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ビィナビナビナ?

 うー、あんまり眠れなかったよぉー

 そりゃあんだけ寝てたら寝つきも悪くなっちゃうか。それにしても、大丈夫かな? 夢世界でなんやかんやでグラン・リーアとケンカしちゃったし。確かどこかの大国にいて、戦争をしかけるみたいなことを言っていたような。

 うーん、なりゆきであんなことをしちゃったけど、何だかとても不安になってきた。


「おはようございます、マオ様」


 難しいことを考えているとセバスチャンさんが入ってきた。いつも通りに笑顔を浮かべている。

 って、なんでいつも通りなんだろ? セバスチャンさんも私と同じ状態だったはずなんだけど……


「さて、本日はバリバリ働いてもらいますよ」

「えー?」


 すっごい危機が迫っているのに、そんなことを言うのぉー?

 そんなのおかしいよ! だって、戦争が起きちゃうかもしれないんだよ!


「ふふふ、今日も腕がなりますね。マオ様にあーんなことやこーんなことができちゃいますからね」


 一体何を考えているんだろ? たぶんあまりいいことじゃないと思うけど。

 まあ、いつも通りならいっか。平穏が一番だってどっかの偉い人が言っていたような気がするし。


「そんなことないわ。刺激的な日々が充実感を生み出すのよ?」

「それならもう、感じまくっているよぉー」


 ……あれ? この女の子は誰だろ?

 あれあれ? というかどこから入ってきたの?

 あれあれあれ? このパターンは、経験からするとあまりよろしくないよ?


「貴様、何者だ!」


 セバスチャンさんが咄嗟に魔法を発動させる。でも女の子が「却下」と言い放つと、途端に魔法陣は消えてしまった。

 え? 何が起きたの?


「これは――」

「反応はそこそこね。さすが〈偉大なる勇者〉の孫ってところかしら」


 黒髪を掻き上げながら、女の子は優雅に微笑んでいた。

 この子は何だろう? とても不思議な感じがするなぁー。メイちゃんとは全く違うミステリアスな、そんな雰囲気がある。

 真っ黒なドレスを着ているからかなぁー?


「ふーん、なるほどね」


 そんなことを思っていると、女の子は私をまじまじと見つめていた。あれ? 私何かしたかな?


「魔力は結構ある。レベルにしてはそこそこの強さ。でも、これだけじゃあグラン・リーアを打ちのめした要因にはならないわね」


 え? グラン・リーア!?

 ま、待って! どうしてその名前がこの子から出てきたの?


「ふふ、なかなかの間抜けな顔ね。魔王らしくない魔王と言われるのも、わかる気がするわ」

「あ、あの、あなたは?」

「私はビィナ。この世界の理よ」


 え、えっと。どういうことなのかな?

 理って、つまりこの世界のルールってことでいいのかな?


「いわゆる創造神ですか。ったく、嫌な存在ですね」


 セバスチャンさんがとても怪訝な顔をしている。なんだろ、こんな顔をするセバスチャンさんはあんまり見ないなぁー


「ちょっと違うけど、まあそんな風に捉えてもらっても構わないわ」

「それで、俺様ルールをかざす神様がどんな用件でここに来たんですか?」

「宣戦布告しに来たわ」


 せ、宣戦布告!?

 なんで? どうして? だって私、神様にケンカなんて売ってないよ!?


「ほう、あなたは我々を悪と見ますか」

「魔王なんだからどう見られても関係ないでしょ? といっても、今回私が干渉するのは特別な事情があるからなんだけどね」

「特別な事情、ですか?」


 恐る恐る訊ねると、ビィナちゃんは優しくも怪しく微笑んだ。


「まず朗報。あなた達を敵視するグラン・リーアは私が殺したわ」

「え?」

「つまり、相手はグラン・リーアじゃなくて私ってこと。理解した?」


 えぇー! ビィナちゃんがグラン・リーアの代わりに襲いかかってくるの!?

 それよりも、グラン・リーアが死んだってどういうこと?


「あなた、何が目的ですか?」


 セバスチャンさんがそんなことを訊ねると、ビィナちゃんは微笑んだ。

 それはとても妖しくて、どこか色気がある笑顔だ。


「ひ・み・つ」


 セバスチャンさんはビィナちゃんを睨みつける。でもビィナちゃんはそれがおかしいのか、クスクスと笑っていた。


「そうね、もしこの戦争に勝ったら教えてあげましょう」


 ビィナちゃんはそういって私に顔を向けた。そして、何かを呟く。

 途端に私の身体に何かが突き抜けた。それはまるで、重りの枷が外れたようなそんな感覚だった。


「ふぅん、なるほど。最初の試練は難なくか」


 最初の試練?

 私はつい訊ねそうになる。でもビィナちゃんはそれを遮るようにこんなことを言った。


「明日、私はレベント王国を使ってあなた達に戦争を仕掛ける。言っておくけど、まともにやりあったらあなた達は壊滅するわ」


 圧倒的な戦力差。でも、ビィナちゃんは引く気配はない。むしろ楽しそうに笑っている。


「ふふ、楽しみにしているから。あなた達、いえあなたがこの試練を乗り越えられることを」


 その言葉の直後、ビィナちゃんは指を鳴らす。途端に身体が光の泡になって、その場から消えてしまった。


「…………」


 この世界を作った神様。そんなのが今度の敵。

 勝てる気がしないよ。


「マオ様」


 でも、そんな絶望をセバスチャンさんが打ち払ってくれる。


「あいつをギャフンと言わしますよ」


 絶望は大きい。でも、私にはそれに負けないくらいの希望がある。


突然現れた理の少女ビィナ。

マオちゃんはそんな少女が仕掛けた戦争に勝つことができるのだろうか?

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