノリでやってくれるぞ」
お金の件でご迷惑をかけるわけには……とは思った。でも、ここは甘えさせてもらおう。
「わかった、お願いするよ」
というわけで、車を持ってきてくれたお姉さんに、早速お願いしてみた。
「服ね、いいよ! これから行っちゃおう」
そう言って、携帯で近くの店を探した。
「この辺だと、近くにショッピングセンターがあるね、あ、手芸店もある。ここなら売ってるかな」
「いや、普通の洋服屋でいいと思うぞ」
省吾の言葉に、首を傾げた。
「え、りまちゃんが着れそうな服、売ってるかな」
「りまは、物を小さくする力があるんだ。普通の服で、選んでやってほしい」
「へえ、凄いなあ……ちなみに、私も小さくできる?」
省吾と同じことを訊かれた。
「せ、生物は無理なんです」
「そう……でも、そういうことなら、選び甲斐があるね。行こうか」
エンジンを掛け、車を走らせた。
到着したのは、市内の大きなショッピングセンター。初めて来た……平日なのに、駐車場は車でいっぱいだ。
お姉さんは、空いていたスペースに手早く車を停めると、降りようとする省吾を呼び止めた。
「ちょっと待った、ここから先は女だけで行ってくるよ」
「ああ……そうだな」
私を手のひらに乗せて差し出した。
「くれぐれも安全に、頼むぞ」
「任せてよ。りまちゃん、どうぞ」
差し出されたお姉さんの手に移ると、着ていたブラウスの胸ポケットに誘導された。
中に飛び込んでから、省吾の胸ポケットと明らかに違うことに気付いた。
せ、狭い……何が原因とは、言わないけど……。
「りまちゃん、大丈夫? ゆっくり動いてほしいとか、ある?」
上から声が聞こえてきた。
「いつも通りで、大丈夫です」
「了解。それじゃ、終わったら連絡するね。一階にカフェがあるから、そこで落ち合おう」
「わかった」
省吾に鍵を渡し、車を降りた。
いつも通りで、と言ったのに、お姉さんは少しだけ、ゆっくりと歩いてくれた。
省吾も、初めて会った時、多分無意識で、少しだけゆっくり動いてくれてた……こういうところ、本当によく似てるなあ……。




