聞き込み
その後、事件の通報を受け、三人で現場へ向かった。
現場は、郊外にあるコンビニの、広めの駐車場。午前十時四十五分に、コンビニを訪れた客が、店舗の裏手に倒れている遺体を見つけたそうだ。
遺体は女性で、所持品は何もなく、身元がわからない。歳は三十代前後と思われる。死亡推定時刻は午前九時から十時三十分の間と判断した。
服装は上はセーター、下はジーンズ、靴はスニーカーを履いていて、取れたのか、元々していなかったのか、化粧はしていない。髪はベリーショートと、短かった。
そして、何より気になるのは――。
「ずぶ濡れですね、この方……」
規制線が張られた奥、遺体に手を合わせた照井が言った。
頭から足先まで、彼女はずぶ濡れ……周囲に水の跡ができる程だ。
「遺体を見つけた時は、もっと濡れてたそうです。目撃者の方が言ってました」
「そうか。その方に、もう一度話を聞こう」
目撃者に待機してもらっているパトカーに向かうと、見覚えのある顔を見つけた。
「あれ、あなた、確か……大石さん?」
目撃者は、以前捜査した別の事件の被害者、大石優斗さんだった。
「お久しぶりです、まさか、またお会いできるなんて」
見知った顔を見つけたのか、大石さんは安心していた。
「遺体の第一発見者だそうですが……」
「そうなんです、仕事を終えて、帰りにコンビニに寄ったら、遺体を見つけて……」
話を聞くと、大石さんは、詳しくその時のことを教えてくれた。
夜勤の仕事をしていた大石さんは、退勤後、朝食兼昼食を買いに、十時四十分頃にコンビニに訪れ、駐車場の適当な場所に車を停めた後、遺体を見つけたそうだ。
「倒れていた女性に、見覚えは?」
「ありません……この辺りには、最近引っ越してきたんで」
「そうでしたか」
確かに、以前、大石さんの事件で行った街からは、少し離れている。
ふと、大石さんが欠伸を噛み殺しているのに気付いた。そういえば、彼は夜勤明けだった。
「ご協力、ありがとうございました。今日はお疲れでしょうから、お帰りください。後程、詳しくお話を聞くかもしれません」
「わかりました。俺で良ければ、いくらでも協力します」
大石さんを解放し、現場に戻った。遺体は既に運ばれた後だった。
「赤石刑事、コンビニの防犯カメラ映像を確認しましたが、現場は画角の外になっていて、映っていませんでした。ですが、店員の一人が、女性に見覚えがあると話していました」
「そうか、その人に話を聞こう――」
コンビニのバックヤードに向かうと、白髪の初老の男性と、眼鏡をかけた短い茶髪の若い女性がパイプ椅子に座っていた。前者が店長、後者が話に出ていた店員だろう。胸元の名札には、店長は「宮田」、女性は「羽場」と書かれている。
「お仕事中に失礼します。あの女性に見覚えがあるとのことですが……」
「あ、はい。私は、このコンビニで朝にアルバイトしてるんですけど、あの女性、毎日この時間に来るんです。今日は来なかったと聞いて、おかしいなと思ってたら、まさか亡くなってたなんて」
残念そうに肩を落として言った。
「それで、あの方のお名前とかは?」
「それはわからなくて……お客様なので」
「なるほど……すみません、本当にお客さんなのか確認したいので、防犯カメラの映像を見せていただけますか?」
「わかりました――」
宮田さんに許可を取り、店内の防犯カメラの映像を、一週間前から確認すると、確かに、毎日午前十時にコンビニを訪れ、買い物をしている女性が映っていた。
確認を終え、二人にあることを訊いた。
「午前九時から十時三十分の間、どこで何をしていましたか?」
「今日はシフトがいつもより遅くて……出勤前でしたので、家で準備をしていました。一人暮らしなので、証人はいないです」
羽場さんが答えた。次いで、宮田さんが、自身の腕時計を確認しながら答えた。
「あの時は、ええっと……私も同じで、出勤前でしたので、家にいました」
「なるほど……」
照井が丁寧にメモに残した。
「あの……殺されたんですか? あの人」
羽場さんが恐る恐る訊いてきた。
「それはまだ、捜査中です」
「そうですよね、すみません」
頭を下げた。相当気が小さいらしい。
ある程度、話は聞けたので、礼を言ってバックヤードを出た。
「女性はここの常連だった、ってことですね」
「毎日、と言っていたくらいだからな」
ふと現場を調べている鑑識達を遠くから眺めている人を見つけた。見ると、コンビニの制服を着ている。
「……あの人にも、話を聞いてみるか」
名札には「田岡」と書かれている。歳は二十代くらいだろうか。
「すみません、警察のものですが、ちょっとお話を聞かせていただけますか?」
「はい、何すか?」
「見つかったご遺体について、何かご存知かな、と」
「ああ、そっちのことですか……店長から聞きましたよ。でも、俺も、よく来てくれていたお客さんだってことぐらいしか知らないですね」
「そうですか……ところで、そっちのこと、とおっしゃってましたよね? 何かあったんですか?」
先程の反応、何か別のことだと勘違いした可能性がある。
「店長から聞いてるかな、と思ったんですけどね。羽場って店員いるでしょ? あの人、レジのお金とか、細かい商品を盗んでいるらしいですよ。大人しそうな顔して、意外とやるんですね、店長困ってましたよー、レジの金や売り上げが合わないって」
「……そうでしたか」
「わかりました、ありがとうございます」
照井に引きずられるように現場に戻った。
「どうした、急に」
「いえ、捜査から脱線しそうだな、と思いまして。窃盗云々は、今回のこととは関係ありません」
「そうかもしれないが……」
情報収集においての詰めの甘さは、以前、りまにも指摘されていたところだ。
「何がヒントになるかわからないからな、一応、頭の隅には入れておいた方がいい――」
「省吾、ちょっといい?」
その時、りまが俺を呼んだ。
「どうした?」
ポケットを広げると、照井も中を覗き込んだ。
「色々、引っかかることがあって、遺体の女性……とりあえず、Aさんって呼ぶことにするけど、Aさんはこのコンビニをよく利用してたんだよね?」
「毎日、同じ時間に来ていたな」
「そう、それ。毎日、同じ時間だよ? 普段、仕事は何してるんだろうって思わなかった? 毎日、何を買いに来ているのか、とか……」
その質問に、照井が答えた。
「思わなくはなかったですけど、無職か、出勤前か、もしかしたら、在宅の仕事の可能性がありますよ。買っていたものも、防犯カメラに映っていたのは、日用品や弁当類が主でしたから、自炊されない方なのかも」
「それもそうなんだけど、毎日、同じ時間っていうのが引っかかって……省吾はどう思う?」
こちらに振られた。
「そうだな……俺としては、照井の言う通り、出勤前か、在宅の仕事が考えられるが――」
その時、照井の携帯が鳴った。
「ちょっとすみません……はい、はい……わかりました」
通話を終え、顔を上げた。
「この近辺で、Aさんのことを知っている方がいないか、警官数名で聞き込みをしたそうですが、名前どころか、姿を見たことがある人は一人もいなかったそうです」
「……姿すら、見た人はいなかったのか?」
「はい。この近辺の方じゃないのかもしれないですね……それと、司法解剖の結果、死因は溺死で、遺体の肺や衣類からは、穣平川の水と同じ成分が検出されたそうです」
「穣平川って……ここから少し距離があるぞ」
携帯を取り出し、地図アプリを開いた。車を使っても三十分はかかる。
「遺体がここにあって、離れた場所にある川の水が検出されたということは、運んだ人物がいて、その人はAさんを助けようとはしなかった……殺されたのかもしれないな」
Aさんは、病死ではなく、殺人の可能性がある、ということだ。




